花崗岩の岩壁の鉄の足場に両足で立ち、腕は添えて登るヴィアフェラータの登山者の水彩画 ヴィアフェラータは脚で登る、前腕・肩・肘のケアを理学療法士が解説 ヤマカルテ

「ヴィアフェラータに挑戦したいけれど、腕の力に自信がない」 「岩場のあと、前腕がパンパンに張って握れなくなった」

そんな不安や経験はありませんか。

結論からお伝えすると、ヴィアフェラータで主役になる筋肉は脚です。腕は、体を岩壁に引き寄せて支える役に回します。それでも前腕は、握り続けるだけで先に疲れます。だからこそ、握りしめない登り方と、力を抜く時間をつくるケアが要になります。

私は理学療法士(PT)として臨床経験10年以上、山は140座以上を歩いてきました。御在所岳のヴィアフェラータには4回登っています。この記事では、クライミングとヴィアフェラータの研究をもとに、上半身のどこがどう疲れ、どうケアすればよいかを整理します。

読み終えるころには、次のヴィアフェラータで、登る前・登っている途中・登ったあとに何をするかを決められるはずです。

ヴィアフェラータで主役になる筋肉は、脚と体幹

ヴィアフェラータで体を上へ運ぶ主役は、脚の筋肉です。ヴィアフェラータは、岩場に設置された鉄の足場やワイヤーを伝って登るルートで、両手両足のうち3か所で体を支え、1か所だけを動かす「三点支持」が基本になります。足場に立ち上がる動きは、太ももの前(大腿四頭筋)、お尻(大殿筋・中殿筋)、ふくらはぎが担います。

ヴィアフェラータで使う筋肉の図解 主役は脚、前腕は足場やワイヤーをつかむ、肩・上腕は体を岩壁に引き寄せる、体幹は手足の力をつなぐ、脚は足場に立ち上がり体を上へ運ぶ、腕だけに頼らずできるだけ脚で体重を支える ヤマカルテ

腕のおもな役割は、体を岩壁に引き寄せて、倒れないように支えることです。急な岩壁や足場の遠い場所では、腕も体を引き上げる力を出します。それでも、できるだけ脚で体重を支え、腕だけに頼らないのが基本です。体幹は、その手足の力を体の中心でつなぎます。

部位主な役割疲れたときのサイン
脚(太もも・お尻・ふくらはぎ)足場の上に立ち上がり、体を上へ運ぶ足場に乗るたびに膝が震える
体幹(お腹・背中)手足の力をつなぎ、体を岩壁に沿わせる腰が岩から離れ、体が反り返る
前腕(指を曲げる筋肉)鉄の足場やワイヤー、岩をつかむ前腕が張って、握る力が入らない
上腕・肩(肩甲骨のまわり)体を壁に引き寄せ、腕の位置を安定させる腕を曲げたまま、肩がすくむ

クライミングの生理学をまとめた総説では、クライミングは握った姿勢を保つときのように、筋肉の長さをほぼ変えずに力を出す動き(等尺性収縮)のくり返しが特徴で、前腕がその反復に耐えられることが重要だとされています。ルートが難しくなるほど、腕や肩への要求も大きくなります[1]。

ヴィアフェラータそのものの筋肉の使われ方を測った研究は、調べた範囲では見つかりませんでした。ここで紹介する研究は、主にスポーツクライミングを対象にしたものです。ヴィアフェラータは足場があるぶん、クライミングより脚で立てる場面が多くなります。そのぶん、腕に頼る登り方をしているかどうかで、上半身の疲れ方が大きく変わります。

前腕が先に疲れるのは、握り続ける動きのくり返しだから

前腕が先に張って握りにくくなるのは、鉄の足場やワイヤーを握り、その姿勢を保つ動きを何度もくり返すからです。強く握り続けている間は、力を入れた筋肉が中を通る血管を押し、前腕に酸素を運ぶ血液が届きにくくなります。これが、疲れの一因になると考えられています。疲れの原因はひとつではありませんが、握りっぱなしの時間が長いほど、前腕は休めません。

