週末の山の予報に「山頂の風速12m/s」と出ている。晴れているのに、この数字で行っていいのか。風速の数字は、雨の予報より判断がむずかしいものです。

先に結論です。予報の山頂の平均風速が10m/s以上なら稜線の計画を見直し、15m/s以上なら森林限界の上に出ない。これが私の目安です。根拠は、気象庁の風の強さの表と、国立登山研修所のテキストにあります。数字の読み方さえ押さえれば、晴れの日の強風で迷う時間はぐっと減ります。

理学療法士(PT)として10年以上、人が転ぶしくみと立て直す反応を見てきました。登頂140座以上のなかには、風で山頂を諦めた日がいくつもあります。台風が近づく富士山では、剣ヶ峰へ向かう馬の背で風に煽られ、砂地の上で足ごと滑る感覚がありました。そこで引き返しています。

この記事では、風が体と歩行に与える影響を主役にします。風による冷えは夏山の低体温症の記事にまとめているので、ここでは短く触れるだけにします。読み終えたら、次の山行の「引き返す風速」を1つ決めてください。

登山の強風は風速何mから危ない? 森林限界の上の稜線で強風に耐えて重心を低くする登山者と旗雲・レンズ雲 理学療法士が体への影響と引き返す判断を解説 ヤマカルテ

風速何mから危ない?平地の目安と山の目安

登山では、平均風速がおよそ15m/sに近づくと、歩くこと自体が危なくなります。気象庁の「風の強さと吹き方」では、平均風速15〜20m/sの「強い風」で、風に向かって歩けなくなり、転倒する人も出るとされています[1]。

ただし、この表は平地の街なかを想定しています。山ではもう一段早く危なくなります。国立登山研修所のテキストは、平均風速が15m/s前後に達すると、バランスを崩して転滑落するリスクが大きくなると書いています[2]。平地なら「転ぶ」で済む風が、稜線では「落ちる」につながるからです。

下の表の右の列は、こうした資料をもとにした私の判断の目安で、公的な一律の基準ではありません。10m/s未満でも、突風や足場の悪さ、やせ尾根などの地形しだいで危険になります。森林限界(高い木が育たなくなる高さ。ここより上は風をさえぎる物がほとんどない)の上では、とくに余裕を持って判断してください。

予報の平均風速気象庁の表での人への影響[1]山での目安(私の判断基準)
10m/s未満—突風・足場・地形しだいで危険。油断しない
10〜15m/s風に向かって歩きにくい。傘がさせない稜線の計画を見直す(短縮・樹林帯のコースへ)
15〜20m/s風に向かって歩けない。転倒する人も出る森林限界の上に出ない
20m/s以上何かにつかまっていないと立っていられない森林限界を越えること自体が危険[2]

参考までに、街なかの歩行者を調べた風工学の研究も近い数字を出しています。ただし、こちらは平均風速ではなく3秒間の瞬間風速での区分です。高層ビルのふもとの広場で2,000人以上の歩き方を観察した村上らの研究では、3秒間の瞬間風速が10〜15m/sで歩行への影響が「深刻」、15m/sを超えると「きわめて深刻」と区分されました[3]。

登山の強風は風速何m/sから危ないか 平均風速10m/s未満・10〜15m/s・15〜20m/s・20m/s以上の4段で平地の影響と山での目安 稜線の計画を見直す・森林限界の上に出ない 突風は平均の1.5倍程度 ヤマカルテ

強風で体に起きること|突風と横風でバランスを崩す

強風の中で人がとくにバランスを崩しやすいのは、突風や風向きの変化で、風の強さが急に変わった瞬間です。一定の風なら体を傾けて釣り合いを取りやすいのに対し、急な変化には反応が間に合わないことがあります。もちろん、一定の風でも強ければ歩けなくなります。

風の力は、風速の2乗で増える

風が体を押す力は、風速が上がるほど急に大きくなります。風の圧力は風速の2乗に比例し、風工学では16m/sの突風の圧力は、23m/sの突風の半分と整理されています[4]。

