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「トレッキングポールを買おう」と思って検索したら、I型・T型・カーボン・アルミ・折りたたみ・伸縮・アンチショック……と分岐が多すぎて、結局ページを閉じてしまった。そんな経験はありませんか。
結論から言うと、登山で使うなら「I型・2本・レバーロック」が出発点です。そこから先の分岐(折りたたみか伸縮か、カーボンかアルミか)は、あなたがどんな山に、どれくらいの頻度で行くかで決まります。値段や重さでは決まりません。
私は理学療法士(PT)として10年以上、臨床で杖や歩行器の「選定」と「合わせ方」を仕事にしてきました。杖を選ぶときに見るのは、グリップの形、手首の角度、体重をどこで受けるか。登山のポールも見るところは同じです。登頂140座以上・テント泊27泊のあいだに、伸縮式のロックが緩んで突くたびに縮んだことも、沢沿いで落としたポールを踏んで曲げたこともあります。
この記事では、迷う分岐を順番に1つずつ潰していきます。読み終えるころには、店頭やネットで「これ」と指せる1本が決まっているはずです。ポールを買ったあとの長さ合わせ・ストラップ・突き方は、別記事のトレッキングポールの正しい使い方にまとめてあります。
先に結論の1本を置いておきます。私が長く使っている、この記事の「初めての1本」の条件をそのまま満たすモデルです。選んだ理由は第9章で。
1. I型かT型か——登山ならI型。T型は「杖」の仲間
登山で使うポールは、グリップが縦に伸びたI型を選びます。グリップの上部が横に張り出したT型は、体重を真上から手のひらで受ける「杖」の形で、平らな道をゆっくり歩く人や、片手で1本だけ使う人に向いた作りです。

T型は「手のひらで押す」、I型は「握って、ストラップに預ける」
臨床で患者さんが使う杖は、ほとんどがT型です。手のひらの付け根(手根部)を横に張り出したグリップに乗せ、腕を伸ばしたまま真下に押す。握力が弱くても体重を預けられるので、高齢の方や術後の方にはこの形が合います。
ただし、このとき手首は反った状態(背屈)で固定されます。前腕から手のひらへ、体重がまっすぐ抜ける形です。平地を一定のリズムで歩くぶんには理にかなっていますが、登山の下りのように「前方斜め下へ突いて、手前に引きながら体重を受ける」動きには向きません。手首を反らせたまま斜めの力を受けると、手首をひねる方向に力がかかります。これは登山ポールを直接調べた研究ではなく、杖の指導を続けてきた臨床での見立てです。
I型は逆で、グリップを縦に握り、手首はほぼまっすぐ。体重は握った手ではなく、ストラップを通した手のひらの付け根で受けます。手が疲れにくく、突く方向を自由に変えられる。だから登山ではI型です。この「ストラップで受ける」しくみは使い方の記事の第3章で詳しく書きました。
T型が向いている人
T型を否定したいわけではありません。向く人がはっきりしている道具です。
- 舗装路や整備された遊歩道を、1本で歩く人
- 握力が弱く、「握る」より「乗せる」ほうが楽な人
- 膝や股関節の手術後で、医師や理学療法士から杖の使い方を指導されている人
反対に、北アルプスの縦走路や富士山の下りのように、斜めの力を繰り返し受ける不整地では、ストラップに体重を預けられるI型のほうが使いやすいと考えています。「山に行くなら」という前提で、この記事はここから先、I型を中心に進めます。
2. 1本か2本か——2本が基本。1本は「片側を助ける杖」に近づく
トレッキングポールは2本で使うのが基本です。1本だけだと、支えが片側に寄り、歩き方そのものが左右非対称になります。左右均等に支えられる2本のほうが、下りで安定しやすい。

1本の杖は、歩き方を変えてしまう
杖を初めて使う人の歩き方を調べた研究があります。健康な若い人と高齢者を合わせて51人に、慣れていない片手杖を持って歩いてもらったところ、杖なしのときより歩く速さが落ち、1歩ごとの時間のばらつきが増えました。年齢に関係なく、この変化は起きています[2]。別の研究でも、杖を使うと歩幅が短くなり、歩数のリズムが落ち、蹴り出しの力が弱くなると報告されています[3]。
