「日本で2番目に高い山・北岳に登ってみたい。でも、どのルートで、何日かけて歩けばいいの?」 「せっかく3,000mの稜線に泊まるなら、間ノ岳まで足を延ばせる?」
北岳は、広河原から1泊2日で山頂を踏み、翌朝に間ノ岳まで往復して下山できる山です。ただし初日は標高差約1,700mを一気に登り、帰りは長いハシゴと急な下りが続きます。高所への配慮と、下りに脚を残す計画が欠かせません。
この記事では、理学療法士(PT)として体の使い方を見てきた立場と、140座以上を歩いてきた経験から、2019年10月に先輩と歩いた北岳〜間ノ岳の記録を紹介します。草紅葉に染まる草すべり、日本第2位の頂から見た第1位の富士山、雲海に浮かぶ朝の稜線。読み終えるころには、自分ならどんな日程で白根の峰々を歩くか、イメージが固まるはずです。

そもそも北岳はどんな山?──静かに歩ける、日本で2番目の高み
北岳(きただけ)は、南アルプスの北部にそびえる標高3,193mの山で、富士山に次ぐ日本第2位の高峰です。
地形・特徴
古くから、北岳を含む峰々は「白根(しらね)」「白峰(しらね)」と呼ばれてきました。この名前は、今回歩いた白根御池や中白根山にも残っています。北岳・間ノ岳・農鳥岳を合わせて白峰三山と呼び、今回はそのうち北岳と間ノ岳を歩きました。
登山の歴史も古い山です。1871年(明治4年)には、麓の芦安村の修験者・名取直江が、広河原から白根御池を経て山頂に登ったと伝わります。近代登山では、「日本近代登山の父」と呼ばれる英国人宣教師ウォルター・ウェストンが、1902年8月23日に登頂しました。
山頂の東側には、北岳バットレスと呼ばれる高さ約600mの大岩壁があります。1927年の初登攀以来、多くのクライマーを惹きつけてきた岩場です。1962年に野呂川林道が開通して広河原まで入りやすくなり、登山者が増えて今に至ります。
PT視点:体の負担
- 初日に標高差約1,700m:広河原(標高約1,520m)から北岳(3,193m)まで、1日で一気に登ります。低酸素の環境に体が慣れるには日単位の時間がかかり、ゆっくり歩いても1日では慣れきりません。ペースを上げるほど息が上がり、頭痛などの高山病のサインも出やすくなります。頭痛や吐き気が出たらそれ以上登らず、悪化するなら下山するのが原則です(目安は標高と高山病の目安にまとめています)
- 樹林帯からの急登:広河原から白根御池小屋、さらに草すべりまで、序盤から登りが続きます。心肺の負担が大きい区間なので、会話ができる程度のペースを守るのが基本です
- 下りのハシゴと階段:八本歯のコル経由で下ると、長いハシゴと階段が続きます。体を支えながら降ろす動きは、太ももの前(大腿四頭筋)にブレーキ役を強いる動きです。疲れた脚ほどつまずきやすくなります
- 10月の3,000mは冬に近い:日の出前は冬のような冷え込みで、止まっている時間に体を冷やさない服装が必要になります。年によっては10月に雪が降り、岩場やハシゴが凍ることもあります。凍結すると難しさがまったく変わるので、直前に小屋の発信などで積雪を確かめ、対応できない状態なら計画をやめる判断が要ります
個人的に惹かれるところ
登山をしない人にとって、日本一の山は富士山です。でも「日本で2番目に高い山は?」と聞かれて、すぐに答えられる人は多くないでしょう。
多くの登山者にとって北岳は、観光地の色が濃い富士山と違い、静かな山歩きを楽しめるいちばん高い山だと思います。アクセスがよくなったとはいえ、山深い南アルプスらしく、私が歩いた日も、北アルプスや中央アルプスの人気の山に比べて登山者は少なく感じました。その静けさが、私にとっての北岳の魅力です。
北アルプスより緯度が低いぶん森林限界が高く、樹林帯の歩きが長いのも好きなところです。道はそれなりに険しく体力を使いますが、ひとたび稜線に出れば、日本第2位の高峰にふさわしい雄大な景色が広がります。そして、そこから見る富士山。日本で2番目に高い場所から富士山を眺めるのは、粋な体験だと感じています。
この記事では、その北岳に広河原から登り、稜線の小屋に泊まって第3位の間ノ岳まで足を延ばした2日間を紹介します。
北岳・間ノ岳1泊2日のコースとプラン|ルート・行程・難易度
今回は、広河原から白根御池小屋・草すべり経由で北岳に登り、北岳山荘に泊まって翌朝に間ノ岳を往復する1泊2日のプランです。まずは基本データを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 山・標高 | 北岳 3,193m(日本第2位)/間ノ岳 3,190m(日本第3位タイ) |
| エリア/起点 | 山梨県南アルプス市/広河原(標高約1,520m) |
| 標高差 | 約1,700m(広河原〜北岳の標高の差。間ノ岳往復などの登り返しは含まない) |
| 今回の行程 | 1泊2日(前夜に芦安駐車場で車中泊) |
| 山小屋 | 白根御池小屋/北岳肩の小屋/北岳山荘(宿泊) |
| 核心部 | 初日の草すべりの急登と、帰りの八本歯のコル周辺のハシゴ・階段 |
| アクセス注意 | 夏〜秋はマイカー規制。芦安駐車場からバスか乗合タクシーで広河原へ(後述) |
前の年に、南アルプスのなかでは比較的入りやすい甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳に登っていました。翌年の秋、天気のよさそうな週末が近づき、未踏の南アルプスから日本第2位の北岳を選びました。
北岳だけで下りるのはもったいないので、少し南の間ノ岳(日本第3位タイ)まで往復し、のんびり稜線を楽しむ計画にしました。時期は夏山シーズンの終わり。紅葉が見られたらラッキー、くらいの気持ちで出かけています。
実際に歩いた行程は以下の通りです。
1日目(10月5日)
| 時刻 | 地点 |
|---|---|
| 6:50 | 広河原 出発 |
| 9:00〜9:20 | 白根御池小屋(休憩) |
| 12:00 | 北岳肩の小屋 |
| 13:00〜13:20 | 北岳山頂 |
| 14:15 | 北岳山荘 着(泊) |
2日目(10月6日)
| 時刻 | 地点 |
|---|---|
| 4:00 | 北岳山荘 出発 |
| 4:45 | 中白根山 |
| 6:15〜6:40 | 間ノ岳(途中でご来光の撮影) |
| 7:45 | 中白根山 |
| 8:15〜8:45 | 北岳山荘(荷物の整理・休憩) |
| 9:55 | 八本歯のコル |
| 11:40〜12:30 | 白根御池小屋(昼食) |
| 14:30 | 広河原 着 |
広河原から白根御池小屋へ|静かで深い南アルプスの森
前の晩に芦安駐車場に着き、車中泊をしました。翌朝はマイカーから山梨交通のバスに乗り換え、5時15分発の始発で広河原へ向かいます。
6時15分ごろ広河原に着き、広河原インフォメーションセンターへ。とてもきれいで快適な施設で、トイレを済ませて準備を整えました。のんびり支度をして、6時50分に出発です。

