カラーハンティングのカルテ風アイキャッチ 今日の色は赤 ポスト・消防車・信号機・バラの4つの赤い物と虫眼鏡を持って親子で街歩きするイラスト

「ウォーキングを始めたいけれど、3日で飽きる」 「子どもと散歩に行っても、5分で『つまらない』と言われる」

そんな経験はありませんか。

私は理学療法士(PT)として臨床で運動指導をしていますが、「続かない」というのは登山者の体づくりでも最大の壁です。本格的な登山に行くまでに、街でのウォーキングを習慣にしたい——そう思っていても、ただ歩くだけでは続かない。

そこで提案したいのが、登山に戻るための「歩く習慣」を無理なく続ける工夫です。鍵になるのが 「カラーハンティング」 という遊び。事前に1色を決めて、その色のものを街で探して撮るだけです。

実はこれ、思いつきの遊びではなく、2013年に日本のデザイナーが体系化し、中学校の美術教科書にも採用されている手法[7][8]。さらにウォーキング継続・運動中の気分・自然観察力の3点で、PT視点から見ても 続けやすさが理にかなった「観察トレーニング」 になっています。登山に戻るための最初の一歩 に、ちょうどいい遊びなのです。

この記事では、カラーハンティングがなぜ登山者と親子に最適なのか、研究データを踏まえて整理します。読み終えるころには、明日の散歩から「30分・1色」で始められるはずです。

カラーハンティングとは — 教科書にも載る「色を観察する」手法

カラーハンティングは、デザイナーの藤原大さん(元 ISSEY MIYAKE クリエイティブディレクター)が体系化した、色を採集するデザイン手法です。藤原さんはこれを「色をとる、採る、撮る、録る、捕る」と表現し、自然や街に存在する現実の色をその場で水彩絵の具で写し取る、という シンプルで身体的な行為 を提唱しました[7]

2013年には六本木の 21_21 DESIGN SIGHT で「カラーハンティング展 — 色からはじめるデザイン」が開催され、女子美術大学・東北芸術工科大学なども参加[7]。2017年からは 中学校の美術教科書に採用 され、教育の場で「色を観察する力」を育てる手法として定着しています[8]

なお、2026年に入ってからは「カラーハント」の名前でSNSでも広がり、日本経済新聞が「推し色みっけ『カラーハント』」として若年層トレンドを報じる[9]など、再び注目されています[10]。とはいえ、この遊びの価値は流行り廃りに左右されません。次章からは、なぜこれが登山者の体づくりに効くのかを、研究データで見ていきます。

遊び方のルールはとてもシンプルです。

  • 出発前に 色を1つ決める(青、赤、紫など)
  • 街を歩きながら、その色のものを スマホで撮影(看板、花、服、空、車など)
  • 最後に 1枚のコラージュにまとめる

それだけ。だからこそ、誰でも今日から始められます。

なぜ登山者に最適なのか — PT視点の3本柱

「色を探して撮る遊び」が、なぜ登山者の身体づくりにつながるのか。3つの研究知見からひもときます。

① ウォーキングが続かない問題に、ちょうど効く設計

ウォーキング習慣化の研究で、繰り返し有効性が確認されている要素は決まっています。自己モニタリング・目標設定・フィードバック——いわゆる行動変容技法(Behavior Change Techniques)です[1]

2019年のメタ解析でも、これらの技法を組み込んだ介入は 中期的なウォーキング継続性 を有意に改善すると報告されました[2]。「複数の技法を組み合わせる方が、単一技法より効果的」 とも示されています。

カラーハンティングは、これら3つを 自然と同時に満たす 構造を持っています。

  • 目標設定:「今日は青を10個探す」
  • 自己モニタリング:撮影した瞬間に記録が残る
  • フィードバック:帰宅後にコラージュ化=達成感の可視化

つまり、行動科学的に「続きやすい」要素が遊びのルールに組み込まれているわけです。

② きつさを忘れる「注意分散」効果

低〜中強度の運動中に、別のことに意識を向ける——これを 注意分散(distraction) と呼びます。スポーツ心理学の研究では、注意分散が 主観的なきつさ(RPE)を下げ、気分を改善する ことが示されています[3]

