山の草地にトレッキングポールで張った黄色いツェルトと、岩の上にたたんだオレンジの保温シート ツェルトとエマージェンシーシートの違いと選び方・使い方を理学療法士が解説 ヤマカルテ

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持ち物リストに「ツェルト」「エマージェンシーシート」と書いてある。でも、どちらか1つで足りるのではないか。そもそも何を買って、いざというときどう使えばいいのか——ここで手が止まる人は多いはずです。

先に結論を書きます。エマージェンシーシートは体を包む道具、ツェルトは風と雨をさえぎる空間を作る道具です。役割が違うので、私は日帰りでも両方を持っています。そして、どちらも持っているだけでは体温を守れません。風・濡れ・地面という3つの道をふさぐ使い方まで知って、はじめて役に立ちます。

私は理学療法士(PT)として10年以上、体の仕組みを見てきました。登頂は140座以上。日帰りでもツェルトとエマージェンシーシートを必ずザックに入れています。この記事では、救助の現場を想定した研究データをもとに、体の熱がどこから逃げるのかを整理し、そこから逆算した選び方と使い方をまとめます。読み終えるころには、自分のザックに何を入れ、どう使うかを決められるはずです。

先に、私が日帰りでも持ち歩いている2つを紹介します。この2つを選んだ理由は、このあと体の熱が逃げる仕組みから説明します。

ツェルトとエマージェンシーシート(保温シート)は、役割が違う

ツェルトとエマージェンシーシートは、どちらも山で動けなくなったときの道具ですが、体温を守るしくみが違います。エマージェンシーシート(保温シート・サバイバルシートとも呼ばれます)は体に巻きつけて包む薄い膜で、ツェルトは頭からかぶったり張ったりして、人が入れる小さな空間を作る簡易テントです。

エマージェンシーシートは体を包む膜で重さの目安100g前後、ツェルトは風と雨をさえぎる空間で100〜300g程度 基本はシートで体を包みその上からツェルトで風を止める ヤマカルテ

エマージェンシーシートツェルト
ひとことで体を包む膜風と雨をさえぎる空間
重さの目安100g前後100〜300g程度
得意なこと体に密着させて包む。けが人を包む。すぐ出せる風・雨・雪から体を丸ごと隠す。複数人で入れる
苦手なこと強い風であおられる・破れる。内側が結露する広げる・張るのに手間がかかる。練習が要る

私のザックには、両方が入っています。エマージェンシーシートは救急セットの中、ツェルトはすぐ取り出せる場所です。シートで体を包み、その上からツェルトで風を止める。重ねて使うのが基本の形です。

日帰り登山でもツェルトとシートを持つ理由

日帰り登山でもツェルトとシートを持つのは、けがや道迷いで動けなくなると、救助を待つあいだに体が急速に冷えるからです。警察庁も、登山に必要な装備として、雨具や地図と並べて「ツェルト(簡易テント)」を挙げています[1]。

歩いているときは脚の筋肉が熱を作るが、座り込むと熱源が止まり汗で湿った服と山の風で体が冷えていく 救助を待つ時間の冷えにシートとツェルトで備える ヤマカルテ

日帰りの山では、泊まる予定がないぶん、夜を越す準備がほとんどありません。足首をひねって歩けなくなった。道に迷って日が暮れた。救助が来るまでに数時間かかることは珍しくありません。そのあいだを、汗で湿った服のまま、風の吹く斜面で待つことになります。

ほかに何を持っていくかは、日帰り登山の持ち物リストにまとめています。

体の熱が逃げる3つの道|風・濡れ・地面

山で動けなくなった体から熱が逃げる主な道は、風・濡れ・地面の3つです。ツェルトとエマージェンシーシートの選び方も使い方も、この3つをどうふさぐかで決まります。

体の熱が逃げる3つの道 風はツェルトで外側を止める 濡れは水を通さないシート・ツェルト 地面はザックやマットを下に敷く 実験では風を通す覆いの保温力は約30〜50%、熱損失の約5分の1が地面へ ヤマカルテ

風|防風の外側があるかで、保温力の残り方が変わる

風は、服や毛布が抱えている空気の層を押しつぶし、はぎ取っていきます。救助用の毛布や袋12種類を人形に着せて風を当てた実験では、試した風速2〜3m/sと8〜9m/sのどちらでも、風を通さず押しつぶされにくいものは元の保温力の約60〜80%を保ったのに対し、風を通すものや軽い素材は約30〜50%まで落ちました[2]。

寒冷地の搬送を想定した別の実験でも、風速4m/sで覆いの保温力が11〜45%下がっています[3]。山の稜線では、この程度の風は珍しくありません。

中にどれだけ着込んでも、外側で風を止められなければ保温力は大きく削られます。この「外側」を担うのがツェルトです。

濡れ|雨と汗を、外側で止める

服が濡れると、空気の層が水に置き換わり、体の熱が奪われやすくなります。野外医療のガイドラインも、低体温への対応として、まず濡れと風から守ることを挙げています[8]。