歩き出してすぐ、これから目指す北岳の山頂が見えていました。
まずは樹林帯から。北アルプスに比べると登山者が少なく、緯度も低いので、静かで深い森という印象です。南アルプスらしさを感じながら登っていきました。

序盤から、樹林帯とはいえハードな登りが続きます。登山道も、私がよく歩く北アルプスの人気ルートほどには整備されておらず(いい意味で)、自然の中を歩いているという感覚がありました。
2時間ほど登り、最初の小屋の白根御池小屋に着きました。

小屋の前にある白根御池は、この山域の古い呼び名「白根」が残る池です。昔から龍神が棲む池として伝わり、麓の村々が雨乞いに訪れたと案内板にありました。

池を眺めながら少し休み、ふたたび歩き出します。
草すべりから北岳山頂へ|草紅葉と富士山、第2位から見る第1位
白根御池小屋から先は樹林帯を抜け、視界が一気に開けます。眺めがよく、気持ちよく登っていけました。
ここからの登りは草すべりと呼ばれます。名前の通り急な登りが続くので、ペースを保ちながらゆっくり登りました。
少し登って振り返ると、眼下にさっきの白根御池、その向こうに鳳凰三山が見えました(この写真に写っているのは観音ヶ岳と薬師ヶ岳で、オベリスクのある地蔵ヶ岳は写っていません)。

このあたりは草紅葉の真っ盛りで、草すべりは黄色の絨毯になっていました。

標高を上げるにつれ、南東の方角に少しずつ頭を出してきたのが富士山です。北岳の東稜に隠れていた富士山が、頭のほうから少しずつ姿を見せ、小太郎尾根分岐に着くころにはしっかりと全体が見えるようになりました。

