
「人生で一度は富士山に登ってみたいけど、自信がない」 「富士山のルートが多すぎて、どれを選べばいいかわからない」
そんな悩みを持つ方に、私が選んでよかったと感じているプリンスルートのトラバース版をご紹介します。
結論からお伝えすると、このルート取りは登りは富士宮ルートで最短に下りは御殿場ルートの大砂走りで一気に、という贅沢取りができる、初心者連れにも向いた選び方です。私は2021年8月、登山未経験の友人2人を連れて1泊2日で歩きました。
私は理学療法士(PT)として臨床経験10年以上、山は146座を歩いてきました。本記事では、実際のコース・距離・標高差から、高山病対策・ペース配分・初心者と登るコツまで、PTの視点と体験ストーリーの両面でお伝えします。
読み終わるころには、「未経験の仲間と富士山に登るなら、こう計画すればいい」というイメージができると思います。
そもそも富士山はどんな山?──体への負担と、それでも惹かれる理由
富士山は標高3,776m、日本最高峰の独立峰です。周りに高い山がないぶん、五合目から上は森林限界を越えた砂礫の斜面が、ひたすら山頂へと続きます。鎖場や岩稜のような技術的な難しさは、ほとんどありません。
それでも富士山が「甘く見ると痛い目に遭う」と言われるのは、体への負担の出方に独特のクセがあるからです。PT(理学療法士)の視点で整理すると、難しさは大きく3つに分けられます。
- 高度を一気に上げる:五合目(約2,400m)から山頂(3,776m)まで、標高差1,400m弱を短時間で登るため、高山病が出やすい。
- 登りが単調:景色の変化が少なく、ペースを上げすぎても気づきにくいので、知らないうちに消耗しやすい。
- 下りは砂礫:ブレーキをかけ続けるため、**太もも前(大腿四頭筋)**に負担が集中し、膝にも来やすい。
つまり富士山は、岩を登る“技術”より、ペース管理・高度順応・下りの脚の使い方という“体のマネジメント”が問われる山です。
それでも私が何度でも惹かれてしまうのは、富士山にしかない景色と時間があるからです。標高3,776mでしか吸えない澄んだ空気と、眼下にどこまでも広がる雲海。日本最高峰の霊山ならではの、登っているだけで自然と背筋が伸びるような神聖さ。火山が積み上げた赤茶けた砂礫の斜面は、まるで地球ではないどこかを歩いているようなスケール感があります。そして夜明け前、見知らぬ登山者と肩を並べて静かに待つご来光——空が燃えるように染まっていくあの瞬間の一体感は、何度味わっても特別です。
これから紹介するプリンスルートは、こうした富士山の魅力を味わいながら、体への負担も上手に散らしてくれるルート取りでもあります。
プリンスルート(トラバース)とは?富士宮ルートと御殿場ルートの「いいとこ取り」

プリンスルートは、独立した登山道があるわけではありません。富士宮ルートを6合目まで登り、宝永山経由で御殿場ルートにトラバース(横移動)する経路のことを指します。
名前の由来は、皇太子時代の天皇陛下がこのルートを歩かれたことから。
ただしこのルートは、下りはそのまま御殿場ルートで御殿場口まで行くため、登山口と下山口が異なるルートとなります。
そこで私が今回おすすめしたいのが知る人ぞ知るトラバースルートです。
これは御殿場ルートの山小屋、赤岩八合館さんが紹介しているルートで、富士宮ルートを途中まで登り、赤岩八合館付近で御殿場ルートにトラバースする経路のことを指します。
このルートの何が「いいとこ取り」かというと、
- 登りは富士宮ルートで最短:4ルート中もっとも標高差が小さく、距離も短い。
- 山頂付近で御殿場ルートに合流:人混みを避けて山頂アタックできる。
- 下りは大砂走り:御殿場ルート名物の砂礫の斜面を一気に下れる。
- 宝永山に立ち寄れる:第二の山頂とも呼ばれる宝永山経由で景色が変わる。
つまり、登りの体力消耗を抑えつつ、富士山の多彩な表情を一度に楽しめるのがプリンスルート最大の魅力です。
なお、4ルートの違いを一覧で比べたい方は富士山4ルート徹底比較を、準備・装備・体調管理まで含めた富士登山の全体像は富士登山 完全ガイドもあわせてどうぞ。
基本データ:私たちの実際の山行記録
参考までに、私が登山未経験の友人2人と歩いたときの実数値をお伝えします。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 登山日 | 2021年8月4日〜5日(1泊2日) |
| メンバー | yosshy(ヤマカルテ管理人) + 登山未経験の友人2名 |
| 距離 | 13.3km |
| 標高差 | のぼり 1,593m / くだり 1,590m |
| 所要時間 | Day1 約5時間 Day2 約10時間30分(休憩含む、山小屋泊除く) |
| 宿泊地 | 赤岩八合館(標高約3,300m) |
未経験者連れということもあり、コースタイムよりゆっくり歩きました。「コースタイム×1.3〜1.5倍」を見込んでおくと、初心者と登るときは無理がありません。
1日目:富士宮口から赤岩八合館へ
富士宮口5合目(標高2,400m)からスタート。富士宮ルートは4ルート中もっとも5合目の標高が高いため、いきなり高所に身体を運ぶことになります。ここで焦ってペースを上げると、確実に高山病の餌食になります。到着次第、まずはビジターセンターで身体を慣らしましょう。

