岩の上に置いたオリーブ色のフリースとフード付きのダウンジャケット、朝焼けの稜線。登山のミドルレイヤーは着る場面で選ぶ 理学療法士が解説 ヤマカルテ

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フリース、化繊ダウン、ダウン。ミドルレイヤーの売り場で、どれを買えばいいか迷っていませんか。どれも「暖かい服」に見えるので、違いが分かりにくいものです。

先に結論を書きます。ミドルレイヤーは素材より先に、「歩きながら着るか、止まってから着るか」で選びます。 歩きながら着るならフリース、止まってから着るならダウン。雨や汗で濡れやすい山なら、ダウンの代わりに化繊ダウンを選びます。

私は理学療法士(PT)として10年以上、体の動きと体温の関係を臨床で扱ってきました。登山は140座以上、テント泊は27泊です。臨床で診るのは、室温の整った部屋で動く体です。山では、汗をかいて登った体が、稜線の風の中で急に止まります。この「動く→止まる」の落差が、ミドルレイヤー選びの出発点になります。

この記事を読み終えるころには、次の山行に持っていくミドルレイヤーを、使う場面から逆算して決められるようになります。

先に、私が組み合わせて使っている2種類の現行品を紹介します。この2つを選んだ理由は、このあと体が冷えるしくみから説明します。

ミドルレイヤーは「歩くときに着るか、止まったときに着るか」で選ぶ

ミドルレイヤーの3種類は、着る場面で役割が分かれます。 フリースは歩きながら、ダウンは止まっている時間に、化繊ダウンは「ダウンより濡れに強い休憩用の保温着」として使います。

フリース・化繊ダウン・ダウンの出番と強み・弱みを比べた3枚のカード。フリースは歩きながら、化繊ダウンは休憩中と濡れる山、ダウンは止まっている時間 ヤマカルテ

ミドルレイヤーは、肌に触れるベースレイヤーと、雨や風を防ぐアウター(レインウェア)の間に着る服です。役目は、体のまわりに暖かい空気の層をつくることです。3種類の違いを表にまとめます。

フリース化繊ダウンダウン
主な出番歩きながら・休憩の羽織り休憩中・濡れる山止まっている時間
通気性(蒸れの逃がしやすさ)◎△△
同じ重さでの暖かさ△○◎
濡れへの強さ◎◎△
小さく収まるか△○◎
風への強さ△(アウターと重ねる)○○

表は一般的な傾向で、同じ種類でも製品によって差があります。それでも、1着ですべてを満たす素材はありません。どの場面で着る服が足りていないかから考えると、選び方がはっきりします。

肌側のベースレイヤーの選び方は、ベースレイヤーは化繊かメリノかで解説しています。3層はセットで考える装備です。

登山の休憩で冷えると何が起きるか【PT解説】

登山で体が冷えやすいのは、汗をかいたあとに足を止めたときです。 止まると体が熱を作る量が一気に減り、服にたまった汗が体温を奪い始めます。

登りで汗をかき、足を止め、服の汗が体温を奪う3段階。冷えると筋肉が力を出しにくく手の器用さが落ちるので止まる直前に着る ヤマカルテ

気温−2〜5℃の屋外で、1時間歩いたあと1時間立ち止まる試験があります。兵士9人に保温力の違う3種類の服を着てもらい、比べたものです。服の種類と保温力によって、皮膚の温度、服にたまる汗の量、手の器用さに差が出ました[1]。歩いて止まるという、登山の休憩とよく似た流れで確かめられた結果です。ただし対象は若い男性兵士で、手指の温度と器用さは、全身の服とは別に手袋の保温力と作りに大きく左右されました[1]。ミドルレイヤーとは別に、手袋も用意しておきましょう。

寒冷地で軍用の特殊な防護服を重ね着する場面を扱ったレビューとモデル計算でも、同じ流れが指摘されています。寒い中でも激しく動けば体は熱くなりすぎることがあり、服にたまった汗が保温力を下げ、その後じっとしている時間の低体温症のリスクを高める可能性があるというものです[2]。登山服とは条件が違いますが、「汗をかいてから止まると冷える」という流れは同じです。

冷えを防ぐいちばんの方法は、冷える前に着ることです。震え始めてから着ると、体を温め直すのに時間がかかります。ミドルレイヤーは「寒くなったら着る服」ではなく、「止まる直前に着る服」と考えると、出すタイミングを外しません。

フリースは「歩き始めと休憩の羽織り」に向く

フリースは、汗を外へ逃がしながら暖かさを保てるので、歩きながら着るミドルレイヤーに向いています。 繊維が水を吸いにくく、汗で湿っても乾きやすいのも強みです。

一方で、フリースは風を通します。服の保温力は風で大きく下がり、寒冷地向けの多層の生地を機器で測った実験でも、風が強まるほど保温性能が大きく落ちました[6]。フリースそのものを測った結果ではありませんが、風を通しやすいフリースは、この影響をより受けやすい服です。風の強い稜線では、フリースの上にアウターを重ねるのが基本です。凍傷予防の総説でも、風と濡れが保温不足の原因になり、汗をかきすぎないよう調整することがすすめられています[7]。

