
「登りは元気だったのに、下りに入ったとたん膝が痛くなる」——
そんな経験はありませんか。下山は本来いちばん気持ちに余裕が出る場面のはずなのに、一歩ごとに膝の前がズキッとして、最後はストックにすがるように下りてくる。せっかくの山行が、下りの記憶だけ苦いものになってしまう。
先に答えを書きます。下りでは、足元を確かめられる速度で歩幅を小さくし、安定した足場へそっと足を置く。膝が大きく内側に倒れ込まないようにし、ポールでブレーキの一部を分担して、疲れ切る前に休む。 歩き方の工夫で、膝の負担を減らせる場面があります。
私は理学療法士(PT)として臨床に10年以上携わり、多くの患者さんの膝の痛みと向き合ってきました。私自身も、登山を始めたばかりのころ、ポールもサポーターも持たずに出かけて下りで膝が痛くなり、下山にとても苦労したことがあります。
下りで膝を守る歩き方を、下り歩行のバイオメカニクス研究をもとに具体的に解説します。読み終えるころには、次の下山で、どこをどう意識して足を置けばいいかがはっきりイメージできているはずです。
なお、膝痛そのものの正体や自宅でできる予防トレーニングなど全体像は、別記事登山で膝が痛くなる前に知っておきたい3つのことにまとめています。本記事はその中の「歩き方」を、実際に使えるレベルまで掘り下げる回です。
1. 下りで膝が痛む仕組み——お皿まわりの負荷と、太もものブレーキ
下りでは、膝のお皿と大腿骨の間にかかる力が平地より大きくなり、太ももの前の筋肉がブレーキとして働き続けます。 歩き方を変える前に、この2つを押さえておきます。

下りでは、お皿まわりの負荷が大きくなる
下り歩行では、着地のたびに膝を曲げながら体重を受け止めます。健康な男女12人が斜面を歩いた実験では、下りで膝蓋大腿関節(膝のお皿と大腿骨の間の関節)にかかる圧迫力(推定値)が、平地歩行のおよそ3〜4倍になりました[1]。
つまり、下りという動作そのものが、膝の前側に負担をかけやすいということです。歩く量や、その人の筋力・負荷への慣れも関係します。
ブレーキ役は、太もも前の筋肉の「遠心性収縮」
下りで体を支えているのが、大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)です。下りでは、この筋肉が伸ばされながら力を出してブレーキをかけます。これを遠心性収縮(えんしんせいしゅうしゅく)と呼びます。
慣れない下りの運動では、太ももの筋力低下や筋肉痛が起こることがあります。傾斜のあるトレッドミルを40分下った研究では、運動の直後に筋力が下がり、その後、血液中の筋肉の損傷に関わる値が上がりました[2]。荷物を背負って60分下った健康な若い男性の研究では、太ももの内側の筋肉(内側広筋)の中央部で、損傷に伴うMRIの変化や押したときの痛みが比較的目立ちました[3]。
ただし、筋肉痛と膝関節の痛みは別のもので、膝の痛みの原因は一つではありません。
2. 着地を変える——足を投げ出さず、そっと置く
下りでは、足を遠くへ投げ出さず、安定した足場へ足裏を使ってそっと置きます。 かかとから「ドンッ」と突っ込む着地は避けます。

下りでは、つい歩幅が大きくなり、かかとから突っ込むような着地になりがちです。石川県の登山の手引きでも、足元の安定した場所を選び、足裏全体を使って置くように歩くことが勧められています。
- 足を遠くへ投げ出さない。次の足場を見て、そっと置く
- 着地の瞬間、膝を軽く曲げて受ける(棒のように突っ張らない)
- 「ドンドン」ではなく「トン、トン」と、音を立てない歩きを目指す
なお、14cmの段差を歩きながら下りる研究では、つま先側から着地した人とかかとから着地した人で、体重のかかり方の時間的なパターンが違いました[4]。どちらがすべての点で優れているという結果ではないので、着地の仕方は「そっと置く」を目安にしてください。
3. 膝を大きく内側に倒れ込ませない
着地のとき、膝が大きく内側に倒れ込んだり、ねじれたりしないように意識します。

