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テント泊の夜、寒くて何度も目が覚めた。朝起きたら腰や背中が固まっていて、2日目の登りで脚が重かった。そんな経験から、寝具を見直そうとしていませんか。
先に結論を書きます。テント泊の寝具は「マット+シュラフ+寝るときに着る服」の3点セットで考えます。 そして、先に決めるのはシュラフではなくマットです。シュラフの温度表記は、下にマットを敷き、服を着て寝ることを前提にした数字だからです。
私は理学療法士(PT)として10年以上、患者さんの体を見てきました。登山は140座以上、テント泊は27泊になります。この記事では、寝不足が体力に与える影響の研究と、シュラフの温度表記の国際規格を読み直し、私が実際に使っている組み合わせとあわせて整理しました。
読み終えるころには、自分が泊まる季節と山に合わせて、マット・シュラフ・着るものをどう組み合わせればいいかを決められるようになります。
先に、私が使っているマットと、私のシュラフの後継モデルを紹介します。選んだ理由はこのあと説明します。
テント泊の寝不足は、翌日の脚の持ちを下げる
睡眠が足りない翌日は、運動能力が下がります。 959人分のデータをまとめた研究では、睡眠を6時間以下に削ると、運動能力は平均で7.56%下がっていました[1]。ただし研究ごとのばらつきは大きく、誰でも決まって7%落ちるという意味ではありません。

登山者にとって気になるのは、長く続く運動ほど影響が大きいという点です。持久力を調べた31研究のまとめでは、30分を超える運動のほうが寝不足の影響を強く受けていました[2]。何時間も歩くテント泊の2日目は、この影響を受けやすい条件です。
もう1つ、寝不足のあとは同じ運動でもきつく感じます。45研究をまとめた2025年の報告では、寝不足で持久力が落ちるだけでなく、主観的なきつさも増えていました。持久力の低下は、アスリートではない一般の人でも確認されています[3]。
寝不足が下りの足元にどう出るかは、登山の前泊・車中泊の記事で詳しく書きました。テント泊の寝不足には、標高や風の音、慣れない環境の緊張など、いくつもの原因があります。そのなかで道具で減らせるのが、寒さと、地面の硬さ・冷たさです。
寒い夜の眠りを守るのは、シュラフ単体ではなく寝具全体
寒い環境で眠りを保つには、寝具と服で体温を支えることが欠かせません。 睡眠と温熱環境の研究をまとめた総説では、裸に近い状態の人は寒さで眠りが乱れやすい一方、寝具と服を使える実生活では、寒さで眠りの深さ(睡眠段階)は崩れにくいと整理されています[4]。逆にいえば、寝具がそろっていないと寒さの影響をまともに受けます。

ここで押さえておきたいのが、シュラフの温度表記の前提です。シュラフの国際規格(ISO 23537-1)では、保温の性能を「シュラフ単体」ではなく、シュラフの下のマットと、中の人が着ている服まで含めた断熱として測ると定めています[5]。
古い欧州規格(EN 13537)で試験条件を調べた研究でも、下に敷くマットの断熱は、シュラフの測定結果を左右する条件の1つでした[6]。
試験の条件も細かく決まっています。人の形をした発熱する人形(サーマルマネキン)に長袖・長ズボンと、ひざ下までの靴下を着せ、決まった断熱性能のフォームマットの上に寝かせて測ります[5]。
つまり、カタログの温度は「十分な断熱のマットを敷き、上下の下着と靴下を着て寝たとき」の数字です。マットの断熱が足りなければ、シュラフの表記どおりには温まりません。
登山用マットの選び方は、R値・寝心地・重さの3つで決める
登山用マットは、断熱の強さ(R値)・寝心地・重さと大きさの3つを比べて選びます。 種類は大きく3つです。

| 種類 | しくみ | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|
| クローズドセル | 気泡を閉じ込めた発泡素材。広げるだけ | 穴が開いても使える。設営が速い。安い | かさばる。厚みが出にくく、寝心地は硬め |
| エアー | 空気を入れて膨らませる | 厚くて寝心地がよい。収納が小さい | 穴が開くと使えない。膨らませる手間 |
| 自動膨張式(インフレーター) | 弁を開くと中のウレタンが膨らみ、空気を吸い込む | 寝心地と断熱のバランスがよい | 重めで、収納も大きめ |
R値は「地面へ逃げる熱の止めやすさ」
R値は、マットが体の熱を地面へ逃がさない強さを表す数字で、大きいほど暖かいマットです。 いまは主要メーカーの多くが、米国の共通規格(ASTM F3340)で測っており、メーカーが違っても比べやすくなりました[7]。
