
紅葉の涸沢カールに行ってみたい。でも混雑はどれほどか、テント場は確保できるのか、ついでに穂高の稜線まで足を延ばせるのか——計画の段階で迷うことが多い場所ではないでしょうか。
答えを先に書くと、この日の場合は朝5時半に上高地を出て4時間で涸沢に着き、テント場の平らな板(コンパネ)はまだ選べました。テントを張ってから軽い荷物で稜線へ出れば、体力と天候しだいで奥穂高岳・涸沢岳・北穂高岳を1日で周回できます。ただし涸沢岳から北穂高岳への区間は、槍穂高の一般ルートのなかでも緊張の続く岩稜です。
私は理学療法士(PT)として10年以上、体の使い方を見てきました。登頂は140座以上、テント泊は27泊。この記事では2021年10月にソロで歩いた1泊2日の記録を、混雑の実際と、2週連続のテント泊で体に起きたことを軸にまとめます。読み終えるころには、紅葉の涸沢をどう組み立てればいいか、自分の計画に当てはめて考えられるはずです。
そもそも涸沢カールはどんな場所?──氷河がえぐった谷と、穂高への玄関口
涸沢カール(からさわカール)は、北アルプス・穂高連峰の懐にある、日本最大級の氷河圏谷です。氷河が削ってできたお椀型の谷で、標高はおよそ2,300m。奥穂高岳・涸沢岳・北穂高岳・前穂高岳の岩峰がぐるりと取り囲みます。
上高地からは標準コースタイムで6時間ほど。遠い場所ですが、涸沢までの道に技術的な難所は少なく、同時に穂高の頂へ向かう玄関口でもあります。秋にはナナカマドの赤とダケカンバの黄がカールを埋め、その底にテントの花が咲きます。
PT視点|この2日間で体にかかる負担
涸沢までは難しい道ではありません。体にとっての本題は、距離と岩場と、2日目の下りにあります。
- テント泊装備を担いで、上高地から約800mを登る。標高1,500mの上高地から2,300mの涸沢まで、前半は平坦な林道、後半は登りが続きます
- 稜線は標高3,000m超の岩場で、手も使う全身運動になる。とくに下りのクライムダウン(岩場を後ろ向きに下りること)は、足場が見えにくく神経を使います
- 2日目はテント泊装備のまま、足場の悪い道を下る。帰りに選んだパノラマコースは、トラバース(斜面を横切る道)と岩の段差が続きます
- 2日で36.0km、累積の上りは2,777m。1日目だけで21.8km・上り2,234mを歩いています
つまり担いで登る持久力、岩場で体を支える力、重荷で下る脚の3つが要ります。稜線は体力より集中力が問われる区間でした。
それでも私が涸沢カールを好きな理由
紅葉の涸沢カールは、登山を始めたころからの憧れでした。全ての登山者の憧れといっても言いすぎではないと思っています。
ただ、休みと天気と混雑がなかなか噛み合いません。前年の2020年には平日に有給を取って向かいましたが、台風とぶつかりました。紅葉は見られたものの、青空の背景はお預けでした。
私はここにテントを張る時間そのものが好きです。時間さえあれば、どこにも登らず、ただ涸沢で1日ぼんやり過ごしたいと思うほど。涸沢ヒュッテと涸沢小屋はどちらも魅力的な小屋で、おでんやマムートのジョッキで飲むビール、パフェまで絶品です。
そしてその涸沢カールを一番きれいに見られる場所が、パノラマコースから少し登った先にある屏風の耳と屏風の頭です。そこから見る涸沢は、まさに絵に描いたような美しさ。何時間でも眺めていたくなります。
稜線にも別の楽しさがあります。涸沢岳から北穂高岳南峰へのクライムダウンは、ジャンダルムや大キレットほど有名ではありません。それでも慎重さが求められる屈指の難ルートだと思います。三点支持(両手両足のうち3点で体を支えること)を守り、集中を切らさなければ抜けられますが、緊張感は本物です。そのスリルも含めて楽しい道でした。
この記事は、前年のリベンジを狙って晴れの予報に賭けた、紅葉の涸沢の記録です。
コースとプラン|上高地起点・涸沢テント泊で奥穂〜北穂を周回する1泊2日
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 山・標高 | 奥穂高岳 3,190m/涸沢岳 3,110m/北穂高岳 3,106m(南峰) |
| エリア・起点 | 北アルプス/上高地バスターミナル(岐阜県側のあかんだな駐車場からバス) |
