登山の日焼け・紫外線対策 標高と雪面反射で強まるUVを理学療法士が解説

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夏の稜線を歩いた翌日、腕や首の後ろがヒリヒリして、シャツの襟が当たるだけで痛い。鏡を見たら、サングラスの跡がくっきり残っている——。

登山の日焼けは「うっかり焼けた」で片づけられがちです。でも山の紫外線は、街とは量が違います。しかも日焼け止めは、多くの人が必要な量の半分も塗れていません。SPF50を塗ったつもりで、実際にはその2〜5割しか効いていない。これは研究でも度々報告されています。

そして、これは夏山だけの注意点ではありません。紫外線の強さを決めるのは季節よりも標高と反射条件です。残雪期の稜線や、雪渓の残る春・秋の高所でも、同じ、あるいはそれ以上の紫外線を浴びることがあります。

私は理学療法士(PT)として10年以上、体温調節や運動時の身体反応と向き合ってきました。山は140座以上を歩き、夏には日焼け止めをうっかり忘れて真っ黒になった時もありました。

この記事では、山の紫外線がなぜ強いのか、そして皮膚と目をどう守るかを、研究データをもとに整理します。読み終わるころには、季節を問わず次の山行で「何を持ち、どんな日焼け止めをどれだけ塗るか」がはっきりしているはずです。

なお、めまいや吐き気といった暑さそのものの危険(熱中症)は別記事夏山の熱中症対策にまとめています。命に関わる話はそちらを先に読んでください。この記事は「皮膚と目を守る」ための話です。

山の紫外線は、街より確実に強い

まず初めに、皆さんが想像する通り、標高が上がるほど、紫外線は強くなります。 そして、そこに雪面の反射が加わると、話はさらに厄介になります。

標高と雪面反射で紫外線が強まる仕組み 標高1kmごとに約7〜24%増加し雪面では目に入る紫外線が最大16倍になる理学療法士の解説 ヤマカルテ

山頂と麓に同じ測定器を並べた研究では、標高差1kmで紫外線の強さが波長によって9〜24%増えました[1]。ボリビアの高地で行われた別の測定でも、日焼けを起こす紫外線は標高1kmあたり約7%増えると報告されています[2]

理由は空気の層です。標高が上がると頭上の大気が薄くなり、紫外線を吸収してくれる分子やオゾン、チリが減ります[3]

本当に厄介なのは「反射」

ただ、標高そのものより手強いものがあります。地面の反射、いわゆる「照り返し」です。

雪や氷は紫外線をよく跳ね返します。ここで一つ、ゾッとする推計があります。足元を見ながら歩く登山者の目に入る紫外線は、地面が雪のない状態から雪に覆われた状態に変わると、最大16倍にまで増えると計算されました[4]

数字の意味には注意してください。これは「目に入る量」の推定であって、全身が浴びる紫外線が16倍になるという話ではありません。それでも、登山中の私たちが足元を見つめて歩くことを考えると、無視できない値です。

残雪期の稜線や、夏でも雪渓の残る場所。「日差しはそれほどでもないのに、なぜか焼けた」というときは、たいてい下から焼かれています。

日焼けは「痛い」で終わらない

皮膚と目のダメージは、その日の痛みより後に残るものが問題です。

皮膚:紫外線は積み上がっていく

紫外線を長年浴び続けると、皮膚がんのリスクが上がります。とくに非メラノーマ皮膚がん(基底細胞がん・有棘細胞がんなど)については、屋外での長時間の活動との関係がはっきり示されています[5]

また一つ恐ろしい調査結果を紹介します。ドイツ南部の山岳ガイド62人を皮膚科医が全身チェックしたところ、43.5%に非メラノーマ皮膚がん、またはその前段階の病変が見つかりました[6]。平均年齢は53歳。しかも彼ら自身の約半数は、それまで一度も皮膚科を受診していませんでした。

より怖いメラノーマ(悪性黒色腫、比較的進行が早く転移しやすい皮膚がんのこと)については、研究の結論がまだ割れています。2022年の系統的レビューでは、屋外の仕事とメラノーマの間に一貫した関係は見つかりませんでした[9]。一方、2026年に発表されたデンマークの大規模研究(290万人・追跡19年)では、紫外線曝露が最も多い層のメラノーマ発症率が最も少ない層より約57%高いと報告されています[7]。この食い違いは、メラノーマの「型」によって紫外線の影響が異なるためだと整理されつつあります[8]