中級のクライマー10人に、決められたルートを30分間くり返し登ってもらった研究では、握力は利き手で22%、反対の手で23%低下しました。同時に、前腕の太さは4.5%と4.4%増え、太くなるほど握力が落ちていました[2]。「前腕が張って握りにくい」状態を、数字で示した結果です。ただし、この研究は前腕の太さと握力の関係を見たもので、血の流れが原因かどうかまでは確かめていません。

一方で、短く力を抜く時間があると、前腕は回復しやすくなります。エリートクライマー12人と、クライミングをしていない12人を比べた研究では、10秒握って3秒休むくり返しで、クライマーのほうが長く続けられました。クライマーは、3秒の休みの間に、前腕の酸素の状態が速く回復していました[3]。

前腕が先に疲れる理由と握りしめない4つのコツの図解 握り続ける動きのくり返しで握力が約22〜23%低下、安定した足場では手をゆるめる、腕を伸ばして体を支える、鉄の足場は指を深く引っかける、両足が乗った場所で片手ずつ休ませる、急な岩壁や小さな足場ではしっかり握ったままでよい ヤマカルテ

前腕の疲れは、ヴィアフェラータでは安全の問題にもつながります。オーストリアで10年間に起きたヴィアフェラータの緊急事例1,684人を調べた研究では、事例の多くが、疲れ切ったり自分の力量を見誤ったりして、その場から動けなくなったことによるものでした。半数以上は、けがのないまま救助されています[4]。握れなくなる前に、引き返すか、エスケープを使う判断が要ります。

肩と肘を痛めやすいのは、腕で体を引き上げ続けるとき

肩と肘に負担がかかりやすいのは、脚で立たずに、腕の力で体を引き上げ続けるときです。足場が遠いところで腕を曲げたまま体を持ち上げたり、肩をすくめて体を寄せ続けたりすると、肩と肘の筋肉や腱に負担が集中します。

クライミングでは、上半身のけがが多いことが分かっています。レクリエーションのクライマー237人、432件のけがを調べた研究では、けがのうち手・肘が41.9%、肩が17.3%を占めていました[5]。4,000人を超えるクライマーを含む7つの研究をまとめた報告でも、大人では急なけがより、使いすぎによるけが(とくに指と肩)が多いとされています[6]。肘では、内側の骨の出っぱり(内側上顆)につく腱の障害が多いと報告されています[7]。

これらはクライミングの研究で、ヴィアフェラータでの発生率ではありません。ただ、腕に頼って登るほど、クライミングと同じ使い方に近づくと考えてください。

肩と肘を守るために、次の動きを減らします。

  • 腕を曲げたまま、体を引き上げ続ける:近い足場を選んで小刻みに立ち上がり、脚で立ってから手を次へ動かす
  • 肩をすくめたまま登る:首と肩に力が入り続ける。ときどき肩を下ろして、息を吐く
  • 遠い足場や手がかりへ、体をひねって手を伸ばす:届かないときは、足を1段上げてから手を伸ばす

肩・肘を痛めやすい3つの動きと代わりの動きの図解 腕を曲げたまま体を引き上げ続けるより近い足場で小刻みに立ち上がる、肩をすくめたまま登るよりときどき肩を下ろして息を吐く、体をひねって遠くへ手を伸ばすより足を1段上げてから手を伸ばす ヤマカルテ

ヴィアフェラータ前の準備運動は、脚のメニューに肩と手首を足す

ヴィアフェラータの前の準備運動は、脚を温めるいつものメニューに、肩と手首の動きを足すのがおすすめです。

私が登山口でやっているのは、股関節回し・レッグスイング・浅いランジ・足首回しの4種目です(内容は登山前後のストレッチにまとめています)。ヴィアフェラータの日も、この4種目で歩き始めています。ただ、私はふだんからボルダリングをしていて、腕を使う動きに慣れていました。腕を使う岩場に慣れていない人は、次の動きを足してください。

  • 肩回し:両肩を大きく前から後ろへ回す。10回
  • 肩甲骨を寄せる:両肘を軽く曲げ、胸を張って肩甲骨を背中の中央へ寄せて戻す。10回
  • 手首回しと、指の曲げ伸ばし:手首をゆっくり回し、指をぎゅっと握って大きく開く。各10回
  • 最初の岩場は、易しいところでゆっくり:準備運動の続きのつもりで、腕に力を入れすぎない