登ってきたほうを振り返ると、今度はオベリスクのある地蔵ヶ岳も見えるようになり、鳳凰三山がそろって眺められました。

ここまで登れば、あとは気持ちのいい稜線歩きです。草紅葉の北岳北稜を、景色を味わいながらのんびり歩いていきました。

稜線からは、仙丈ヶ岳と、その奥の中央アルプスが見えました。

反対側には、甲斐駒ヶ岳と、その奥の八ヶ岳。前の年に登った山々を、今度は日本第2位の山の稜線から眺める贅沢な時間でした。

しばらく稜線を楽しんだあと、ふたたび登りの岩場に取りつきます。ここは鎖のかかった段差もあり、手も使いながら一歩ずつ登る区間です。

岩場を越えると、標高3,000mの北岳肩の小屋に着きました。

今回の宿泊地はここではなく、北岳を越えた向こう側です。休憩もそこそこに、近いようで長い最後の登りに向かいました。
1時間弱歩いて、ついに北岳の山頂に着きました。

360度、どこを見渡しても素晴らしい眺めです。そのなかでもいちばんはやはり、第2位から見る第1位、富士山でした。

青空の中に、富士山がくっきりと存在感を放っていました。
北岳山荘に泊まる|電波の届かない、アナログな夜
山頂からの眺めをしばらく楽しんだあと、今度は南稜を下り始めます。
手前に見える小屋が今夜の宿の北岳山荘です。その先の稜線に、中白根山、間ノ岳と続いていきます。間ノ岳の左に少しだけ顔を出しているのが農鳥岳です。

1時間弱で北岳山荘に着きました。小屋の前からも富士山が見える、ロケーションのいい山小屋です。

中に入ると、手描きのあたたかい黒板が迎えてくれました。

当時使っていたのはau回線で、小屋の中は電波がまったく入りませんでした。小屋を出て少し稜線を登ると、ようやく電波が入る程度です。まさにデジタルデトックス。小屋の中では、アナログな時間をゆっくり満喫できました(電波の状況は、通信会社やその後の設備で変わっている可能性があります)。
人の少ない南アルプスとはいえ紅葉シーズンなので、混雑は覚悟していました。それでも大部屋で布団を1人1組使えるほどで、快適に過ごせました。
道中で抜きつ抜かれつだったご夫婦と相部屋になり、先輩と4人で山の話に花が咲きます。
この日の夕食は、なんと魚でした。高い山の上で、海のものをおいしくいただきました。

夜は星空も楽しめました。ただ、このころはまだ山に一眼レフを持っていっておらず、写真は残っていません。翌朝に備えて、早めに眠りにつきました。
山小屋で眠れない人は少なくありません。眠りにくい理由と前夜にできる準備は、富士山の山小屋で眠れない理由と対策にまとめています。
間ノ岳へ往復|朝焼けの稜線と、第3位から見る第2位
早朝4時、暗いなかヘッドライトの灯りで北岳山荘を出発しました。道は明瞭で、ほぼコースタイム通りに進み、45分で中白根山に着きます。
間ノ岳に向かってさらに進むと、少しずつ周りが明るくなり、ヘッドライトなしでも足元が見えるようになってきました。
朝焼けのなか、ぼんやりと北岳のシルエットが浮かび上がってきます。

雲海の向こうには、朝焼けに染まる雲に浮かぶ富士山の姿もありました。

山が赤く染まっていき、北岳もほんの少しだけモルゲンロート(朝日で山肌が赤く染まる現象)に。

途中でご来光を迎え、写真を撮りながらのんびり進み、ようやく間ノ岳に着きました。

第3位の山からは、第2位の山がとてもきれいに見えました。
足元の細沢カールは、草紅葉が見事です。

前の日よりガスが増え、早朝の雲海も重なって、幻想的な景色を味わえました。

間ノ岳から見ると、北岳は稜線の先にきれいに立っています。ここまで足を延ばしてよかったと感じた眺めでした。

間ノ岳の南には農鳥岳があり、3つを合わせて白峰三山と呼ばれます。いつかは農鳥岳まで歩いてみたいと思いました。
さすがに10月の3,000mともなると、早朝はかなり冷え込んでいました。それでもダウンを着ていたので、寒さに震えずに済んでいます。止まって景色を眺める時間が長い稜線の朝は、歩いているときの服装とは別に、止まっている時間のための1枚を用意しておきたいところです(選び方は登山のミドルレイヤーの選び方で解説しています)。
ひとしきり景色を楽しんだあとは、来た道を折り返しました。

行きは真っ暗で見えなかった中白根山の標識も、帰りははっきり見えました。

朝のひんやりした空気のなか、最高の稜線歩きを楽しんで北岳山荘に戻りました。

八本歯のコル経由で下山|崖沿いの道と長いハシゴ、雪渓の残る左俣
北岳山荘で荷物を整理して休んだあと、下山を始めました。帰りは北岳の山頂を通らず、山腹を巻いて八本歯のコルへ向かうルートを選んでいます。
このルートは、崖沿いに組まれた道を歩く区間があり、高度感が楽しめます。遠くには、ガスの切れ間に北岳山荘がぽつんと見えました。