正直に言えば、「登山をするとメラノーマになる」とまでは言えません。そこまでは分かっていない。ただ、20年30年と山を続けるつもりなら、対策のコストは十分に見合います。

目:雪目(光角膜炎)は数時間後に来る

見落とされがちなのが目です。

強い紫外線を浴びた角膜は炎症を起こします。これが光角膜炎、いわゆる雪目です。特徴は、その場では気づかないこと。痛み・涙・まぶたのけいれん・かすみ目は、浴びてから数時間たって現れます[22]。小屋に着いて一息ついた夕方、突然目を開けていられなくなる——これが典型です。

幸い、多くは自然におさまります。米国の野外教育機関(NOLS)の記録では、全例が紫外線を浴びるのをやめてから36時間以内に回復しました[19]

問題は、発症している間は歩けなくなることです。目を開けられない状態で、岩場や雪渓を下れるでしょうか。

ここからは、この2つのダメージをどう防ぐかです。まずは、いちばん身近な道具でありながら、いちばん誤解されている日焼け止めから見ていきます。

日焼け止めは「どれを塗るか」より「どれだけ塗るか」

ほとんどの人は、日焼け止めを必要量の半分も塗っていません。 ここが、この記事でいちばん行動が変わるところです。

SPFという数字は、1平方センチメートルあたり2mgという決まった厚さで塗ったときの値です。ところが実際の使用量を測ると、ビーチでの調査で平均0.5mg/cm²[10]。複数の研究をまとめたレビューでも、現実の塗布量は0.39〜1.0mg/cm²にとどまります[11]

薄く塗れば、その分だけ守りは薄くなります。実験室で塗る量を変えて測った研究では、多くの利用者が実際に得ている防御力は、ラベル表示の20〜50%程度と推定されました[12]

つまり「SPF50を塗ったから大丈夫」ではありません。SPF50を塗ったつもりで、SPF15前後しか効いていない。これが現実です。近年の測定でも、この傾向は少し改善した程度で解消していません[13]

日焼け止めの規定量2mg/cm2と実際の使用量0.39〜1.0mg/cm2、実際に得られる防御力はラベル表示の20〜50%であることを示す図解 ヤマカルテ

塗り直しは「2時間ごと」+汗をかいたら

もうひとつ、時間の話です。

耐水性をうたう日焼け止めでも、実は水や汗で少しずつ落ちていきます。 米国FDAは「防水の日焼け止めというものは存在しない」と明言しています[14]

日本でも2024年12月出荷分から、ウォータープルーフなどの耐水性をうたう製品には「UV耐水性★/★★」の表示が求められるようになりました[23]。この星の意味を知ると、期待値がはっきりします。

  • :合計40分(20分×2回)水に浸かる試験に合格
  • ★★:合計80分(20分×4回)水に浸かる試験に合格

そして、ここが肝心です。合格の判定基準は SPFの保持率が50%以上 であること[23]

つまり、★★の製品でも、80分間水にさらされた後、SPFが半分まで落ちていても「合格」なのです。星は「落ちない」の保証ではありません。どれくらいの時間、半分以上を保てるかの目安です。

登山は数時間、汗をかき続ける活動です。実践としてはこうなります。

  • 少なくとも2時間ごとに塗り直す[14]
  • 汗を大量にかいた後、タオルで顔を拭いた後は、その時点で塗り直す
  • 行動時間の長い日は、休憩のたびに塗り直すくらいでちょうどいい

1本を大事に使い切るより、こまめに使って早く空にするほうが、皮膚は守られます。

私が夏山で選んでいるのは、汗・水に強い「UV耐水性★★」のアネッサ。SPF50+・PA++++で顔・からだ両方に使えるので、これ1本を大きめに買って、惜しまず塗り直しています。

