登山復帰という山頂を支える3本の柱「下半身筋力」「傾斜・荷重持久力」「実際の山歩き」を古典コラム風に描いた図解

「ブランク明けの身体作り、何から始めればいいんだろう?」 「ジムでマシンを使えばいい?それとも走り込み?」

久しぶりに山に戻りたいと思ったとき、トレーニングの選択肢が多すぎて迷ってしまう方は多いのではないでしょうか。

結論からお伝えします。登山復帰に必要なトレーニングは、「下半身筋力」、「傾斜・荷重を伴う持久力」、「実際の山歩き」の3本柱です。これは複数の研究レビューでも一致した結論で、私が理学療法士(PT)として自分自身に処方するなら、この3本柱で構成します。

本記事では、PT歴10年以上の臨床経験と研究データをもとに、ブランク明けの方が無理なく進められる体力回復プログラムをご紹介します。同時に、ブランク明けに最も多い「過負荷による怪我」を防ぐための注意点もお伝えします。

この記事は育児ブランクからの登山復帰 完全ロードマップPhase 1|体をつくり直す にあたります。復帰の全体像から確認したい方は、先にロードマップへどうぞ。

登山に必要な体力は「3本柱」で考える

まずはじめに、当然ながら登山は単一の能力では語れません。

クライマーや持久系アスリートを対象とした系統的レビューでは、筋力と持久力を組み合わせて鍛えることが最も成績向上につながると示されています[1]。さらに荷重歩行の研究では、筋力単独・持久力単独よりも両方を組み合わせた群だけが歩行可能時間を伸ばしたことが報告されています[2]

登山という運動は、

  • 登り・降り・踏ん張りの動作(筋力)
  • 長時間の有酸素運動(持久力)
  • 凸凹の地面でのバランスと歩行スキル(特異性)

1度の山行にこれら全てが必要となります。だからこそ、3つを並行して鍛える必要があるのです。

第1の柱:下半身筋力トレーニング(週2回)

下半身の筋力は、登りで身体を持ち上げ、降りで衝撃を受け止める「土台」です。

PTとして自身に処方するトレーニングは次の通りです。

  • スクワット:太もも前後・お尻全体を使う基本トレーニング。
  • ランジ:片脚ずつ鍛えられ、登山の動作に近い。
  • ステップアップ:実際の段差を登る動作の再現。
  • カーフレイズ:ふくらはぎのトレーニング。降りの衝撃吸収に重要。
  • 荷物を持って上記各種(リュックを背負ってのスクワットなど):荷重耐性を作る。

各トレーニングを10〜15回×2〜3セットを目安に。重さよりも正しいフォームを意識してください。

なお、ステップアップを自宅で行うなら高さ調整できるステップ台が一台あると便利です。10〜20cmの3段階で負荷を変えられ、登山の段差動作を再現しやすくなります。

第2の柱:傾斜・荷重を伴う持久力トレーニング(週2回)

平地のウォーキングやランニングだけでは登山には足りません。登山特有の「傾斜」や「荷物」に身体を慣らす必要があります(とはいえ土台となる歩く習慣づくりも大切です。ウォーキングを楽しく続ける工夫はカラーハンティングの記事で紹介しています)。

おすすめの種目は次の3つです。

  • 坂道の歩行や早歩き:登りに近い負荷をかけられる
  • 階段昇降:建物の階段でどこでも手軽に
  • リュックを背負った歩行:荷重に身体を慣らす

強度と量は、下の表を1つの目安にしてください。

項目目安
傾斜10〜15%
荷物リュック2〜3kgから
時間30〜60分
強度「ややきつい」〜「きつい」

主観でよいので、この強度を超えない範囲で続けるのが、ブランク明けには安全です。

リュック歩行から実際の山行までを見据えるなら、日帰り登山にちょうど良い30L前後のザックを一つ用意しておくと、トレーニングがそのまま本番の準備になります。背面が蒸れにくく、荷重を腰にしっかり逃がせる構造のものを選ぶと、ブランク明けの身体に優しく歩けます。

第3の柱:実際の山歩き(可能な範囲から)

3本柱の中で最も「特異的」(=実際の登山と同質)なのが、実際に山を歩くことです。

ジムでどれだけ鍛えても、岩や木の根が転がる凸凹の地面、長時間の連続したアップダウン、変化する気候——これらは山でしか得られません。

ブランク明けの方は、

  • コースタイム1〜2時間程度の低山から
  • 荷物は必要最小限
  • ペースは「ゆっくり呼吸が続く速度」

この条件で月1回でも構いません。継続するほど身体が思い出していきます。

研究上も筋力と持久力を組み合わせて鍛えた群が荷重歩行時間を最も伸ばしました[2]。本番に近い動作は、何にも代えがたいトレーニングです。

なお、ブランクを経て登山靴がへたっている/買い替えを考えている方は、足慣らしを始める前に一度足元を見直しておくと安心です。ブランク明けの一足の選び方やおすすめモデルは、富士山の持ち物・装備リストで紹介しています(富士山に限らず、低山〜中級山岳の入門にも応用できます)。