膝が内側に入る動き(動的膝外反)は、膝の前の痛みと関連があると報告されています。片脚スクワットを調べた研究では、膝の前に痛みのある人の一部で、膝が内側に入る動きが大きいことが分かりました[5]。
ただし、膝が内に入ること「だけ」が痛みの原因だとは言えません。筋力や膝の向きとの関係を、原因と結果として扱わないよう注意を促すレビューもあります[6]。下りで膝の向きを直すと痛みを防げるかを、直接調べた研究もありません。
4. スピードを抑え、歩幅を小さくする
足元を確かめられる速度に抑え、歩幅を小さくするのが基本です。 一歩の落差を小さくするよう、足場を選びます。

歩幅を変えた研究はいくつかありますが、登山の下り歩行を直接調べたものではありません。女性ランナーの走行実験では、歩幅を短くした条件で、膝のお皿と大腿骨の間のストレスの推定値が低くなりました[7]。平地歩行の研究では、歩幅を短くすると1歩あたりの負荷の一部が減りました。ただし、ゆっくり歩けばすべての負荷の指標が下がるわけではありませんでした[8]。
研究の条件は違いますが、大股で一気に下りると、着地のたびに膝を深く曲げて体を支えることになります。足元を見ながら、小刻みに置きにいくほうが、膝にも転倒予防にも無理がありません。
5. 体の向きと、段差の下り方
腰を引きすぎず、足場に合わせてバランスを保ちます。大きな段差は、段差の小さい足場を選んで下ります。

腰が大きく引けて後ろに体重が残ると、足を前に投げ出す着地になりがちです。かといって、上体を無理に前へ倒す必要はありません。足場に合わせてバランスを保ち、次の足場へそっと体重を移しましょう。
大きな段差を下りるときのコツは次のとおりです。
- 登山道の中で、段差の高さが小さい足場を選ぶ。大きな段差を一度に下りて膝を深く曲げる動作は、膝の前側の負担を大きくしやすい
- 階段状の段差では、必要に応じて1段ごとに両足をそろえて下りる
- つづら折りの道は、登山道に沿って下りる。道を外れたり、植生や保護ロープの外へ踏み出したりしない
- 不安な段差は、見栄を張らずゆっくり下りる
変形性膝関節症のある少人数を調べた階段の研究では、ゆっくり下りることや、1段ごとに両足をそろえる下り方で、膝の内側の負荷が小さくなりました[9]。ただし、登山道での安全性を直接確かめた研究ではありません。
6. トレッキングポールで「ブレーキ」を分担する
トレッキングポールは、下りのブレーキの一部を腕に分担させる道具です。

ポールの研究をまとめた総説では、ポールを使うと下肢への荷重や力が減る場合があると整理されています。効果は地形、荷物、使い方などで変わります[10]。37人が実際に山を登って下りた試験では、ポールを使ったグループで、翌日と翌々日の筋肉痛、翌日の筋肉の損傷に関わる血液の値(CK値)が低かったと報告されています[11]。ただし、膝の痛みを防ぐ効果を直接調べた研究ではありません。
使い方のコツは次のとおりです。
- 下りでは、必要に応じてやや長めに調整し、固定がゆるんでいないか確かめる
- 次の段の安定した場所に先端を置き、滑らないことを確かめる
- 体重の一部を預けてから足を下ろす(全体重で寄りかからない)
- 手を使って岩をつかむような場所では、ポールをしまう判断も必要
私自身も山行ではLEKIのトレッキングポールを使っていて、ポールがあると下りが楽になると感じています。ポールの選び方はトレッキングポールの選び方で、膝サポーターの選び方は登山の膝サポーターの選び方でまとめていますので、あわせてご覧ください。
7. 長い下りでは、疲れ切る前に休む
長い下りでは、疲れ切る前から、安全な場所でこまめに休みましょう。