臨床で杖を処方するときは、この「歩き方の変化」を織り込んだうえで、片側の脚を守るために使います。痛い脚と反対の手で杖を持つと、痛い脚で立っているときの股関節にかかる横方向の力が減る、というのも実験で確かめられています[4]。片側だけを守りたい場面には、1本の杖が向いている。
登山で守りたいのは、両方の膝
登山では話が変わります。下りで膝にかかる力は、両脚に同じようにかかる。ポール2本で下ったときに膝の関節にかかる力が12〜25%減った研究[5]も、2本を左右交互に突く条件で測っています。1本と2本を直接比べた登山の研究は見つかりませんでしたが、1本では支えるタイミングが1歩おきになり、両方の膝を同じように助けるのは難しくなります。
もうひとつ、2本のほうが「しまう場面」でも困りません。岩場やハシゴでポールを畳んでザックにつけるとき、1本でも2本でも手間は変わらない。「1本のほうが軽くて楽」という利点は、実際にはほとんど出てきません。
3. 折りたたみか伸縮か——次に買うなら折りたたみ。理由は「縮まない」
折りたたみ式(Z型)と伸縮式(テレスコピック)の違いは、長さ調整の幅と、壊れ方の違いです。私は今、伸縮式のレバーロック式を使っていますが、次に買うなら折りたたみ式にします。理由は、ロックが緩んで突くたびに縮む、という経験をしたからです。
伸縮式:調整幅は広いが、ロックが弱点になる
伸縮式は、3段のシャフトを重ねて収納し、引き出して使います。調整幅が広く(多くは100〜130cm前後)、身長の違う家族で共用することもできる。価格も手ごろです。
弱点は、長さを固定しているのがロック機構だけという点です。私の伸縮式ポールは、数年使ううちにロックの締め付けが弱くなり、下りで体重をかけるたびに少しずつ縮むようになりました。突くたびに数ミリずつ短くなるので、気づくと肘の角度が変わっている。ロックを締め直せば戻りますが、「いま何cmか」を疑いながら下るのは、思った以上に集中力を削られます。
折りたたみ式:長さが固定される代わりに、しまうのが速い
折りたたみ式は、テントのポールのように、内側のコードでつながった3〜4本のシャフトをつなげて使います。長さは製品ごとにほぼ固定で、調整できても上部の10〜20cmほど。その代わり、接続部が緩んで縮むことがありません。
もうひとつの利点が収納の速さです。ボタンひとつでコードを緩め、3つに折って束ねるだけ。使い方の記事の第8章で「ポール選びは重さより畳みやすさ」と書いたのは、この違いです。畳むのが面倒だと、しまうべき岩場でしまわなくなる。ジャンダルムのような岩稜では、取りつく前に収納する判断が欠かせません。
| 伸縮式 | 折りたたみ式 | |
|---|---|---|
| 長さの調整幅 | 広い(約30cm) | 狭い(固定〜約20cm) |
| 収納の速さ | ロックを3か所ゆるめる | ボタン1つで3つ折り |
| 収納時の長さ | 60〜70cm前後 | 35〜40cm前後 |
| 弱点 | ロックの緩み・砂かみ | 内部コードの劣化・交換部品 |
| 向く人 | 家族で共用・長さをよく変える | 岩場が多い・しまう回数が多い |
縦走や岩場が多いなら折りたたみ、家族で共用したり長さをよく変えるなら伸縮。この線引きで決めて構いません。

4. カーボンかアルミか——軽さではなく「壊れ方」で決める
カーボンとアルミの差は、重さよりも壊れ方に出ます。一般に、アルミは曲がりやすく、カーボンは急に折れやすい。この違いを知ったうえで、どちらの壊れ方が自分の山行で困らないかで選びます。

重さの差は、思うほど体力に響かない
カタログを見ると、カーボンは1本200g前後、アルミは250〜300g前後です。「軽いほうが疲れない」と考えたくなりますが、ポールの重さを240g・300g・360gと変えて、11人に20%の登り坂を歩かせた実験では、酸素消費量に差が出ませんでした[6]。市販品の重量差は、ほぼこの範囲に収まります。条件の限られた実験なので言い切りはできませんが、少なくとも登りの体力の面では、100gの差は小さいと考えてよさそうです。振ったときの軽さの好みは、別に残ります。
軽さが意味を持つのは、ザックに入れて持ち運ぶときだけです。稜線で使わずに背負っている時間が長い人ほど、軽さの恩恵は大きい。
アルミは曲がりやすく、カーボンは折れやすい
