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冬山に行くのに、ハードシェルを買うべきか迷っていませんか。レインウェアと見た目はほとんど同じなのに、値段は倍近く違います。手持ちのレインウェアで足りるなら、それに越したことはありません。

先に結論を書きます。冬用ハードシェルは、雪の稜線の強風とアイゼン・ヘルメットを使う山行に合わせて、丈夫な生地と冬山向けの作りを足したアウターです。 風と雪を止める働きは、防水の膜があるレインウェアにもあります。樹林帯の中を短く歩く雪の低山なら、条件しだいでレインウェアで代用できます。森林限界を超える稜線に長く出るなら、冬用のハードシェルを用意します。選ぶときは、生地の強さ・動きやすさ・換気・フードと裾の4つを見ます。

私は理学療法士(PT)として10年以上、体の動きと体温を臨床で扱ってきました。登山は140座以上で、冬は雪の低山から、12本爪アイゼンで歩く森林限界より上の稜線、冬のテント泊まで経験しています。臨床で扱うのは、室温の整った部屋で動く体です。冬の稜線では、汗をかいた体が氷点下の強風にさらされます。服は「暖かさ」より先に、風と動きやすさで結果が分かれます。

この記事を読み終えるころには、次の冬山で着るアウターを、行く山の条件から決められるようになります。

先に、私が冬山で着ている上のハードシェルを紹介します。下のパンツと合わせて、選んだ理由はこのあと体が冷えるしくみから説明します。

粉雪が流れる冬の稜線で雪の岩に置いたフード付きハードシェルを描いた水彩画 冬山用ハードシェルの選び方とレインウェアとの違いを理学療法士が解説 ヤマカルテ

冬用ハードシェルは「雪の稜線の風」を止めるための服

冬用ハードシェルは、防水の膜を挟んだ丈夫な生地で、氷点下の強風と雪を服の中に入れないためのアウターです。 防水と透湿(汗の水蒸気を外へ逃がす性能)のしくみ自体は、レインウェアと同じで、防水の膜がある以上、どちらも風を止めます。違うのは、生地の丈夫さ・体の動きに合わせた裁断・フードや裾の調整・冬山の道具に合わせた作りです。

もう1つ大事なのは、ハードシェル自体はほとんど暖かくないことです。暖かさはベースレイヤーとミドルレイヤーが受け持ち、ハードシェルはその暖かさを風と雪から守る役です。

登山のアウターは、大きく3つに分かれます。

レインウェア・冬用ハードシェル・ソフトシェルの役目と生地の違いを比べた図 冬山のアウター3種類 ヤマカルテ

レインウェア冬用ハードシェルソフトシェル
主な役目雨と風を防ぐ強風と雪を防ぎ、冬山の道具と合わせる行動中の風よけ
防水○○×〜△(撥水程度が多い)
生地薄く軽い厚く丈夫伸びる生地
重さ軽い重め中くらい
冬山向けの作り少ないヘルメット対応のフード・裾の補強など製品による

防水と透湿の数字の読み方は、登山レインウェアの選び方で詳しく書きました。この記事では、冬に何が足されるのかに絞って説明します。

風を止めると、なぜ体が冷えにくいのか【PT解説】

冬の服の暖かさは、風と体の動きで大きく下がります。 着ている服の保温力は、売り場で見る「止まって、風のない状態」の値のままではありません。

歩くと保温力が約40%下がり、風速1→8m/sで最大60%下がることを示した図 外側で風を止める冬山用ハードシェルの役目 ヤマカルテ

重ね着した服の保温力を数式で調べた研究では、歩くと保温力が約40%下がると推定されています[1]。歩くたびに服の中の暖かい空気が押し出され、冷たい外気と入れ替わるためです。どの服でも同じだけ下がるという意味ではありませんが、止まっているときの値より下がる方向は変わりません。そこに風が加わると、さらに下がります。別の研究で寒冷地用の防護服を試験したところ、風速が毎秒1mから8mに上がると、条件によっては服の保温力が最大60%下がりました[2]。

