
「人生で一度は富士山に登ってみたいけど、自信がない」 「富士山のルートが多すぎて、どれを選べばいいかわからない」
そんな悩みを持つ方に、私が選んでよかったと感じているプリンスルートのトラバース版をご紹介します。
結論からお伝えすると、このルート取りは登りは富士宮ルートで最短に、降りは御殿場ルートの大砂走りで一気に、という贅沢取りができる、初心者連れにも向いた選び方です。私は2021年8月、登山未経験の友人2人を連れて1泊2日で歩きました。
私は理学療法士(PT)として臨床経験10年以上、山は146座を歩いてきました。本記事では、実際のコース・距離・標高差から、高山病対策・ペース配分・初心者と登るコツまで、PTの視点と体験ストーリーの両面でお伝えします。
読み終わるころには、「未経験の仲間と富士山に登るなら、こう計画すればいい」というイメージができると思います。
プリンスルート(トラバース)とは?富士宮ルートと御殿場ルートの「いいとこ取り」

プリンスルートは、独立した登山道があるわけではありません。富士宮ルートを6合目まで登り、宝永山経由で御殿場ルートにトラバース(横移動)する経路のことを指します。
名前の由来は、皇太子時代の天皇陛下がこのルートを歩かれたことから。
ただしこのルートは、降りはそのまま御殿場ルートで御殿場口まで行くため、登山口と下山口が異なるルートとなります。
そこで私が今回おすすめしたいのが知る人ぞ知るトラバースルートです。
これは御殿場ルートの山小屋、赤岩八合館さんが紹介しているルートで、富士宮ルートを途中まで登り、赤岩八合館付近で御殿場ルートにトラバースする経路のことを指します。
このルートの何が「いいとこ取り」かというと、
- 登りは富士宮ルートで最短:4ルート中もっとも標高差が小さく、距離も短い。
- 山頂付近で御殿場ルートに合流:人混みを避けて山頂アタックできる。
- 降りは大砂走り:御殿場ルート名物の砂礫の斜面を一気に下れる。
- 宝永山に立ち寄れる:第二の山頂とも呼ばれる宝永山経由で景色が変わる。
つまり、登りの体力消耗を抑えつつ、富士山の多彩な表情を一度に楽しめるのがプリンスルート最大の魅力です。
基本データ:私たちの実際の山行記録
参考までに、私が登山未経験の友人2人と歩いたときの実数値をお伝えします。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 登山日 | 2021年8月4日〜5日(1泊2日) |
| メンバー | ヤマカルテ管理人 + 登山未経験の友人2名 |
| ルート | 登り:富士宮ルート→赤岩八合館でトラバース→御殿場ルート / 下り:プリンスルート(宝永山経由) |
| 距離 | 13.3km |
| 標高差 | のぼり 1,593m / くだり 1,590m |
| 所要時間 | 15時間33分(休憩含む、山小屋泊除く) |
| 宿泊地 | 赤岩八合館(標高約3,300m) |
未経験者連れということもあり、コースタイムよりゆっくり歩きました。「コースタイム×1.3〜1.5倍」を見込んでおくと、初心者と登るときは無理がありません。
1日目:富士宮口から赤岩八合館へ
富士宮口5合目(標高2,400m)からスタート。富士宮ルートは4ルート中もっとも5合目の標高が高いため、いきなり高所に身体を運ぶことになります。ここで焦ってペースを上げると、確実に高山病の餌食になります。到着次第、まずはビジターセンターで身体を慣らしましょう。

3,000mを突破。ここから空気の薄さが体感ではっきり変わります。未経験の友人2人は「息が浅くなる感じ」と表現していました。私も「ここからは深呼吸を意識して、半分のペースで歩こう」と声をかけ、意識的にスローダウンしました。

赤岩八合館の少し手前で、富士宮ルートから御殿場ルートへトラバース。ここが今回のルートの特徴です。普通の富士宮ルートを登る登山者からすると見過ごしがちな分岐ですが、赤岩八合館さんのHPにて詳しく解説されていますのでご参照ください。

赤岩八合館(標高約3,300m)に到着。御殿場ルート上の山小屋で、宿泊するならここがおすすめです。富士宮ルートの混雑から離れた静かな立地で、初日の疲労を癒すには最適でした。
初心者と登るときのコツ:1日目のゴールは無理をしない高度に置く。高度を一気に稼ぐと睡眠中に高山病が悪化しやすいため、適度な高度に抑えた山小屋に泊まり身体を慣らすのが安全です。
山小屋の夜:影富士と東京の夜景
赤岩八合館での夜は、富士山の魅力が凝縮された時間でした。

夕食は名物のおかわり自由カレー。標高3,300mで身体は疲れ、食欲が落ちる人も多いのですが、カレーは比較的食べやすく、炭水化物補給に最適でした。友人2人もしっかり食べられて一安心。高山では「食べられる時に食べる」が翌日のスタミナを決めます。

夕方、影富士が現れました。沈みゆく太陽を背にした富士山の影が、雲海の上に三角形に伸びていく。これは標高3,000m以上の富士山に泊まらないと見られない景色です。

さらに条件が整うと、影は雲海を超えて水平線の上の大気そのものをスクリーンにして伸びていきます。「自然がここまでのスケールで影絵を描くのか」と、3人で言葉を失いました。

