登山の飲酒リスク 山小屋・テント泊でどこまで飲めるか ヤマカルテ

テント場で、夕暮れの稜線を眺めながら飲む一杯。山小屋の夕食に添える一本。あれを楽しみに登っている人は、たぶん少なくありません。私もその一人です。

同時に、こう思ったことはないでしょうか。「山で飲むのは、実際どれくらい体に悪いんだろう」。調べても出てくるのは「山では酔いが回りやすい」「脱水するからやめましょう」といった、出どころのはっきりしない話が多い。やめる気はないけれど、何が起きているかは知っておきたい。 そういう人向けの記事です。

結論を先に言うと、問題は「酔い」ではなく「呼吸」と「翌朝」でした。理学療法士(PT)として体を見てきた立場と、140座以上を歩いてきた経験から、研究データで確かめられていることと、まだ確かめられていないことを分けて整理します。読み終わるころには、自分の山行に合わせて飲み方を決められるはずです。

前提|素面でも、高所の夜は呼吸が乱れている

飲酒の話に入る前に、土台を押さえます。標高が上がると、寝ているあいだの呼吸はもともと不安定になります。

呼吸が深くなったり浅くなったり、ときどき止まったりを繰り返す「周期性呼吸」が、標高2,700mあたりからほぼ全員に現れます。血液中の酸素飽和度(SpO2)は、起きているときよりも眠っているときに最も下がります[3]

つまり山の夜は、何も飲まなくても酸素の面では厳しい時間帯です。この上に酒が乗る、という順番で考えてください。高所で眠れない仕組みそのものは富士山の山小屋で眠れない理由と対策にまとめています。

高所での飲酒|変わるのは酔いではなく呼吸

飲酒と標高を直接比べた実験があります。

標高3,000mでアルコール50gを摂取すると、動脈血の酸素分圧が下がりました。ところが、同じ50gを標高171mで飲んでも、呼吸動態には有意な変化がありませんでした[1]

標高171mと3,000mでのアルコール50g摂取後の動脈血酸素分圧の比較 平地は91.5から90.5で変化なし 3,000mは69.0から64.0へ低下 ヤマカルテ

これはオーストリア・アルプスで行われた無作為化・二重盲検・クロスオーバー試験です。標高3,000mでは飲酒1時間後に動脈血酸素分圧が69.0から64.0mmHgへ下がり、二酸化炭素分圧は32.5から34.0mmHgへ上がりました。標高171mでは、どちらも変わっていません。

研究者の結論は「アルコールは、中等度の標高における低酸素への急性の換気順応の初期段階を阻害する」というものでした。つまりアルコールは体が高度に慣れようとする働きを邪魔するという結果です。

ただし、この結果をそのまま自分に当てはめるのは早いとも思っています。被験者は22〜24歳の健康な男性登山者10人だけ。測定は飲酒1時間後の血液ガスで、睡眠中でも、実際に歩いている場面でもありません。女性や中高年でどうか、行動にどう響くかは、この研究だけでは分かりません。「この条件では、換気の順応が妨げられた」というのが、正確な読み方です。

眠っている間はもっと下がる

飲酒と低い気圧を組み合わせて、睡眠中の血中酸素飽和度を測った研究もあります[2]。標高2,438m相当の環境で眠ったときのSpO2は、次のとおりでした。

  • アルコールを飲まない場合:88.07%
  • アルコールが加わると:85.32%
  • 平地では、飲んでも飲まなくても95%前後

SpO2が90%を下回っていた時間は、飲酒なしで173分、飲酒ありで201分。深い睡眠は46.5分(平地では67.5〜84.0分)に減り、心拍数は72.9から87.7拍/分へ上がりました。

標高2,438m相当の環境で眠ったときの血中酸素飽和度の比較 平地95.88%と94.97% 標高では飲まない88.07%と飲んだ85.32% 90%を下回った時間は173分と201分 ヤマカルテ

