「御嶽山に登ってみたいけれど、黒沢口はどんなルート?」 「噴火があった山に登って大丈夫なのか、山頂は今どうなっているのか?」
2014年9月27日の噴火から、まもなく12年。御嶽山が気になりつつも、噴火の記憶があって一歩を踏み出せずにいる方もいるのではないでしょうか。
黒沢口はよく整備された登拝道で、中の湯から日帰りで剣ヶ峰を往復できるルートです。鎖場のような難所はありませんが、標高差は約1,300mあり、3,000mの高さに一気に登るので、高山病への配慮と、火山の山としての備えが欠かせません。
この記事では、理学療法士(PT)として体の使い方を見てきた立場と、140座以上を歩いてきた経験から、2019年の山の日に黒沢口から歩いた記録を紹介します。信仰の道の景色、噴火から5年後の剣ヶ峰で見たもの、そして今登るなら出発前に何を確かめればよいか。読み終えるころには、御嶽山へ向かう準備と心構えがそろうはずです。

そもそも御嶽山はどんな山?──火山の景色と、信仰の道
御嶽山(おんたけさん)は、長野県と岐阜県の県境にそびえる標高3,067mの活火山です。
地形・特徴
周りに高い山が連なっていない独立峰で、国内の活火山では富士山に次ぐ高さがあります。3,000mを超える山のなかでは、いちばん西にある山ともいわれます。溶岩が固まった荒々しい岩場、広い賽の河原、一ノ池から五ノ池まで並ぶ大小の火口湖など、火山ならではの地形が山頂一帯に広がります。
もうひとつの顔が、古くからの信仰の山であることです。中世以降は修験者(山で修行する行者)の修行の場とされ、一般の人が自由に登れる山ではありませんでした。江戸時代の中ごろ、覚明(かくめい)行者が黒沢口を、普寛(ふかん)行者が王滝口を開き、ようやく一般の人も登拝できるようになります。ここから御嶽信仰は全国へ広まったといわれています。今回歩いた黒沢口を含む山の南東側には、信者を祀る霊神碑(れいじんひ)が数えきれないほど立っています。
PT視点:体の負担
- 3,000mの高所:中の湯(標高約1,800m)から、約1,300mを一気に登ります。日帰りでは体が高さに慣れる時間がありません。急ぐほど息が上がり、頭痛などの高山病のサインも出やすくなります(防ぎ方は富士山の高山病を防ぐ方法にまとめています)
- 後半の急登:8合目の女人堂から上は、森林限界を抜けた岩混じりの急な登りです。足元は大きな段差が続くので、太ももの前(大腿四頭筋)とお尻の筋肉が主役になります
- 日差しと風をさえぎるものがない:森林限界から上は日陰がほとんどありません。晴れた夏の日は、暑さと日焼けで体力を削られます
個人的に惹かれるところ
御嶽山のいちばんの魅力は、独立峰の活火山として、富士山と同じように火山らしい光景が広がることです。しかも富士山と違って観光客はほとんどいません。すれ違うのは登山者だけで、山頂一帯はとても静かです。
遠くから眺める姿も好きです。形がよく、山頂から噴煙が湧き上がる様子にも惹きつけられます。とくに小秀山(こひでやま)から見る御嶽山が気に入っています。小秀山の山行記録も、いずれ書くつもりです。
火口湖など、ほかにも見どころはたくさんあります。ただ今回のルートでは通らないので、別の機会に回します(濁河(にごりご)側から登ったときの記録も、いずれ記事にする予定です)。この記事で取り上げるのは、黒沢口の登山道に色濃く残る山岳信仰と、剣ヶ峰で目にした2014年の噴火の爪あとです。
コースとプラン|中の湯から黒沢口ルートを日帰り往復
今回は、中の湯の駐車場から黒沢口ルートで剣ヶ峰を往復する日帰りのプランです。まずは基本データを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 山・標高 | 御嶽山 剣ヶ峰 3,067m(日本百名山・活火山) |
| エリア/起点 | 長野県木曽町/中の湯登山口(黒沢口・標高約1,800m) |
| 標高差 | 約1,300m(中の湯〜剣ヶ峰) |
| 標準コースタイム | 登り約4時間・下り約2時間40分(目安) |
| 今回の行程 | 日帰り(前夜に中の湯の駐車場で車中泊) |
| 山小屋 | 7合目 行場山荘/8合目 女人堂/9合目 石室山荘 ほか |
| 核心部 | 女人堂から上の、森林限界を抜けた急登 |
| アクセス注意 | 山頂付近は立ち入りできる期間が決まっている(後述) |
2019年の山の日を含む三連休、せっかくなので山へ行こうと行き先を考えていました。そのとき、2014年の噴火から5年がたち、山頂の一部で立ち入り規制が解除されていると聞いたのが決め手です。剣ヶ峰への立ち入りは前年の秋に初めて期間限定で解除され、2019年も夏から黒沢口で剣ヶ峰まで登れるようになっていました。当時、剣ヶ峰までたどり着けるルートは限られていて、そのひとつが黒沢口でした。おんたけロープウェイは使わず、乗り場より少し上から歩き出せる中の湯の駐車場から往復することにしました。
実際に歩いた行程は以下の通りです。
| 時刻 | 地点 |
|---|---|
| 5:30 | 中の湯駐車場 出発 |
| 6:10 | 7合目 行場山荘 |
| 7:00 | 8合目 女人堂 |
| 8:00 | 9合目 石室山荘 |
| 8:45 | 剣ヶ峰(御嶽山山頂) |
| 9:30ごろ | 剣ヶ峰を出発 |
| 10:00ごろ | 山頂付近を離れて下山開始 |
| 12:00 | 中の湯駐車場 着 |
登山道はよく整備されていて、技術的に難しい岩場や鎖場はありません。体力の目安は、標高差約1,300mを日帰りで往復できることです。そのうえで、当日の天候と体調、火山の情報と立ち入り規制を確かめてから出かけてください。3,000m峰が初めての人は、高山病のサインに気を配りながら、ゆっくり登りましょう。
山頂まで|樹林帯から霊神碑の並ぶ尾根へ
金曜の仕事を終えて、夜のうちに自宅を出発し、御嶽山の麓にある中の湯の駐車場を目指しました。着いてみると、あたりは真っ暗。見上げると、星空が一面に広がっていました。
その夜は車中泊し、翌朝5時30分に歩き出します。中の湯は登山口そのものが駐車場なので、起きてすぐ歩き出せます(前泊地による違いは登山の前泊・車中泊に書きました)。

