快晴の燕岳から望むイルカ岩と雪の槍ヶ岳 初冬のテント泊で出会った燕ブルー ヤマカルテ

「グリーンシーズンが終わっても、北アルプスのあの稜線に立ちたい」 「雪をまとった山を、テント場から独り占めしてみたい」

そんな憧れを叶えに、初冬の燕岳へテント泊で出かけた記録です。

私はこれまで燕岳に2度登り、いずれも一面のガスで、北アルプスの女王の姿を拝めずじまいでした(その日帰り編は燕岳に初心者と日帰り登山にまとめています)。今回は3度目の正直。願いを込めて登った先で待っていたのは、雲ひとつない燕ブルーの空でした。

私は理学療法士(PT)として臨床経験10年以上、山は146座を歩いてきました。本記事は、2020年11月の初冬テント泊1泊2日の物語を、絶景とともにお届けします。あわせて、初冬のテント泊で気をつけたいこともPTの視点で添えました。

どんな山?初冬の燕岳という「特別な季節」

燕岳は標高2,763m、「北アルプスの女王」と称される優美な名峰です。山そのものの魅力(白い花崗岩の山容・奇岩・コマクサ・雷鳥・合戦尾根)は日帰り編で詳しく紹介しているので、ここでは初冬ならではの顔にしぼってお伝えします。

11月中旬の燕岳は、合戦小屋から上は雪。空気は澄みきり、夏には霞む槍ヶ岳や立山がくっきりと見えます。人が少なく、雪をまとった稜線を静かに味わえるのがこの季節の何よりの贅沢です。

体への負担という点では、初冬は夏の比ではありません。防寒装備でザックが一気に重くなり、雪の斜面ではアイゼンやチェーンスパイクでの歩行、凍った鎖場の通過も加わります。「入門の名峰」とはいえ、初冬は雪山の経験と装備が前提になる、と最初にお伝えしておきます。

それでも私がこの季節の燕岳に惹かれるのは——澄んだ空気とどこまでも青い「燕ブルー」、雲海に昇るご来光、朝日に赤く染まる槍ヶ岳、そして雪のテント場で過ごす静かな夜。この記事で紹介する写真が、その理由を一番よく語ってくれると思います。

コース概要(初冬テント泊データ)

項目データ
登山日2020年11月14〜15日(1泊2日)
ルート中房温泉・燕岳登山口 → 合戦尾根 → 燕山荘(テント泊)→ 燕岳(往復)
距離・標高差合戦尾根は日帰り編と同じ(約10.5km/のぼり約1,425m)
形態テント泊(燕山荘テント場)
雪の状況合戦小屋から上は雪。チェーンスパイク携行(この日は終始ツボ足で通過可能なレベル)。年・日により大きく変わるため、最新情報を必ず確認

ルート自体は日帰り編と同じ合戦尾根ですが、テント泊装備で重くなったザック雪・寒さが加わるぶん、体感の負担は一段上がります。

物語|3度目の正直、初冬の燕岳へ

奇跡的に取れたテント場

初冬の北アルプスに泊まれる山は限られます。林道閉鎖や小屋締めで候補がどんどん減るなか、燕山荘が11月中旬まで営業していると知りました。小屋泊は満員でしたが、運よくテント場の予約が取れたので、泊まりで挑むことに。あとで隣のテントの方に聞くと「2日前まで満杯だった」とのこと。どうやらキャンセルの隙間を引き当てていたようです。

自分史上最重量のザックで登山開始

大型ザックを背負って燕岳の合戦尾根を登り始める登山者 初冬のテント泊装備

防寒着に山頂を楽しむための道具まで詰め込み、ザックは量っていないけれど自分史上最重量に。一歩ずつ、合戦尾根を登っていきます。

初冬の合戦小屋 雪が積もり始めた燕岳合戦尾根

合戦小屋を過ぎると、道は徐々に雪へ。日本とは思えないようなパウダースノーを踏みしめて進みます。凍った鎖場はなかなかスリリングでしたが、硬いソールの登山靴で慎重に通過できる範囲で、チェーンスパイクは結局使わずじまいでした(あくまでこの日の状態です)。

富士見ベンチからの大展望

富士見ベンチから望む雲海に浮かぶ富士山と八ヶ岳 初冬の燕岳

富士見ベンチまで来ると、雲海に浮かぶ八ヶ岳、南アルプス、そして富士山がはっきりと。夏は霞みがちなこの展望が、澄んだ初冬の空気でくっきり見えるのです。

衣替え途中の雷鳥

冬毛に換わりかけたツートンカラーの雷鳥 初冬の燕岳

山頂手前で、同行者が大発見。ハイマツの蔭に、冬毛へ衣替え途中のツートンカラーの雷鳥がいたのです。快晴の日に出会えるとは思っておらず、本当にラッキー。望遠レンズに切り替えて、しばらくシャッターを切り続けました。

ついに、女王の姿

夕日に染まる燕岳の白い花崗岩の稜線 北アルプスの女王

そして稜線へ。過去2回はガスの中だった燕岳が、3度目にしてついに、白い花崗岩の優美な姿を見せてくれました。北アルプスの女王とは、よく言ったものです。

燕山荘とテント場

燕山荘とカラフルなテントが並ぶ初冬の燕岳テント場

重いザックでへとへとになりながら、燕山荘に到着。本当は暖かい小屋に泊まりたかったけれど、今回はテント泊を楽しみます。稜線にカラフルなテントが並ぶ光景は、それだけで気分が上がります。