この研究の位置づけには、注釈が要ります。

  • 長距離フライトの機内環境を想定した研究であって、山で行われたものではありません。2,438mという気圧高度が多くの山小屋と近いので参考になる、という関係です
  • 参加者は若く健康な人(高度チャンバー17人・睡眠実験室23人)で、睡眠時間も4時間と短い条件でした
  • 飲酒量は血中アルコール濃度0.043%。ビールかワインで2杯程度にあたります
  • 酒を飲まなくても、低い気圧だけで173分は90%を下回っていました。 飲酒で増えたのは、そこからの差分です

つまり「山小屋で2杯飲むと201分低酸素になる」とは読めません。それでも、もともと厳しい夜の呼吸が、2杯でさらに悪くなる方向に動いたという事実は、押さえておく価値があると思います。

「山では酔いが回りやすい」は本当か

よく聞く話ですが、私が調べた範囲では、これを支持する明確なデータは見つかりませんでした。

同じ量を飲んだときに標高で酔いが強まるかを調べた実験は少なく、結果も一致していません。一方で、呼吸への影響ははっきり出ている——これが現時点で言えることです。

だから正確には、こう言い換えるべきだと考えています。山で変わるのは酔いの強さではなく、同じ酔いが持つ危険度のほう。 平地なら「少し酔った」で済むことが、酸素の余裕が減った場所では別の意味を持ちます。

翌朝の問題|二日酔いと高山病は見分けがつかない

ここからが、山小屋泊・テント泊の本題です。

二日酔いと高山病初期の症状の重なりを示すベン図 頭痛・吐き気・食欲不振・強い倦怠感が共通し朝の時点では見分けられない ヤマカルテ

米国CDCは、高山病の症状を「アルコールの二日酔いに似ている」と説明しています。頭痛が主症状で、食欲不振・めまい・倦怠感・吐き気を伴う。そして高山病の鑑別診断に、二日酔いを挙げています[3]

つまり、こういうことが起こります。

前夜に飲んだ翌朝、頭痛と吐き気で目が覚める。「昨日飲みすぎたな」で片づけて、そのまま登り続ける。

問題は、この判断が当たっているか外れているかではありません。外れていたときに、やるべきことをやらないまま高度を上げてしまうことです。

高山病そのものは、それ以上登らなければ、多くが12〜48時間で治まります[3]。裏を返せば、症状があるのに登り続けることが、いちばん避けたい対応だということ。CDCは高山病で命を落とさないための3原則として、次の3つを挙げています[3]

  1. 早期症状を知り、症状が出ていることを認める意思を持つ(症状は二日酔いと同じだと明記されています)
  2. 症状があるあいだは、どれだけ軽く見えても、より高い場所で眠らない
  3. 同じ高度で休んでも悪化するなら、下る

「昨日飲みすぎたな」で片づけることは、この3つすべての入口を、静かに塞いでしまいます。 飲酒の本当のリスクは、翌朝の頭痛そのものではなく、ここにあると考えています。

さらに厄介なのは、より重い高所脳浮腫(HACE)が「アルコールによる酩酊に似た」ふらつき・混乱・傾眠として現れる点です[3]。飲んでいる場面では、それを酔いだと解釈してしまいます。

翌朝、症状が出たときにどうするか

見分けがつかないなら、見分けようとしないことが答えになります。原因が酒か高度か分からない以上、高山病として扱うほうが安全側です。

CDCが挙げる目安は「最初の48時間」

では公的な指針はどう言っているのか。調べると、はっきり分かれました。

高山病のガイドラインとして広く参照されるWMS(Wilderness Medical Society)。その指針には、飲酒についての記述がありません。 全文を確認しましたが、予防・診断・治療のいずれにも登場しませんでした。

一方でCDCは、高所順応のチェックリストに明確に書いています[3]

高所に着いてから最初の48時間は、アルコールを避ける。

同じリストには「最初の48時間は軽い運動にとどめる」も並びます。さらに睡眠の項では、「アルコールやオピオイドのような呼吸抑制物質を、高所で眠るために使うべきではない」と明記されています。

寝つきのために一杯という、山小屋でいちばんやりがちな飲み方が、名指しで否定されているわけです。

富士山での調査が示したこと

日本の山でのデータもあります。富士山の登山者887人を対象にした質問紙調査です[4]