夜になると、東京方面の夜景が眼下に広がります。標高3,300mから見る関東平野の灯りは、地上の星空のよう。友人たちは「これだけでも来た価値があった」と何度も言っていました。
御来光と山頂:日本最高点 剣ヶ峰3776m
2日目は深夜に出発し、山頂を目指します。

雲海から昇る、信じられないほど赤く大きな太陽。空気が澄んでいる富士山の御来光は、低山で見る朝日とは別物です。寒さで震えながらも、3人で無言になって眺めました。

山頂遊びの定番「太陽を掴む」ポーズ。未経験の友人2人がここまで登り切ったご褒美として、思い切り遊びました。

そして日本最高点・剣ヶ峰(3,776m)。山頂火口を歩く「お鉢巡り」の最高地点で、ここに立つと「日本でこれより高い場所はない」という事実が身体に染みます。

山頂からの展望で個人的に好きなのが、南アルプスの北岳と間ノ岳(それぞれ日本第2位・第3位)が並んで見える方角。「日本の標高1位・2位・3位が一同に並ぶ場所」に立っているという贅沢があります。
下山:プリンスルートの真骨頂、大砂走りと宝永山
下山はプリンスルートのハイライト、御殿場ルートの大砂走りから宝永山へ。

大砂走りは、火山砂礫の急斜面を一歩で2〜3m滑り下りられる名物区間。膝への衝撃は通常の下山道よりも砂が緩衝してくれて軽いのですが、ペースが上がりすぎると転倒リスクが高まります。
PT視点のコツ:大砂走りは膝を軽く曲げ、上体を少し前傾させ、かかとから着地すると安定します。ストックは突きすぎず、バランス補助に使う程度が安全です。

大砂走りの途中で分岐し、宝永山(標高2,693m)へ。富士山の側火山で、巨大な火口を持つ「もうひとつの山頂」。普通の富士登山では立ち寄らない場所ですが、プリンスルートならここに寄り道できます。

宝永山から振り返ると、さっきまで自分たちが立っていた富士山頂がそびえ立っています。「あそこから歩いて降りてきたのか」と、達成感が押し寄せる瞬間です。この景色が見られるのはプリンスルートの特権です。
PT視点:未経験の友人と富士山に登るための5つのコツ
ここからは理学療法士(PT)として、また実際に未経験の友人2人を連れて成功した経験から、初心者と富士山を歩く際のコツをまとめます。
1. ペースは「会話ができる速度」を死守する
高所では息が上がりやすく、少し頑張ると一気に高山病に近づきます。会話が途切れない速度=有酸素運動の適正強度の目安なので、これを超えないこと。
2. こまめな水分・補給を「時間で」管理する
喉が渇く前に飲む、空腹を感じる前に食べる。30分に1回の水分、1時間に1回の補給を時間でルーティン化すると、未経験者でも消耗しにくくなります。
3. 1日目のゴールを高くしすぎない
赤岩八合館(3,300m)程度に泊まり、就寝までに身体が高度に慣れる時間を確保するのが安全です。8合目より上の山小屋に泊まると、睡眠中に高山病が悪化するリスクが上がります。
4. 深呼吸を意識的に教える
未経験者は無意識に呼吸が浅くなります。「鼻から吸って口から長く吐く」を意識的に繰り返すよう、登り始めから声をかけましょう。これだけで頭痛の発生率が体感的に下がります。
5. 下山こそ膝に注意
富士山の下山は標高差1,500m以上の長丁場。未経験者の膝はここで悲鳴を上げます。歩幅を小さく、衝撃を吸収するように軽く膝を曲げる。ストックがあるなら必ず使う。大砂走りも調子に乗らせない(楽しいので暴走しがち)。
PTとしての本音:富士登山で多いトラブルは「高山病」と「下山時の膝痛」の2つに集約されます。両方ともペース管理で大半が予防可能です。
まとめ:プリンスルート(トラバース)は「未経験の仲間と富士山を最大限楽しむ」答えのひとつ
最後に振り返ります。
- プリンスルート(トラバース)は登り富士宮・下り御殿場のいいとこ取りで、初心者連れに向いた経路。
- 1日目のゴールは赤岩八合館(3,300m)程度に抑え、影富士・夜景・カレーで山小屋泊を満喫する。
- 2日目は御来光→剣ヶ峰→大砂走り→宝永山と、富士山の多彩な表情を一気に味わえる。
- PT視点のコツは、会話できる速度・時間で管理する補給・1日目のゴール設定・深呼吸・下山の膝ケアの5つ。
- どれも特別な技術は不要だが、意識して声をかけ続けることが、未経験者を笑顔のまま山頂に導く鍵。
「未経験の友人と日本一の山に登る」というのは、計画次第で十分に実現できる夢です。プリンスルートはその答えのひとつとして、自信を持っておすすめできます。
私自身、あの夜の影富士と、宝永山から振り返った富士山の姿は、今も鮮明に思い出せます。あなたの仲間とも、ぜひあの景色を共有してきてください。