効率を最大化するコツ

ここまでの3本柱を組み合わせる際、知っておくとよいコツがあります。

同じ日に筋トレと有酸素運動をやるなら、筋トレを先に

研究レビューで、同日に両方を実施する場合、筋トレを先にした方が下肢筋力の適応が良好だったと報告されています[3]。有酸素能力には順序の影響はありませんでした。

時間のある週末などにまとめてやる場合は、「筋トレ → 有酸素運動」の順にしましょう。

過負荷で怪我しないための5つの注意点

ブランク明けの方が最も警戒すべきは、「やる気が先行して身体がついていかない」状態です。

私自身、患者さんにも繰り返し伝えていることをまとめます。

1. 最初の4週間は「物足りない」くらいでちょうどいい

「もうちょっとできそう」で止めるのが正解。翌日に強い筋肉痛や関節の違和感が残るなら、確実にやりすぎです。

2. 違和感は「警告」、痛みは「危険信号」

筋肉の張りや疲労感は問題ありません。しかし、

  • 関節の鋭い痛み
  • ピリッと走るような痛み
  • 翌日も引きずる痛み

これらは直ちに中止して、それでも続くなら整形外科やPTに相談してください。

3. 週ごとの負荷増加は10%以内

「先週より大幅に強度を上げる」のは怪我の最短ルートです。ランナーの世界でも「10%ルール」と呼ばれる経験則があります。

4. 睡眠と休養日を必ず確保する

身体は運動中ではなく休んでいる間に強くなります。週に最低1〜2日は完全休養日を作りましょう。

5. 準備運動と運動後のケアまでをセットに

いきなり追い込まず、まずは関節を軽く動かして身体を温めてから始めましょう。終わったあとは軽いストレッチで筋肉をいたわると、翌日に張りや疲れが残りにくくなります(やり方は登山前後のストレッチで解説しています)。準備とケアまで含めて、ひとまとまりのトレーニングです。

このプログラムは「登山全般の土台」——状況別の各論は今後の記事で

本記事の3本柱は、登山全般に共通する土台です。実際の山では、

  • 低山か高山か:標高による酸素濃度や森林限界など環境の影響。
  • 日帰りか泊まりか:背負う荷物の重さ。
  • 夏山か冬山か:装備・気温・体力消耗の違い。

こういった要素によって、追加で必要なトレーニングは大きく変わります

例えば、高山での山行を予定するなら呼吸法や心肺機能の追加強化が必要です。泊まり、特にテント泊なら重装備に耐える筋持久力、岩稜帯なら上半身、体幹筋力やバランス能力も必要になります。

このブログでは今後、「岩稜帯で必要なバランス能力」、「冬山に向けたトレーニング」、「テント泊の荷重に耐える身体作り」など、状況別の各論記事を順次公開していく予定です。本記事を「土台」として、各論記事と組み合わせて活用してください。

まとめ:3本柱で、無理なく確実に山に戻る

最後に振り返ります。

  • 登山復帰の体力回復は、「下半身筋力」、「傾斜・荷重持久力」、「山歩き」の3本柱で構成する。
  • 各トレーニングを研究で裏付けられた組み合わせで実施する。
  • 同日に筋トレと有酸素運動をやるなら筋トレを先に。
  • ブランク明けは過負荷を避け、4週間は物足りないくらいでちょうどいい
  • このプログラムは土台。山域・季節・装備で必要なトレーニングは変わるため、各論記事と組み合わせて使う。

「いきなり張り切って怪我」が一番もったいないパターンです。正しい順序で、確実に、楽しみながら戻っていきましょう。私自身も同じ道を歩いている最中です。


参考文献

  1. 系統的レビュー(クライマー対象):静的と動的を混ぜた半特異的な筋トレを、肥大・最大筋力・持久系と組み合わせる構成が推奨されている。持久系アスリートのレビューでも筋トレはタイムトライアル成績と運動経済性を改善した。
  2. Holviala et al., 2010. Effects of Combined Strength and Endurance Training on Treadmill Load Carrying Walking Performance in Aging Men. Journal of Strength and Conditioning Research.
  3. Murlasits et al., 2018. The physiological effects of concurrent strength and endurance training sequence: A systematic review and meta-analysis. Journal of Sport Science.