「この山に登りたい。でも、今から間に合うんだろうか」——目標が決まったあとに手が止まるのは、たいていここです。

先に大事なことを書きます。決めるのは、やる種目ではなく順番と週数です。何をやるかは調べればすぐ出てきますが、それを本番までの何週目に置くかを決めないと、直前に一番きついことをやって疲れたまま当日を迎える、という一番もったいない形になります。

目標の山と予定日、そして今のご自身の状態を入れてみてください。本番までの週ごとの計画と、今週やることが出ます。直近で無理なく歩けた山を入れれば、そちらを基準にした、より正確な計画になります。本番までまだ余裕がある場合は、いつから始めれば間に合うかのほうが出ます。

MOUNTAIN TOOL

目標の山から逆算するトレーニングプランナー

登りたい山と予定日を入れると、本番までの週ごとの計画今週やることが出ます。まだ始めなくてよいときはいつから始めればいいかを、間に合わないときは先に登っておく中間の山を出します。

① 登りたい山

② 今の自分直近で歩けた山を入れると、そちらを優先して現在地にします

目標の山のコースタイム・標高差・予定日と、上の3つの選択を入れると計画が出ます。

この計画は一般的な目安であり、個別の運動処方ではありません。心臓・血圧・呼吸器の持病がある、膝・腰・股関節に手術歴や治療中の疾患がある、いま痛みやしびれがある、妊娠中——このいずれかに当てはまる方は、始める前に主治医やかかりつけの理学療法士にご相談ください。運動中に胸の違和感・強い息切れ・めまいが出たら、すぐに中止してください。
このツールが見ているのは、コースタイムと標高差だけです。岩場や鎖場、雪のある時期、標高の高い山での高度の慣らし、山小屋やテントに泊まる行程、荒れた長い下り、天候が崩れたときに引き返せるルートかどうか——これらは判定に入っていません。体力の準備が整っても、そこは別の準備です。これらが絡む山は、経験のある人に相談するか、条件のやさしい山で段階を踏んでから計画してください。
「現在地」の数字は筆者の仮置きです。ブランクと運動習慣から歩ける山を割り出す研究はありません。同じ経歴でも歩ける量の幅はとても大きいので、出てきた山が重いと感じたら、迷わず下げてください。計画どおりに進まなくても失敗ではありません。予定を落として登った日のほうが、次も行きたいと思えます。

計算の根拠:現在地(いま行けそうな標高差・コースタイム)はブランクと運動習慣からの仮置きで、2年以上ぶりの「標高差250m・コースタイム2時間」は復帰トレーニング3本柱の「コースタイム1〜2時間程度の低山から」に対応させています。推奨週数は、実戦トレ1回あたり標高差を約1.35倍ずつ上げていく想定で段数を出し、そこに山行の間隔と直前の調整2週を足したものです。1.35倍という刻みは富士登山1か月トレの1か月プラン(500〜800m→1,000m→1,000〜1,500m)から取っています。同記事の「筋力は早ければ4週間で変化が出る」は、標準的な条件でおおむね4週前後になることの裏づけです。ブランクがある方に2〜4週を上乗せするのはブランクと体力低下の「3〜6か月かけて段階的に戻す」、目標が遠いときに中間の山を挟むのと、1年以上ぶりの方の現在地を入力された実績の半分以下(2年以上ぶりは4割以下)で頭打ちにするのは、同記事の「コースタイム・標高差ともに半分以下から」に基づきます。3本柱の頻度・強度(下半身筋力 週2回/傾斜10〜15%・荷物2〜3kgから・30〜60分の持久トレ 週2回/実際の山歩き。ただし週に使える日数が少ない場合は、その範囲に収まるよう回数を減らしています)と、自宅トレの増加を週10%以内に抑えること・同じ日なら筋トレを先に、は復帰トレーニング3本柱、自宅トレ10〜20分と直前1週間のテーパリングは富士登山1か月トレによります。なお元記事の自宅トレは毎日10〜20分ですが、完全休養日を確保するため、このツールではトレーニングをする日だけに置いた縮小版にしています。週10%以内は自宅トレの量に対する目安で、実戦トレの標高差の上げ幅には当てはめていません。実戦トレの標高差の増やし方(現在地から目標の9割まで段階的に)は、同記事の1か月プラン(500〜800m→1,000m→1,000〜1,500m)を一般化したもので、医学的な指示ではありません。

逆算するのは距離ではなく「週数」

このツールがまず出すのは、目標に届くまでに必要な週数です。

決め方はこうです。実戦トレの標高差を1回ごとに約1.35倍ずつ上げていったとき、今の現在地から目標まで何段必要か。現在地を1段目と数えるので、あいだの回数ぶんだけ、山に行けるペースを掛けます。ペースは週に使える日数で決まり、週5日以上(月1回以上登っている方なら週4日以上)なら毎週、それ以外は2週に1回です。最後に直前の調整2週を足す。これが必要な週数です。