3,000mを突破。ここから空気の薄さが体感ではっきり変わります。未経験の友人2人は「息が浅くなる感じ」と表現していました。私も「ここからは深呼吸を意識して、半分のペースで歩こう」と声をかけ、意識的にスローダウンしました。

池田館のバイオトイレ脇から連絡路を通り、富士宮ルートから御殿場ルートへトラバース。ここが今回のルートの特徴です。普通の富士宮ルートを登る登山者からすると見過ごしがちな分岐ですが、赤岩八合館さんのHPにて詳しく解説されていますのでご参照ください。

知る人ぞ知る連絡路なので殆ど人が通りません。大混雑の富士山にしては珍しく静かな山歩きを楽しめる連絡路です。

赤岩八合館(標高約3,300m)に到着。御殿場ルート上の山小屋で、宿泊するならここがおすすめです。富士宮ルートの混雑から離れた静かな立地で、初日の疲労を癒すには最適でした。
山小屋の夜:影富士と東京の夜景
赤岩八合館での夜は、富士山の魅力が凝縮された時間でした。

夕食は名物のおかわり自由カレー。標高3,300mで身体は疲れ、食欲が落ちる人も多いのですが、カレーは比較的食べやすく、炭水化物補給に最適でした。友人2人もしっかり食べられて一安心。高山では「食べられる時に食べる」が翌日のスタミナを決めます。

夕方、影富士が現れました。沈みゆく太陽を背にした富士山の影が、雲海の上に三角形に伸びていく。これは標高3,000m以上の富士山に泊まらないと見られない景色です。

さらに条件が整うと、影は雲海を超えて水平線の上の大気そのものをスクリーンにして伸びていきます。「自然がここまでのスケールで影絵を描くのか」と、3人で言葉を失いました。

夜になると、東京方面の夜景が眼下に広がります。標高3,300mから見る関東平野の灯りは、地上の星空のよう。友人たちは「これだけでも来た価値があった」と何度も言っていました。
御来光と山頂:日本最高点 剣ヶ峰3776m
2日目は深夜に出発し、山頂を目指します。
深夜出発に必須なのがヘッドライト。富士山の登山道は夜間まったくの暗闇で、足元の岩や砂礫を確認するために欠かせません。私自身はLEDLENSER(レッドレンザー)のMH5を愛用しています。コンパクトながら必要十分な明るさで、富士山クラスの夜間歩行には過不足のない性能です。
富士登山に必要な装備の全体像は富士山の持ち物・装備リストにまとめています。

雲海から昇る、信じられないほど赤く大きな太陽。空気が澄んでいる富士山の御来光は、低山で見る朝日とは別物です。寒さで震えながらも、3人で無言になって眺めました。

山頂遊びの定番「太陽を掴む」ポーズ。未経験の友人2人がここまで登り切ったご褒美として、思い切り遊びました。

そして日本最高点・剣ヶ峰(3,776m)。山頂火口を歩く「お鉢巡り」の最高地点で、ここに立つと「日本でこれより高い場所はない」という事実が身体に染みます。

山頂からの展望で個人的に好きなのが、南アルプスの北岳と間ノ岳(それぞれ日本第2位・第3位)が並んで見える方角。「日本の標高1位・2位・3位が一同に並ぶ場所」に立っているという贅沢があります。
下山:プリンスルートの真骨頂、大砂走りと宝永山
下山はプリンスルートのハイライト、御殿場ルートの大砂走りから宝永山へ。

大砂走りは、火山砂礫の急斜面を一歩で2〜3m滑り下りられる名物区間。膝への衝撃は通常の下山道よりも砂が緩衝してくれて軽いのですが、ペースが上がりすぎると転倒リスクが高まります。
そして大砂走りで 絶対に持っておきたいのがゲイター(ショートスパッツ) です。火山砂礫が靴の中に大量に入り込むので、ゲイターなしだと数十分ごとに立ち止まって靴の砂を出す羽目になります。富士山シーズン中の1回限りでも、十分元が取れる装備です。

大砂走りの途中で分岐し、宝永山(標高2,693m)へ。富士山の側火山で、巨大な火口を持つ「もうひとつの山頂」。普通の富士登山では立ち寄らない場所ですが、プリンスルートならここに寄り道できます。