作業着と防寒服の研究をまとめた解析では、防寒服は生地が空気を通しやすいほど、風の影響を大きく受けることが示されています[3]。いくら厚いフリースやダウンを着ても、外側で風を止めなければ、その暖かさは風に持っていかれます。冬のアウターの一番の仕事は、雨よりもこの風を止めることです。冬用ハードシェルは、その役目を強風と長い行動時間の中で続けられるように作られています。

レインウェアで代用できる条件・できない条件

冬山でレインウェアを代用しやすいのは、風を木がさえぎる樹林帯の中を、短い時間で歩く山です。 森林限界を超える稜線と、12本爪アイゼンを着ける山では、冬用のハードシェルを用意します。下の表は目安です。実際には、気温・風雪の強さ・行動時間・引き返しやすさ、手持ちのレインウェアの作りも合わせて判断します。

樹林帯の雪の低山はレインウェアで代用しやすく、森林限界を超える稜線・12本爪アイゼン・冬のテント泊は冬用ハードシェルを用意する条件の図 ヤマカルテ

山の条件アウター
雪の低山・樹林帯の中だけを短く歩くレインウェアで代用しやすい
チェーンスパイクで歩く凍った道レインウェアで代用しやすい(裾の引っかけに注意)
森林限界を超える稜線に出る冬用ハードシェル
12本爪アイゼンを着ける冬用ハードシェル(とくに下)
冬のテント泊冬用ハードシェル(長時間外にいるため)

分かれ目になるのは2つです。

  1. 風雪にさらされる時間:樹林帯を抜けると、風をさえぎるものがなくなります。強風の稜線に長くいるほど、フードや袖口のすき間から雪が入り、生地も雪や岩でこすれます。薄く軽いレインウェアは、こうした使い方を前提に作られていません
  2. アイゼンの爪:12本爪のアイゼンは、反対の足の爪でズボンの裾を引っかけやすい道具です。私も一度、アイゼンでゲイターを引っかけて破りました。薄いレインパンツでは裾が裂けやすくなります。補強のある冬用パンツでも、引っかければ破れることはあります

チェーンスパイクと12本爪の使い分けは、チェーンスパイクと軽アイゼンの選び方にまとめています。

選び方①生地の強さと重さ:使う山に合わせる

冬用ハードシェルの生地は、軽さと丈夫さのどちらを取るかで選びます。 生地が厚く丈夫なほど、雪や岩、アイゼンの爪でこすれても傷みにくくなる代わりに、重くなります。

冬山用ハードシェルの生地で確かめる3つ(3層構造・デニールの目安・パンツの裾の補強)の図 ヤマカルテ

確かめたいのは次の3つです。

  • 3層構造か:表の生地・防水の膜・裏の生地が一体になった「3層(3レイヤー)」の生地は、汗で裏がべたつきにくく、冬用ハードシェルの基本です
  • 生地の丈夫さ:表示があれば「デニール(糸の太さ)」を見ます。同じような素材・織り方どうしなら、数字が大きいほど丈夫な目安になります。生地の厚さそのものを表す数字ではありません
  • パンツの裾の補強:裾の内側に、アイゼンの爪に強い生地が当ててあるかを見ます

軽さを優先しすぎると、アイゼンの爪や岩でこすれやすい裾から傷みます。日帰りの雪の低山が中心なら軽めを、稜線やテント泊まで行くなら丈夫さを優先します。

選び方②動きやすさ:腕と脚を上げてもつっぱらないか【PT解説】

動きにくいアウターは、同じ山を歩いても体力を余計に使わせます。 重さだけを見て選ぶと、この差を見落とします。

作業用の防護服14種類を着て歩いたり段差を昇り降りしたりした研究では、エネルギー消費量が2.4〜20.9%増え、その増えた分の半分以上は服の重さでは説明できませんでした[6]。はっきり差があると言えたのは、10%を超えて増えた服です。冬山用のハードシェルそのものを比べた研究ではありませんが、重さ以外の要素、たとえば服が動きを妨げることも関わっている可能性があります。

