
「山の落雷は運次第」——そう思っていませんか。
私も同じでした。街で暮らしていて雷に打たれるなんて、ほぼあり得ない。想像したこともなかったのです。
その考えが変わったのは、初めて北アルプスに登った日でした。西穂高岳の独標へ向かう登山道の脇に、小さな石碑があったのです。
理学療法士(PT)として体のことを見てきた立場で、そして登頂140座以上を歩いてきた登山者として、落雷を調べ直しました。分かったのは、落雷の被害は運任せではなく、しくみがあるということです。直撃はごくわずか。多くは地面を伝わってきます。だからこそ、事前に打てる手がある。
この記事では、雷から身を守る判断の基準と、それでも打たれてしまったときに何が起きるか、同行者を助けるために何ができるかまでを整理します。雷をゼロにはできませんが、遭う確率と被害は下げられます。 読み終えるころには、夏山の空を見上げたときに「いつ引き返すか」を自分で決められるようになります。
独標の下で見た、小さな石碑
2018年7月22日。本格的に登山を始めて4回目の山行、初めての北アルプスでした。
新穂高ロープウェイから歩き出し、西穂山荘を過ぎ、丸山からハイマツの稜線へ。買ったばかりのヘルメットをかぶって岩場に取り付き、独標の南側直下まで来たとき、登山道のすぐ脇にそれはありました。
黒い石の板に、こう刻まれていました。

そのときは「ここで亡くなった方がいるんだ」と思っただけでした。山で慰霊碑を見ること自体が初めてで、意味を受け止めきれていなかったのだと思います。
数分後、独標の頂上に着きました。休憩しながら、なんとなくスマホで調べてみたのです。
そこで手が止まりました。想像していたより、はるかに大きな事故でした。
その日、私が歩いていた一帯で、11人が亡くなっていた。しかもその全員が、私と同じように登山道を歩いていた高校生と先生たちでした。
見上げた空は、雲ひとつない快晴でした。この空が雷雨だったら、そんなに恐ろしいことになるのか——。山では天候そのものが脅威なのだと、このとき初めて知りました。
自然の美しさと恐ろしさ、その二つの顔を同じ日に知りました。山をもっと好きになると同時に、安全登山への心構えが身についた日でもあります。
1967年8月1日、西穂高岳独標で何が起きたか
この事故は、日本気象学会の機関誌『天気』に、松本測候所の職員による詳細な解析が残されています[1]。事故直後に現地の地形を測量してまとめられたものです。以下はその報告に基づきます。
快晴の朝から、13時40分まで
被災したのは松本深志高校のパーティー。教員5名と2年生50名でした。報告は「落雷事故としては史上前例のない大量遭難」と記しています。死者11名、重軽傷者12名。しびれや軽い火傷を負った人は十数名にのぼりました。
注目してほしいのは、その日の天気の移り変わりです。
| 時刻 | 状況 |
|---|---|
| 7:00 | 上高地を出発。快晴 |
| 9:25 | 西穂山荘着。快晴。焼岳方面に雲が浮き始める |
| 9:50 | 山荘発。絹雲がたなびき始め、周囲の山頂に雲が発生 |
| 10:45 | 独標着。快晴に近いが、周囲の山に積雲がかなり発生し発達 |
| 11:25 | 独標発。徳沢・明神方面では雨が降っていたが、気づいていなかった |
| 12:25 | 西穂高岳の頂上着。ガスで展望なし |
| 12:45 | 大粒の雨。下山開始(第1の雷雲通過) |
| 13:10 | 雨がやみ、雲が切れて上高地が見えた |
| 13:20 | 急に暗くなり再び雨。雹を伴う強い雨。発雷 |
| 13:40 | 先頭が独標を越えた地点で落雷 |
朝は完全な快晴です。その日、長野県一帯は高気圧に覆われていました。
ただし上空には冷たい空気が入り込み、大気は不安定でした。報告によれば、9時の観測による安定指数は「県下で−3〜4で非常に悪かった」。穂高一帯では、小豆大の雹が地面が白くなるほど積もったといいます。
予兆は10時前から出ていました。 絹雲がたなびき、周囲の山頂に積雲が育っていく。11時台には隣の谷で雨が降っていた。そして12時45分に一度雨に降られ、13時10分にはいったん晴れ間さえ見えています。
その30分後でした。