| 総距離 | 36.0km |
| 累積標高 | 上り2,777m/下り2,777m |
| 標準コースタイム | 19時間47分(YAMAPの算出値) |
| 今回の行程 | 1泊2日・活動時間16時間39分(休憩を含む) |
| 泊まった場所 | 涸沢のテント場 |
| 核心部 | 涸沢岳〜北穂高岳南峰のクライムダウン。帰りのパノラマコースは上級者向けのバリエーションルート |
| アクセス注意 | 紅葉期の週末は、あかんだな駐車場のバス待ちが早朝から大行列 |
このプランを選んだ理由
前の週末は双六岳から西鎌尾根で槍ヶ岳へのテント泊に出ていました。天気予報を見ると、次の週末も晴れが続きそうです。今年こそ青空に映える紅葉の涸沢が見られると思い、2週連続のソロテント泊に決めました。
1日目に奥穂高岳まで登りたかったので、出発はできるだけ早くしています。もうひとつの理由はテント場です。涸沢のテント場は岩がごろごろしていて、平らな場所が限られます。テント場には岩の上に敷く平らな板(コンパネ)があり、早く着いた人から使える。それも早出の狙いでした。
テントを張ったあとは、重い荷物を置いて軽い装備で稜線へ出ています。テント泊装備を背負ったまま岩稜に入らないことも、このプランの大事な点です。
実際に歩いた行程
1日目(10月9日)
| 時刻 | 地点 |
|---|---|
| 5:30 | 上高地バスターミナル 出発 |
| 6:10 | 明神館 |
| 6:45 | 徳澤園 |
| 7:25 | 横尾山荘 |
| 9:30 | 涸沢カール 着・テント設営、昼食 |
| 10:50 | 涸沢小屋 出発 |
| 12:00 | 穂高岳山荘 |
| 12:30 | 奥穂高岳 |
| 13:00 | 穂高岳山荘 |
| 13:20 | 涸沢岳 |
| 14:25 | 北穂高岳 南峰 |
| 14:40 | 北穂高岳 北峰 |
| 16:00 | 涸沢カール テント場 |
2日目(10月10日)
| 時刻 | 地点 |
|---|---|
| 7:15 | 涸沢カール 出発(パノラマコース) |
| 8:20 | 屏風の耳 |
| 8:50 | 屏風の頭(9:30発) |
| 11:00 | 中畠新道分岐 |
| 11:40 | 徳澤園(昼食・12:00発) |
| 12:30 | 明神館 |
| 13:00 | 小梨平 |
| 13:30 | 上高地バスターミナル 着 |
上高地から涸沢までは、標準コースタイムの6時間に対して4時間で歩いています。前の週から山が続いていて、体が仕上がっていたからできたペースです(体のことは後半の「PT視点」で書きます)。このペースを基準にせず、自分の標準的な速さで計画してください。
どんな人向けのコースか
涸沢までなら、体力があれば初心者でも目指せます。道は明瞭で、技術的な難所はほとんどありません。ただしテント泊装備を担いで片道6時間歩く持久力は要ります。
稜線の周回は初心者向けではありません。ザイテングラートは登りなら程よい岩場ですが、涸沢岳から北穂高岳への区間は高度感のあるクライムダウンが続きます。岩場の通過経験と、ガスや疲れで集中が切れたときに引き返す判断が必要です。
帰りに使ったパノラマコースは、涸沢ヒュッテが上級者向けのバリエーションルートと案内している道です。初中級者は往路と同じ横尾経由で下りてください。屏風の耳・屏風の頭はそこからさらに外れて登る場所で、とくに屏風の耳から屏風の頭へは一般登山道ではありません(後述)。
準備を組み立てたいときは、目標の山を選ぶと必要なトレーニングが並ぶ登山トレーニング計画のプランナーを使ってみてください。
1日目|涸沢テント場争奪レースと、4時間の登り
午前4時ごろ、岐阜県側のあかんだな駐車場に着くと、すでにバス待ちの大行列ができていました。周りの人と同じように、ザックだけ列に並べておき、チケット売り場へ向かいます。
4時20分にチケット販売が始まり、4時40分に1便目の乗車が始まりました。私は2便目に乗れて、5時半には上高地バスターミナルに到着。早朝にもかかわらず、さすが紅葉シーズンの週末です。大混雑でした。