エマージェンシーシートやツェルトの生地は、水を通しません。雨や雪を外で止める壁になります。一方で、体から出る湿気も外へ逃げにくいので、内側に結露がたまります[4]。濡れた服をどう扱うかは、夏山の低体温症で詳しく書きました。

地面|座った場所から、熱は直接逃げていく

地面に直接座ったり横になったりすると、接している面から熱が直接逃げていきます。健康な7人を寒い部屋で地面に置いた担架板に寝かせた実験では、地面へ逃げる熱は全体の熱損失の約5分の1を占め、背中から地面への熱の流れは体の前面より約1.25倍多いという結果でした[5]。

シートで体を包み、ツェルトで風を止めても、地面に直接座っていれば、そこから熱は逃げ続けます。体の下に何かを敷くことが、3つ目の道のふさぎ方です。

エマージェンシーシート(保温シート)の選び方

エマージェンシーシートは、「反射率」の数字よりも、体を包みきれる大きさと破れにくさで選びます。服を着た体から放射で出ていく熱はもともと少なく、シートの反射が果たす役割は思われているほど大きくない、と野外医療の総説はまとめています[4]。

反射より「包んで空気を閉じ込める」

同じ総説によれば、保温の力は主に空気を閉じ込める力で決まり、重ねるほど高まります。シート1枚だけで役に立つのは、風が弱く、気温もそれほど低くない場面です。寒くて風が強い場面では、防水の外側カバーとして使うのがいちばん良いとされています[4]。

商品には「体温の90%を反射」のような表示がよくあります。これはメーカーの表示で、実際の山では結露や風、体への密着で反射の効果は落ちます[4]。数字に安心せず、「包む・重ねる・外側に使う」と覚えておくほうが確実です。

選ぶときの3つの基準

  • 全身を包める大きさ:頭から足先まで巻ける長さが目安です。私が使っているSOLの1人用は、広げると142×213cmあります
  • 破れにくさ:薄いアルミ蒸着のシートは、風にあおられたり岩に引っかけたりすると裂けやすくなります。少し厚手のものを選ぶと、けが人を包むときも安心です
  • 目立つ色:捜索のとき、目立つ面が見つけてもらう助けになります。けがの固定や防風にも使える多用途の道具です[7]

エマージェンシーシートの選び方 反射より包んで空気を閉じ込める 金色・銀色どちらを外にしてもよい 全身を包める大きさ・破れにくさ・目立つ色の3つの基準 ヤマカルテ

ツェルトの選び方

ツェルトは、重さ・中の広さ・生地の3つで選びます。いずれも「いざというとき、本当に体を入れられるか」から逆算します。

重さと広さ|「1人用」でも奥行きを見る

ツェルトは100〜300g程度のものが多く、日帰りのザックにも入る大きさです。選ぶときは重さだけでなく、横になれる奥行きと、頭からかぶったときに何人入れるかを見てください。

私が使っているのは、アライテントの「ビバークツェルト1 ロング」です。自分用として持っていますが、メーカーの表記は1〜2人用です。公式の仕様は次のとおりです。

項目ビバークツェルト1 ロング(公式の仕様)
重さ240g(本体のみ)
広げたとき間口80×奥行210×高さ90cm
しまったとき16×7(幅6)cm
生地15dnリップストップナイロン(PUコーティング)
使える人数2人が横になれる。かぶれば3〜4人が入れる

名前のとおり、通常のモデルより奥行きが長く、横になったときに足先まで収まりやすいつくりです。かぶって使えば仲間やけが人も一緒に入れるので、1人で歩く日でも、自分以外を守る道具になります。

生地|水を通さない生地は、内側が結露する

ツェルトの生地は、防水のコーティングをしたナイロンが一般的です。雨と風はしっかり止めてくれますが、体から出る湿気も外に逃げにくく、中にいると内側が結露してきます。ベンチレーター(換気口)を開けて湿気を逃がすこと、ツェルトの内側の結露で服を濡らさないようシートを体に巻いてから入ることが対策になります。ただし、シートも湿気を通さないので、シートの内側にも結露はたまります。長く過ごすときは、ときどきすき間を開けて湿気を逃がします。

色|目立つ色を選ぶ

ツェルトは、救助を待つあいだ山の中に張る「目印」にもなります。岩や木々に紛れない、黄色やオレンジなど目立つ色を選ぶと安心です。

ツェルトの選び方 重さは100〜300g程度 広さは横になれる奥行きとかぶって何人入れるか 生地は水を通さないと内側が結露するので換気口を開ける 色は黄色やオレンジなど目立つ色 ヤマカルテ

ツェルトとシートの使い方|包む・張る・下に敷く

ツェルトとシートは、シートで体を包み、ツェルトで風と雨を止め、体の下に物を敷く、という3つをそろえて使います。体の熱が逃げる3つの道(風・濡れ・地面)を、1つずつふさぐ順番です。

ツェルトとシートの使い方3ステップ 1シートで包む(口と鼻は出しておく)2かぶる・張る 3ザック・マット・ロープを下に敷く 動けないと判断したら準備と並行して早めに救助を要請 ヤマカルテ