被害がなぜ北斜面に集中したのか
この報告がとくに貴重なのは、被害の分布を地形から解析している点です。
落雷したのは独標の頂上付近と推定されています。ところが大きな被害が出たのは、頂上でも鎖場でもなく、北斜面でした。
報告の解析はこうです。落雷の電流は、落ちた地点から四方に広がって地面へ流れます。そのとき最も抵抗の少ない方向に主流が流れる。独標の頂上は岩場で抵抗が大きいため、電流は雨を伝って低いほうへ向かいました。
北斜面の下り口は、数メートルの溝になっていました。そこに、下半身がずぶ濡れになった23人が、約26メートルの距離に並んでいたのです。
報告は、この列が「避雷針の誘導銅線のような役目をはたした」と表現しています。
そして被害の重さを分けたのは、わずかな地形の差だったと報告は推定しています。
- 亡くなった方々は、電流が流れたと推定される線上に並んでいた。上から見て全身をさらす位置にあたる
- その線から外れた人は、衝撃を受けて倒れたり火傷を負ったりしたが、多くが助かっている
- 線上にいながら助かった人もいた。上部の岩に体が隠れる位置にいた人、60センチの段差の下にいた人

金属の影響も記録されています。ある登山者のリュックの中では、洋傘と食器に電流が流れた跡が残っていました。別の人のアルミ水筒と食器には、米粒大の穴が開いていたといいます。
なお、この解析について著者自身が「実証は出来ないからこれが正しいという結論は出来ない」と明記しています。ひとつの有力な考え方として読んでください。
落雷は「直撃」だけではない——むしろ直撃は5%
西穂の事故は、決して特殊な事例ではありません。落雷で人が傷つくしくみは、直撃だけではないのです。まず、割合を見てください。

米国のWilderness Medical Society(原野医学会)がまとめた落雷ガイドラインは、受傷の経路を5つに分類しています[2]。
| 経路 | 何が起きるか | 割合 |
|---|---|---|
| 地面を伝わる電流 | 近くに落ちた雷の電流が、地面を通って体に入る | 約半分 |
| 側撃 | 木などに落ちた電流が、そこから人に飛び移る | 約3分の1 |
| 直撃 | 体に直接落ちる | 約5% |
| 接触 | 雷が落ちた物体に触れていた | — |
| 上向きの放電 | 地面から上向きに流れる電流が体を通る | — |
直撃は、わずか5%です。
つまり「自分に直接落ちなければ大丈夫」という前提が、そもそも成り立ちません。西穂で起きたことは、統計的にはむしろ典型的な受傷パターンだったわけです。
この事実は、対策の考え方を変えます。高い物から離れるだけでは足りない。地面を伝わってくる電流と、飛び移ってくる電流まで想定する必要があります。
打たれる前に決める——避難の判断基準
落雷対策の核心は、実は「雷が鳴ってから」ではありません。鳴る前に、どこにいるかです。判断の軸は5つあります。