長いハシゴや階段を下りると、八本歯のコルに着きました。

このあたりは紅葉がちょうど見ごろでした。

ここからは左俣コースで雪渓沿いに大樺沢を下り、二俣から白根御池小屋へ向かいます。写真には残していませんが、このルートからは北岳バットレスがよく見えました。

雪渓沿いの下りで、ヘリ救助の現場に居合わせた
雪渓沿いを下っている途中、前方から谷をなぞるように救助ヘリが上がってきました。ヘリは私たちの少し先でホバリングし、隊員がワイヤーで降りてくるのが見えます。隊員を降ろしたヘリは、そのまま上空で旋回を始めました。
そのまま下っていくと、ちょうど要救助者が救助隊員にハーネスを着けてもらっているところに行き当たりました。「今からヘリが来るので、少し下がってしゃがんで待機してください」と声をかけられ、私たちは少し登り返して、言われた通りしゃがんで待ちました。
戻ってきたヘリが真上でホバリングし、要救助者は救助隊員と一緒にヘリへ引き上げられていきました。その一部始終を、目の前で見ることになりました。
驚いたのは、ヘリが起こす風の強さです。しゃがんでいても体ごと飛ばされそうになり、巻き上がる砂や落ち葉で目を開けていられませんでした。
正直に言うと、この場所は目立った危険箇所ではありません。ハシゴや崖沿いの道を越えたあとの、雪渓沿いの下りです。どんな場所でも事故は起こりうる。そのことを、あらためて思い知らされました。
写真は撮っていません。街でいえば、救急車で急病の人が運ばれていく場面と同じだと思ったからです。
白根御池小屋に戻り、お昼ごはんにカレーをいただきました。

ここからは広河原まで一気に下りました。当時、バスは1時間に1本で、タイミングが合わずに30分ほど待つことになりました。
北岳へのアクセスと山小屋予約|芦安駐車場・バス・今登るときの確認ポイント
この記録は2019年のものです。アクセスや山小屋の仕組みは当時から変わっている点があるので、出かける前に次の4つを確認してください(2026年10月時点で公式情報を確認)。
- マイカー規制:夏〜秋は、芦安〜広河原の林道でマイカー規制が行われます。芦安駐車場に車を停め、バス(山梨交通)か乗合タクシーで広河原へ向かいます。2026年度のバスは6月26日〜11月3日の運行です
- 帰りの最終便:広河原から芦安方面への便は、夕方で終わります。2日目に間ノ岳を往復してから下山する場合は、最終便から逆算して北岳山荘を出る時刻を決めてください
- 山小屋は予約制:北岳山荘と白根御池小屋は、南アルプス市の予約システム(南ぷすリザーブ)で予約します。北岳肩の小屋は電話予約のみです。営業期間は小屋ごとに異なり、秋は10月下旬〜11月上旬に営業を終えます
- 大樺沢の通行止め:大樺沢の下部(白根御池小屋への分岐〜二俣)は、2026年度も通行できません。今回のように八本歯のコルから左俣を下る場合も、二俣から白根御池小屋へ回って広河原へ下ります
時刻表・運賃・営業期間は年ごとに変わります。申し込む直前に、南アルプス市や各山小屋の公式サイトで確認してください。
まとめ:北岳〜間ノ岳は、静かな3,000mの稜線に泊まる2日間
2日間の要点を、4コマでおさらいします。

- 北岳は標高3,193mの日本第2位の高峰。広河原から1泊2日で山頂に立ち、翌朝に第3位タイの間ノ岳まで往復できる
- 初日は標高差約1,700mを一気に登る。草すべりの急登はペースを守り、頭痛や吐き気が出たら登るのをやめる
- 草すべりの草紅葉、山頂から見る富士山、北岳山荘の静かな夜、朝焼けの稜線と、2日間を通して見どころが続く
- 帰りの八本歯のコル経由は、崖沿いの道と長いハシゴが続く。疲れた脚で下る前提で、補給と3点支持を忘れない
- 下山中の何でもない雪渓沿いで、ヘリ救助の現場に居合わせた。事故は難所だけで起きるわけではない
- 今登るなら、マイカー規制・最終便・山小屋の予約・大樺沢の通行止めを出発前に確認する
北岳は、日本で2番目に高い場所から、富士山と白峰三山の稜線を静かに眺められる山です。まずは日程と小屋の予約から、白根の峰々を歩く計画を立ててみてください。