  • 高山病の有病率は45%
  • 登山中の飲酒は、全体では統計的にはっきりした関連を示さなかった(p=0.096)
  • ただし20〜29歳では関連がみられず、50〜59歳では関連がみられた
  • 著者らの結論は「中高年の登山者は、飲酒せずに登ることが推奨されるかもしれない

ここで注意したいのは、この研究が見ているのは「登山中の飲酒」だという点です。山小屋の夜の一杯とは条件が違います。さらに質問紙による観察研究の予備的報告であり、飲酒量やほかの要因を切り分けた因果関係の証明ではありません。「富士山の研究で、夜に飲むと高山病になると分かった」とは言えません。

それでも、中高年で関連がみられたという報告は、多くの読者にとって無視できないものだと思います。

山頂の一杯|下山が残っているかで、話がまったく変わる

日帰りで山頂に着いて、絶景を前に一本開ける。あの気持ちよさは分かります。ただ山頂での飲酒には、山小屋泊とは別の問題があります。まだ下りが残っていることです。

山頂の飲酒は下山が残っているかで決まる 下山が残っているなら飲まない 下山を終えたら飲む 運転する日は飲まない ヤマカルテ

厚生労働省の飲酒ガイドラインは、避けるべき飲酒行動を列挙しています。その5番目がこれです[5]

飲酒中又は飲酒後における運動・入浴などの体に負担のかかる行動 飲酒により血圧の変動が強まることなどによって、心筋梗塞などを引き起こす可能性や、転倒などにより身体の損傷を引き起こす可能性があります。

日本の公的なガイドラインが、飲酒後の運動を名指しで避けるべき行動に挙げている。 これは登山向けに書かれた文言ではありませんが、「飲んでから下る」がここに当てはまることは、読めば分かります。

山頂で飲みたくても、下山を終えてからにする。麓の温泉や車中泊地まで我慢したほうが、味だけでなく安心も両立します(もちろん運転する日は飲みません)。

寒さと脱水|「酒で温まる」は逆

テント泊で見落とされがちなのが、体温の話です。

アルコールは末梢の血管を広げます。皮膚が温かく感じるのは、体の内側の熱を外に逃がしているからで、体温が上がっているわけではありません。加えて、震え(シバリング)による熱産生が抑えられます。震えは、寒いときに体が熱を作る主力の仕組みです。それが鈍るということは、体が自力で熱を作る力が落ちるということでもあります。

軽い寒さなら深部体温に差が出なかったとする研究もあり、「飲むと体温が下がる」と単純化はできません。ただ、強い寒さ・長時間・空腹が重なると話が変わるのは確かです。とくに行動食を食べずに飲むのは避けたいところです。空腹での飲酒は血糖が下がりやすく、熱を作る材料も足りなくなります。

脱水についても、少量なら影響は穏やかだとする報告があります。ただし度数が上がるほど水分の保持は悪くなる傾向があり、山では汗と乾いた空気による喪失も重なります。飲むなら水も一緒に、行動食や汁物と並べて。ただし水を足せば呼吸や判断への影響が帳消しになるわけではありません。

では、どこまでなら|私の線引き

ここまでを踏まえて、私自身が考える基準を書きます。研究が「この量までは安全」と示しているわけではありません(厚労省自身、低リスクの明確な指標を示すのは困難だという立場です)。あくまで判断材料としての、ひとつの引き方です。

場面私の判断
翌日も歩く縦走・小屋泊純アルコール20g程度まで(ロング缶1本)夕食と一緒に、就寝直前は避ける
標高2,500m以上/到着初日飲まない。順応が進んでいない夜がいちばん厳しい
日帰りの山頂飲まない。下山を終えてから
下山後・翌日が休み山の行程としての制限は外れる。ただし体は回復途中で、寒さや移動のリスクも残る
体調がいまひとつの日飲まない。頭痛の原因が分からなくなる

登山の場面ごとの飲酒の線引き 縦走小屋泊はロング缶1本まで 標高2,500m以上の初日と日帰りの山頂と体調不良の日は飲まない 純アルコール量の換算つき ヤマカルテ