天気は快晴。青空の下、気持ちよく樹林帯へ入りました。登山道はよく整備されていて、とても歩きやすい道です。
40分ほどで、7合目の最初の小屋、行場山荘に着きました。

ちなみに、おんたけロープウェイを使えば標高2,150mの飯森高原駅まで一気に上がれます。そこから少し歩けば、行場山荘の付近で黒沢口の登山道に合流できます。
さらに樹林帯を進みます。途中、大木が大岩に根をまたがらせている場所がありました。岩を抱え込むように伸びる根に、自然の力強さを感じます。

しばらく歩くと樹林帯を抜け、視界が一気に開けました。雲海の向こうに八ヶ岳、中央アルプス越しに南アルプスまで見渡せる大パノラマです。景色を眺めながら少し登ると、すぐに8合目の女人堂に到着しました。

女人堂から上では、圧倒されるほどの数の霊神碑が目に入るようになります。信仰の山を歩いていることを実感する景色です。

視界はさらに広がり、北アルプス方面には笠ヶ岳、乗鞍岳、槍穂高連峰といった主要な山々が見えてきます。
絶景に何度も足を止めながら、後半の急登を越えていきます。9合目の石室山荘を過ぎると、山頂はもうすぐでした。

急登といっても、段差が大きいだけで道は明瞭です。この日の私は脚にも膝にも何も出ず、翌日以降も普段どおりでした。
剣ヶ峰と2014年の噴火|5年後の山頂で見たもの
剣ヶ峰へは、霊山らしく鳥居をくぐり、階段を登っていきます。山頂には御嶽神社の奥社があり、真新しいきれいな社が建っていました。

火山がつくった景色
剣ヶ峰からの眺めは見事でした。目の前には広大な一ノ池。荒々しい溶岩と旧火口、そして賽の河原まで見渡せます。火山だからこそ生まれた景色に、しばらく見とれていました。