私は春と秋の山行で、フリースをこう使っています。

  • 歩き始めはベースレイヤー+フリースで出発する(朝の登山口は冷えているため)
  • 体が温まったら途中で脱ぐ(汗をかく前に脱ぐのが目安)
  • 休憩のたびに羽織る(止まった直後の冷えを防ぐため)
  • 夏は北アルプスなどの高い場所で着る(標高が上がると、夏でも稜線は冷える)

フリースの脱ぎ着の流れ。登山口で着る、登りで汗がにじむ前に脱ぐ、休憩で羽織る、風の稜線ではアウターを重ねる ヤマカルテ

脱いだり着たりの回数が多いのが、フリースの使い方の特徴です。だからこそ、蒸れを逃がしやすく、汗で湿っても扱いやすい素材が合っています。

歩きながら着る保温着には、アクティブインサレーションと呼ばれる服もあります。通気性を高めた化繊の中綿を使い、行動中に着ることを想定して作られた保温着です。風への強さや通気性は製品ごとに違いますが、「歩きながら着る服」という点ではフリースと同じ選び方ができます。

ダウンは「止まっている時間」の保温着に向く

ダウンは、同じ重さで比べたときに最も暖かく、小さく収まるので、止まっている時間に着る保温着に向いています。 軽さと暖かさでは、3種類の中でダウンがいちばんです。

ダウンは水鳥の羽毛で、ふくらんで空気をためこむことで、体の熱を逃がしにくくします。ふくらむ力の目安がフィルパワー(FP)で、数字が大きいほど少ない量でよくふくらみます。ただし服全体の暖かさは、フィルパワーだけでなく中綿の量(ダウンの重さ)でも決まります。同じ800FPでも、中綿が少ない薄手のものは、真冬のような寒さには足りません。

ただし、ダウンは歩きながら着るには暖かすぎて、蒸れを逃がしにくい服です。登りで着ると、服の中に湿気がこもります。ダウンは「止まっている時間に着て、体が温まってきたら脱ぐ」服と考えると、失敗しません。早朝の歩き始めのように、体が温まるまでの短い時間なら着て歩いても大丈夫です。

私はモンベルのライトアルパインダウン パーカ(フード付き・800フィルパワー)と、同じシリーズのダウンパンツを組み合わせて使っています。着る場面は、大きく3つに分けられます。

ダウンを着る3つの場面。日帰りの休憩・山頂と早朝の歩き始め、泊まりの山の小屋到着・設営炊事・ご来光待ち・寝袋の中、万一動けなくなったときのツェルトの中 ヤマカルテ

日帰りでも、止まる時間に着る

  • 休憩や山頂でゆっくり過ごすとき(春と秋の標高の高い場所ではとくに)
  • 早朝の歩き始め(体が温まるまでの短い時間)

泊まりの山では、出番が一気に増える

  • 小屋やテント場に着いたらすぐ(歩き終えた直後は、汗が冷えやすい)
  • テントの設営・撤収や、朝晩の炊事
  • 星空をながめる時間
  • ご来光待ち(じっと立って待つので、最も冷える時間)
  • 寝袋の中(冷え込む夜に、寝袋の暖かさを補う)

夏でも、テント場は夕方から夜にかけて一気に冷えます。泊まりの山行では、ダウンを着ている時間のほうが長い日もあるほどです。寝袋の中で着るときは、中が窮屈にならないかを確かめてください。ダウンも寝袋も、押しつぶされるとふくらみが減り、暖かさが落ちます。

テント泊やご来光待ちでは、ダウンパンツもあると快適です。上半身だけ暖かくしても、脚が冷えると体全体が冷えていきます。止まっている時間が長い山行ほど、下半身の保温の出番が増えます。私が使っているのはモンベルのライトアルパイン ダウンパンツで、上のパーカと同じ800フィルパワーのダウンです。

万一、動けなくなったときに体温を守る

けがや道迷いで動けなくなったときも、ダウンが体温を守ります。ツェルト(簡易テント)の中で羽織り、ツェルトがなければダウンの上に雨具を重ねて、風と濡れを防ぎます。日帰りでもダウンをザックに入れておく理由は、ここにあります。ツェルトとの組み合わせ方は、ツェルトとエマージェンシーシートの違いで解説しています。

化繊ダウンは「濡れる山」の保険になる

化繊ダウンは、ダウンより濡れに強く保温力を保ちやすいので、雨や汗で濡れやすい山行ではダウンの代わりになります。 羽毛を使わず、中綿がポリエステルなどの化学繊維でできた保温着で、水を吸いにくいのが特徴です。