いちばん大事にしているのは、量そのものより「翌朝、症状が出たときに原因を切り分けられる状態にしておく」ことです。飲んでいなければ、頭痛は高山病を疑えます。飲んでいると、そこが曖昧になります。

数字より、自分の基準を持つほうが役に立つ

とはいえ上の表は、あくまで私が提案する基準です。そのまま誰にでも適用できるものではありません。アルコールの影響には個人差があり、年齢・性別・体質によって受け方が違うことは、厚労省のガイドラインにも明記されています。とくに分解酵素のはたらきが弱い体質の人は、少量の飲酒でも体調を崩すことがあります[5]

正直に書くと、私はこれまで数えきれないほどの山行で飲んできました。そのなかで「自分はこのくらいなら翌朝に残らない」という感覚が育っています。経験則は侮れません。 自分の体質を知る手がかりとして、これ以上に具体的なものはないからです。

ただし、経験則にも注意が必要です。

登山の飲酒で経験則を使える形にする4つの注意 条件が同じときだけ通用する 今まで大丈夫は証明ではない 年齢とともに基準は変わる 記録して初めて経験則になる ヤマカルテ

なお「回復のため」に飲むのは筋が通りません。運動後の飲酒が筋タンパク合成を落とすことは実験で示されていて、タンパク質と一緒に摂っても、その低下は防げませんでした[6]。ただしこの研究で使われた量は標準的な酒で12杯前後と、かなり多い条件です。ビール1本で同じことが起きると考える必要はありません。

まとめ:問題は酔いではなく、呼吸と翌朝

  • 高所での飲酒で変わるのは酔いの強さではなく呼吸。標高3,000mでは50gの飲酒で酸素分圧が下がったが、標高171mでは変わらなかった[1]
  • 眠っている間の影響が大きい。標高2,438m相当の環境では、少量の飲酒でSpO2が88.07%から85.32%へ、深い睡眠も減った[2]
  • 高山病の症状は二日酔いとよく似ている。飲むと、翌朝に症状の原因を切り分けられなくなる[3]
  • CDCは高所到達後48時間の飲酒回避と、寝つきのための飲酒をしないことを挙げている[3]
  • 富士山の調査では、登山中の飲酒と高山病の関連が50〜59歳でみられた(20〜29歳ではみられず)。観察研究であり因果の証明ではない[4]
  • 下山が残っているなら飲まない。厚労省は飲酒中・飲酒後の運動を避けるべき行動に挙げている[5]
  • 純アルコール量で考える。ロング缶ビール1本=20g[5]

山の一杯をやめる必要はない、というのが私の結論です。ただ飲む場所と、そのあとに何が残っているかで、意味はまるで変わります。翌朝の自分が、頭痛の原因を迷わず判断できる状態にしておく。それだけ決めておけば、あの一杯との付き合い方は、ずいぶん判断しやすくなります。

参考文献

  1. Roeggla G, Roeggla H, Roeggla M, Binder M, Laggner AN 1995. Effect of alcohol on acute ventilatory adaptation to mild hypoxia at moderate altitude. Ann Intern Med. 122(12):925-927.
  2. Trammer RA, Rooney D, Benderoth S, Wittkowski M, Wenzel J, Elmenhorst EM 2024. Effects of moderate alcohol consumption and hypobaric hypoxia: implications for passengers’ sleep, oxygen saturation and heart rate on long-haul flights. Thorax. 79(10):970-978.
  3. Hackett PH, Shlim DR 2025. High-Altitude Travel and Altitude Illness. CDC Yellow Book 2026: Health Information for International Travel.
  4. Horiuchi M, Mitsui S, Uno T 2024. Influence of smoking and alcohol habits on symptoms of acute mountain sickness on Mount Fuji: a questionnaire survey-based pilot study. High Alt Med Biol. 25(2):140-148.
  5. 厚生労働省 2024. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン.
  6. Parr EB, Camera DM, Areta JL, Burke LM, Phillips SM, Hawley JA, Coffey VG 2014. Alcohol ingestion impairs maximal post-exercise rates of myofibrillar protein synthesis following a single bout of concurrent training. PLoS One. 9(2):e88384.