登山のシャリバテを防ぐ行動食 量・種類・タイミングを理学療法士が解説 ヤマカルテ

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長い登りの途中で、急に足が上がらなくなる。頭がぼんやりして、地図を読むのも億劫になる。そんな「シャリバテ」を経験したことはありませんか。あるいは、そうなるのが怖くて、行動食を何となく口に入れているだけの人もいるかもしれません。

シャリバテには、体と脳のエネルギー切れが大きく関わります。そして厄介なのは、脚が動かなくなるだけでなく、判断力まで鈍りやすいこと。注意力が落ちれば、道迷いや転倒のリスクにもつながりかねません。

この記事では、理学療法士(PT)として運動生理を扱ってきた立場から、シャリバテが起きるしくみと、行動食の「量・種類・タイミング」を研究データにもとづいて整理します。読み終えるころには、次の登山でいつ・何を・どれだけ食べればいいかが、はっきり決まっているはずです。

シャリバテ(エネルギー切れ)の正体──体にたくわえた糖が足りなくなる

シャリバテには、体を動かす主な燃料であるの不足が大きく関わります。体の中での主要な糖は、筋肉に貯蔵される「筋グリコーゲン」、肝臓に貯蔵される「肝グリコーゲン」、血液中を流れる「血糖」という主に3種類の異なる形で存在しています(ここに挙げている形以外にも存在しますが相対的に量が多い3種類を挙げています)。

シャリバテの正体は糖の枯渇 筋グリコーゲン・肝グリコーゲン・血糖の3つと枯渇の流れ ヤマカルテ

簡単に説明すると、筋グリコーゲンは筋肉が自分で使うための糖、肝グリコーゲンは血糖を調整するための糖、血糖は今まさに消費(もしくは筋肉へ貯蔵)するための糖です。

運動を始めて最初の1時間ほどは、筋グリコーゲンが燃料の主役をつとめます。ところが長く動き続けると、この筋グリコーゲンが減っていきます。すると今度は血糖の取り込みが増え、血糖が燃料の中心に移っていきます[1]

問題は、その血糖を支える肝臓の蓄えにも限りがあることです。空腹のまま長時間動くと、肝グリコーゲンが底をつき、血糖そのものが下がっていきます[1]。こうして筋グリコーゲンの枯渇か、血糖の低下(低血糖)か、そのどちらかが起きると、糖をエネルギーに変える流れが細り、疲労困憊にいたります[2]。実験でも、糖質を補給せずに自転車をこぎ続けた人は約3時間で力尽き、その直前に血糖が大きく下がっていました[3]

シャリバテは「気合いが足りない」せいではありません。燃料が足りなくなれば、鍛えた人でも脚は重くなります。

さらに近年の研究では、単純な「燃料切れ」だけでは説明できないことも分かってきました。筋グリコーゲンが少なくなると、筋肉を収縮させるためのカルシウムの放出がうまくいかなくなるのです[4]。つまり、貯蔵エネルギーが減ること自体が、筋肉に「もう力を出すな」とブレーキをかけるしくみが備わっているらしい、ということです。タンクが空に近づくと、車が勝手に減速するイメージに近いかもしれません。

なぜ登山はエネルギーが枯渇しやすいのか

同じ運動でも、登山はとりわけ糖を消耗しやすい活動です。理由は3つあります。

登山はなぜエネルギーが枯れやすいか 上りと荷物・長い行動時間・暑さの3つの理由 ヤマカルテ

1つ目は、上りと荷物の負担が大きいこと。 平地を歩くのに比べ、坂を登るとエネルギー消費は跳ね上がります。しかも背負った荷物は、体重が増えたのと同じだけ余分なコストを生みます[5]。ある予測モデルでは、消費を決める最大の要素は「勾配」、次いで「荷重」だとされています[6]。急登でザックが重いほど、燃料の減りは速くなります。

2つ目は、行動時間が長いこと。 日帰りでも数時間、テント泊なら丸一日以上動き続けます。時間が延びるほど筋グリコーゲンは減り、血糖への依存が強まります[1]。短時間のジョギングとは、消耗のスケールが違います。

3つ目は、暑さ。 夏山で体温が上がると、糖の分解が進みやすくなります[7]。暑さは体温上昇・脱水・「きつさ」の感覚を通じて、疲労を早める方向に働きます。程度は運動強度や暑さへの慣れ、水分状態でも変わりますが、暑い日は糖質の消費も増える可能性があると考えておくと安全です。夏山では熱中症とエネルギー切れが同時にリスクとなるので、夏山の熱中症対策とあわせて備えておくと安心です。

こうして「勾配・荷重・時間・暑さ」が重なるのが登山です。街での運動より、はるかに糖が枯渇しやすい条件がそろっています。

見落とされがちな「頭のバテ」──判断力が鈍るという危険

シャリバテで見落とされがちなのが、脚だけでなく頭の働きも鈍りやすいことです。ここはあまり語られませんが、安全を左右する大事な話です。

血糖が下がると、脳から筋肉への指令(中枢神経の働き)が弱まることがあります。持久系能力の高い男性8人が3時間自転車をこいだ実験では、糖質を補給しなかった条件で血糖が下がり、最大の力を出したときの筋力が明らかに落ちました。しかもその力の低下は、脳からの指令そのものが弱まったことと結びついていました[8]。逆に、糖質を摂って血糖を保った条件では、この落ち込みは起きませんでした。