ヴィアフェラータ前の準備運動の図解 いつもの脚のメニュー(股関節回し・レッグスイング・浅いランジ・足首回しを各10回、合わせて2〜3分)に、肩回し・肩甲骨を寄せる・手首回しと指の曲げ伸ばし・最初の岩場は易しいところでゆっくりを足す ヤマカルテ

上のメニューそのものを確かめた研究ではありませんが、準備運動に関する別の研究があります。レクリエーションのクライマー22人に、10分間の準備運動を3種類(動的ストレッチ、振動するローラー、クライミング用の準備運動)試してもらった研究では、どの方法でも、肩の動く範囲と、腕で体を支えるバランスが向上しました。ただし、指を曲げる筋力は増えませんでした[8]。

一方で、成人クライマーの使いすぎのけがについて34の研究をまとめた報告では、準備運動・クールダウン・ストレッチは、けがのリスクとの関連が認められませんでした。筋力トレーニングについては、ある介入で肩と肘のけがを防いだという報告がありました[9]。準備運動は体を動きやすくするためのもので、けがを防ぐ保証ではありません。けがの予防には、腕に頼らない登り方、無理のない量にとどめること、ふだんからの筋力づくりも大切です。

ボルダリングがどこまで岩場の練習になるかは、ボルダリングは登山に役立つ?にまとめています。

登っている途中は、前腕に力を抜く時間をつくる

登っている途中のケアの基本は、前腕を休ませる時間をこまめにつくることです。

前腕が疲れたあとの休み方を比べた研究では、指を曲げる筋肉を疲れ切るまで使う課題を、22分の休憩を挟んでくり返しました。休憩中に歩いたほうが、ぶら下がったり登り続けたりするより、次の課題で発揮できた力の総量(力×時間)が保たれました。1回目から3回目にかけての減り方は、歩いた場合が18.4%、登り続けた場合が29.5%、ぶら下がった場合が27.2%でした[10]。岩場での短い休憩を直接確かめた研究ではありませんが、疲れた前腕を使ったままの「休憩」は、休憩になりにくいと考えられます。

ヴィアフェラータで実践するなら、次のようになります。

  • 休むときは、足場やテラス(平らな場所)で両足に立ち、腕を下ろす。ワイヤーをつかんだままぶら下がって休まない
  • 順番待ちのときも、握りっぱなしにしない。大人数のヴィアフェラータでは待ち時間が長くなる。立てる場所で待ち、手の力を抜く
  • 前腕が張ってきたら、次の岩場の前で区切る。樹林帯から巻けるルートなら、無理に次の岩壁へ取りつかない

ヴィアフェラータの途中の休み方の図解 ワイヤーをつかんだままぶら下がって休むのは休憩になりにくい、平らな場所で両足で立ち腕を下ろして休む、22分の休憩を挟んだ実験で歩いて休んだほうが力の総量が保たれた ヤマカルテ

ヴィアフェラータ後の疲労回復は、休んで、食べて、翌日の予定は体を見て決める

登ったあとのケアは、体を休め、タンパク質を含む食事をとり、翌日の予定は体の様子を見てから決めることです。

私自身は、ヴィアフェラータのあとは温泉でしっかり温まり、タンパク質を十分にとるようにしています。温泉は私の習慣で、入浴で前腕の回復が早まるかを確かめた研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。4回登って、腕にも肩にも気になることは何も出ていません。ふだんからボルダリングで腕を使うことに慣れていたからだと思っていますが、これは私の実感で、ケアやボルダリングの効果を確かめたものではありません。御在所岳でヴィアフェラータを歩いた翌日に、鈴鹿の竜ヶ岳を歩いたこともあります。