UV耐水性の星マークの意味 星1つは合計40分星2つは合計80分の水浴試験に合格しSPFの保持率50%以上が合格基準であることを示す図解 ヤマカルテ

いちばん確実なのは「服」

塗り忘れも、塗りムラも、汗による流出もない防御があります。生地です。

衣類の紫外線防御力はUPF(紫外線防護係数)という指標で表されます。ただしUPFは固定値ではなく、着方で変わることを知っておいてください。

  • 伸ばすと下がる:ニット生地を引っ張ると生地の目が開き、紫外線がすり抜けます。伸ばす割合が大きいほどUPFは下がりました[15]。体にぴったり張り付くシャツは、それだけで防御が落ちます
  • 濡れると下がることがある:水分を含んだ生地は防御力が落ちる傾向があります[16][17]。ただし生地によって程度は違い、「濡れたら必ず駄目」とまでは言えません
  • 目が詰まった生地・厚い生地・色の濃い生地ほど強い[18]

繊維の種類による優劣は、研究によって順位が入れ替わります[17][18]「化繊なら安心」と素材名だけで決めないでください。 織り方・色・厚さのほうが影響します。迷うなら、UPF表示のある長袖を選ぶのが確実です。

サングラスは「色の濃さ」で選ばない

山では、レンズの横から入る光が問題になります。

米国の野外教育機関(NOLS)の記録では雪目を起こした15人のうち、13人はサングラスをかけていませんでした。では残りの2人は? サングラスはかけていたが、サイド(横)の覆いがなかったのです[19]。しかも記録された症例は、1件を除いてすべて山岳地帯や雪のある地形で起きています。

理由は光の入り方にあります。雪渓や岩の多い場所では、紫外線が正面からだけでなく下や横から反射して入ってきます。レンズの横がガラ空きなら、そこは素通しです。

国際山岳救助協議会(ICAR MEDCOM)の勧告も、サイドの覆いがあるサングラス、または雪面ではゴーグルを推奨しています[20]

夏の樹林帯まで神経質になる必要はありません。ただし残雪期・雪渓・森林限界より上の岩稜では、サイドの覆いがあるものを選ぶ価値があります。

サングラス選びで私自身が頼っているのが、岩や砂礫のコントラストを上げてくれるトレイル用レンズ(PRIZM TRAIL)を備えたオークリーです。UV99%カットで、明暗の激しい岩稜でも足元を見極めやすくなります。

サングラスはサイドの覆いが肝心 サイドが開いていると横から光が入り覆うと横からの光を防げることを示す図解 ヤマカルテ

登山の紫外線対策チェックリスト

ここまでを、持ち物と行動に落とし込みます。

塗る

  • 日焼け止めはSPF・PAの表示を確認し、一度で薄く伸ばさず重ねて塗る
  • 「UV耐水性★★」でも過信しない。80分でSPFが半分に落ちても合格する基準
  • 2時間ごと+汗をかいたら塗り直す。耳・うなじ・鼻の下・手の甲を忘れない
  • リップも紫外線で荒れます。SPF入りのリップクリームを1本

着る・かける

  • 薄手の長袖(できればUPF表示のあるもの)+つばの広い帽子。首の後ろを布で覆う
  • サングラスはUVカット99%以上/UV400。雪渓・残雪期・岩稜ではサイドの覆いがあるものかゴーグルを
  • 体にぴったり張り付く服は、それだけで防御が落ちる

歩き方で減らす

  • 紫外線が最も強いのは日中。早出早着は、日焼け対策としても理にかなっている
  • 雪渓・残雪の上では、足元からの反射を意識する。帽子のつばだけでは下からの光を防げない
  • 曇りでも紫外線はある。「晴れていないから」で油断しない

行動中の水分計画は登山の水分量 計算機で、体重と行動時間から概算できます。

まとめ:焼かない工夫は、20年後の自分のため

最後に振り返ります。

  • 山の紫外線は標高で強まる。標高1kmで約7〜24%増え、雪面の反射がそこに上乗せされる
  • 足元を見て歩く登山者の目に入る紫外線は、雪面では最大16倍と推定されている
  • 日焼けは痛みだけの問題ではない。紫外線の影響は年単位で積み上がる
  • 日焼け止めは「量」が命。多くの人は必要量の半分以下しか塗れておらず、実際の防御はラベルの2〜5割にとどまる
  • 2時間ごと+汗をかいたら塗り直す。「UV耐水性★★」でも、80分でSPFが半分に落ちて合格する基準
  • いちばん確実なのは服。ただし引っ張る・濡らすとUPFは下がる
  • サングラスは色の濃さではなくUVカット率で選ぶ。雪面ではサイドの覆いを

