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久しぶりに山へ戻ろうと思ったとき、何から鍛えればよいか迷いませんか。ジムに通うべきか、走ればよいのか、とりあえず近所の山を歩けばよいのか。選択肢が多いぶん、決めにくいところです。
結論を先に書きます。登山復帰のトレーニングは「下半身の筋トレ」「坂道や荷物を使った有酸素運動」「実際の山歩き」の3本柱で組みます。 荷物を背負って歩く力を調べた研究では、筋トレと有酸素運動を組み合わせたときに、いちばん大きな効果が出ていました。始めのうちは強さより「続けられること」を優先し、負荷は少しずつ上げていきます。
私は理学療法士(PT)として10年以上、リハビリの現場で運動の計画を立ててきました。この記事では、WHO(世界保健機関)とアメリカスポーツ医学会の運動の指針、荷物を背負って歩く訓練の研究をもとに、ブランク明けの体づくりを整理します。読み終えるころには、来週から何を週に何回やるかを決められるようになります。
この記事は育児ブランクからの登山復帰 完全ロードマップの Phase 1|体をつくり直す にあたります。復帰の全体像から確認したい方は、先にロードマップへどうぞ。
登山復帰のトレーニングは「筋力・坂道・山歩き」の3本柱で組む
登山復帰のトレーニングは、筋力・持久力・山を歩く技術の3つを並行して鍛えます。 登山は、段差を登る・下りで体を支える力、何時間も歩き続ける持久力、でこぼこ道で足を運ぶ技術を、1回の山行で全部使うからです。

組み合わせたときに、荷物を背負って歩く力が伸びた
筋トレと有酸素運動は、どちらか片方より組み合わせたほうが登山に近い力が伸びます。
中高年の男性40人(平均55歳)を21週間調べた研究では、筋トレだけの群、自転車こぎだけの群、両方を組み合わせた群に分けて、荷物を背負ってトレッドミル(ランニングマシン)を歩ける時間を比べました。筋力は筋トレの群と組み合わせた群で、持久力は自転車の群と組み合わせた群で伸びました。そして、歩ける時間がはっきり伸びたのは、両方を組み合わせた群だけでした[4]。
ただし、運動した人は31人と少なく、組み合わせた群は運動の回数も多めでした(筋トレ週2回+自転車週2回)。「組み合わせたほうが必ず上」とまでは言い切れませんが、登山に近い力を伸ばすうえで、組み合わせる意味を示した研究です。
荷物を背負って歩く訓練の研究10本をまとめた総説でも、筋トレと有酸素運動を組み合わせた訓練で大きな効果が出ており、「荷物を背負って歩く練習」を少しずつ増やす内容を含む訓練では、さらに大きな改善が報告されていました[5]。有酸素運動だけ、筋トレだけでは、効果は小さく、研究ごとのばらつきも大きいという結果です。
この総説は兵士を対象にした研究が中心で、背負う荷物も登山より重めです。それでも、「荷物を背負って長く歩く力」を鍛えるという点では、登山とよく似ています。
運動の量は、公的な指針を目安にする
全体の量は、公的な運動の指針が目安になります。
| 種類 | 指針の目安 | 登山復帰での置きかえ |
|---|---|---|
| 有酸素運動 | ほどほどの強さで週150〜300分、または強めの運動で週75〜150分[1] | 坂道・階段・荷物を背負った歩行、山歩き |
| 筋トレ | 大きな筋肉を使う運動を週2〜3日[2] | 下半身の筋トレ(第1の柱) |
週150分は、1日30分を週5日にあたります。これは健康のための一般的な目安で、「登山に戻ってよいかの合格ライン」ではありません。通勤で早歩きする時間や、山歩きそのものも、この中に数えてかまいません。最初からこの量に届かなくても大丈夫です。アメリカスポーツ医学会の指針でも、目標の量に届かない運動でも、体にはよい効果があるとされています[2]。
この3本柱を、目標の山と登る日付に週単位で割り付けたい方は、目標の山から逆算するトレーニングプランナーをどうぞ。本番までの何週目に何をやるか、実戦トレをどの標高差から始めるかまで出ます。
第1の柱:下半身の筋トレは週2回、軽めの負荷から
下半身の筋トレは、週2回、軽めの負荷から始めます。下半身の筋力は、登りで体を持ち上げ、下りで衝撃を受け止める土台です。
アメリカスポーツ医学会の指針では、筋トレを始めて間もない人や、何年もやっていない人は、8〜12回で限界になる重さで、週2〜3日行うのが勧められています[3]。
ただ、ブランク明けの最初から限界まで追い込む必要はありません。この記事では、まず8〜12回を「ややきつい」で終えられる軽めの負荷から始め、フォームが安定してから指針の重さに近づけていく進め方をおすすめします。
自宅でできる5種目
私が登山復帰を目指す人に勧めるのは、次の5種目です。
- スクワット:太ももの前と後ろ、お尻をまとめて使う基本の種目
- ランジ:片脚ずつ体を支えるので、登山の一歩に近い
- ステップアップ:段差に片脚をのせて登る。登りの動作そのもの
- カーフレイズ:つま先立ちでふくらはぎを鍛える。急な登りで最初に疲れやすい部位です(登りの歩き方)
- 荷物を背負って同じ動きを:リュックを背負ってスクワットやステップアップをする