ただし、これは私の体の話です。腕を使う岩場に慣れていない人ほど、翌日に前腕や肩の筋肉痛が出やすくなります。

  • 食事は、タンパク質を毎食に:ボルダリングの栄養をまとめた総説では、筋肉の回復のために、体重1kgあたり0.25〜0.3gのタンパク質を3〜4時間おきにとる方法が紹介されています[11]。体重60kgなら1回15〜18gほどです。1日の量の目安は登山のタンパク質は1日何g?にまとめています
  • 翌日は、握力が戻っても疲れは残っていることがある:ボルダリングの全国大会に出たエリートクライマーを調べた研究では、握力は24時間後の測定で大会前の値へ戻りました。一方で、疲れた感覚が大会前の水準に戻ったのは48時間後、「また登れる」という感覚が戻ったのは60時間後の測定でした[12]
  • 筋肉痛が出たときの過ごし方は、登山翌日の筋肉痛、最短で楽にする方法にまとめています

ヴィアフェラータ後の疲労回復の図解 体を休める、タンパク質を体重1kgあたり0.25〜0.3gを3〜4時間おき、翌日の予定は体を見て決める、大会後の測定で握力は24時間後、疲れた感覚は48時間後、また登れる感覚は60時間後に戻った ヤマカルテ

ヴィアフェラータの装備(ヘルメットとハーネス)の選び方は登山ヘルメットとハーネスの選び方に、私が御在所岳で登った記録は御在所岳ヴィアフェラータに書いています。

まとめ:ヴィアフェラータは、脚で登り、腕は握りしめない

  • ヴィアフェラータで体を上へ運ぶ主役は脚と体幹。腕は、体を岩壁に引き寄せて支える役
  • 前腕が先に疲れるのは、握り続ける動きをくり返すから。強く握り続けると血が通いにくくなることも、疲れの一因になる。30分の登りで握力が2割ほど落ちた研究もある
  • 前腕を守るには、安定した足場では手をゆるめ、腕を伸ばして支え、片手ずつ休ませる
  • 肩と肘を痛めやすいのは、腕で体を引き上げ続けるとき。足を先に上げてから手を伸ばす
  • 準備運動は、脚の動きに肩と手首を足す。ただし、けがを防ぐ保証ではない
  • 休むときは両足で立って腕を下ろす。ぶら下がったままの休憩は、休憩になりにくい
  • 登ったあとは、体を休め、タンパク質をとり、翌日の予定は体を見て決める。握力が戻っても、疲れが抜けたとは限らない

脚で登り、腕は握りしめない。次の岩場では、安定した足場に両足で立てたら、手の力をゆるめることから試してみてください。

参考文献

  1. Giles et al., 2006. The physiology of rock climbing. Sports Medicine.
  2. Macdonald et al., 2022. Acute Handgrip Fatigue and Forearm Girth in Recreational Sport Rock Climbers. International Journal of Exercise Science.
  3. Philippe et al., 2012. Climbing-specific finger flexor performance and forearm muscle oxygenation in elite male and female sport climbers. European Journal of Applied Physiology.
  4. Ströhle et al., 2019. Mortality in Via Ferrata Emergencies in Austria from 2008 to 2018. International Journal of Environmental Research and Public Health.
  5. Lum et al., 2019. Rock climbing injuries and time to return to sport in the recreational climber. Journal of Orthopaedics.
  6. Zieliński et al., 2025. Epidemiology of Musculoskeletal Injuries Among Climbers: A Systematic Review. Journal of Functional Morphology and Kinesiology.
  7. Leung et al., 2023. A Guide to Indoor Rock Climbing Injuries. Current Sports Medicine Reports.
  8. Han et al., 2025. Comparing The Effectiveness of 10-Minute Dynamic Stretching, Vibration Rolling, and Climbing-Specific Warm-Ups on Exercise Performances in Rock Climbers. Journal of Sports Science and Medicine.
  9. Quarmby et al., 2023. Risk factors and injury prevention strategies for overuse injuries in adult climbers: a systematic review. Frontiers in Sports and Active Living.
  10. Krupková et al., 2024. Optimizing active recovery strategies for finger flexor fatigue. Frontiers in Sports and Active Living.
  11. Smith et al., 2017. Nutritional Considerations for Bouldering. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism.
  12. Gáspari et al., 2024. Recovery markers in elite climbers after the national boulder climbing championship. Frontiers in Sports and Active Living.