つまり、平均10m/sが15m/sになると、体が受ける力はおよそ2.3倍です。「少し強くなった」の体感より、ずっと大きく押されています。同じ研究は、人が最も強く感じるのは平均風速ではなく突風だと述べ、街なかの基準として「23m/sの突風で人が吹き倒され始める」という目安を使っています[4]。山の足場では、これよりずっと弱い風でも危険になります。

立て直しは「足首・股関節・踏み出し」の組み合わせ

人は体の揺れを、3つの反応を状況に応じて組み合わせて立て直しています。

  • 足首:足首を動かす筋肉で、体全体を前後に戻す[5]
  • 股関節:股関節を曲げて、上半身で釣り合いを取る。足場が足の長さより狭いときは、足首の反応がほとんど使えず、こちらに切り替わる[5]
  • 踏み出し:足を一歩踏み出したり、手で何かをつかんだりして、支える面そのものを作り直す[6]

踏み出しは「最後の手段」ではありません。人は体が倒れきるかなり前から、一歩踏み出す反応を選ぶことが多いとわかっています[6]。同じ論文は、横方向に揺さぶられると、踏み出しでの立て直しが難しくなるとも述べています[6]。稜線で受ける横風は、まさにこの状況です。

平地なら、踏み出した先は平らな地面です。山では、その一歩の先が砂礫や浮石、斜面、岩の段差になります。富士山の馬の背で私が感じた「足ごと滑る」感覚は、まさにこれでした。踏み出した足が砂の上で止まらず、立て直しの一歩そのものが滑っていたのです。

強風で体を立て直す3つの反応 足首・股関節・踏み出し 横風を受けると踏み出しでの立て直しが難しくなり山では砂礫や岩で一歩が滑る ヤマカルテ

ザック・体格・子どもで、影響は変わる

同じ風速でも、体が受ける影響は人によって違います。風の影響を受けやすい条件は3つあります。

  • 重いザック:体重の30%のザックを背負って平地を10分歩いた若い成人20人では、そのあと立っているときの姿勢の安定性が下がりました[7]。強風の中を調べた研究ではありませんが、ザックは風を受ける面を広げ、荷物の詰め方によっては重心も高くなるので、風の影響は大きくなると私は考えています
  • 小柄な人・体重の軽い人:受ける風に対して、踏ん張る体の重さが小さくなります
  • 高齢の人・子ども:風工学の安全基準でも、高齢者では耐えられる風速を低く見積もる考え方があります[8]。子どもの体格で突風への応答を推定した研究もあります[9]

子連れ登山では、大人の基準より早めに判断してください。たとえば、子どもが風でふらつく前、親が「歩きにくい」と感じた時点で計画を変えます。チャイルドキャリアを背負う親は、重心が高くなり、背中の子どもの分だけ風を受ける面も増えます。子連れの安全全体は子連れ登山の注意点の記事にまとめています。

風は体温と体力も奪う

強風は、転倒とは別に、体温と体力も奪います。国立登山研修所のテキストは、低体温症による死亡事故は平均風速15m/s以上のときに多発していると書いています[2]。2009年のトムラウシ山の事故でも、平均20m/s前後の暴風雨が続きました[2]。ただし、15m/sは発症の境目ではありません。15m/s未満でも、濡れと低温が重なり、長く行動すれば低体温症は起こります。

風に耐えて歩くこと自体も、ふだんの歩行より体力を使います。冷えのしくみは夏山の低体温症の記事、風で体感温度がどれだけ下がるかは山の気温の記事で詳しく書いています。

風が危ない場所|森林限界の上と、風が変わる地点

強風で危ないのは、風をさえぎる物のない場所と、風の強さや向きが急に変わる場所です。体が慣れた風の状態から、立て直しが間に合わない変化が起きやすいからです。

強風で注意したい山の場所4つ 樹林帯から稜線へ出る地点・やせ尾根と馬の背・岩場とハシゴと鎖場・砂礫や浮石の斜面 ヤマカルテ

国立登山研修所のテキストは、森林限界を越える山では強風による転滑落を最初に考えるべきリスクに挙げています[2]。気象庁も、風速は地形の影響を受け、その場所の風速は近くの観測所の値と大きく異なることがあると注意しています[1]。

