「人生で一度は富士山に登りたい。でも、4つもルートがあってどれを選べばいいか分からない」

毎年6月になると、この相談が一気に増えます。富士山は 山頂を中心に4本のルートが放射状に伸びていて、それぞれ距離・標高差・混雑度・身体への負担がまったく違います。自分に合わないルートを選ぶと、登り切れずに撤退 することも珍しくありません。

私は理学療法士(PT)として臨床に10年以上携わり、登山では146座を歩いてきました。本記事では、4ルートを 距離・標高差・身体への負担・初心者適性 の観点で整理し、目的別に最適なルートを判定します。

読み終わるころには、「自分はこのルートで登ろう」と決められる状態になっているはずです。

免責事項:本記事内のコースタイム・距離・標高差・山小屋数は2026年シーズン時点の目安です。最新の公式情報は富士登山オフィシャルサイト や各登山道の運営事務所のサイトで必ず確認してください。

1. 富士山4ルートの位置関係と全体像

富士山には公式に 4つの登山ルート があります。山頂を中心に、山梨側と静岡側に分かれて放射状に伸びています。

ルート5合目登山口
吉田ルート山梨富士スバルライン5合目
須走ルート静岡須走口5合目
御殿場ルート静岡御殿場口新5合目
富士宮ルート静岡富士宮口5合目

このうち、吉田ルートだけが山梨側で、残り3つは静岡側です。山頂付近では 吉田ルートと須走ルートは本8合目で合流 するので、登りは別でも山頂直下は同じ道を歩くことになります。

2. 比較表(一目で違いが分かる)

項目吉田須走御殿場富士宮
5合目の標高約2,305m約2,000m約1,440m約2,400m
山頂までの標高差約1,450m約1,700m約2,300m約1,320m
登り距離(目安)約6.8km約6.9km約10.5km約4.3km
山小屋の数最多中程度少ない中程度
混雑度最も混むやや少なめ少ない多い
下山の特徴専用下山道砂走り大砂走り同じ道を戻る
初心者適性△(上級向け)△(急登注意)
ご来光ポイントどこからでも中腹〜山頂山頂直下山頂

※2026年シーズン時点の目安。最新は公式サイトで要確認。

3. 各ルートの詳細

吉田ルート(山梨/最人気・山小屋最多)

4ルート中で最も登山者が多い、富士山の「定番ルート」 です。

  • 5合目アクセス:富士スバルライン経由でバスや車で。新宿などからの直通バスも豊富。
  • 山小屋が最多で、ペース調整しやすい。本8合目あたりまでに10軒以上。
  • 登りと下りが別ルート で、すれ違いストレスなし。
  • ご来光がルート上のどこからでも拝める。山小屋泊で身体を慣らしてから早朝アタックの動線が組みやすい。

こんな人におすすめ

  • 初めての富士山
  • ご来光を絶対に見たい
  • 休憩を多めに確保したい

注意点

  • とにかく混む。シーズンピーク(7月下旬〜8月)は山小屋予約が困難。
  • 富士山入山料・通行予約制(2024年〜)の対象なので、事前予約手続きが必要。

須走ルート(静岡/樹林帯・合流注意)

樹林帯を抜けてから森林限界に出る という、登山らしい変化を味わえるルートです。

  • 5合目から樹林帯がしばらく続く。日差しが直撃しないので、夏場の登り始めは身体に優しい。
  • 本8合目で吉田ルートと合流 。それより上は吉田ルートと同じ。
  • 下山は砂走り。吉田ルートよりさらに走りやすい砂礫斜面。
  • 山小屋数は中程度。

こんな人におすすめ

  • 樹林帯の山らしい変化を楽しみたい。
  • 吉田ルートより静かに登りたい。
  • 砂走りで一気に下りたい。

注意点

  • 下山で吉田ルートとの分岐を間違えやすい 。本8合目で「須走方面」の標識を見落とすと、吉田口に降りてしまう。
  • 標識確認は念入りに。

御殿場ルート(静岡/最長・大砂走り・上級向け)

4ルート中最長・最も標高差が大きい上級者ルート

  • 5合目が標高1,440mと最も低い ため、累積標高差は約2,300mと富士山の中でも最大。
  • 登り距離10.5km、コースタイムも長い
  • 山小屋が少ない ので、ペース配分と装備が重要。
  • 登山者が比較的少ない ので混雑を避けられ、山小屋の予約も確保しやすい。
  • 下山の大砂走りは富士山名物 で、一気に標高を下げられる。

こんな人におすすめ

  • 体力に自信がある経験者。
  • 静かに自分のペースで登りたい。
  • 大砂走りを満喫したい。

注意点

  • 初心者単独はNG。山小屋少なく、悪天候時の退避が難しい。
  • 夜間登山(弾丸登山)は特に危険。
  • 装備(防寒・水・行動食)は他ルートより多めに。

富士宮ルート(静岡/最短・急登連続)