回数・セット・負荷の上げ方
1種目につき、8〜12回を2〜3セットが目安です[2]。自分の体重だけで12回が楽にできるようになったら、動きをゆっくりにする、リュックに少し荷物を入れる、といった方法で負荷を上げます。片脚でやる種目に切りかえるのは、負荷もバランスの難しさも大きく変わるので、両脚で十分に慣れてからにします。
負荷を上げるタイミングは、決めた回数より1〜2回多くできるようになったときです。アメリカスポーツ医学会の指針では、このタイミングで負荷を2〜10%上げるとしています[3]。家でやるなら、リュックの荷物を少しだけ足すくらいの小さな変化で十分です。たとえば2kgの荷物に500mLのペットボトルを1本足すと、それだけで25%の増量になります。足す量は、もとの荷物が軽いほど小さめにします。
ステップアップを家でやるなら、高さを変えられるステップ台があると負荷を調整しやすくなります。階段の1段目でも代わりになります。
第2の柱:坂道・階段・荷物で、登山に近い有酸素運動を
有酸素運動は、平地を歩くだけでなく、坂道・階段・荷物を加えて登山に近づけます。 登山では、傾斜を登りながら、荷物を背負って何時間も歩くからです。
おすすめの種目は次の3つです。
- 坂道を歩く・早歩きする:登りに近い負荷をかけられる
- 階段を上り下りする:駅や建物の階段で手軽にできる
- リュックを背負って歩く:荷物に体を慣らす
先に紹介した総説では、荷物を背負って歩く練習を少しずつ増やす内容を含む訓練で、いちばん大きな改善が報告されていました[5]。また、筋トレと有酸素運動の組み合わせで大きな効果が出ていたのは、週3回以上・4週間以上続けた訓練でした。これは「最低限これだけ必要」という条件ではありませんが、続ける期間の1つの目安になります。リュックの中身は、水を入れたペットボトルなど軽いものから始めて、本番で背負う重さへ少しずつ近づけます。
歩く習慣そのものを楽しく続けたい人は、カラーハンティングの記事も参考にしてください。
強さは「会話できるか」と「きつさの感覚」で決める
強さは、会話ができるかどうかと、自分が感じるきつさで決めます。 坂の傾斜や荷物の重さは人によって感じ方がまったく違うので、数字より体の反応を目安にするほうが確かです。
- ふつうに会話できる:長く続けやすい強さ。最初はここから
- 会話が途切れがちになる:慣れてきたら、ときどき入れてよい強さ
- 会話がつらい:ブランク明けの最初の数週間は避ける
会話が少しつらくなり始める強さは、呼吸が急に荒くなる境目とほぼ一致することが分かっています[9]。また、運動中に感じるきつさは、心拍数ともよく連動します[8]。心拍計がなくても、この2つで強さを調整できます。くわしくは登山の心拍数とペース配分で解説しています。