時間で決める:午後2時までに下山
原野医学会のガイドラインは、登山者向けの行動計画をこう表現しています[2]。
up by noon and down by two(正午までに登頂し、午後2時までに下山する)
理由は単純で、午後が雷雨の最頻時間帯だからです。
日射で地面が暖められ、上空に冷たい空気があると、大気が不安定になって積乱雲が育ちます。この積乱雲が、雷を生みます[4]。だから午後に高いところにいること自体がリスクになる。
西穂の事故が13時40分だったことを思い出してください。オーストリア・アルプスの10年間の調査でも、落雷事故は正午から午後10時に集中していました[5]。
早出早着は、体力のためだけの原則ではありません。
音で決める:雷鳴が聞こえたら避難
「光ってから音までの秒数で距離を測る」という方法を聞いたことがあるかもしれません。西穂の報告も、1967年当時の教訓として「音と光の間隔が10秒以内なら退避を急ぐこと」と書いています[1]。
ただし現在の国際的なガイドラインは、この方法を採用していません。計算を間違えたり、対応が遅れたりして、かえって安心してしまう危険があるためです[2]。
現在の基準はもっと単純です。
- 雷鳴が聞こえたら、その時点で避難を始める
- 再開するのは、最後の雷鳴から30分以上経ってから(気象庁は「雷の活動が止んで20分以上」としています[3]。安全側に取るなら30分)
目で決める:積乱雲が近づくサイン
気象庁は、積乱雲の接近を示すサインを3つ挙げています[6]。
- 真っ黒い雲が近づいてきた
- 雷の音が聞こえてきた
- 急に冷たい風が吹いてきた
西穂の記録では「一陣の強い風が長野県側から吹き出す」と同時に、雹を伴う強い雨になっています。帽子を飛ばされた人が2〜3人いたといいます。
場所で決める:どこへ逃げるか
逃げ込む先には、はっきりした優先順位があります。上から順に、届く範囲でいちばん上を選んでください。
| 優先 | 場所 | 補足 |
|---|---|---|
| 1 | 鉄筋コンクリートの建物、木造建築の内部(山小屋を含む)[3] | 壁・天井・電気器具からは離れる |
| 2 | 窓とドアを閉めた自動車・バス[2] | オープンカーや幌の車は不可 |
| 3 | 深い森の中、深い谷 | 建物の代わりにはならない。ほかに何もないときの相対的な選択肢 |
大事なのは、3番目は「安全な場所」ではないということです。開けた尾根よりましというだけで、建物や車の代わりにはなりません。だからこそ、山小屋の位置を頭に入れて行動計画を立てることが対策の一部になります。
そして、避けたい場所です。
- 尾根、山頂、開けた場所
- 孤立した木、高い物体
- 浅い洞窟や岩小屋の入り口、テント[2]
意外に思われるかもしれませんが、テントは保護になりません。岩陰の入り口も同様です。
人と人の距離を空ける
これは見落とされやすく、しかも西穂の事故が直接教えてくれることです。
原野医学会は、パーティーのメンバーを6メートル(20フィート)以上離すよう推奨しています[2]。雷は物体間を最大4.5メートルほど飛び移るためです。
そして西穂の報告も、同じ結論に達していました。
1967年の日本の現場検証と、現在の国際ガイドラインが、同じことを言っています。危険な地形で間隔を詰める判断は、転落には効いても、落雷では裏目に出ます。
「雷しゃがみ」は安全な姿勢ではない
雷が来たら姿勢を低くしてしゃがむ——いわゆる雷しゃがみ(lightning crouch)は、日本の登山では定番として語られてきました。
ただ、その位置づけは思われているより低いことを知っておいてください。
原野医学会のガイドラインは、この姿勢を推奨グレード2C(弱い推奨・低品質のエビデンス)として、こう限定しています[2]。
最後の手段としての戦略であり、決して初級予防として依存すべきではない
「しゃがめば助かる」ではなく、「もう逃げ場がないときの最終手段」という位置づけです。
興味深いことに、1967年の西穂の報告でも、著者は「低地に身をひそめること」を教訓に挙げつつ、こう書き添えていました。
60年近く前の現場から、すでに留保がついていたわけです。
姿勢を低くすること自体は無意味ではありません。気象庁も「姿勢を低くして、持ち物は体より高く突き出さない」ようにと書いています[3]。ポールを立てて持つのは避けてください。
原野医学会は、この姿勢のねらいを「地面と接する点をひとつだけにすること」と説明しています[2]。両ひざと両足を閉じて接触させるのは、地面を伝う電流が両足のあいだに電位差を作るのを防ぐためです。
さらに接地点を減らす方法として、ザック(金属を抜いたもの)や乾いたロープ、丸めたマットの上に座り、足を地面から浮かせることも挙げられています[2]。
やるとなったときのために、図にしておきます。

ただ、勘違いしないでください。この姿勢は「打たれても大丈夫」にしてくれるものではありません。電流が体を通る量を、いくらか減らせるかもしれないという程度のものです。
だからこそ、しゃがむ前にやるべきことがある。それが時間・音・場所の判断です。ここまで見てきた対策を、優先順位の順に並べておきます。

打たれると、体に何が起きるのか
ここからは理学療法士としての領域に入ります。読むのがつらければ、次の章まで飛ばしてもかまいません。ただ、知っているかどうかで助けられる可能性が変わる内容です。
急性期に命を奪うのは、心停止と呼吸停止
落雷というと全身の大やけどを想像しがちですが、実際は違います。
電流が流れる時間は10〜100ミリ秒ときわめて短く、体に移るエネルギーは限られます[2]。落雷を受けて熱傷ユニットに入院した16人を調べた報告でも、皮膚移植が必要なほどのやけどを負っていたのは10%だけでした。
急性期の主な致死機序は、心停止と呼吸停止です[8]。
- 心停止:電流が心臓の拍動を止める
- 呼吸停止:脳の延髄にある呼吸中枢が抑えられ、呼吸が止まる
もちろん、これがすべてではありません。転落などの外傷、神経の障害、目や耳の障害も起こります。ただ、その場で命に関わるのはこの2つです。
米国で落雷を受けて入院にいたった975例を分析した研究では、院内死亡率は5.25%でした。ただし、心停止を伴った場合の死亡率は50.0%、伴わない場合は3.44%と大きく開きます[9]。
心臓は戻っても、呼吸が戻らない
ここが最も重要な点です。
落雷による心停止では、心拍と血液循環の回復が、呼吸の回復に先行することが多いと報告されています[8]。心臓が自力で動き出しても、呼吸中枢の麻痺だけが残る時間がある。
つまり、呼吸を助けなければ、いったん戻った心臓がまた止まってしまう。
裏を返せば、死んだように見える人でも、換気と心肺蘇生をすぐ始めれば助かる可能性があるということです。