寒冷地用の防寒服を男性19人が着て歩いた研究でも、同じ傾向が出ました[7]。

  • ベースレイヤーだけのときに比べ、肌着・中間着・外衣を重ねると、平地でも坂道(傾斜6°)でもエネルギー消費量が増えた
  • 重さの影響を差し引いても、中間着を1枚足すと坂道でだけエネルギー消費量が増えた
  • 外側の服を大きめのサイズにしても、エネルギー消費量に差は出なかった

坂道でだけ差が出た理由は、この研究では確かめられていません。坂道では脚を大きく動かすので、重ね着が動きを妨げる影響が出やすかった可能性があります。登山の登りは、この坂道の連続です。

ハードシェルの試着で試す3つの動き(両腕を上げる・片膝を胸に近づける・しゃがむ)を理学療法士が解説した図 ヤマカルテ

サイズは、中にダウンを着ても腕を上げられる余裕があれば十分です。先の研究では大きめのサイズでもエネルギー消費量は増えませんでしたが、大きすぎると、動くたびに服の中の空気が入れ替わりやすくなります。

選び方③換気:汗をためない仕組みがあるか

冬用ハードシェルは、脇の下やパンツの横に、開け閉めできる換気口があるものを選びます。 透湿の性能だけでは、登りでかく汗を逃がしきれないためです。

寒さの中で汗の水分がどこへ行くかを調べた研究では、氷点下10℃で歩いたとき、汗の水分は肌着から外側の服へ移っていくことが示されています[8]。外側の服に水分がたまると、服の保温力は落ちます。PTFE(ゴアテックスと同じ系統の膜)の外衣を含む防寒服で、0〜−30℃・強風の中を歩いた研究でも、防寒服が役目を果たす条件として、強い運動のときに換気や1枚脱ぐことができ、汗で保温力が落ちないことが挙げられています[9]。

換気口は「付いているか」だけでなく、手袋をしたまま開け閉めできるかまで確かめます。三本指のオーバーグローブでは、小さなファスナーはつまめません。私はアウターの換気口のファスナーに、大きめのジッパープルをつけています。手袋の工夫は登山用グローブの選び方に書きました。

冬山の登りでハードシェルの換気口を汗をかく前に開け、稜線の手前で閉めるタイミングと手袋のまま開け閉めできるかを示した図 ヤマカルテ

選び方④フード・袖口・裾:ヘルメット・グローブ・アイゼンと合うか

冬用ハードシェルは、冬山で一緒に使う道具と合うかで選びます。 服単体の性能がよくても、道具とかみ合わなければ、山で使いにくくなります。

冬用ハードシェルのフード・袖口・パンツの裾・ポケットが、ヘルメット・グローブ・アイゼン・ザックの腰ベルトと合うかを確かめる図 ヤマカルテ

  • フード:ヘルメットの上からかぶれるか。かぶったまま横を向いて、視界がふさがらないか。顔のまわりを絞れるか
  • 袖口:手袋の上からかぶせて、すき間なく留められるか。手袋をしたまま面ファスナーを扱えるか
  • パンツの裾:登山靴にかぶさる幅か。内側に雪の侵入を防ぐ筒(インナースパッツ)があるか。裾の内側に補強があるか
  • ポケット:ザックの腰ベルトやハーネスを締めた状態で、手が入るか

ヘルメットの選び方は登山用ヘルメットとハーネスの選び方、雪の侵入を防ぐゲイターはゲイターの選び方にまとめています。

著者が使う冬山用ハードシェル上下と選んだ理由

私の冬のアウターは、上がマムートの Teton HS フーデッドジャケット、下がモンベルのライトアルパイン パンツです。 雪の低山・森林限界より上の稜線・冬のテント泊まで、この上下で歩いています。困ったことは、今のところ特にありません。