ここで大事にしたのは、すでに射程に入っている人に、長い週数を要求しないことです。月に1回登っていて運動習慣もある方なら、立ち上げの期間は要りません。目標が現在地の範囲に収まっているなら、本番の装備で一度歩いて確かめ、直前を整えるだけ。2週で足ります。同じ山を目標にしても、ブランクがある方は段数が増えて週数が伸びます。週数を決めているのは山の大きさではなく、今の自分とその山との距離です。

刻みを約1.35倍にしたのは、富士登山に向けた1か月トレーニングの1か月プラン(500〜800m→1,000m→1,000〜1,500m)がおよそその幅だからです。なお、実際に体力を伸ばす必要がある場合は最低4週としています。同記事の「筋力は早ければ4週間で変化が出る」に合わせた下限で、体を変える必要がないとき(すでに射程内のとき)には当てはめていません。

そのうえで、ブランクがある方には基本の週数に上乗せしています。半年ぶりなら2週、1年以上ぶりなら4週です。運動をやめると持久力は2週間で落ち始め、筋力は6週間で下肢が約15%落ちます。ただしこれは運動を完全にやめた人を対象にした研究なので、山に行っていなくてもほかの運動を続けている方に、そのまま当てはまるわけではありません。上乗せの2〜4週は、落ちる速さより戻る速さのほうがゆっくりであることを踏まえた、安全側の仮置きです。落ち方の詳しい中身は登山のブランクで体力はどれだけ落ちるのかにまとめました。

「現在地」を先に置いてから、差を測る

計画を立てる前に、このツールはいま無理なく行けそうな山を先に出します。標高差とコースタイムの2つで表示される、あの行です。

順番が逆に見えるかもしれませんが、ここを置かないと計画が組めません。同じ「4週間の準備」でも、月に1回登っている人と2年ぶりの人では、4週後に立てる場所がまったく違うからです。目標だけを見て組んだ計画は、必ずどちらかに合いません。

実績があるなら、推定より実績を使ってください

現在地を出す方法は2つあります。ひとつは、ブランクの長さと運動習慣からの推定。もうひとつが、直近で無理なく歩けた山を直接入れてもらう方法です。条件が近くて日が浅い実績があるなら、そちらを使ってください。推定より確かな手がかりになるからです。逆に、何年も前の実績や、季節も荷物もまるで違う山の実績は、今の体力をそのまま表しません。

たとえばコースタイム10時間・標高差1,500mの山をへばらずに歩けているなら、そのまま入れてください。同じくらいの山を目標にしたときは「体力の目安では、今のままで行けます」と出て、鍛え直す計画は出ません。当たり前のことのようですが、すでに登れている人に4週間のトレーニングを指示するツールは、その時点で使いものになりません。

ただしこれは、コースタイムと標高差という2つの数字の話に限った判定です。岩場も雪も泊まりも見ていないことは、変わりません。

入れた山からしばらく空いている場合は、そのぶんを差し引いてから現在地にしています。半年ぶりなら約8割です。1年以上ぶりの方は、入れた実績の半分以下(2年以上ぶりなら4割以下)で頭打ちにしました。1年以上のブランクからの復帰はブランク前の半分以下から、という考え方をそのまま当てはめています。山以外の運動を続けている方は目減りを小さくしていますが、この頭打ちは外れません。

なお、この目減りの割合も筆者の仮置きです。研究から出した値ではありません。

ただし、推定のほうの数字は筆者の仮置きです。ブランクの長さと運動習慣から歩ける山を割り出した研究はありません。2年以上ぶりの方に出る標高差250m・コースタイム2時間は、復帰トレーニングプログラム3本柱で挙げているコースタイム1〜2時間程度の低山に対応させた値です。出てきた山が重いと感じたら、迷わず下げてください。

まだ始めなくていいときは、そう言う

逆に、本番まで余裕がありすぎる場合もあります。必要なのは4週なのに、予定日は3か月先というときです。

このとき、期間を引き伸ばして3か月ぶんの計画を作ることはしません。必要な週数ぶんだけを本番から逆算して、開始日を後ろにずらします。それまでの期間には「維持期」を出します。中身は、増やさない・落とさない、それだけです。

  • 下半身の筋トレを週1〜2回。いま続けている内容のまま
  • 坂か階段を週1回・30〜60分
  • 行けるなら月1回、今と同じくらいの山

早く始めたほうが安全に思えるかもしれませんが、逆です。ピークは長く保てません。3か月前から負荷を上げ続けると、本番のころには疲労のほうが積み上がっています。維持期に量を増やさないよう書いてあるのは、そのためです。

持久力は運動をやめると2週間で落ち始めるので、間隔を空けすぎないことだけは守ってください。維持期にやることが「何もしない」ではないのは、この一点のためです。

間に合わないときは、中間の山を出す

残りの週が足りない場合、このツールは計画を詰め込みません。かわりに、今回はここまでという中間の山を出します。

これはブランク明けの復帰で使われている考え方の応用です。1年以上のブランクがある場合、最初の山はブランク前のコースタイム・標高差ともに半分以下から始めます。同じように、現在地と目標のあいだに段階を置いて、残りの週数で届くところまで戻した山に置き換えています。段階の刻み方は筆者の目安で、根拠のある計算式ではありません。なお、本番まで2週間を切っている場合は中間の山を出さず、休養に切り替える案内だけを出します。

