時間経過とともに持久力が早く落ち筋力が緩やかに落ちる体力減衰カーブを示した模式図 本文データに基づくイメージで実測グラフではない

「久しぶりに山に行きたいけど、ブランクがあるから不安」 「1年以上山から離れていたら、体力ってどれくらい落ちているんだろう?」

子育てや仕事で山から遠ざかってしまった方の多くが、こんな不安を抱えていると思います。私自身、146座を登った後に子育てでブランクに入り、まったく同じ気持ちで日々を過ごしています。

結論からお伝えすると、運動を完全にやめると、数週間で持久力が落ち始め、数か月でかなりの低下、1年で多くの適応が失われます。少し厳しい話に聞こえるかもしれませんが、これは研究で繰り返し示されてきた事実です。

ただし、これを正しく知ることが、安全に山へ戻る第一歩になります。本記事では、理学療法士(PT)として10年以上臨床に携わってきた立場から、研究データをもとに「体力がどれくらい落ちるのか」と「復帰の目安」をお伝えします。

剱岳を背景に稜線を歩く登山者 北アルプス登山の記録

この記事は育児ブランクからの登山復帰 完全ロードマップPhase 0|現在地を知る にあたります。復帰の全体像から確認したい方は、先にロードマップへどうぞ。

体力は「持久力」と「筋力」で落ち方が違う

まず押さえておきたいのが、体力はひとくくりに語れないということです。

登山に必要な体力は、大きく以下の2つに分けられます。

  • 持久力(心肺機能、VO2max):長時間歩き続けるための能力
  • 筋力・筋パワー:登り降り、踏ん張る力

研究を見ると、この2つは落ちるスピードがまったく違います。これを知らないと、復帰時に「持久力ばかり鍛えて筋力不足で膝を痛める」といった失敗につながるかもしれません。

持久力は2週間で落ち始める

持久力は、トレーニングをやめると最も早く低下する能力です。

ある研究では、よく訓練されたランナーが運動を停止したところ、わずか14日でVO2max(最大酸素摂取量)が約4%低下しました。さらに別のレビューでは、12週間(約3か月)で最大20%低下したという結果も報告されています[1]。もちろん一般登山者の場合はこの数字がそのまま当てはまるわけではありませんが、傾向としてトレーニングをやめると持久力は落ちるというのは、直感的にも理解しやすいと思います。

20%という数字を登山で考えてみてください。これまで6時間で登れた山が、同じ感覚で歩くと7〜8時間かかる計算になります。標高の高い山であれば、酸素の薄さも相まって、想像以上にきつく感じるはずです。

「久しぶりの山で予想以上にバテた」という経験は、身体の仕組みとしてそうだからなのです。

筋力は持久力より粘るが、数か月で確実に落ちる

筋力は持久力ほど早くは落ちませんが、それでも油断はできません。

研究では、6週間のデトレーニング(トレーニングの中止)で下肢筋力とジャンプ能力が約15%低下したと報告されています[2]。さらに筋肉量そのものも、12週〜1年のトレーニング中止で有意に減少することが示されています[3]