膝にけがのない女性24人の実験では、上り30分・下り30分の連続歩行のあとに、膝の位置を合わせる精度が、開始前より下がりました[12]。ただし、この研究は膝が抜ける感覚の原因や、休憩の効果を調べたものではありません。
疲れてくると、足元の確認もおろそかになりがちです。痛みや疲れが強くなる前に足を止めると、足元や動作の正確さを保ちやすくなります。なお、膝が「カクッ」と抜ける感覚があるときは、疲れのせいと決めつけず、記事の最後の受診の目安を確認してください。
まとめ:下りは「ゆっくり、小さく、そっと置く」
下りは、安定した足場を選び、小さな歩幅でゆっくり下りるのが基本です。
- 下りでは膝のお皿まわりの負荷が大きくなり、太ももの前の筋肉がブレーキとして働く
- 着地は足を投げ出さず、安定した足場へそっと置く。膝が大きく内側に倒れ込まないように
- 足元を確かめられる速度で、歩幅を小さく。痛みが出たら安全な場所で休む
- 段差は高さの小さい足場を選び、つづら折りは登山道に沿って。腰を引きすぎず、前へ倒れ込まない
- トレッキングポールでブレーキの一部を分担し、疲れ切る前に休む
下りに入る前の体力を残しておくことも、下りの膝を守ります。登りで出し切らない歩き方は登山の登りの歩き方にまとめました。
なお、ここまでの内容は大人の膝を前提にしています。成長期の子どもは痛む場所そのものが違い、同じ助言をそのまま当てはめられません。子どもと下る日のことは子どもの登山で膝が痛いときにまとめました。
こんな下りの膝の痛みは、歩き方より受診を
体重をかけられない・膝が抜ける・強い腫れなどがあれば、歩き方を試すより速やかな受診を優先してください。
速やかに受診したいサイン
- 体重をかけられない、膝を動かせない
- 膝が引っかかって伸ばせない
- 膝が急に「カクッ」と抜ける
- 強い痛み、強い腫れや急な腫れ、変形がある
- 発熱や赤み、全身のだるさを伴う、熱い腫れがある
早めに整形外科に相談したいサイン
- 痛みが数日たっても軽くならない、くり返す、悪化している
- 転倒やひねりなど、はっきりしたきっかけのあとから痛む
これらは、歩き方ではカバーできない問題が隠れていることがあります。判断に迷ったら、まず医療機関が原則です。
下りが怖くなくなれば、山はもっと自由になります。次の下山が「苦行」ではなく「ごほうびの時間」になるよう、ヤマカルテは応援しています。下りでの転倒・ねんざに備える応急手当の道具は、登山の救急セット(ファーストエイドキット)の中身にまとめています。下りの安定はソールのグリップや足に合った靴にも左右されるので、登山靴の選び方もあわせてどうぞ。砂礫の下りは、足の置き方や速度の管理が違います。富士山の砂走りの注意点は富士山の大砂走り 安全な下り方にまとめています。
※本記事は一般的な情報提供であり、特定の治療を保証するものではありません。気になる症状が続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
参考文献
- Kuster, M., Wood, G., et al., 1993. Stress on the femoropatellar joint in downhill walking — a biomechanical study. Zeitschrift für Unfallchirurgie und Versicherungsmedizin.
- Balnave, C. D. & Thompson, M. W., 1993. Effect of training on eccentric exercise-induced muscle damage. Journal of Applied Physiology.
- Maeo, S., et al., 2018. Localization of muscle damage within the quadriceps femoris induced by different types of eccentric exercises. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports.
- Moudy, S. C., Tillin, N. A., et al., 2020(オンライン公開2019). Foot strike alters ground reaction force and knee load when stepping down during ongoing walking. Gait & Posture. 76:327–333.
- Gwynne, C. R. & Curran, S., 2018. Two-dimensional frontal plane projection angle can identify subgroups of patellofemoral pain patients who demonstrate dynamic knee valgus. Clinical Biomechanics.
- Rabelo, N. & Lucareli, P., 2018(オンライン公開2017). Do hip muscle weakness and dynamic knee valgus matter for the clinical evaluation and decision-making process in patients with patellofemoral pain? Brazilian Journal of Physical Therapy. 22(2):105–109.
- Willson, J., Sharpee, R., et al., 2014. Effects of step length on patellofemoral joint stress in female runners with and without patellofemoral pain. Clinical Biomechanics.
- Milner, C. E., Meardon, S., et al., 2018. Walking velocity and step length adjustments affect knee joint contact forces in healthy weight and obese adults. Journal of Orthopaedic Research.
- Meireles, S., Reeves, N. D., et al., 2019. Patients with medial knee osteoarthritis reduce medial knee contact forces by altering trunk kinematics, progression speed, and stepping strategy during stair ascent and descent: A pilot study. Journal of Applied Biomechanics.
- Hawke, A. L. & Jensen, R. L., 2020. Are trekking poles helping or hindering your hiking experience? A review. Wilderness & Environmental Medicine.
- Howatson, G., et al., 2011. Trekking poles reduce exercise-induced muscle injury during mountain walking. Medicine & Science in Sports & Exercise.
- Bottoni, G., et al., 2015. The effect of uphill and downhill walking on joint-position sense: a study on healthy knees. Journal of Sport Rehabilitation.
- Maeo, S., Yamamoto, M., et al., 2017. Prevention of downhill walking-induced muscle damage by non-damaging downhill walking. PLoS ONE.