ただし条件があります。自分で選んだ楽しい刺激 ほど効果が強く、高強度の運動では効果が薄れる[4]

ウォーキングは中強度の運動。そしてカラーハンティングの「色」は、自分で選べる楽しい刺激です。この2つが揃ったとき、注意分散の効果がもっとも出やすい条件が整います。「歩いてるとつらい」ではなく、「色を探していたら30分経っていた」という体験になるわけです。

③ 自然の色は、気分を上げ、きつさを下げる

ここからは「色そのもの」の話です。

ある実験では、運動中に 緑色の景観 を見たグループは、灰色や赤の景観を見たグループより気分が良く、きつさも軽く感じたと報告されています[5]。別の研究でも、緑の自然要素(形と色)の視覚的知覚が 気分・自尊心・注意力 をすべて改善することが示されました[5]

2025年の研究では、短時間の自然散歩を繰り返すと、心理的苦痛が減って視覚的な注意の働き方まで変わる という結果も出ています[6]

ここでカラーハンティングのターゲット色を 自然の色(緑、空色、花の色、紅葉の橙) に絞れば、

  • 注意分散の効果(カラーハンティング自体)
  • 緑の景観の気分・きつさへの効果
  • 自然散歩の心理的効果

3つが同時に積み上がる ことになります。

ちなみに健康面での歩行のベネフィットは大きく、最大規模のメタ解析では 高頻度の歩行者は心血管疾患リスク30%・総死亡率32%低下 が示されています[11]。「タウンウォーキング」は、登山に行くまでの単なる準備ではなく、それ自体が強力な健康習慣です。

子どもと一緒に — 「観察力」を育てる年齢別アレンジ

カラーハンティングは、子連れ登山の準備としても秀逸 です。理由は、子どもの認知発達への影響が研究で示されているからです。

ある実験では、30分の自然散歩で子どもの注意力・実行機能が改善[12]。屋外環境は屋内より空間ワーキングメモリでも上回るとされています[12]。「自然の中で何かを探す」という行為は、登山中の 道間違い防止・足元の危険察知・植物や動物の発見 に直結する基礎能力を育てます。

年齢別のアレンジ例:

  • 3〜5歳:親が「赤いものどこ?」と問いかけ、子が指差し → 親がスマホで撮影。色のラベルを覚える時期
  • 6〜9歳:子が自分で見つけて「あった!」と報告 → 親が撮影。観察→言語化の往復
  • 10歳〜:子に自分のスマホ or 親のスマホを渡して撮影。難易度アレンジ(紫を探す、補色を組み合わせる、グラデーションを集める)

これは登山中に「あの花は何色?」「葉っぱのどこが緑からどこが赤になってる?」と問いかける親子コミュニケーションの 下準備 にもなります。子連れ登山に何歳から行けるかについては別記事 子どもと登山、何歳から行ける?年齢別・標高別の目安 でも整理しているので、合わせて読んでみてください。

やってみよう — 30分の実践ガイド

1. 色を1つ決める

  • 初心者:青・赤・緑(見つけやすい)
  • 中級:紫・オレンジ・ピンク
  • 上級:補色の組み合わせ(赤×緑、青×橙など)、グラデーション、特定の彩度

2. ルートを決める

  • 30分〜1時間で帰れる範囲
  • 公園・住宅街・商店街どこでもOK
  • 慣れてきたら「いつもと違う道」を選ぶと発見が増える

3. 歩きながら探す

  • スマホでパシャパシャ 撮るだけ
  • 5〜10枚集まれば十分(多すぎると編集が苦になる)
  • 立ち止まって撮るのが原則(歩きスマホ禁止

4. 帰宅後にコラージュ

  • iPhone なら「フォト」アプリで自動コラージュ
  • Canva・PicCollage アプリも操作シンプル
  • SNSにアップしてもいいし、自分のアルバムに残すだけでもOK