4ルート中で5合目の標高が最も高く(約2,400m)、登り距離も最短

  • 登り約4.3kmで山頂到達できる最短ルート。
  • ただし5合目がいきなり2,400m なので、到着直後から高山病リスクが高い
  • 登りと下りが同じ道 を通る(一部除く)。混雑時はすれ違いストレスあり。
  • 急登連続。標高差は4ルート中最少ながら、短距離に詰まっているので一歩一歩がキツい登山らしい楽しみ方ができる

こんな人におすすめ

  • 最短で登りたい。
  • 関西・東海方面からアクセスする。
  • 「短距離だから楽」という幻想を捨てて、急登に挑む覚悟がある人。

注意点

  • 5合目に着いたら、必ず1〜2時間は身体を慣らす 。(詳細は高山病対策記事
  • 登り下り同じ道なので、人混みを避けたい人は不向き。

4. 目的別おすすめ判定

あなたのタイプおすすめルート
初めての富士山、ご来光を見たい吉田ルート
静かに登りたい、樹林帯も楽しみたい須走ルート
体力勝負・経験者・大砂走り好き御殿場ルート
最短で行きたい、登山らしく楽しみたい富士宮ルート
登りラク+下り爽快のいいとこ取りプリンスルート(富士宮→御殿場下山)★

★ プリンスルートは、私(PTパパ)が登山未経験の友人2人と歩いた経験を別記事にまとめています → 富士山プリンスルート(トラバース)完全ガイド

5. PT視点:「楽なルート」より「自分の体に合うルート」

ルート選びでよくある誤解が、「距離が短い=楽」「標高差が小さい=楽」 というものです。理学療法士の視点で見ると、これは半分正解で半分間違いです。

高山病リスクは「5合目の標高」が決め手

5合目の標高が高いほど、いきなり低酸素環境に放り込まれることになります。富士宮(2,400m)と御殿場(1,440m)では、到着直後の血中酸素飽和度に明らかな差 が出ます。

  • 富士宮:5合目到着時点ですでに高所順応必要。登り出す前の 休止1〜2時間が必須
  • 御殿場:5合目は低いが、長時間かけて高度を上げるので順応の機会が多い。

つまり、「短いから楽」と思って富士宮を選んだ初心者が、高山病で撤退する ケースは少なくありません。

下山負担は「下山道の構造」と「総距離」で決まる

下山は富士山で 膝痛・転倒事故が最も起こりやすい時間 です。研究的にも、下り歩行は膝蓋大腿関節への負荷が登りの数倍とされています(詳しくは膝痛予防記事)。

  • 吉田:専用下山道は単調で、長時間の単純な下り。膝・足首にじわじわ蓄積
  • 須走・御殿場:砂走り/大砂走りは膝への衝撃は少ないが、靴の中に砂が入る/転びやすい などの別問題あり。
  • 富士宮:登りと同じ道を戻るため、登りで疲れた脚で同じ岩場を下る。疲労時の転倒リスク が他ルートより高い。

砂走り・大砂走りを行くなら、ゲイター(ショートスパッツ)はほぼ必須

須走・御殿場ルートの砂走り/大砂走りでは、靴の中に大量の火山砂礫が入り込みます。一度でも経験するとわかりますが、靴の中の砂を取りに数回立ち止まるだけで、想像以上のストレスとペースダウンになります。

ショート丈のゲイター(スパッツ)を靴の上から装着するだけで、この問題はほぼ解消 します。大手アウトドアメーカーの物も良いですが、普段登山をされない初心者の方であればこちらの商品がおすすめ。重量は数十g程度、価格も手頃で、富士山1回分でも十分元が取れる装備です。

下山対策のもう一つの主役は トレッキングポール です。研究的にも下肢負荷と筋損傷を減らすことが確認されています。私自身は Leki Makalu FX Carbon AS を愛用しています。

ペース配分の取りやすさは「山小屋の多さ」で決まる

長時間の登山で重要なのは「こまめに休むこと」。山小屋の数が多いほど、自然と休憩ポイントが増え、ペース調整がしやすくなります。

  • 吉田:山小屋最多で初心者に優しい
  • 富士宮・須走:中程度
  • 御殿場:少ないので 自分の時計でペース管理する力 が必要

まとめ:4ルートを「目的」と「身体」で選ぶ

最後に振り返ります。

  • 富士山には 4つのルート(吉田・須走・御殿場・富士宮)が放射状にあり、それぞれ性格がまったく違う。
  • 初心者なら吉田ルート が無難。山小屋多くペース調整しやすい。
  • 静かに登りたいなら須走、体力勝負なら御殿場、最短なら富士宮
  • 「短い=楽」「標高差が少ない=楽」は誤解。5合目の標高(高山病リスク)と下山道の構造(膝負担)を含めて総合判断 を。
  • 登りラク+下り爽快のいいとこ取りなら プリンスルート という選択肢もある。

富士山は逃げません。自分の体・時間・経験に合うルート選び が、安全で記憶に残る登山の出発点です。今シーズン、納得のいく富士登山を楽しめることを心から願っています。

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