壊れ方の傾向は違います。材質だけでなく、シャフトの厚みや傷の位置、力のかかり方でも変わるので「必ず」ではありませんが、山で起きやすいのは次の形です。
私は沢沿いの道で足を滑らせ、手放したポールを自分で踏んで曲げたことがあります。アルミ製のそのポールは曲がったまま下山まで使えました。まっすぐには戻りませんが、支えにはなる。アルミの利点はここにあります。
カーボンは、同じ場面で折れることがあります。カーボンは繊維の方向に強く、横からの衝撃や傷には弱い素材です。岩にぶつけて表面に傷が入ると、そこから一気に割れることがあります。「いつ壊れるか分かりにくい」というのは、山では小さくない欠点です。
| アルミ | カーボン | |
|---|---|---|
| 壊れ方の傾向 | 曲がる(応急的に使える) | 折れる・割れる(使えなくなる) |
| 岩との接触 | へこみ・傷がつく | 表面の傷から割れることがある |
| 重さ | やや重い | 軽い |
| 価格 | 手ごろ | 高い |
| 向く人 | 岩場・沢が多い、初めての1本 | 軽さを優先したい、丁寧に扱える |
初めての1本なら、アルミで十分です。壊れ方が穏やかで、価格も抑えられる。「使う場面が分かってきて、2本目でカーボンを検討する」という順番が、失敗が少ないと思います。
5. ロック方式・グリップ・ストラップ——毎日触る部分で、疲れ方が変わる
伸縮式を選ぶならロックはレバー式、グリップはコルクかEVA、ストラップは幅広で手のひらに当たる面がやわらかいものを選びます。カタログの目立たない部分ですが、山で何千回も触るのはここです。

ロック:レバー式が扱いやすい
伸縮式のロックには、ひねって締めるスクリュー式と、レバーを倒して締めるレバー式があります。レバー式のほうが、手袋をしたままでも操作でき、締まっているかどうかが目で分かります。スクリュー式は、砂や泥をかむと締まりにくくなり、寒いと指先で回すのがつらい。
ただし、私のポールが緩んだのはレバー式でした。レバー式でも締め付けは経年で弱くなります。多くの製品はレバーの反対側にある小さなネジで締め付けを調整できるので、「最近、縮む気がする」と思ったら、まずそのネジを4分の1回転ほど締めてみてください。
グリップ:手汗をどう逃がすか
グリップの素材は主に3つです。製品ごとの差も大きいので、あくまで傾向として読んでください。
- コルク:手汗を吸い、使い込むと手の形になじむ。夏の長時間の山行で手がふやけにくい
- EVAフォーム:軽く、やわらかい。汗も吸うが、コルクより早くへたる
- ラバー:汗を吸わず、濡れると滑る。冬用のグローブと合わせるならこれ
夏の登山で選ぶなら、コルクかEVAです。グリップの下に「エクステンショングリップ」と呼ばれる延長部分があるモデルだと、短い登りでポールの長さを変えずに握る位置だけ下げられます。使い方の記事で「細かい起伏は握る位置で調整する」と書いた、その受け皿になる部分です。
ストラップ:転んだとき、手を放せる形か
ストラップは「握る」ためではなく「体重を預ける」ための部品です。幅が広く、手のひらの付け根に当たる面がやわらかいものを選びます。細いストラップは、体重をかけたときに手首に食い込み、長い下りで手が痛くなる原因になります。
もうひとつ見てほしいのが、転んだときにポールを手放せるかです。ノルディックウォーキングの愛好者137人を追った調査では、いちばん多いケガは転倒時に親指のじん帯を痛める「ノルディックウォーキング親指」でした。倒れる最後の瞬間までポールを握っていて、地面に手をついたときにグリップがてこになり、親指が外へ押し広げられて起きます[7]。
ノルディックウォーキング用のポールには、手袋のように手を包む固定型のストラップが多く、手が抜けにくい作りです。登山用の輪の形のストラップでも、正しく通していれば必ず抜けるわけではありません。転びそうになったら、ポールを握り続けない。これが道具の形より先に来る対策です。転ぶときにポールを放すべき理由は、使い方の記事の第3章に書きました。
6. 先端・バスケット・ゴムキャップ——「どこを歩くか」で付け替える