北アルプスが近いので、槍穂高連峰もよく見えます。乗鞍岳の向こう、青空に浮かぶ岩峰の連なりが印象的でした。

噴火の記憶が残る山頂
美しい景色とは対照的に、剣ヶ峰の周辺は、かつての噴火の恐ろしさを静かに伝えていました。
御嶽山は約78万年前から活動を続ける活火山で、近年でも1979年に水蒸気噴火が起き、1991年と2007年にも小規模な水蒸気噴火がありました。そして2014年9月27日の11時52分ごろ、剣ヶ峰の南西側で水蒸気噴火が起きました。紅葉シーズンの週末の昼どきで、山頂付近には大勢の登山者がいました。死者58名・行方不明者5名という、戦後最悪の火山災害です。私がまだ登山を始める前のことです。
それから5年がたとうとしていた2019年の山の日。私がこの山を選んだのは、山そのものへの興味がいちばんでした。ただ、同じ山を愛する人たちの慰霊に訪れたいという気持ちも、確かにありました。
当時の山頂付近はまだ規制が厳しく、剣ヶ峰に入れるのは黒沢口からに限られていました。実際に訪れてみると、噴石で崩れた石碑や灯籠が、そのまま残っていました。

新しいシェルターも設置されていました。5年前の教訓を生かして前へ進もうとする、関係者の方々の努力が垣間見えます。山小屋の復旧作業も続いていて、もう一度御嶽山を盛り上げようとする姿も感じられました。

5年後の御嶽山には、たくさんの登山者が訪れていました。少し眺めているだけでも、それぞれの楽しみ方が見て取れます。山は少しずつ、かつての光景を取り戻しつつあるように感じました。
ヘルメットを持つ登山者たち
なにより印象に残ったのは、どの登山者もヘルメットをかぶるか、持参していたことです。私自身はかぶらずに、すぐ取り出せる位置にヘルメットを入れて歩いていました。周りの登山者も、ほとんどが同じ対応でした。
あの日の教訓を、一人ひとりが自分の行動に移している。私にはそう見えて、胸を打たれました。
そんなことを考えながら、山頂の慰霊碑に手を合わせました。前年の2018年9月に建てられた碑で、「安らかに」と刻まれています。自然と涙があふれてきて、しばらくその場に立ち尽くしていました。亡くなった58名と、今も行方の分からない5名。会ったことのない山仲間たちに、想いを寄せる時間でした。

9時30分ごろに剣ヶ峰を離れ、10時ごろに山頂付近をあとにして下山を始めました。下りは歩きやすい道が続き、サクサクと降りられて、あっという間に駐車場へ戻っていました。
2019年の御嶽山登山を振り返って
御嶽山は美しい景色を持つ一方で、今も活動を続ける火山です。そして、自然の中で楽しむ登山は、いつも死と隣り合わせにあります。この山行で、そのことをあらためて胸に刻みました。山の慰霊碑については、西穂高岳で出会った碑から調べ始めた落雷対策の記事にも書いています。これからも安全登山を徹底していこうと思えた一日です。
2021年には、濁河側から再び山頂に立ちました。このときは2019年よりも規制が解除され、山小屋にも活気が戻っている印象を受けました。
そして、この記事を書いている今、あの山行からさらに7年がたちました。噴火からは10年以上。御嶽山は、再び多くの登山者でにぎわう山になっています。私にとって御嶽山は、あの噴火に思いを寄せ、安全登山への決意を新たにする場所です。訪れる人の多くにとっても、きっとそうなのだろうと感じています。
まとめ:御嶽山は、景色と記憶の両方に向き合う山
この日の御嶽山を、4コマでおさらいします。

- 御嶽山(3,067m)は、長野・岐阜県境の独立峰の活火山。国内の活火山では富士山に次ぐ高さ
- 黒沢口は古くからの登拝道。女人堂から上には霊神碑が並び、信仰の山であることを実感できる
- 中の湯からの日帰り往復は、標高差約1,300mを一気に登るルート。鎖場のような難所はないが、高さに慣れる時間がないのでゆっくり登る
- 剣ヶ峰からは一ノ池・旧火口・賽の河原と、火山がつくった景色が一望できる
- 山頂付近には、2014年の噴火で崩れた石碑や灯籠が残り、シェルターと慰霊碑が並ぶ
- 登る前に噴火警戒レベルと規制を確認する。ヘルメットを持ち、山頂付近ではかぶる(長野県の「ヘルメット着用奨励山域」)
火山の景色と、そこに刻まれた記憶。御嶽山は、その両方に向き合える山です。これから登る方は、警戒レベルと規制を確かめ、ヘルメットを持って出かけてください。2019年の私はかぶらずに持ち歩いていましたが、今の長野県の呼びかけは「着用」です。山頂付近ではかぶって歩きましょう。この記事が、安全登山への意識を少しでも高めるきっかけになればうれしいです。
最後にあらためて、噴火で亡くなられた方々のご冥福と、行方不明の方々が一日も早くご家族のもとへ帰られることを、心よりお祈りします。