トイレ(観光地ですが、ここからもうチップ制です)を済ませ、まだ薄暗いなか早々に出発しました。お決まりの河童橋の写真を1枚撮ったら、すぐに歩き始めます。

すでに多くの人が歩き出していました。涸沢のテント場争奪レースがスタートしたような光景です。

明神館のあたりでは、朝焼けに赤く染まる明神岳が見えました。

本谷橋から少し登ると、横尾本谷の方向に紅葉が広がっていました。

このあたりからは周りの木々もすっかり色づき、赤と黄のトンネルのなかを気持ちよく進めます。この年はナナカマドの赤がいまひとつと言われていました。それでも実際に見ると十分に赤く燃えていて、美しく感じました。

休憩なしでぐんぐん進み、9時半に涸沢カールへ到着。標準コースタイム6時間の道のりを、4時間で歩いたことになります。

当日到着組はまだほとんどいません。前日から張られているテントはあるものの、全体にはまだまばらでした。

狙いどおり、コンパネを無事に確保できました。この時間ならまだたくさん残っていて、余裕があります。岩の上に板を敷いてテントを張れば、快適な一夜が約束されたようなものです。

荷物を整理して、涸沢小屋でこの日はじめての休憩を取りました。ここのスタミナ豚丼はお気に入りです。そしてマムートのジョッキでいただくビールが最高で、前半の疲れは一気に吹き飛びました。
ただ、この後に岩稜が控えている日の飲酒は、人によってはリスクになります。高所でお酒が体にどう影響するか、下山が残っているときの一杯をどう考えるかは、登山の飲酒リスクにまとめました。岩場の経験、その日の体調や疲れ具合、この先の行程を踏まえて、飲むかどうかは総合的に判断してください。

朝一番の快晴から、天気は少し下り坂。山頂付近にはガスがかかって見えます。それでもせっかく来たし、まだ午前中です。眺望は気にせず、上を目指すことにしました。

奥穂高岳へ|はじめてのザイテングラート
前回の奥穂高岳は、岳沢側からジャンダルムを経由して登りました(その記録はジャンダルム登頂記にまとめています)。なので、ザイテングラートを歩くのは今回がはじめてです。

印象は、程よい岩場。経験を積んだ人なら、そこまで難しさを感じない道だと思います。

ミスが命取りになるのは、ほかの岩稜帯と同じです。ただ大きな難所はなく、集中を切らさなければ、登りで使うぶんには怖さを感じませんでした。下りに使うとリスクは高くなるので、注意が必要だと感じました。距離は短く感じて、個人的には楽しい道です。

こちらもはじめての穂高岳山荘に到着しました。

先に奥穂高岳を目指して、小屋の横の梯子を登り稜線へ進みます。20分ほどで無事に登頂しましたが、ガスに包まれて眺望はまったくありませんでした。

以前ジャンダルム経由で来たとき、ここからの景色は見ています。今回はザイテングラート経由で登れたことに満足しました。
帰りがけに振り返ると、少しガスが晴れてきて、奥にちらっとジャンダルムの姿が見えました。