R値は、2枚重ねると足し算になります。メーカーの解説では、エアーマットの下にクローズドセルを1枚敷く組み合わせを、寒い時期の定番として勧めています[7]。1枚で冬に対応するマットを買うより、手持ちのマットを重ねるほうが無駄がありません。
寝心地は「硬いほどよい」ではない
寝る面は、硬すぎても柔らかすぎても体に合いにくく、中くらいの硬さがよいとされています。 家庭用マットレスの研究をまとめたレビューでは、中くらいの硬さが快適さ・睡眠の質・背骨の並びにとってよいと結論づけています[8][9]。
これは自宅のマットレスの研究で、登山用マットを比べたものではありません。それでも、薄くて硬い面で寝ると体の出っ張った部分に圧が集まる、という理屈は同じです。
私はショートのクローズドセル1枚で、足元はザックで補う
私のマットは、NEMOのスイッチバック ショート(クローズドセル・R値2.0)です。 長さは約130cmで、重さは約300gです[11]。選んだ理由は、軽さと荷物の小ささでした。
ショートなので、ひざから下はマットからはみ出します。そこで脚は空にしたザックの上に乗せて寝ています。冬はザックの中に脚ごと入れます。ザックが地面との間の断熱材になってくれます。
足元を補うのには理由があります。シュラフの温度表記を人で確かめた実験では、全身の平均皮膚温が保たれていても、足の指は冷えている例が多く見られました[12]。全身が温かくても、足先だけ冷えることがあるわけです。
テント泊27泊を通して、このマットで寒くて眠れなかった、腰が痛くて困ったということはありません。4月の仙丈ヶ岳では、カールの中の仙丈小屋の前あたりで雪の上にテントを張り、このマット1枚で寝ました。夜の気温は思ったより高く、−5℃ほどでした。
ただし、これは私の体と、その日の条件での話です。R値2.0は、マットのなかでは断熱性能が低めです。厳冬期や雪の上で寝るときの、一般的なおすすめにはなりません。 寒がりの人、横向きで寝る人、雪の上で寝る人は、R値の高いマットか2枚重ねを考えてください。
シュラフの温度表記は「快適温度」「下限温度」「極限温度」の3段階で読む
シュラフの温度表記は、国際規格ISO 23537で快適温度・下限温度・極限温度の3つが定められています。 それぞれの意味は次のとおりです[5]。

| 表記 | 規格の定義(要約) | 使い方 |
|---|---|---|
| 快適温度(コンフォート) | 仰向けなど楽な姿勢で寝て、寒さを感じはじめる手前の温度 | 選ぶときの基準はこれ |
| 下限温度(リミット) | 体を丸めた姿勢で、寒さを感じはじめる手前の温度 | 体を丸めて耐える温度。計画の基準にはしない |
| 極限温度(エクストリーム) | 低体温症で健康を害するおそれがある温度 | 命の危険がある目安。使える温度ではない |
シュラフは、泊まる場所の最低気温が「快適温度」を下回らないものを選びます。 下限温度は、体を丸めた姿勢でようやく寒さを感じない温度です。そこを基準にすると、楽な姿勢では寒く、体を丸めて過ごす夜になりかねません。気温の見積もりにも誤差があるので、快適温度にも少し余裕をもたせてください。
泊まるテント場の夜の気温は、ふもとの予報から見当をつけられます。山頂の気温計算ツールに標高を入れると、おおよその気温が出ます。テント場の標高を入れて使ってください。
表記はあくまで「標準的な人」の目安
シュラフの表記温度は、人によっては寒く感じることがあります。 男女10人で4種類のシュラフを試した実験では、表記温度と人の感じ方にずれがあり、全身は温かくても足の指が冷える例が多く見られました[12]。
この実験は古い欧州規格の時代のもので、人数も少なめです。それでも、寒がりの人や疲れて体が冷えやすい日は、表記より余裕をもたせるほうが安全だとわかります。
ダウンか化繊か
軽さと小ささを取るならダウン、濡れへの強さを取るなら化繊です。 ダウンは同じ暖かさなら軽く、小さくたためます。ただし濡れると膨らみが失われ、保温力が落ちます。化繊は濡れても保温力が残りやすい一方、重くかさばります。
最近は、撥水加工をしたダウンを使うシュラフも増えています。テント内の結露や汗の湿気が気になる人は、こうしたシュラフを選ぶのも1つの方法です。
私の組み合わせ|シュラフは2本、季節の差は着るもので調整
私はシュラフを3シーズン用と冬用の2本に分け、季節ごとの差は寝るときに着る服で埋めています。 3シーズン用は、NANGAのUDD BAG 280DXです。快適温度8℃・下限温度4℃の、軽いダウンシュラフです。