第3の柱:実際の山歩きは、短い低山から
山歩きは、往復のコースタイムが1〜2時間ほどの低山から始めます。3本柱の中で、いちばん本番に近いトレーニングです。

岩や木の根が出たでこぼこの道、長く続く登りと下り、変わりやすい天気。家や街のトレーニングでは、ここまで再現できません。先ほどの総説でも、いろいろな運動を組み合わせて、外で荷物を背負って歩く訓練を含めたものは、効果が大きくなっていました[5]。
ブランク明けの最初の山は、次の条件を目安にします。
- コースタイムが往復で1〜2時間ほどの低山
- 急な坂や岩場が少ないコース(低い山でも、急坂や岩場が続くコースはある)
- 荷物は必要なものだけ
- ペースは会話できる速さ
最初の一座の選び方は、登山復帰の「最初の一座」の選び方にまとめました。登山靴がへたっている人は、歩き始める前に登山靴の選び方で足元を見直しておくと安心です。
休んだあとの筋力は、比較的早く戻ることがある
短い休みのあとなら、筋力は比較的早く戻ることがあります。
高齢の男性が12週間の筋トレをして、12週間休み、また筋トレを再開した研究があります。休んでいる間に筋力やパワーの値は5〜15%落ちましたが、鍛えて伸びた分の一部は保たれていました。再開すると、8週間たたないうちに、休む前の最大筋力に戻りました[6]。
ただし、休んだ期間は12週間で、1年以上のブランクに同じように当てはまるかは分かりません。筋力についての結果で、山での持久力やバランスまで同じとも言えません。焦らず、山歩きの回数を少しずつ重ねていきましょう。
1回で筋トレと有酸素運動をやるなら、筋トレを先に
1回のトレーニングで両方を続けてやるなら、筋トレ → 有酸素運動の順にします。

1回のトレーニングの中で筋トレと有酸素運動の順番を比べた研究をまとめた分析では、筋トレを先にしたほうが、脚の最大筋力が平均で約4kg多く伸びていました[7]。一方、有酸素運動の能力は、順番による差がありませんでした。
週末にまとめてやるなら、スクワットなどの筋トレを先に済ませてから、坂道や階段を歩きに出ると、筋力を伸ばすうえで効率がよくなります。
ただし、筋トレのあとは脚が疲れています。階段の下りやでこぼこ道で足元がふらつくようなら、筋トレと歩く日を分けてください。朝と夕方に分ける場合や、山に登る日の直前の筋トレについては、この分析では調べられていません。
ブランク明けのけがを防ぐ5つの注意点
ブランク明けにいちばん気をつけたいのは、やる気に体が追いつかない状態です。体力が戻る前に負荷を上げすぎると、膝やふくらはぎ、アキレス腱を痛めやすくなります。

1. 最初の数週間は「物足りない」くらいで止める
「もう少しできそう」で止めるのがちょうどよい強さです。翌日に強い筋肉痛や関節の違和感が残るなら、前の日の量が多すぎたサインです。
2. 筋肉痛は様子を見る、関節の痛みや腫れは中止の合図
運動の翌日〜2日後くらいに、筋肉全体が張って痛むのはよくある筋肉痛です。数日かけて少しずつ軽くなっていきます。一方で、次のような痛みが出たら、運動を中止してください。
- 関節やその周りの、場所がはっきりした痛み
- ピリッと走るような痛み、しびれ
- 腫れや熱っぽさがある
- 痛みで歩き方が変わる
- 日がたつほど強くなる
休んでもよくならないときは、整形外科を受診するか、理学療法士に相談してください。
3. 量や強さを、急に大きく増やさない
量や強さは、1回に大きく変えず、少しずつ増やします。
ランナーの世界には「週の練習量の増加は10%以内に」という目安があります。ただ、初めて走る人532人を2つの群に分けた研究では、10%ずつ増やす13週間の練習でも、8週間の通常の練習と比べて、けがの割合は変わりませんでした(どちらも約20%)[11]。別の研究では、けがをしたランナーは、けがの前の週に練習量を大きく増やしていました。ただ研究者も、安全な増やし方ははっきり分かっていないと述べています[12]。
10%という数字にこだわるより、「先週より急に増やさない」「増やした週は体の反応をよく見る」ほうが大切です。
4. 休養日と睡眠をとる
体は、運動している間ではなく、休んでいる間に回復して強くなります。筋トレは同じ部位を毎日やらず、間に休みの日をはさみます。回復には栄養も欠かせません。とくにタンパク質は、筋肉をつくり直す材料になります(登山に必要なタンパク質の量と摂り方)。
5. 準備運動と、運動後の確認までをセットに
いきなり強く動かず、まず関節を軽く動かして体を温めてから始めます。終わったあとは軽いストレッチで、張りや左右差がないかを確かめておくと、翌日の調子を見る目安になります(やり方は登山前後のストレッチで解説しています)。
この3本柱は土台|山の種類で、足りないものは変わる
この記事の3本柱は、どの登山にも共通する土台です。実際には、行く山によって追加で必要なトレーニングが変わります。