著者が冬山で使うマムート Teton HS フーデッドジャケットとモンベル ライトアルパイン パンツ(ゴアテックスの旧モデル)の特徴の図 ヤマカルテ

上:マムート Teton HS フーデッドジャケット

ゴアテックスの3層生地で、脇の下に大きな換気用のファスナーがあり、フードはヘルメットの上からかぶれる大きさです。4つの基準のうち、換気とフードを満たしています。

下:モンベル ライトアルパイン パンツ

私が使っているのは、ゴアテックスを使っていた旧モデルです。現行モデルは、モンベル独自の防水素材スーパードライテックの3層生地に変わっています。モンベルの説明では、裾の内側をアイゼンの爪に強い生地で補強し、雪の侵入を防ぐインナースパッツと、両側を開けられる換気口がついています。生地の強さ・換気・裾の3つを満たしています。現行モデルはモンベル公式のライトアルパイン パンツのページで確認できます。

中に着る服は、ベースレイヤーとミドルレイヤーの記事で選び方を書きました。ベースレイヤーの選び方とミドルレイヤーの選び方を合わせて読むと、冬の重ね着が上から下まで決まります。

まとめ:冬用ハードシェルは「風」と「道具」から選ぶ

  • 冬のアウターの一番の役目は、氷点下の強風を止めること。重ね着した服の保温力は、歩くと約40%下がるという推定があり、風でさらに下がる
  • 風を止める働きはレインウェアにもある。冬用ハードシェルとの違いは、生地の丈夫さ・裁断・調整・冬山の道具との相性。ハードシェル自体はほとんど暖かくない
  • 樹林帯の中を短く歩く雪の低山なら、レインウェアで代用しやすい。森林限界を超える稜線・12本爪アイゼン・冬のテント泊では冬用を用意する
  • 風で冷えやすいのは胸・お腹・骨盤まわり。アウターは上下セットで考える
  • 選ぶ基準は4つ:生地の強さと重さ/動きやすさ/換気口/フード・袖口・裾
  • 動きにくい服は、重さ以上に体力を使わせる可能性がある。試着では腕を上げる・膝を胸に近づける・しゃがむの3つを試す
  • 換気口は、手袋のまま開け閉めできるかまで確かめ、汗をかく前に開ける

次の冬山が樹林帯の中なのか、稜線に出るのかを先に決めてください。そこに気温・風・行動時間の見通しを足せば、手持ちのレインウェアで行くのか、ハードシェルを用意するのかを判断できます。

参考文献

  1. Lotens WA, 1989. The actual insulation of multilayer clothing. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health.
  2. Anttonen H, 1993. Occupational needs and evaluation methods for cold protective clothing. Arctic Medical Research.
  3. Havenith G, Nilsson HO, 2004. Correction of clothing insulation for movement and wind effects, a meta-analysis. European Journal of Applied Physiology.
  4. Lu Y, et al., 2015. Clothing resultant thermal insulation determined on a movable thermal manikin. Part II: effects of wind and body movement on local insulation. International Journal of Biometeorology.
  5. Harirchi I, et al., 2005. Frostbite: incidence and predisposing factors in mountaineers. British Journal of Sports Medicine.
  6. Dorman LE, Havenith G, 2009. The effects of protective clothing on energy consumption during different activities. European Journal of Applied Physiology.
  7. Renberg J, et al., 2020. Metabolic rate and muscle activation level when wearing state-of-the-art cold-weather protective clothing during level and inclined walking. Applied Ergonomics.
  8. Rissanen S, et al., 1994. Thermal responses affected by different underwear materials during light exercise and rest in cold. Annals of Physiological Anthropology.
  9. Gonzalez RR, Endrusick TL, Santee WR, 1998. Thermoregulatory responses to cold: effects of handwear with multi-layered clothing. Aviation, Space, and Environmental Medicine.