ポールの先端はタングステンカーバイドを主成分とする超硬チップが多く、木道や舗装路ではゴムキャップをかぶせ、雪では大きなバスケットに付け替えます。歩く場所で使い分ける部品なので、買うときに「付属しているか」「交換できるか」を見ておきます。

金属チップ:土・砂・岩の割れ目で刺さる
土の道、砂礫、岩の割れ目では、金属チップがいちばん確実に刺さります。富士山の下りのような火山砂礫の道では、ゴムキャップだと表面を滑るだけで支えになりません。大砂走りの下り方のように、砂に深く突いて減速する場面では金属チップが前提です。
弱点は、平らでかたい岩の上です。金属が岩の表面で滑り、「カチッ」と音を立てて横に逃げることがあります。濡れた岩ではとくに起きやすい。この場面では、ポールに体重を預ける前に「刺さったか」を一度確かめる癖をつけてください。濡れた岩・木道で滑らない歩き方で書いた「足を置いてから体重を移す」と同じ考え方です。
ゴムキャップ:木道・舗装路・登山道の保護
木道や舗装された林道、山小屋の周辺ではゴムキャップをかぶせます。理由は2つ。金属チップは木道を傷め、舗装路では滑る。そして登山道の路肩を掘り返すからです。人気の山では、ポールの先端による植生や路肩の傷みが問題になり、ゴムキャップの着用を呼びかけている山域もあります。ザックの外ポケットに予備を1組入れておくと、なくしても困りません。
バスケット:夏は小さく、雪は大きく
バスケットは、先端が地面に深く刺さりすぎるのを止める円盤です。夏は小さいもので十分。残雪期や雪山では、大きなスノーバスケットに付け替えないと、雪に深く刺さって引き抜くたびに体力を使います。交換の方式や互換性はメーカーと製品ごとに違うので、買うときに確かめておくと安心です。
7. アンチショック(衝撃吸収)は要るか——決め手にしなくていい
アンチショック機能は、買うときの決め手にしなくて大丈夫です。グリップの下にバネを内蔵し、突いたときの衝撃をやわらげる機能ですが、登山者を対象に「アンチショックの有無で手首や肘の負担がどう変わるか」を測った研究は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。

理屈の上では、舗装路のようなかたい地面で、突いたときの衝撃が手首に伝わりにくくなります。一方で登山道は土や砂が多く、地面そのものが衝撃を吸ってくれる。山の中で差が出にくい機能です。
正直に書くと、私が長く使っている LEKI の SPD2 サーモライト DSS にも、この機能(DSS=ダイナミック・サスペンション・システム)が付いています。買ったときは意識しておらず、レバーロック式の定番モデルを選んだらそれが付いていた、というのが実際のところです。突いたときにバネが沈む感覚を意識したことは、一度もありません。悪さもしていないが、これがあるから膝や手首が楽だと感じた場面もない。同じモデルにはこの機能を省いた「SPD2 ソフトライト」があり、価格はそちらのほうが抑えられています。
重さと価格が少し増え、可動部が増えるぶん、壊れる場所も増える。アンチショックの有無で迷ったら、ロック方式や折りたたみのほうを優先して選び、アンチショックは「付いていてもいい」程度に考えておけば十分です。
8. 長さの範囲——「肘90度」になる数字が入っているか
ポールを買うときは、平地でグリップを握って肘がほぼ直角になる長さが、その製品の調整範囲に入っているかを確かめます。目安は身長の0.65倍前後。身長170cmなら110cm前後です。ただしこれは店頭で試すときの出発点で、最終的にはメーカーの適応身長と、実際に握ったときの肘の角度を優先してください。

身長別の目安
| 身長 | 目安の長さ | 選ぶモデルの調整範囲の例 |
|---|---|---|
| 150cm | 95〜100cm | 90〜110cm または 100〜120cm |
| 160cm | 100〜105cm | 100〜120cm |
| 170cm | 110cm前後 | 100〜120cm または 110〜130cm |
| 180cm | 115〜120cm | 110〜130cm |