- 低山か高山か:標高が高いほど空気が薄くなり、同じペースでも体への負担が大きくなる
- 日帰りか泊まりか:泊まりなら荷物が重くなり、重さに耐える筋力と持久力が必要になる
- 夏山か冬山か:冬は装備が重く、寒さで体力も消耗しやすい
- 岩場があるか:手で体を支える力やバランスも必要になる
冬山に向けた準備は冬の登山のウォームアップ、岩場に向けた体づくりはボルダリングは登山に役立つ?で紹介しています。
メニューは分かっているのに家だと続かない、という人もいると思います。続け方そのものは登山の自宅トレーニングが続かない人へにまとめました。年齢による筋力の低下が気になる人は、中高年登山とサルコペニアも参考にしてください。
まとめ:3本柱を、少しずつ増やして山に戻る
- 登山復帰のトレーニングは、下半身の筋トレ・坂道や荷物を使った有酸素運動・実際の山歩きの3本柱で組む
- 筋トレと有酸素運動は組み合わせたほうが、荷物を背負って歩く力が伸びる。荷物を背負って歩く練習を加えると、さらに効果が大きい
- 筋トレは週2回、軽めの負荷から。フォームが安定し、決めた回数より1〜2回多くできたら、少しだけ負荷を上げる
- 有酸素運動の強さは会話できるかで決める。量の目安は週150分
- 1回で両方やるなら筋トレが先。脚がふらつくなら日を分ける
- 量や強さは急に増やさない。10%という数字より、増やしたあとの体の反応を見る
いきなり張り切ってけがをするのが、いちばんもったいないパターンです。物足りないくらいから始めて、少しずつ山の体に戻していきましょう。
参考文献
- Bull FC, et al., 2020. World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. British Journal of Sports Medicine.
- Garber CE, et al., 2011. American College of Sports Medicine position stand. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise. Medicine & Science in Sports & Exercise.
- American College of Sports Medicine, 2009. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Medicine & Science in Sports & Exercise.
- Holviala J, et al., 2010. Effects of combined strength and endurance training on treadmill load carrying walking performance in aging men. Journal of Strength and Conditioning Research.
- Knapik JJ, et al., 2012. A systematic review of the effects of physical training on load carriage performance. Journal of Strength and Conditioning Research.
- Blocquiaux S, et al., 2020. The effect of resistance training, detraining and retraining on muscle strength and power, myofibre size, satellite cells and myonuclei in older men. Experimental Gerontology.
- Murlasits Z, et al., 2018. The physiological effects of concurrent strength and endurance training sequence: A systematic review and meta-analysis. Journal of Sports Sciences.
- Scherr J, et al., 2013. Associations between Borg’s rating of perceived exertion and physiological measures of exercise intensity. European Journal of Applied Physiology.
- Persinger R, et al., 2004. Consistency of the talk test for exercise prescription. Medicine & Science in Sports & Exercise.
- Riebe D, et al., 2015. Updating ACSM’s Recommendations for Exercise Preparticipation Health Screening. Medicine & Science in Sports & Exercise.
- Buist I, et al., 2008. No effect of a graded training program on the number of running-related injuries in novice runners: a randomized controlled trial. The American Journal of Sports Medicine.
- Nielsen RO, et al., 2013. Can GPS be used to detect deleterious progression in training volume among runners? Journal of Strength and Conditioning Research.