山で風に注意したい場所は、次の4つです。

  • 樹林帯から稜線へ出る地点:木に守られていた体が、いきなり風にさらされる
  • やせ尾根・馬の背:両側が切れ落ちていて、踏み出す先が少ない
  • 岩場・ハシゴ・鎖場:手と足が固定され、体を低くする動きが取りにくい
  • 砂礫や浮石の斜面:立て直しの一歩が滑る(富士山の馬の背はこれでした)

岩場や鎖場では、風の影響がさらに大きくなります。北穂高小屋の宿泊記でも、鎖と梯子が続く南稜は梯子や鎖場で風に体をあおられるため、強風の予報が出ている日は行くべきではない条件に挙げました。

山の風速予報の読み方|地上の予報では足りない

山の風速は、地上の天気予報ではわかりません。ふつうの天気予報は麓や街の風速で、山頂や稜線の風は反映されていないことが多いからです。トムラウシ山の事故でも、リーダーが参考にしたのは山頂ではなく山麓の天気予報でした[2]。

予報を見るときは、次の順で確認します。

  1. 山頂の風速を出している山の天気予報を見る。麓の予報で判断しない
  2. 平均風速なのか、瞬間風速なのかを確かめる。気象庁の予報の風速は10分間の平均です。山の天気予報サービスは定義がサービスごとに違うので、説明ページで確かめる。平均なら、突風は1.5倍程度かそれ以上を想定する[1]
  3. 天気図の等圧線の間隔を見る。等圧線の間隔が狭いほど、風は強くなります[2]

国立登山研修所のテキストは、天気図からの目安を次のように示しています[2]。

目的の山のあたりの等圧線の間隔予想される平均風速山での意味
東京〜名古屋の距離より狭い10〜15m/s以上森林限界を越える尾根や稜線の歩行・幕営はリスクが高い
大阪〜名古屋の距離より狭い20〜25m/s以上森林限界を越えること自体が大きなリスク

山の風速予報を見る3つの順 山頂の風速を見る・平均か瞬間かを確かめる・等圧線の間隔を見る 登山口でレンズ雲と旗雲・低い雲の速さを確かめる ヤマカルテ

引き返す判断|風速の数字と、体のサインの両方で決める

強風で引き返すかどうかは、出発前に決めた風速の数字と、歩きながら出る体のサインの2つで決めます。どちらか一方でも基準を超えたら引き返します。

強風で引き返す判断 出発前に引き返す地点と時刻と山頂の平均風速を決める 歩いている最中は歩きにくい・しゃがむ回数が増えた・足が滑る・仲間の声が聞こえないの4つで引き返す ヤマカルテ

出発前:引き返す地点と時刻を決めておく

国立登山研修所のテキストは、地形図から引き返しポイント・エスケープルート・タイムリミットを決めてから登山を始めるよう勧めています[2]。強風の予報が出ている日は、とくに「稜線に出る手前」を引き返しポイントにしてください。

風の予報が微妙な日の計画の立て方は、3つあります。

  • 森林限界の上にいる時間を短くするコースに変える
  • 風が強まる前に稜線を抜けるよう、出発を早める
  • 山頂を目標にしない。稜線の手前の小屋やテント場までと決めて出る

私も、強風の予報で山頂アタックを諦め、途中のテント場で引き返したことがあります。冬山では、風を理由に撤退した回数がいちばん多いです。山頂に立てなかった山行も、無事に帰れたなら計画どおりの1回です。

歩いている最中:この4つが出たら引き返す

予報が外れて、現地の風が強いこともあります。次のサインが1つでも出たら、その先へは進まず、足場の安定した場所で向きを変えて引き返してください。

  • 風に向かって歩きにくい。気象庁の表では平均10〜15m/sの段階です[1]
  • 突風でしゃがむ、岩をつかむ回数が増えてきた
  • 踏み出した足が滑る、足元が流される
  • 仲間の声が風で聞こえない。危険を伝え合えなくなります

判断は、選択肢が多いうちに下すほど楽になります。富士山で私が撤退を決めたのは馬の背でしたが、本当に見直すべきだったのはもっと手前でした。その日の判断の流れは台風接近の富士山で撤退した失敗談に書いています。