脳のしくみを調べた研究でも、長時間の運動で低血糖になると、脳が使える燃料が細り、同じ運動でも「きつい」と感じやすくなることが示されています[9]。さらに動物を使った研究では、長く運動して低血糖になると、脳にたくわえられたグリコーゲンまで減ることが確認されています[10]。脳もまた、エネルギー切れと無縁ではないようです。

登山に近い条件のデータもあります。約23kgの荷物を背負い、暑いなかを2時間歩いたあと、糖質を含む飲み物を摂った人は、水や電解質だけの人にくらべて頭を使う課題の成績の低下が抑えられた、という研究です[11]。ただし、これは低下を「抑えた」結果であり、完全に防いだわけではありません。

道迷いや転倒は、体力だけでなく判断力の低下も引き金になります。行動食は「脚の燃料」であると同時に、冷静な頭を保つ助けになる補給でもあるのです。

登山の行動食はどれくらい摂ればいい?──糖質の量と種類

では、どれだけ食べればいいのか。まずは1時間あたり糖質30〜60gから試し、長い行動に慣れてきたら最大90g程度まで、と考えるのが安全です。

行動食は量と種類で決まる ブドウ糖だけ60g/時・ブドウ糖+果糖90g/時と行動時間別のめやす ヤマカルテ

ここで知っておきたいのが糖の「種類」です。ブドウ糖だけを摂る場合、体が使える量は1時間あたり約60gが上限とされています[12]。腸で吸収する入り口の数に限りがあるからです。ところが、ブドウ糖と果糖を組み合わせると、この上限が上がります。両者は別々の入り口から吸収されるため、合わせると1時間あたり90g前後まで体が使えるようになるのです[12]

実験でも、ブドウ糖だけの飲料より、ブドウ糖と果糖を混ぜた飲料のほうが、摂った糖をより多く・より速くエネルギーに変えられ、胃のもたれも少なかったと報告されています[13]

ただし、90gという数字は、もともと2.5〜3時間を超える強度の高い持久運動で、事前に胃腸を慣らした人を対象にした目安です。登山では行動時間・強度・体格・朝食の量・胃腸の強さで必要量が変わります。次のように段階を踏むとよいでしょう。

  • 2〜3時間の登山:1時間あたり糖質30〜60gを目安に。おにぎり1個で約40g、菓子パンや大きめの行動食1袋がこのくらいです。
  • 1日を通す長い行動で、こまめな補給に慣れている人:1時間あたり60〜90gまで増やしてよい。このときは、原材料に「ブドウ糖」と「果糖(または果糖ぶどう糖液糖)」の両方が入ったジェルやドリンクが効率的です。

なお、1時間あたり120gまで増やせば、体が使う糖はさらに増えるという研究もあります[14]。ただし、これほど高い摂取量は胃腸の不調(吐き気や胃の張り)と結びつきやすいことも指摘されています[12]90gを一つの上限の目安とし、それ以上はお腹と相談しながら、が現実的です。

種類の相性でいえば、羊羹・ドライフルーツ・ジェル(ブドウ糖+果糖)・ラムネなどは糖の吸収が速く、行動中の補給に向きます。ナッツやチーズは腹持ちがよい反面、消化に時間がかかるので、休憩でのゆっくり補給向きです。大切なのは成分の細かさより、食べ慣れた物を少量ずつとること。脂質の多い物は、バテてからの急な立て直しには向きにくいと覚えておきましょう。

携行する行動食をそろえるなら、「吸収の速い糖」を基準に選ぶと失敗が少なめです。タイプの違う定番を2つ挙げておきます。

登山で行動食をいつ食べる?──疲れる前に少量ずつ

量と種類が決まったら、次はタイミングです。結論はシンプルで、疲れる前に、少量を何度もが正解です。

行動食を食べるタイミング こまめに補給すると血糖が一定、補給しないとじりじり低下しシャリバテ ヤマカルテ

古い実験ですが、示唆に富むデータがあります。4時間の運動中、糖質を30分ごとに少しずつ摂ったグループは、血糖が最後まで一定に保たれました。一方、まったく摂らなかったグループの血糖は、じりじりと下がり続けました。そして運動の最後に全力を出したとき、こまめに摂ったグループは、摂らなかったグループの1.5倍も長く踏ん張れたのです[15]

ここで避けたいのが、「お腹が空いてから」「バテてから」食べる、という後手の対応です。疲れ切ってから糖を口にしても、血液に届くまでには時間がかかり、間に合いません[2]。だからこそ、空腹やバテを感じる前に、先回りして補給するのが鉄則です。