数字は目安で、厳密に合わせなくても動きはほとんど変わりません。ポールの長さを身長の55%・65%・75%と大きく変えて歩かせた研究で、この3つの間に歩き方の差はほぼ出ませんでした[8]。ただしこの研究は、平地でのノルディックウォーキングを対象にしたものです。登山の登り下りにそのまま当てはまるとは限らないので、「1cm単位で悩まなくてよい」という程度に受け取ってください。目安の長さから上下に10cmほど調整できる範囲があると、登りと下りで困りません。
小柄な人・子どもは「短くできるか」を先に見る
見落としやすいのが下限です。伸縮式でも、縮めて100cm前後までというモデルが多く、身長150cm前後の人や小学生には長すぎることがあります。折りたたみ式は長さがほぼ固定なので、なおさら下限が合わないと使えません。子ども用や、90cm前後まで縮む小柄な人向けのモデルが各社にあるので、身長155cm以下の人は、目安の長さより先に「いちばん短くして何cmか」を見てください。
9. 価格帯と、私が選んだもの
価格は「伸縮アルミ 5,000〜10,000円」「折りたたみアルミ 10,000〜15,000円」「折りたたみカーボン 15,000〜25,000円」の3段です。どの段でも、I型・2本・ストラップ幅広・チップ交換可という基本を満たしていれば、山では困りません。

3段の中で、どこから始めるか
- 初めての1本:伸縮アルミ・レバーロック。壊れ方が穏やかで、家族で共用できる。1シーズン使って「しまう回数が多い」「長さをほとんど変えない」と分かったら、次の段へ
- 岩場や縦走が増えてきた人:折りたたみアルミ。しまう速さが安全に直結する
- 軽さも優先したい人:折りたたみカーボン。岩にぶつけない扱いができるようになってから
私が使っているのはLEKIの伸縮式。次は折りたたみ
私自身は、LEKI の SPD2 サーモライト DSS を長く使ってきました。I型・アルミ・伸縮3段・レバーロック(スピードロック)という、この記事でいう「初めての1本」の条件をそのまま満たしたモデルです。長さ合わせも突き方もこれで覚え、沢で踏んで曲げたのもこのポールで、ロックが緩んで縮むようになったのもこのポールです。それでも不満より信頼のほうが大きい。値段のわりに壊れにくく、レバーの締め直しで今も現役です。
ロックの緩みを経験してからは、次に買うなら折りたたみ式と決めています。候補は同じ LEKI の Makalu FX Carbon AS。折りたたみで収納が速く、上段がカーボン、岩に当たりやすい下段はアルミという組み合わせです。第4章の「曲がる側の素材を、ぶつけやすい場所に」という考え方と合っています。今のポールと同じくアンチショック付きですが、それは決め手ではありません。
ポールは、転倒対策の一部でしかない
最後にひとつ。富士山の下山者を調べた2つの調査では、ポールの使用が転倒リスクの低下と関連していたのは、吉田ルートの一部の条件だけでした。富士宮ルートでは、ポールの有無で転倒リスクは変わらず、登山靴を履いていないことのほうが転倒と強く関連していました[9][10]。
靴、疲れる前の休憩、下山路の下調べ。ポール選びの前に、この3つが先にあります。ポールはそこに足す道具です。持ち物全体の抜けを確かめたいときは、装備チェックリストで山行の種類ごとに確認できます。
まとめ:迷う分岐は、この順番で決める
トレッキングポール選びの分岐を、上から順に決めていくと1本に絞れます。
- I型を選ぶ。T型は真上から押す「杖」の形で、斜めの力を受ける不整地ではストラップに預けられるI型が使いやすい
- 2本で使う。1本だと支えが片側に寄り、歩き方が左右非対称になる。片手をあけたい理由があるときだけ1本
- 折りたたみか伸縮かは、しまう回数で決める。岩場が多いなら折りたたみ。家族で共用・長さをよく変えるなら伸縮
- カーボンかアルミかは、壊れ方で決める。アルミは曲がりやすく、カーボンは折れやすい。初めての1本はアルミで十分。重さの差は思うほど体力に響かない
- ロックはレバー式、グリップはコルクかEVA、ストラップは幅広。転びそうになったら握り続けない
- 先端はゴムキャップとバスケットを付け替える。木道と舗装路はゴム、雪は大きなバスケット
- アンチショックは決め手にしない。登山者での研究は見つからず、付いているポールを長年使っている私も差を感じたことがない
- 長さは身長の0.65倍前後を出発点に、店頭で肘の角度を確かめる。小柄な人と子どもは下限を先に見る