動けない=致命的とは限らない
落雷の後、一過性の脱力や麻痺が起きることがあります。ケラウノパラリシスと呼ばれる現象です[10]。
- 多くは下肢に出る
- 数時間から数日で自然に回復することが多い
- 血管が強く収縮することが原因と考えられている
- 見た目は脊髄損傷や下肢の血流障害に似て、蒼白になったり脈が触れにくくなったりする
西穂の報告にも、それらしい記述があります。北斜面に待避していた一般登山者が、「パリッ」という音のあと「全身しびれ動けなくなった」と証言しています[1]。
同行者が打たれたら——通常とは逆の優先順位
複数人が被災したとき、落雷では普通の災害と逆の判断をします。ここだけは、覚えて帰ってください。

通常のトリアージでは、助かる見込みの高い人から手当てします。ところが原野医学会のガイドラインは、落雷ではこう推奨しています(グレード1C)[2]。
優先順位は、最初は自発呼吸のない人に与える
これをリバーストリアージと呼びます。
理由は、ここまで読んでいただいた通りです。落雷の死は受傷直後の不整脈と呼吸不全で起こる。だから見かけの死が、まだ元に戻せる状態でありうるのです[8]。
その前に、ひとつ誤解を解いておきます。
そのうえで、現場でやることを整理します。
- 自分と周囲の安全を確保する(雷雲が去っていない場所に留まらない。二次被害を防ぐことが最優先)
- 119番・救助要請。山では携帯の電波と位置情報を確認する
- 反応と呼吸を確認し、なければすぐに心肺蘇生を始める。通報時の指示に従う
- 複数の被災者がいるなら、呼吸をしていない人から
- 山小屋などにAEDがあれば使用する
やることは、普通の一次救命処置と同じです。落雷だからといって特別な手技は要りません。違うのは、複数人いるときの優先順位だけです。
生き延びたあとに残るもの
落雷は、その場を生き延びて終わりではありません。ここは理学療法士として、いちばん伝えたい部分です。
報告されている後遺症は、神経と神経心理の領域に集中しています[11]。
- 認知機能の変化、記憶の問題
- 慢性的な痛み、しびれ、脱力
- うつ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)
- 仕事や社会的な役割が続けられなくなること
電撃傷を負った人を追跡した調査では、生存者の24%に慢性疼痛が残っていました[12]。落雷後に、生検で確認された末梢神経の障害が報告された例もあります。
やっかいなのは、受傷から数か月から数年たって現れることがある点です[13]。
ただし、全員に後遺症が残るわけではありません。熱傷センターで10人の生存者を追跡した研究では、落雷に帰する神経・眼・平衡感覚・心理の障害は認められませんでした[14]。

数字で見る、登山者と落雷
最後に全体像を押さえます。以下はすべて海外の調査です。 国も期間も対象も異なるので、横に並べて比べるのではなく、それぞれ何を示した数字なのかを見てください。
| 対象・地域 | 期間 | 何の数字か | 結果 |
|---|---|---|---|
| 世界全体[2] | — | 年間の落雷による死亡(推定) | 約24,000人(負傷はその約10倍) |
| 世界全体[2] | — | 落雷被害者の属性 | 80%以上が男性/ピーク年齢20〜45歳/90%以上が5〜9月 |
| 米国[5] | 2006〜2013年 | 落雷死のうち屋外レジャー中の割合 | ほぼ3分の2 |
| 英国[5] | 30年間 | 落雷死のうち屋外レジャー・レクリエーション・スポーツ中の割合 | 72%(丘陵・山歩きが主要な寄与) |
| オーストリア・アルプス[5] | 10年間 | 落雷被害64人の内訳 | 63人がレクリエーション中(大半がハイキング)/事故は6〜8月・正午〜22時に集中 |
| スイス・アルプス[5] | — | 山岳での落雷症例 | ハイキング中8件/高所登山中15件(うち死亡2件)。典型は露出した地形にいた30〜40代の男性 |
問題はハイキングか登山かではなく、曝露です。 標高が高く、人里から遠く、午後に雷雨が来て、近くに逃げ込める建物がない。この条件がそろう場所を、私たちは週末に歩いています。