夕暮れの稜線で

テント場で金麦を手に乾杯 夕暮れの燕岳稜線

テントを張り終えたら、まずは一杯。夕暮れの稜線を眺めながらの乾杯は、テント泊の特権です。

燕岳の稜線に作った小さな雪だるま 初冬のテント泊

足元の雪で、つい小さな雪だるまも作ってしまいました。

日没後のトワイライトに浮かぶ槍ヶ岳のシルエット 初冬の燕岳

日が沈み、空がゆっくりと藍色へ。槍ヶ岳のシルエットが、トワイライトに静かに浮かびます。

雪のテント場の夜

テント内で作る鍋と岐阜の地酒の熱燗 初冬の燕岳テント泊

冷えた体には、温かい鍋。地元・岐阜の地酒を湯せんで燗にして、「岐阜の地酒で乾杯」のお猪口でいただく——これ以上ない贅沢な時間です。

夜に灯りがともる燕岳テント場のテント群

外に出ると、テントの灯りがぽつぽつと暖かく光っていました。

満天の星空と灯りのともる燕山荘 初冬の夜

そして、燕山荘の上には満天の星。空気が澄む初冬ならではの、息をのむ夜空でした。

夜明け、燕ブルーの一日へ

雲海と富士山の上に昇るご来光 初冬の燕岳から望む朝日

翌朝。雲海の彼方、富士山の隣からご来光が昇ります。

モルゲンロートで赤く染まる槍ヶ岳 初冬の燕岳から

朝日を受けて、槍ヶ岳が赤く染まるモルゲンロート。雪をまとった穂先が燃えるように輝く、この旅一番の瞬間でした。

燕山荘の幕営手形と自分のテント 初冬の燕岳テント泊

朝日に照らされた、相棒のテントと燕山荘の幕営手形。寒い夜を越えた達成感がありました。

燕ブルーの稜線へ

燕岳のメガネ岩と雪をまとった槍ヶ岳 快晴の燕ブルー

雲ひとつない快晴。メガネ岩の向こうに、雪の槍ヶ岳。アイキャッチの「イルカ岩越しの槍」も、青いレンズのメガネ岩も、3度目にして初めての対面です。

快晴の燕岳山頂標 標高2763m 初冬の北アルプス

そして燕岳山頂へ。360度の大パノラマ。初冬の北アルプスは、白く染まったピークが連なって本当に美しい。立山の方角には、9月に訪れた雄山神社まで見渡せました。

岩の上に立ち雪の北アルプスを望む登山者の後ろ姿 燕岳

何度見ても飽きない、北アルプスのシンボル・槍ヶ岳。やっぱり特別な存在です。

名残を惜しんで下山

山頂の絶景を存分に味わい、燕山荘へ戻ります。

燕山荘名物のケーキとコーヒー 燕岳テント泊の楽しみ

下山前に、燕山荘名物のケーキとコーヒーで締めくくり。テント泊の疲れも、この一杯で報われます。

青空にそびえる燕岳のゴリラ岩 花崗岩の奇岩

名残を惜しみながら、燕山荘の裏手にそびえるゴリラ岩に見送られて、雪の道を下り始めました。

PT視点|初冬の燕岳テント泊で気をつけたいこと

最高の絶景の裏で、初冬の燕岳は夏とは別物の厳しさを持っています。PTとして、特に意識したい3点を挙げます。

  • 重いザックは「腰で背負う」:テント泊+防寒装備でザックは重くなります。肩だけで背負うと首・肩・腰を痛めるもと。腰ベルトで骨盤に荷重を乗せ、こまめに休みましょう。私は今回、鍋セットとお酒をたくさん担いでいたので余計に重かったです(笑)。
  • 雪と寒さへの備えは必須:合戦尾根上部は雪・氷。チェーンスパイクやアイゼン、ピッケルの要否はその年の状況次第です。凍結した鎖場や急斜面では滑落のリスクがあり、雪上歩行の経験と装備が前提になります。
  • 低体温と高所:標高2,700m超+初冬の冷え込み。行動中の汗冷え・停滞時の冷えに注意し、防寒・行動食・水分をしっかり。高所の影響も油断せず、高山病を防ぐ方法もあわせてどうぞ。

雪上歩行や冬の装備に不安があるなら、まずは夏の日帰りで燕岳に親しむのが安心です。その入門編は燕岳に初心者と日帰り登山にまとめています。

まとめ|3度目の正直で出会えた、初冬の燕ブルー

  • 初冬の燕岳は、澄んだ空気の「燕ブルー」・雲海のご来光・槍のモルゲンロート・満天の星が待つ特別な季節
  • ただし合戦尾根上部は雪と氷。雪山の装備と経験が前提で、軽装で踏み込む山ではない
  • テント泊なら、夕暮れ・星空・朝焼けまで稜線の時間を丸ごと味わえるのが最大のごほうび
  • 雪に不安があるなら、まずは夏の日帰り編から

2度ふられても、3度目にこんな景色で迎えてくれる。山は、何度でも会いに行く価値がある——そう教えてくれた、忘れられない一夜でした。