280DXは、NANGAの公式通販ではもう扱っていません。UDD BAGのシリーズは、「DRYDRATE BAG(ドライドレイト バッグ)」と名前を変えてリニューアルされました。いちばん軽い310DXは、快適温度8℃・下限温度3℃、ダウン310g・総重量約610gで、280DXとほぼ同じ位置づけのモデルです[13]。310DXそのものを私は使っていませんが、これから同じ使い方をするなら、こちらを選びます。
快適温度8℃では、標高の高いテント場の夜に足りないことがあります。そこで私は、季節に合わせて寝るときに着るものを変えています。秋は上下にダウンを着てシュラフに入ります。シュラフを厚くするより、持っていく防寒着を寝るときにも使うほうが、荷物を増やさずに済みます。行動中の防寒着の選び方は、ミドルレイヤーの選び方にまとめています。
冬用は、NANGAにオーダーしたダウンシュラフです。撥水加工をした770FP(フィルパワー:羽毛の膨らみの大きさ)のダウンを600g入れ、快適温度−4℃・下限温度−11℃相当で作ってもらいました(温度はオーダーのときにNANGAから示された数字です)。4月の仙丈ヶ岳で使ったことがありますが、厳冬期にはまだ使っていません。

寝具以外で翌朝の体を楽にする3つの工夫
枕の高さ、寝る姿勢、足元の冷え対策の3つは、同じ寝具のままでも見直せます。

枕は、スタッフバッグに服を詰めて高さを合わせる
枕は専用品でなくても、高さを合わせられれば十分です。 私はスタッフバッグに衣類を詰めて、高さを調整しています。
枕の研究をまとめたレビューでは、枕の形や素材によって首の痛みや起きたときの症状は変わる一方、睡眠の質そのものへの差ははっきりしませんでした[14]。枕は「よく眠るため」より、首に無理のない高さに合わせるものと考えると選びやすくなります。
横向きで寝るなら、ひざの間に何かを挟む
横向きで寝る人は、ひざの間に畳んだ服などを挟むと、骨盤と腰のねじれを減らせます。 上側の脚が前に倒れ込むと、骨盤が回って腰がねじれた姿勢が一晩続くからです。これは研究で確かめた方法ではなく、臨床で患者さんに勧めている工夫です。
足先が冷えるときは、足元の下とシュラフの足元を見直す
足先が冷えるときは、足の下の断熱と、シュラフの足元の状態の両方を確かめます。 足の下のマットが薄いと、かかとから地面へ熱が逃げます。空いたザックや着替えを足の下に敷くと、地面との間に断熱の層を足せます。
シュラフの足元も確かめてください。足先がシュラフの奥に押しつけられて羽毛がつぶれていたり、結露で湿っていたりすると、そこから冷えます。乾いた靴下に履き替えるのも1つの方法です。
まとめ:寝具はマットから決め、足りない分は着るもので補う
- テント泊の寝不足は、長く歩く2日目の持久力と、きつさの感じ方に響く
- シュラフの温度表記は、マットを敷き、服を着て寝る前提の数字
- マットはR値・寝心地・重さで選ぶ。R値は2枚重ねると足し算になる
- 横向きで寝る人、寒がりの人、雪の上で寝る人は、R値の高いマットか2枚重ねを
- シュラフは、泊まる場所の最低気温が快適温度を下回らないものを選ぶ
- 慣れてきたら、寝るときに着るもので季節の差を調整できる
- 子どものシュラフに、大人の温度表記は当てはまらない
- 枕は高さ、横向きはひざの間、足先は足の下とシュラフの足元から整える
寝具は、テント泊の2日目の体調を左右する道具の1つです。まずは次のテント場の標高から夜の気温を見積もり、手持ちのマットとシュラフ、寝るときに着る服で足りるかを確かめてみてください。足りない分を1つずつ埋めていけば、朝の体の固さや2日目の脚の重さを減らせることがあります。
テント泊の持ち物全体は、登山の装備チェックリストで「テント泊」を選ぶと確認できます。
参考文献
- Craven J, McCartney D, Desbrow B, Sabapathy S, Bellinger P, Roberts L, Irwin C. 2022. Effects of Acute Sleep Loss on Physical Performance: A Systematic and Meta-Analytical Review. Sports Medicine.
- Lopes TR, Pereira HM, Bittencourt LRA, Silva BM. 2023. How much does sleep deprivation impair endurance performance? A systematic review and meta-analysis. European Journal of Sport Science.
- Kong Y, Yu B, Guan G, Wang Y, He H. 2025. Effects of sleep deprivation on sports performance and perceived exertion in athletes and non-athletes: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Physiology.