体のペースを一定に保つことも、燃料を長持ちさせるコツです。オーバーペースで飛ばすと糖の消費が一気に進みます。息が上がらない速さを保つ歩き方は、山行中の呼吸法とペース配分で詳しく解説しています。

それでも行動食は万能ではない

ここまで行動食の効果を説明してきましたが、糖質補給は、シャリバテを遅らせることはできても、完全には防げないという点に注意が必要です。

一定条件の持久運動では、糖質をきちんと摂っても、疲労が訪れるのを30〜60分ほど遅らせたという報告があります[1][2]。登山でそのまま同じ時間だけ延びるわけではありませんが、「遅らせられるが、防ぎきれはしない」という関係は共通です。糖以外の要因(体温の上昇、筋肉そのものの疲れ、脱水など)も、いずれ疲労を引き起こすからです。

だから、行動食だけに頼るのは危険です。実際の登山では、次の3つをセットで考えてください。

  • 前日と当日朝の食事:登山前夜に糖質をしっかり摂り、タンクを満タンにしておく。当日朝も抜かない。
  • 行動中のこまめな補給:この記事で解説した「量・種類・タイミング」。
  • ペース配分:飛ばしすぎない。体力・筋力の土台づくりも、消耗しにくい体をつくる近道です(登山の体力づくり)。

栄養と歩き方は、いつも両輪です。リハビリの現場でも、体を治す「栄養」と、体を痛めない「動かし方」は必ずセットで考えます。登山も同じで、賢い補給と無理のないペースがそろって初めて、シャリバテのない一日になります。

まとめ:燃料切れを防いで、最後まで冷静に歩く

シャリバテの正体と対策を、最後に整理します。

  • シャリバテには糖の不足が大きく関わる。筋グリコーゲンの枯渇か、血糖の低下が引き金になる。
  • 登山は糖が枯渇しやすい。勾配・荷物・長時間・暑さが重なるため。
  • 怖いのは「頭のバテ」。血糖が下がると判断や注意が落ちやすく、道迷いや転倒のリスクにつながる。
  • 量と種類:まず1時間あたり糖質30〜60gから、慣れれば最大90gまで。ブドウ糖+果糖の組み合わせが効率的。
  • タイミング:疲れる前に、30〜60分ごと少量ずつ。バテてからでは間に合わない。
  • 行動食は万能ではない。前日からの食事とペース配分をセットで。

行動食は、脚を動かす燃料であると同時に、冷静な頭を守る安全装備です。「量・種類・タイミング」を押さえておけば、終盤までしっかり足が動き、下山まで判断力を保てます。次の登山では、空腹を感じる前のひと口を、ぜひ習慣にしてみてください。

参考文献

  1. Coggan AR, Coyle EF. 1991. Carbohydrate ingestion during prolonged exercise: effects on metabolism and performance. Exerc Sport Sci Rev.
  2. Coyle EF. 1992. Carbohydrate feeding during exercise. Int J Sports Med.
  3. Coyle EF, Coggan AR, Hemmert MK, Ivy JL. 1986. Muscle glycogen utilization during prolonged strenuous exercise when fed carbohydrate. J Appl Physiol.
  4. Ørtenblad N, Nielsen J, Saltin B, Holmberg HC. 2011. Role of glycogen availability in sarcoplasmic reticulum Ca2+ kinetics in human skeletal muscle. J Physiol.
  5. Goldman RF, Iampietro PF. 1962. Energy cost of load carriage. J Appl Physiol.
  6. Santee WR, Allison WF, Blanchard LA, Small MG. 2001. A proposed model for load carriage on sloped terrain. Aviat Space Environ Med.
  7. Jeukendrup AE. 2003. Modulation of carbohydrate and fat utilization by diet, exercise and environment. Biochem Soc Trans.
  8. Nybo L. 2003. CNS fatigue and prolonged exercise: effect of glucose supplementation. Med Sci Sports Exerc.
  9. Nybo L, Secher NH. 2004. Cerebral perturbations provoked by prolonged exercise. Prog Neurobiol.
  10. Matsui T, Soya S, Okamoto M, et al. 2011. Brain glycogen decreases during prolonged exercise. J Physiol.
  11. Deming NJ, Anna JL, et al. 2021. Carbohydrate ingestion attenuates cognitive dysfunction following long-duration exercise in the heat in humans. J Therm Biol.
  12. Jeukendrup AE. 2008. Carbohydrate feeding during exercise. Eur J Sport Sci.
  13. Jeukendrup AE, Moseley L, Mainwaring GI, et al. 2006. Exogenous carbohydrate oxidation during ultraendurance exercise. J Appl Physiol.
  14. Podlogar T, Bokal Š, Cirnski S, Wallis GA. 2022. Increased exogenous but unaltered endogenous carbohydrate oxidation with combined fructose-maltodextrin ingested at 120 g h−1 versus 90 g h−1. Eur J Appl Physiol.
  15. Fielding RA, Costill DL, Fink WJ, et al. 1985. Effect of carbohydrate feeding frequencies and dosage on muscle glycogen use during exercise. Med Sci Sports Exerc.