まとめ:雷は運任せではないが、ゼロにもできない
- 直撃はわずか5%。約半分は地面を伝わる電流、約3分の1は側撃。「自分に落ちなければ大丈夫」は成り立たない
- 午後2時までに下山を目安にする。落雷は午後に集中する
- 雷鳴が聞こえたら避難を始める。再開は最後の雷鳴から30分以上あけて
- 逃げ込む先は優先順位で選ぶ。①建物・山小屋 ②窓を閉めた車 ③それもなければ深い森や谷。3番目は「安全な場所」ではない
- 木の下は危険。幹・枝・葉から2m以上離れる。テントや浅い岩陰も保護にならない
- パーティーは6m以上離れる。西穂の記録でも、間隔を詰めたことが被害を広げた可能性が指摘されている
- 雷しゃがみは最後の手段。「しゃがめば安全」ではない
- 急性期に命を奪うのは熱傷ではなく心停止と呼吸停止。心臓が戻っても呼吸が戻らない時間がある
- 同行者が被災したら呼吸をしていない人を最優先(リバーストリアージ)。触れても感電しない
- 生き延びたあとも痛みやしびれが残ることがある。続くなら専門職につなぐ
西穂の慰霊碑を見たあの日、私は自然の美しさと恐ろしさを同時に知りました。あれから登り続けていますが、山を怖がるようになったわけではありません。引き返す基準を持てるようになっただけです。
正直に書いておきます。雷を完全に避けきることはできません。 絶対に安全な場所は山にはなく、急変を読みきれないこともあります。それでも、遭う確率と、遭ったときの被害は下げられます。 午後の高所を避け、雷鳴が聞こえたら動き、逃げ込む先を先に決めておく。できるのはその積み重ねです。
今度の週末、出発前に雷ナウキャストを開くところから始めてみてください。
天候の判断については、台風接近の富士山で撤退した話にも私の失敗を書いています。持ち物の全体像を整えるなら登山の装備チェックリストもどうぞ。今回の舞台になった山そのものについては、西穂高岳の登頂記をご覧ください。
参考文献
- 井村宇一郎, 1967. 1967年8月1日西穂高落雷遭難. 天気 14(12), 449-454. 日本気象学会.
- Davis C, Engeln A, Johnson EL, et al., 2014. Wilderness Medical Society Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Lightning Injuries: 2014 Update. Wilderness & Environmental Medicine.
- 気象庁. 雷から身を守るには. 気象庁ホームページ.
- 気象庁. 雷とは. 気象庁ホームページ.
- Ströhle M, Wallner B, et al., 2018. Lightning accidents in the Austrian Alps – a 10-year retrospective nationwide analysis. Scandinavian Journal of Trauma, Resuscitation and Emergency Medicine.
- 気象庁. 急な大雨や雷・竜巻から身を守るために——積乱雲が近づくサインを見逃さない. 気象庁ホームページ.
- 気象庁. 雷ナウキャストとは. 気象庁ホームページ.
- Hiestand D, Colice G, 1988. Lightning-strike Injury. Journal of Intensive Care Medicine.
- Stringer B, Tandon V, et al., 2019. Thunderstuck: A National Analysis of Cardiac Arrhythmias from Lightning-Related Injury. Chest.
- Kumar A, Srinivas V, et al., 2012. Keraunoparalysis: What a neurosurgeon should know about it? Journal of Craniovertebral Junction and Spine.
- Cherington M, 2005. Spectrum of neurologic complications of lightning injuries. NeuroRehabilitation.
- Backhaus R, Kirzinger L, et al., 2015. Small fiber neuropathy after lightning injuries. Clinical Neurophysiology.
- Wesner M, Hickie J, 2013. Long-term sequelae of electrical injury. Canadian Family Physician.
- Muehlberger T, Vogt PM, et al., 2001. The long-term consequences of lightning injuries. Burns.