ダウンと化繊ダウンの中綿の断面比較。濡れるとダウンは羽毛がつぶれ、化繊はつぶれにくい。乾いた寒さはダウン、濡れる心配があれば化繊ダウン ヤマカルテ

ダウンの弱点は水です。羽毛は水を吸うとつぶれてしまい、ふくらみが戻りにくくなります。ふくらみが失われると、空気の層ができず、暖かさも落ちます。化繊の中綿は水を吸いにくく、湿ってもつぶれにくい素材です。

次のような山行なら、ダウンより化繊ダウンが安心です。

  • 雨の多い山域や、天気が崩れやすい季節
  • 汗をかいた体のまま、すぐに羽織る使い方(休憩のたびに着る人)
  • 山小屋に泊まらず、乾かす場所がない山行

ただし、化繊ダウンも濡れれば冷えます。雨具を重ね、ザックの中では防水袋に入れておくのは、ダウンと同じです。そのかわり化繊ダウンは、同じ暖かさならダウンより重く、かさばります。乾いた寒さならダウン、濡れる心配があるなら化繊ダウン。この1点で選び分けると迷いません。

雨の日の山行そのものの判断は、雨予報の登山、行くかやめるか、雨具の選び方は登山レインウェアの選び方で解説しています。

登山のミドルレイヤーの組み合わせ方:季節と山行別の早見表

ミドルレイヤーは1着を選ぶより、フリースとダウンを組み合わせて使うほうが、多くの山行に対応できます。 歩きながらはフリース、止まったらダウン、という役割分担です。

季節と山行別のミドルレイヤーの組み合わせ早見表。夏の低い山、夏のアルプス、春秋の山、テント泊・ご来光待ち、雨が多い山行ごとに歩きながらと止まっている時間の服 ヤマカルテ

山行歩きながら止まっている時間
夏の低い山(日帰り)ベースレイヤーのみ薄手のフリース(なくてもよい日もある)
夏のアルプス・高い山ベースレイヤー(稜線でフリース)フリース+軽量ダウン
春・秋の山歩き始めはフリース→途中で脱ぐフリース+ダウン
テント泊・ご来光待ちフリースダウンジャケット+ダウンパンツ
雨が多い・濡れやすい山行フリース化繊ダウン

表は目安です。同じ「ダウン」でも厚さはさまざまなので、予報の気温・風・休憩の長さに合わせて厚さを選んでください。

標高が上がると、気温は100mごとに約0.6℃下がります。登山口で暖かくても、山頂や稜線では季節が一つ戻ったような寒さになることがあります。詳しくは標高が100m上がると気温は何℃下がる?をご覧ください。

富士山のように、登りで汗をかき、山頂で強風とご来光待ちが重なる山では、この組み合わせ方がそのまま生きます。富士山の具体的な服装は富士山の服装とレイヤリングで解説しています。行程・季節・山域を選ぶと必要な装備が並ぶ登山の装備チェックリストでも、防寒着の要否を確かめられます。

まとめ:ミドルレイヤーは「着る場面」から選ぶ

  • ミドルレイヤーは素材より先に、歩きながら着るか、止まってから着るかで選ぶ
  • 登山で冷えやすいのは、汗をかいたあとに止まったとき。冷えると筋肉は力を出しにくくなり、手の器用さも落ちる
  • フリースは通気性があり、歩き始めと休憩の羽織りに向く。風には弱いのでアウターと重ねる
  • ダウンは軽くて最も暖かく、休憩・泊まりの山・万一動けなくなったときなど、止まっている時間に向く
  • 化繊ダウンはダウンより濡れに強く、雨や汗で濡れやすい山行の保険になる
  • 迷ったら、フリースとダウンを1着ずつ。多くの山行はこの組み合わせで対応できる

次の山行では、休憩で足を止めたら、冷えを感じる前にミドルレイヤーを羽織ってみてください。「寒くなってから着る」を「止まったらすぐ着る」に変えるだけで、休憩の過ごし方が変わります。

参考文献

  1. Renberg et al., 2026. Choice of cold weather combat clothing affects manual performance, body temperatures and comfort in a sub-Arctic climate. International Journal of Occupational Safety and Ergonomics.
  2. Young et al., 2000. Physiological problems associated with wearing NBC protective clothing during cold weather. Aviation, Space, and Environmental Medicine.
  3. Castellani & Tipton, 2015. Cold Stress Effects on Exposure Tolerance and Exercise Performance. Comprehensive Physiology.
  4. Sargeant, 1987. Effect of muscle temperature on leg extension force and short-term power output in humans. European Journal of Applied Physiology and Occupational Physiology.
  5. Chen et al., 2010. Hand and finger dexterity as a function of skin temperature, EMG, and ambient condition. Human Factors.
  6. Zemzem et al., 2023. Thermal Insulation of Protective Clothing Materials in Extreme Cold Conditions. Safety and Health at Work.
  7. Rintamäki, 2000. Predisposing factors and prevention of frostbite. International Journal of Circumpolar Health.
  8. Haymes et al., 1982. Effects of wind on the thermal and metabolic responses to exercise in the cold. Medicine and Science in Sports and Exercise.