分岐を潰し終えたら、あとは長さを合わせ、ストラップに手を通して、体の近くに突くだけです。その手順はトレッキングポールの正しい使い方に書きました。買った日のうちに読んでおくと、最初の下りから膝が楽になります。
参考文献
- Sala DA, Leva LM, Kummer FJ, Grant AD. 1998. Crutch handle design: effect on palmar loads during ambulation. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation.
- Omana H, Madou E, Divine A, et al. 2021. The Differential Effect of First-Time Single-Point Cane Use between Healthy Young and Older Adults. PM&R.
- Zhang Y, Tao C, Zhang X, Guo J, Fan Y. 2023. Effects of cane use on the kinematic and kinetic of lower-extremity joints in inexperienced users. Journal of Biomechanics.
- Inai T, Takabayashi T, Edama M, Kubo M. 2019. Effect of contralateral cane use on hip moment impulse in the frontal plane during the stance phase. Gait & Posture.
- Schwameder H, Roithner R, Müller E, Niessen W, Raschner C. 1999. Knee joint forces during downhill walking with hiking poles. Journal of Sports Sciences.
- Foissac MJ, Berthollet R, Seux J, Belli A, Millet GY. 2008. Effects of hiking pole inertia on energy and muscular costs during uphill walking. Medicine & Science in Sports & Exercise.
- Knobloch K, Vogt PM. 2006. Nordic pole walking injuries — nordic walking thumb as novel injury entity. Sportverletzung · Sportschaden.
- Russo L, Belli G, Di Blasio A, et al. 2023. The Impact of Nordic Walking Pole Length on Gait Kinematic Parameters. Journal of Functional Morphology and Kinesiology.
- Uno T, Mitsui S, Watanabe M, Takiguchi C, Horiuchi M. 2023. Different Influencing Factors for Risk of Falls Between Men and Women while Descending from Mount Fuji. Wilderness & Environmental Medicine.
- Uno T, Mitsui S, Horiuchi M. 2025. Differences in Influencing Factors for Fall Risks During Descent on Mount Fuji: A Comparison of the Fujinomiya and Yoshida Routes. Wilderness & Environmental Medicine.