登山では、特に降りで筋力を使います。筋力が落ちた状態で長い降りに入ると、膝のクッションが効かず、痛みや故障のリスクが一気に上がります。

1年ブランクで「残っているもの」と「消えているもの」

では、1年以上ブランクがある場合、何がどれくらい残っているのでしょうか。

ある高齢女性を対象にした1年追跡研究[4]では、興味深い結果が出ています。

1年後も残っていたもの

  • バランス能力(半分ほど残存)
  • 骨強度の一部

1年後にほぼ消えていたもの

  • 下肢筋力
  • 主観的身体機能

つまり、筋力や心肺機能はかなり落ちてしまう一方、バランス感覚や骨の強さはある程度残るということです。

これは登山者にとって少し希望のある話でもあります。「身体の使い方」や「足の置き方」といった運動スキルは比較的残りやすいため、ゼロからのスタートではないのです。

PTが提案する復帰の目安

ここまでの内容を踏まえて、ブランク1年以上の方に私が提案する復帰の目安をお伝えします。

1. 最初の山は「半分以下」を目安に

ブランク前に歩けていたコースのコースタイム・標高差ともに半分以下から始めましょう。研究データから考えても、20%以上の体力低下は当然と捉えるべきです。

2. 平地での歩行から始める

いきなり山に行くのではなく、まずは平地で1時間連続して歩ける状態を作ります。これすらきつければ、心肺機能の回復から優先しましょう。

平地から低山への足慣らしでは、重い登山靴より軽量なトレラン/ハイキングシューズのほうが身体への負担が少なくおすすめです。足首の自由度が高い靴のほうが、ふくらはぎの筋力をフルに使って歩けるため、ブランク明けの歩く力を取り戻すフェーズに向いています。最初から本格的な登山靴で重さに慣れる必要はありません。

3. 降りより登りで様子を見る

降りは筋力が必要で故障リスクが高い動作です。最初の数回は下山が短い山やロープウェイで降りられる山を選ぶと安全です。

下山時の膝への不安が大きい方は、膝サポーターを一つ持っておくと安心感が違います。ただし道具に頼る前に、まず大切なのは膝を痛めない歩き方です。下りで膝を守る着地と筋力の使い方は登山の「下り」で膝を守る歩き方で、膝痛を未然に防ぐ基本は登山で膝が痛くなる前に知っておきたい3つのことで詳しく解説しています。サポーターの具体的な製品もそちらで紹介しています。

4. 焦らない。3〜6か月かけて戻す

研究上、運動再開すれば持久力も筋力も必ず回復します。ただし、落ちる速度より戻る速度のほうがゆっくりです。3〜6か月かけて段階的に戻すくらいの心づもりが現実的です。

復帰のプロセスは「数値で見える化」すると継続しやすくなります。GPSウォッチやスマホアプリで歩いた距離・時間・心拍を記録しておくと、「先月より長く歩けた」「同じコースが短時間で済むようになった」と進歩が目に見えて、モチベーションの支えになります。

何を、どの順番で、どれくらい積み上げればいいのか——具体的な中身は、姉妹記事登山復帰に向けてPTが自分に処方する「トレーニングプログラム」3本柱にまとめています。下半身筋力・傾斜持久力・山歩きの3本柱で、自宅からでも始められる内容です。

まとめ:正しく知れば、不安は減らせる

最後に振り返ります。

  • 持久力は2週間で落ち始め、3か月で最大20%低下する
  • 筋力は6週間で約15%低下、1年でかなりの部分が消える
  • ただしバランス感覚や運動スキルは残りやすい
  • 復帰はブランク前の半分以下から、3〜6か月かけて段階的に

ブランク中の身体は、自分が思っているより確実に変わっています。でも、変わり方を知っていれば、対策ができます。「歳のせい」「もう戻れない」と諦める必要はまったくありません。

そして登山を始めた頃のように、簡単な山から少しずつステップアップしていけば、登山を楽しみながらブランクを取り戻せるのです。

正しく知って、正しく戻る。私自身も同じ道を歩いています。一緒に少しずつ、また山に戻っていきましょう。


続けて、ブランク明けの身体を山に慣らすための「自宅でできる体力回復プログラム」を、PTが自分自身に処方している内容としてまとめた登山復帰に向けてPTが自分に処方する「トレーニングプログラム」3本柱もぜひ読んでみてください。ここで知った「落ち方」を、次は「戻し方」につなげていきましょう。

参考文献

  1. Houmard et al., 1992. Effect of Short-Term Training Cessation on Performance Measures in Distance Runners. International Journal of Sports Medicine.
  2. Kalapotharakos et al., 2007. The Effect of Moderate Resistance Strength Training and Detraining on Muscle Strength and Power in Older Men. Journal of Geriatric Physical Therapy.
  3. Grgic, 2022. Use It or Lose It? A Meta-Analysis on the Effects of Resistance Training Cessation (Detraining) on Muscle Size in Older Adults. International Journal of Environmental Research and Public Health.
  4. Karinkanta et al., 2009. Maintenance of exercise-induced benefits in physical functioning and bone among elderly women. Osteoporosis International.