穂高岳山荘に戻り、コーラを買って小休憩。ついでにジャンダルムの手ぬぐいを買いました。今回はジャンダルムを通っていませんが、以前に登った記念です。
涸沢岳から北穂高岳へ|槍穂高の一般ルートで最難関かもしれない道
休憩もそこそこに再出発し、今度は反対側の涸沢岳を目指します。10分ほどで到着。とても近い山頂です。こちらは今回がはじめての登頂でした。

時刻はまだ13時半前。時間に余裕があるので、このまま北穂高岳を目指すことにしました。
この区間は、ザイテングラートや大キレットよりよほど怖いとよく聞いていました。実際に歩いた感想は、間違いなく難ルートです。個人的な感覚では、槍穂高連峰の一般ルートでは最難関かもしれません。写真ではうまく伝えきれない高度感がありました。

とくに涸沢岳から北穂高岳側へ向かうクライムダウンは、なかなかの難しさを感じました。怖さで言えば、ジャンダルムよりよほど怖く感じたほどです。

さっきまでより少し晴れてきました。ガスのかかり具合がちょうどよく、かっこいい岩稜の姿を楽しめます。細く切れ落ちた稜線歩きは、適度なスリルがあって楽しい時間でした。

奥壁バンドに到達。看板には「滑落事故多発エリア、慎重に通過してください」という趣旨の文字がありました。

そして、はじめての北穂高岳南峰に登頂しました。

北穂高岳は2つの頂をもつ双耳峰です。小屋に近く多くの人が訪れるのは北峰ですが、標高が高いのは南峰(3,106m)で、北峰は3,100mです。奥には、北峰に立つたくさんの登山者が見えました。
南峰から北峰へは直接抜けられないので、来た道を少し戻って北峰を目指します。途中、眼下に北穂高小屋のテント場が見えました。

このテント場は北峰をはさんで涸沢側にあり、トイレなどは不便です。そのぶん静かで、ロケーションは抜群のかっこよさだと感じます。
無事に北峰に到着しました。この日はガスが多く、大キレット越しの槍ヶ岳は見えませんでした(晴れた日の眺めは北穂高小屋の宿泊記に載せています)。

北峰から見た南峰は、なかなかのかっこよさでした。

この時点で15時を回っていました。テント場の受付もあるので、足早に北穂南稜を下ります。下まで降りてくると、テントの数はだいぶ増えていました。紅葉とテントの取り合わせが美しく見えます。

涸沢の夜と朝|650張の宝石箱と、モルゲンロート
テントの受付を済ませ、トイレに行きがてら全体を眺めに涸沢ヒュッテへ。テラスからテント場を見下ろすと、すごい数のテントと紅葉が一緒に楽しめました。

後から涸沢ヒュッテのInstagramで確認すると、この日のテントは650張だったそうです。
テントに戻って夕飯を済ませ、暗くなるのを待って再びテラスへ。これが見たかった、念願の宝石箱です。

曇っていて星が見えなかったことだけが残念でした。それでも素敵な光景を楽しめました。人の流れもすさまじく、タイムラプスを撮ってみると楽しい動画になりました。
ロングの山行の疲れもあり、この日は早々に就寝しました。
翌朝は4時ごろに起床。気温は10度弱と、この時期にしてはずいぶん暖かい朝でした。そのぶん湿度が高いようで、テントの中の結露がすごかったです。
昨夜と違って空は晴れ、星も見えるようになっていました。

こちらは穂高岳山荘から北穂高小屋までの稜線と、星空だけを写したものです。早朝に山頂を目指す人たちのヘッドライトの明かりが、登山道に沿って見えました。

そのまま日の出を待ちます。テラスも日の出待ちの人であふれかえっていました。

そして5時50分、ついにモルゲンロート(朝日で山肌が赤く染まる現象)と紅葉の共演を見られました。

穂高連峰も真っ赤に染まり、とても美しい朝でした。

涸沢はご来光を拝める場所ではありません。それでも、屏風のコルから差し込む朝日が美しく見えました。

2日目|パノラマコースから屏風の頭へ
朝日を見届けたあとは、早々にテントを撤収しました。上高地からの帰りのバスが混むと予想して、早めに帰路につくことにしたのです。
帰りはパノラマコースを選びました。紅葉の涸沢カールを、特等席の屏風岩から引きで見るのが狙いです。