1. シートで体を包む

服が乾いていれば、服を着たままシートで全身を包みます。首元と足先まで覆い、すき間から風が入らないようにします。ただし、口と鼻は覆わず、呼吸できる状態を保ってください。けが人を包むときも同じです。

服が濡れているときは、まず風を避け、地面との間に物を敷いてから考えます。安全に着替えられる状況なら乾いた服に替えてから包み、難しければ濡れた服の上から、水を通さないシートやツェルトで包みます。濡れた服の扱いは夏山の低体温症で詳しく書きました。

2. ツェルトをかぶる、または張る

すぐ風を止めたいときは、頭からかぶります。稜線の強い風のなかで張る作業をするより早く、手元の作業だけで体を隠せます。ベンチレーターから顔を出せば、外の様子も見られます。

時間がかかりそうなときは、張って空間を作ります。トレッキングポールや木を支柱にし、張り綱で固定する方法が一般的です。私は、張って使う形を想定して練習しています。幸い、実際に山で使う場面にはまだ遭遇していません。

3. 体の下に物を敷く

地面に直接座らず、ザック・座布団代わりのマット・ロープなど、手元にあるものを体の下に敷きます。先の実験では、地面へ逃げる熱が全体の約5分の1を占めていました[5]。空になったザックに脚を入れるだけでも、地面との間に層ができます。

家で一度、ツェルトを張ってみる

ツェルトは、買ったら一度、家や近所の公園で広げて張ってみてください。いざというときは、寒さで手がかじかみ、風が吹き、気持ちも焦っています。はじめて袋から出すのがその場面では、張り方を考える余裕はありません。

練習では、次の5つを一通りやっておくと安心です。

  • 袋から出して、上下と入口の向きを確かめる
  • 頭からかぶって座り、ベンチレーターから顔を出す
  • トレッキングポールや木を使って張る
  • 中に入って、ザックを体の下に敷いて座ってみる
  • たたんで、元の袋にしまう(意外と入らないので、ここも練習)

エマージェンシーシートも同じです。1枚は練習用に開けてみて、どのくらいの大きさか、風があるとどれほどあおられるかを体で知っておくと、本番で迷いません。

家で一度ツェルトを張ってみる 練習する5つのこと 袋から出して上下と入口を確かめる・頭からかぶって座る・ポールや木を使って張る・中でザックを敷いて座ってみる・たたんで袋にしまう ヤマカルテ

ほかの装備と合わせた準備は、装備チェックリストのツールで確認できます。

まとめ

  • エマージェンシーシートは体を包む膜、ツェルトは風と雨をさえぎる空間。役割が違うので、私は日帰りでも両方を持っている
  • 警察庁も、登山に必要な装備としてツェルト(簡易テント)を挙げている
  • 体の熱が逃げる道は風・濡れ・地面の3つ。実験では、風を通す覆いの保温力は約30〜50%まで落ち、地面へは熱損失の約5分の1が逃げていた
  • シートは「反射率」より包める大きさと破れにくさで選ぶ。金色と銀色はどちらを外にしてもよい
  • ツェルトは重さ・奥行き・生地・色で選ぶ。かぶれば複数人を守れる
  • 使い方は包む・かぶるか張る・下に敷くの3つ。あっても、まず救助の要請を
  • 買ったら一度、家で張ってみる

ツェルトとシートは、使わずに済めばいちばんいい道具です。それでも、動けなくなったその日に手元にあるかどうかで、待つ時間の過ごし方が変わります。次の山行の前に、ザックに入っているかを確かめ、一度広げてみてください。

参考文献

  1. 警察庁生活安全局生活安全企画課. 2026. 令和7年における山岳遭難の概況等. https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r07_sangakusounan_gaikyou.pdf
  2. Henriksson O, Lundgren JP, Kuklane K, Holmér I, Bjornstig U. 2009. Protection against cold in prehospital care—thermal insulation properties of blankets and rescue bags in different wind conditions. Prehospital and Disaster Medicine.
  3. Jussila K, Rissanen S, Parkkola K, Anttonen H. 2014. Evaluating cold, wind, and moisture protection of different coverings for prehospital maritime transportation—a thermal manikin and human study. Prehospital and Disaster Medicine.
  4. Kosiński S, Podsiadło P, Darocha T, et al. 2022. Prehospital Use of Ultrathin Reflective Foils. Wilderness & Environmental Medicine.
  5. Sanak T, Putowski M, Krzeptowski-Sabała S, et al. 2025. Conductive heat loss in simulated outdoor settings: a preliminary experimental human study. International Journal of Emergency Medicine.
  6. Podsiadło P, Zender-Świercz E, Strapazzon G, et al. 2020. Efficacy of warming systems in mountain rescue: an experimental manikin study. International Journal of Biometeorology.
  7. Wallner B, Salchner H, Isser M, et al. 2022. Rescue blankets as multifunctional rescue equipment in alpine and wilderness emergencies: a commentary. Scandinavian Journal of Trauma, Resuscitation and Emergency Medicine.
  8. Dow J, Giesbrecht GG, Danzl DF, et al. 2019. Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Out-of-Hospital Evaluation and Treatment of Accidental Hypothermia: 2019 Update. Wilderness & Environmental Medicine.