強風の中の歩き方|重心を低く、歩幅を小さく

引き返す途中や、稜線を抜けきるまでのあいだは、重心を低くし、歩幅を小さくして歩くのが基本です。踏み出す一歩を小さくしておけば、突風で立て直すときも足を置き直しやすくなります。

強風の中の歩き方 膝を軽く曲げ足幅を広げて重心を低くするよい姿勢と風上に大きく傾けるこわい姿勢の比較 歩幅を小さく・突風でしゃがむ・岩陰で待つ ヤマカルテ

  • 膝を軽く曲げ、足幅を少し広げる。支える面が広いほど、横からの風に強い
  • 歩幅を小さくする。一歩ごとの重心の移動が小さくなり、突風を受けても足を置き直しやすい
  • 突風が来たら、その場でしゃがむ。風上側に体を倒して耐えようとしない
  • 風の弱まる場所で待つ。登山道の上で、足場の安定した岩陰などを選び、突風の合間を見て動く。待つために登山道を外れて斜面へ下りない
  • ザックの外付けを減らす。マットや傘など、風を受ける物を外に出さない

トレッキングポールは、2本使えば支える面を広げられます。ただし、強い風ではポールそのものがあおられます。岩場や鎖場では、ポールをしまって手を空けてください。ポールの基本の使い方はトレッキングポールの使い方の記事にまとめています。

まとめ:引き返す風速を、出発前に1つ決めておく

  • 予報の山頂の平均風速10m/sで稜線の計画を見直し、15m/sで森林限界の上に出ない(私の目安。10m/s未満でも地形と足場しだいで危険)[1][2]
  • 予報の風速は10分間の平均。突風は平均の1.5倍程度になることが多く、不安定なときは3倍以上になる[1]
  • 風の力は風速の2乗で増える。10m/sが15m/sになると、体が受ける力は約2.3倍[4]
  • とくに危ないのは突風や横風で風が急に変わる瞬間。山では立て直しの一歩の先が砂礫や岩で、その一歩が滑る
  • 重いザック・小柄な体・子ども連れは、大人の基準より早めに判断する
  • 予報は麓ではなく山頂の風速で見る。登山口ではレンズ雲と低い雲の速さを確かめる[2]
  • 歩いている最中に「歩きにくい・しゃがむ回数が増える・足が滑る・声が聞こえない」が出たら引き返す

風の予報は、晴れの日ほど見落とします。次の山行の計画を立てるときは、山頂の風速の欄を1つ確かめて、引き返す風速をメモしてから出かけてください。その一行が、稜線で迷う時間を減らしてくれます。

参考文献

  1. 気象庁. 風の強さと吹き方(平成12年8月作成、平成29年9月一部改正). https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kazehyo.html
  2. 猪熊隆之. 2018. 第3編第9章 山の天気. 高等学校登山指導者用テキスト(国立登山研修所/日本スポーツ振興センター). https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/Portals/0/images/contents/syusai/2018/text/text3-9.pdf
  3. Murakami S, Deguchi K. 1981. New criteria for wind effects on pedestrians. Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics 7(3): 289-309.
  4. Melbourne WH. 1978. Criteria for environmental wind conditions. Journal of Industrial Aerodynamics 3: 241-249.
  5. Horak FB, Nashner LM. 1986. Central programming of postural movements: adaptation to altered support-surface configurations. Journal of Neurophysiology 55(6): 1369-1381.
  6. Maki BE, McIlroy WE. 1997. The role of limb movements in maintaining upright stance: the “change-in-support” strategy. Physical Therapy 77(5): 488-507.
  7. Li SSW, Chan OHT, Ng TY, et al. 2019. Effects of backpack and double pack loads on postural stability. Ergonomics 62(4): 537-547.
  8. Vita G, Shu Z, Jesson M, et al. 2020. On the assessment of pedestrian distress in urban winds. Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics 203: 104200.
  9. Jordan SC, Johnson T, Sterling M, Baker CJ. 2008. Evaluating and modelling the response of an individual to a sudden change in wind speed. Building and Environment 43(9): 1521-1534.