この道は相変わらず足場が悪いです。前年の台風のときと違って足元が乾いているぶん歩きやすいものの、テント泊装備で重さがあるので注意して進みました。

前日の天気が嘘のような快晴です。途中で、この山行ではじめて槍ヶ岳の姿が見えました。紅葉の額縁のなかに、屏風岩の影と槍ヶ岳。素敵な光景でした。

屏風のコルには、たくさんの人がザックをデポ(荷物を置いていくこと)していました。私も同じようにデポして、屏風の耳を目指します。

身軽なのでさっと登れて、あっというまに屏風の耳に着きました。

せっかくなので、奥に見える屏風の頭まで行ってみることにしました。
この区間は、こんなふうに藪をかき分けて進みます。

とはいえ多くの人が通る区間なので、ルートははっきりしています。ルートファインディング(道を見つける判断)はそれほど必要ありませんでした。すぐに屏風の頭に到着します。
この位置からは、涸沢カールを正面にとらえられます。さっきまでいた場所、そして前日に歩いた場所がよく見渡せました。

ズームしてみます。まずはザイテングラートと穂高岳山荘。

登山あるあるですが、近くで見るとそうでもないのに、引きで見ると「あんなところを本当に人間が歩けるのか」と驚きます。
次は北穂高岳の方向。こちらも引きで見ると、なかなかの険しさです。

槍ヶ岳の方向もよく見えました。ケルンと槍ヶ岳がおそろいのツンツンで、いい感じです。

槍ヶ岳にもズームしてみます。つい1週間前には、あそこに立っていたのか。しみじみと噛みしめました。

最後に、それらすべてが映ったパノラマ動画です。
気づけば40分ほど滞在していました。すっかり景色に見とれて、のんびりしすぎたようです。屏風の耳と明神岳のほうを振り返り、そろそろ帰ろうかと腰を上げました。

下山|紅葉のトンネルから上高地へ
再び藪をこいで屏風の耳へ戻り、さっと下って屏風のコルでザックを回収しました。下り始めると、ナナカマドとダケカンバのバランスがよい紅葉のトンネルをくぐっていきます。

ある程度下って屏風のコルを振り返ると、黄色のじゅうたんがとてもきれいでした。

さらに30分ほど下り、中畠新道の分岐に着きました。ここから西へ登り返すと中畠新道に入り、明神岳の取り付き地点でもある奥又白池へ行けます。今回は屏風の頭でのんびりしすぎて、バスが混む前に帰りたかったので断念。いつか行ってみたい場所のひとつです。

樹林帯のなかで、ナイロンザイル事件の慰霊碑を見つけ、手を合わせました。

ここを過ぎれば、あとは上高地までひたすら林道歩きです。危険な場所はなく、ひと安心。新村橋の上から、梓川と屏風岩を眺めました。

ほんの2時間前まで、あそこにいた。そう思うと、人の足はすごいものです。
徳澤園に着くと、さすがの大混雑でした。

ちょうどお昼どきなので、ここで昼ごはんにします。この混み具合では時間がかかるかと思いきや、さすがのオペレーションで、注文したらあっというまに出てきました。久々の徳澤園のカレーは、とてもおいしかったです。一緒に頼んだレモネードも、疲れた体にしみわたる甘酸っぱさでした。