日焼け対策は、その日の快適さのためだけではありません。10年20年と山に登り続けるための、地味ですが大切な健康投資です。

塗って、着て、かける。それだけで、次の山行の帰り道が少し軽くなります。日焼けの痛みではなく、景色の記憶を持って帰りましょう。


※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。皮膚のできものや色の変化、治らない傷が気になるときは、自己判断せず皮膚科にご相談ください。強い目の痛みや視力の低下が続く場合も、早めに眼科を受診してください。

参考文献

  1. Blumthaler M, Webb A, et al. 1994. Simultaneous spectroradiometry: A study of solar UV irradiance at two altitudes. Geophysical Research Letters.
  2. Zaratti F, Forno R, et al. 2003. Erythemally weighted UV variations at two high-altitude locations. Journal of Geophysical Research.
  3. Chubarova N, Zhdanova Y, et al. 2016. A new parameterization of the UV irradiance altitude dependence for clear-sky conditions and its application in the on-line UV tool over Northern Eurasia. Atmospheric Chemistry and Physics.
  4. Ambach W, Blumthaler M, et al. 1993. Increase of biologically effective ultraviolet radiation with altitude. Wilderness & Environmental Medicine.
  5. Moehrle M. 2008. Outdoor sports and skin cancer. Clinical Dermatology.
  6. Zink A, Koch E, et al. 2016. Nonmelanoma skin cancer in mountain guides: high prevalence and lack of awareness warrant development of evidence-based prevention tools. Swiss Medical Weekly.
  7. Kristensen I, Schmidt S, et al. 2026. Occupational solar UV-exposure and risk of cutaneous melanoma among Danish workers: A nationwide cohort study. European Journal of Cancer.
  8. Whiteman DC, Williams G, et al. 2026. Occupational Sun Exposure and Melanoma Development: A Review of the Evidence. Australasian Journal of Dermatology.
  9. Maduka R, Tai K, et al. 2022. Indoor Versus Outdoor: Does Occupational Sunlight Exposure Increase Melanoma Risk? A Systematic Review. Journal of Surgical Research.
  10. Bech-Thomsen N, Wulf HC. 1992. Sunbathers’ application of sunscreen is probably inadequate to obtain the sun protection factor assigned to the preparation. Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine.
  11. Petersen B, Wulf H. 2014. Application of sunscreen − theory and reality. Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine.
  12. Stokes R, Diffey B. 1997. How well are sunscreen users protected? Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine.
  13. Le Digabel J, Questel E, et al. 2023. In vivo evaluation of sunscreen application by multispectral imaging: A new tool for educating sunscreen users. Skin Research and Technology.
  14. U.S. Food and Drug Administration. Sunscreen: How to Help Protect Your Skin from the Sun.
  15. Kan C, Yam L, et al. 2013. The Effect of Stretching on Ultraviolet Protection of Cotton and Cotton/Coolmax-Blended Weft Knitted Fabric in a Dry State. Materials.
  16. Gambichler T, Hatch K, et al. 2002. Influence of wetness on the ultraviolet protection factor (UPF) of textiles: in vitro and in vivo measurements. Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine.
  17. Morsümbül S. 2025. UV Protection Properties of Cellulosic-Polyester Blend Fabrics: Effects of Fiber Type and Moisture Content. Tekstil ve Mühendis.
  18. Yam E, Kan C, et al. 2013. The Relationship between Ultraviolet Protection Factor and Fibre Content. Journal of Textile Engineering.
  19. Mcintosh S, Guercio B, et al. 2011. Ultraviolet Keratitis Among Mountaineers and Outdoor Recreationalists. Wilderness & Environmental Medicine.
  20. Ellerton J, Žuljan I, et al. 2009. Eye Problems in Mountain and Remote Areas: Prevention and Onsite Treatment—Official Recommendations of the International Commission for Mountain Emergency Medicine ICAR MEDCOM. Wilderness & Environmental Medicine.
  21. Delic N, Lyons J, et al. 2017. Damaging Effects of Ultraviolet Radiation on the Cornea. Photochemistry and Photobiology.
  22. Izadi M, Jonaidi-Jafari N, et al. 2018. Photokeratitis induced by ultraviolet radiation in travelers: A major health problem. Journal of Postgraduate Medicine.
  23. 日本化粧品工業連合会. 2021. 紫外線防止効果に対する耐水性測定法基準<2021年版>(粧工連通知2021003号).