そして、本命の山に必要な日付も一緒に出しています。目標を捨てるのではなく、日付をずらすだけです。山は逃げません。

このツールが見ていないもの

大事な但し書きです。このツールが読んでいるのは、コースタイムと累積標高差の2つだけです。

岩場や鎖場、雪のある時期、標高の高い山での高度の慣らし、山小屋やテントに泊まる行程、荒れた長い下り、天気が崩れたときに引き返せるルートかどうか——山の難しさを決めている要素の多くは、この2つの数字に入りません。体力の準備が足りていることと、その山に行けることは別です。

これらが絡む山を目標にする場合は、計画が出たからよしとせず、経験のある人に相談するか、条件のやさしい山で段階を踏んでから向かってください。

毎週の中身は「3本柱」を割り付けているだけ

週の欄に並ぶ3つは、登山に必要な体力の3本柱です。

  • 下半身の筋トレ:登りで体を持ち上げ、下りで衝撃を受け止める土台
  • 傾斜・荷重の持久トレ:平地の歩行では足りない、坂と荷物への慣れ
  • 実戦トレ:岩や木の根、長い連続したアップダウン。山でしか手に入らないもの

筋力と持久力は、片方だけ鍛えるより両方を組み合わせた群だけが荷重歩行の時間を伸ばしたという報告があります。だから並行して積みます。種目とフォームの具体は復帰トレーニングプログラム3本柱に、自宅でできる土台トレの5種目は富士登山に向けた1か月トレーニングにまとめています。

基本は筋トレ週2回・持久トレ週2回ですが、週に使える日数に収まるように回数を減らしています。日数を少なく設定すると、筋トレと持久トレを同じ日にまとめる前提の文言に変わります。このとき必ず筋トレを先に入れてください。同じ日に両方やる場合、筋トレを先にしたほうが下半身の筋力の伸びが良かったと報告されています。順番を変えるだけなので、いちばん安いコツです。

自宅トレが毎週10%ずつしか増えない理由

週の欄を上から順に見ると、自宅トレの分数が10分から少しずつしか増えていないことに気づくと思います。これは意図的です。

自宅トレを増やすのは週10%以内。ランナーの世界で10%ルールと呼ばれてきた経験則のひとつで、増やしすぎを防ぐための歯止めとして使っています。当てはめているのは自宅トレの量だけで、実戦トレの山は1回ごとに大きく上がります。そちらは10%では刻めないので、歩いてみて次の日に残るようなら次を延ばす、という形で調整してください。やる気が出ている時期ほど、体より先に気持ちが前に出ます。

同じ理由で、最初の週はわざと物足りない量にしてあります。もうちょっとできそう、で止めるのが正解です。翌日に強い筋肉痛や関節の違和感が残るなら、確実にやりすぎです。

そして残った日は、埋めずに空けておいてください。体は運動している間ではなく、休んでいる間に強くなります。週に1〜2日の完全休養日は、計画の一部です。

直前1週間は、必ず落とす

いちばん最後のブロックに、実際の日付が入ったテーパリングの予定が出ます。

本番の8〜10日前に最後の実戦トレを済ませ、そこから量を落としていって、前日は完全休養。疲労を抜きながら適応だけを残すことで、当日にピークが来ます。テーパリングはサボりではなく、戦略です。

最後の実戦トレを本番の装備で歩くように書いてあるのも意図があります。ザック・靴・ポールは、当日に初めて背負って合わなかったでは取り返しがつきません。荷物の重さを入れておくと、荷重トレの上限もその重さに合わせて上がっていきます。

計画どおりに進まなくても、失敗ではありません

最後に、いちばん大事なことを。

この計画は、予定どおりに消化できないのが普通です。子どもが熱を出す、天気が崩れる、仕事が立て込む。週の予定が飛んだら、飛んだ週の続きから再開してください。計画を最初からやり直す必要はありません。

大事なのは強度ではなく、切らさないことです。落ちた体力を戻す局面でいちばん差がつくのはそこでした。家では手が動かないという方は、登山の自宅トレーニングが続かない人へで、先に続く形のほうを決めてしまうのがおすすめです。

復帰の全体像を段階で見たい方は登山復帰ロードマップを、当日の水分と行動食の量は登山の水分・カロリー計算機を、持ち物は登山の装備チェックリストを、山頂の気温と服装は山頂の気温は何℃?をあわせてご覧ください。


※この計画は一般的な目安であり、診断や個別の運動処方ではありません。心臓・血圧・呼吸器の持病がある、膝や腰や股関節に手術歴や治療中の疾患がある、いま痛みやしびれがある、妊娠中——このいずれかに当てはまる方は、始める前に主治医やかかりつけの理学療法士にご相談ください。運動中に胸の違和感・強い息切れ・めまいが出たときは、すぐに中止してください。関節の鋭い痛みや翌日も引きずる痛みが出た場合も、続けずに整形外科や理学療法士に相談してください。