明神館を過ぎて小梨平の手前で、お猿さんを見かけました。このあたりでは、たいていいつも会えます。ナナカマドの木によじ登って、木の実をせっせと食べていました。

13時、早めの時間に河童橋へ戻れました。おなじみの落ち着く景色を見て、無事に帰ってきたと実感します。この時間帯は観光客が多く、梓川で遊ぶ人がたくさんいました。

長い山行の自分へのごほうびに、ミルクジェラートをいただいてから帰路につきました。

PT視点|2週連続のテント泊で、筋肉痛が出なかった話
この2日間で、脚や膝の痛みも、翌日以降の筋肉痛も出ませんでした。上高地から涸沢まで4時間、岩稜の周回、重荷でのパノラマコースと、負担の大きい行程だったにもかかわらずです。
前の週は筋肉痛が出ていた
実は前の週の双六岳〜槍ヶ岳のテント泊では、下山の翌日にしっかり筋肉痛が出ていました。同じテント泊の縦走で、1週間の差で結果が違ったことになります。
この時期の私は、前の週末に双六・槍を歩き、その間の平日にも地元の標高1,000m級の山に登っていました。短い間隔で山に通い続け、体が仕上がっていた状態です。
同じ運動を繰り返すと、筋肉痛は起きにくくなる
筋肉が引き伸ばされながら力を出す運動(下りの着地がその代表)には、一度経験すると、次に同じ運動をしたときの筋肉のダメージや痛みが小さくなる性質があります。繰り返し効果(repeated bout effect)と呼ばれる現象です[1]。
12人を対象にした研究では、太もも前側(大腿四頭筋)を引き伸ばしながら力を出す運動を機械で行い、2週間後に同じ運動を繰り返しました。1回目のあとは翌日からの痛みと筋力低下が出たのに対し、2回目のあとはその変化がほとんど見られませんでした[2]。
もっとも、これは実験室で同じ運動を繰り返した研究です。登山の現場にそのまま当てはめることはできません。今回の結果も、体の慣れのほかに、荷物の重さ、下りの距離、歩く速さなど多くの条件が前の週と違います。筋肉痛が出なかった原因を1つに決めることはできません。それでも、短い間隔で山に通っていたことは一因だったかもしれない、と私は考えています。
重荷は岩稜に持ち込まない
体の視点でもうひとつ書いておきたいのが、テントを張ってから軽い荷物で稜線に出たことです。
岩場では、手と足で体を支えながら、重心を足場の真上に保つ必要があります。背中の荷物が重いほど、このバランスの調整は難しくなります。とくに足場の見えにくいクライムダウンでは、その差がそのまま怖さにつながります。
涸沢のようにテント場を拠点にできる場所では、重い荷物をテントに置き、岩稜は軽い装備で歩く。この組み立てにできるかどうかで、稜線での余裕が変わります。岩場の三点支持やバランスを鍛える方法は、登山トレーニングとしてのボルダリングで詳しく書いています。
まとめ:紅葉の涸沢は、早出と余力で楽しみが広がる

- 紅葉期の週末は、あかんだな駐車場のバス待ちが早朝4時の時点で大行列。この日のテントは650張だった
- この日の場合は、朝5時半に上高地を出て9時半に涸沢に着き、テント場の板(コンパネ)はまだ余裕をもって確保できた
- テントを張ってから軽い荷物で稜線へ出れば、体力と天候しだいで奥穂高岳・涸沢岳・北穂高岳を1日で周回できる
- 涸沢岳〜北穂高岳のクライムダウンは槍穂高の一般ルートで最難関かもしれない区間。岩場の経験と、引き返す判断が要る
- 涸沢を一番きれいに見られるのは屏風の耳・屏風の頭。ただし屏風の頭へは一般登山道ではない
- 前の週は筋肉痛が出たのに、今回は出なかった。同じくらいの山を一定の頻度で歩けていれば、それ自体が準備になる
紅葉の涸沢は、憧れのまま終わらせるにはもったいない場所です。青空に映える紅葉と、夜の宝石箱と、屏風の頭からの全景。天気と日程が噛み合う週末を待ち、準備を整えて会いに行ってみてください。
参考文献
- McHugh, 2003. Recent advances in the understanding of the repeated bout effect: the protective effect against muscle damage from a single bout of eccentric exercise. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports.
- McHugh & Tetro, 2003. Changes in the relationship between joint angle and torque production associated with the repeated bout effect. Journal of Sports Sciences.