宝永山から振り返ると、さっきまで自分たちが立っていた富士山頂がそびえ立っています。「あそこから歩いて下りてきたのか」と、達成感が押し寄せる瞬間です。この景色が見られるのはプリンスルートの特権です。
PT視点:未経験の友人と富士山に登るための5つのコツ
ここからは理学療法士(PT)として、また実際に未経験の友人2人を連れて成功した経験から、初心者と富士山を歩く際のコツをまとめます。
1. ペースは「会話ができる速度」を死守する
高所では息が上がりやすく、少し頑張ると一気に高山病に近づきます。会話が途切れない速度=有酸素運動の適正強度の目安なので、これを超えないこと。高山病の仕組みと具体的な対策は高山病を防ぐ方法で詳しく解説しています。
2. こまめな水分・補給を「時間で」管理する
喉が渇く前に飲む、空腹を感じる前に食べる。30分に1回の水分、1時間に1回の補給を時間でルーティン化すると、未経験者でも消耗しにくくなります。
行動食はPT視点で、糖質中心ですばやくエネルギーになり、個包装で食べやすく、暑さ寒さで状態が変わりにくいものを選ぶのがコツ。羊羹やゼリー、エナジーバーなど、ひと口でカロリーを補えるものをザックのすぐ取り出せる場所に入れておくと、未経験者でも補給が続きます。
3. 1日目のゴールを高くしすぎない
赤岩八合館(3,300m)程度に泊まり、就寝までに身体が高度に慣れる時間を確保するのが安全です。8合目より上の山小屋に泊まると、睡眠中に高山病が悪化するリスクが上がります。
4. 深呼吸を意識的に教える
未経験者は無意識に呼吸が浅くなります。「鼻から吸って口から長く吐く」を意識的に繰り返すよう、登り始めから声をかけましょう。これだけで頭痛の発生率が体感的に下がります。
5. 下山こそ膝に注意
富士山の下山は標高差1,500m以上の長丁場。未経験者の膝はここで悲鳴を上げます。歩幅を小さく、衝撃を吸収するように軽く膝を曲げる。ストックがあるなら必ず使う。大砂走りも調子に乗らせない(楽しいので暴走しがち)。
私自身も山行ではLEKIのトレッキングポールを愛用しています(使用しているのは廃盤モデルですが、現行ラインナップならフラッグシップのMAKALU FX CARBON ASが、富士山のような長距離・荷重ありの山行に向く定番です)。下りで膝を守る具体的な歩き方はこちらの記事で、膝痛の予防全体は登山で膝が痛くなる前に知っておきたい3つのことで詳しく解説しています。
加えて、長丁場の下山で意外と効くのがソックスの選択です。富士山の下山は標高差1,500m超のロングトレイルで、足裏と踵の摩擦が積み上がり、安価なソックスではマメや靴擦れが発生しやすくなります。ダーンタフ(DARN TOUGH)の#1466 Hiker Micro Crewはメリノウールのクッションで衝撃と摩擦を吸収し、永久保証付きという徹底ぶりで、ロング下山の足元を任せられる定番です。マメや靴擦れ対策のソックス選びも含め、富士登山の装備は富士山の持ち物・装備リストにまとめています。
未経験の友人と登るなら「装備レンタル」も検討の価値あり
富士山に1〜2回しか登らない予定の友人に、登山靴・レインウェア・ザック・防寒着まで一式を新調してもらうのは、金銭的にも収納的にも大きなハードルです。
そんなときに便利なのが装備レンタルサービス。やまどうぐレンタル屋では、富士登山に必要な装備一式を500円〜と手頃な価格で借りられ、悪天候や体調不良によるキャンセルでも全額返金されます。「まず1回登ってみてから本格的に揃える」という現実的な選択肢として、未経験の友人に紹介しやすいサービスです。
まとめ:プリンスルート(トラバース)は「未経験の仲間と富士山を最大限楽しむ」答えのひとつ
最後に振り返ります。
- プリンスルート(トラバース)は登り富士宮・下り御殿場のいいとこ取りで、初心者連れに向いた経路。
- 1日目のゴールは赤岩八合館(3,300m)程度に抑え、影富士・夜景・カレーで山小屋泊を満喫する。
- 2日目は御来光→剣ヶ峰→大砂走り→宝永山と、富士山の多彩な表情を一気に味わえる。
- PT視点のコツは、会話できる速度・時間で管理する補給・1日目のゴール設定・深呼吸・下山の膝ケアの5つ。
- どれも特別な技術は不要だが、意識して声をかけ続けることが、未経験者を笑顔のまま山頂に導く鍵。
「未経験の友人と日本一の山に登る」というのは、計画次第で十分に実現できる夢です。プリンスルートはその答えのひとつとして、自信を持っておすすめできます。富士登山全体の準備・装備・体調管理は富士登山 完全ガイドにまとめているので、計画の出発点にどうぞ。
私自身、あの夜の影富士と、宝永山から振り返った富士山の姿は、今も鮮明に思い出せます。あなたの仲間とも、ぜひあの景色を共有してきてください。