- Okamoto-Mizuno K, Mizuno K. 2012. Effects of thermal environment on sleep and circadian rhythm. Journal of Physiological Anthropology.
- ISO, 2022. ISO 23537-1:2022 Requirements for sleeping bags — Part 1: Thermal, mass and dimensional requirements for sleeping bags designed for limit temperatures of −20 °C and higher. International Organization for Standardization.
- Kuklane K, Dejke V. 2010. Testing sleeping bags according to EN 13537:2002: details that make the difference. International Journal of Occupational Safety and Ergonomics.
- Therm-a-Rest (Cascade Designs). ASTM Standard R-Value: Rating Sleeping Pad Insulation/Winter Sleeping Pad: How to Choose (2023). Therm-a-Rest公式サイト.
- Caggiari G, Talesa GR, Toro G, Jannelli E, Monteleone G, Puddu L. 2021. What type of mattress should be chosen to avoid back pain and improve sleep quality? Review of the literature. Journal of Orthopaedics and Traumatology.
- Radwan A, Fess P, James D, Murphy J, Myers J, Rooney M, Taylor J, Torii A. 2015. Effect of different mattress designs on promoting sleep quality, pain reduction, and spinal alignment in adults with or without back pain; systematic review of controlled trials. Sleep Health.
- Saini Y, Rai A, Sen S. 2025. Relationship Between Sleep Posture and Low Back Pain: A Systematic Review. Musculoskeletal Care.
- NEMO Equipment. Switchback 製品仕様(R値2.0/ショート:長さ130cm・約300g). NEMO Equipment公式サイト・国内販売店の製品情報.
- Lin LY, Wang F, Kuklane K, Gao C, Holmér I, Zhao M. 2013. A laboratory validation study of comfort and limit temperatures of four sleeping bags defined according to EN 13537 (2002). Applied Ergonomics.
- NANGA. ドライドレイト バッグ 310DX 製品ページ/ずっと使ってきたUDD BAG、今回どこが変わったの?(NANGA SHOP MEGURO BLOG). NANGA公式オンラインショップ.
- Chun-Yiu JP, Man-Ha ST, Chak-Lun AF. 2021. The effects of pillow designs on neck pain, waking symptoms, neck disability, sleep quality and spinal alignment in adults: A systematic review and meta-analysis. Clinical Biomechanics.