5. 「続ける」工夫

PT視点で言うと、ここがいちばん大事です。

  • 週に決まった曜日に固定する(例:水曜と日曜の朝)
  • 歩数アプリと併用 して、ハンティング日は歩数が増える実感を見える化
  • 3週間続く と、自然と「歩かないと物足りない」状態になる

タウン → 低山 → 本格登山 へのステップアップ

カラーハンティングは、登山復帰や本格登山に向けた 段階的なステップ の第一段に位置します。

  1. タウンウォーキングでカラーハンティング(30分〜1時間)
  2. 近所の低山・里山でカラーハンティング(2〜3時間)
  3. 日帰り低山ハイキング
  4. 本格登山

低山に持っていくときは、ターゲット色を 「秋なら紅葉の橙」「春なら新緑の黄緑」 など季節に合わせると、その山特有の発見が増えます。

体力の段階的な戻し方については、登山復帰3本柱トレーニングブランク1年以上の体力減衰 も合わせて読むと、復帰計画の解像度が上がります。

注意点・マナー

楽しく続けるために、以下は守ってください。

  • 他人を撮らない:人物が偶然写り込んでも、顔は加工・トリミングする
  • 家屋・表札・車のナンバーを避ける:プライバシー保護
  • 商業施設内は撮影可否を確認:店内NGの場所が多い
  • 歩きスマホをしない:必ず立ち止まって撮る
  • 子連れの場合:道路で立ち止まる位置に注意、車・自転車の通行を最優先

特に 盗撮と誤解されるリスク は実際にあります。公園・商店街など人の多い場所では、周囲を確認して、被写体を空・植物・建造物に絞る のが安全です。

まとめ:今日の散歩を、観察の時間に変える

  • カラーハンティング は、2013年に体系化され教科書にも採用された由緒ある手法。SNSで再流行している
  • 登山者にとっては、ウォーキング 習慣化・きつさ軽減・自然色の相乗効果 の3つを同時に満たす理にかなった遊び
  • 子どもの観察力 を育て、子連れ登山に直接つながる
  • 始め方は 「30分・1色」 だけ。今日からできる

ただの散歩を「観察の時間」に変えると、街の見え方も、家族の会話も、そして登山の楽しみ方も変わっていきます。

明日、まずは から始めてみませんか。

参考文献

  1. Bird et al., 2013. Behavior Change Techniques Used to Promote Walking and Cycling. Health Psychology. / Room et al., 2017. What interventions are used to improve exercise adherence in older people and what behavioural techniques are they based on? A systematic review. BMJ Open.
  2. Eisele et al., 2019. Behaviour change techniques applied in interventions to enhance physical activity adherence in patients with chronic musculoskeletal conditions: A systematic review and meta-analysis. Patient Education and Counseling.
  3. Gillman & Bryan, 2019. Mindfulness Versus Distraction to Improve Affective Response and Promote Cardiovascular Exercise Behavior. Annals of Behavioral Medicine. / Lind et al., 2009. Do ‘Mind over Muscle’ Strategies Work?. Sports Medicine.
  4. Chow & Etnier, 2016. Effects of music and video on perceived exertion during high-intensity exercise. Journal of Sport and Health Science. / Wakatabe & Hayashi, 2024. Effects of two types of distractions on ratings of perceived exertion and affective response during acute high-intensity cycling exercise. The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine.
  5. Akers et al., 2012. Visual color perception in green exercise: positive effects on mood and perceived exertion. Environmental Science and Technology. / Zhang et al., 2023. Form and color visual perception in green exercise: Positive effects on attention, mood, and self-esteem. Journal of Environmental Psychology.
  6. Verheyen et al., 2025. The Effects of Repeated Short-Duration Nature Walks on Stress and Cognitive Function in College Students. Green Health.
  7. 21_21 DESIGN SIGHT「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」公式ページ。https://www.2121designsight.jp/program/color_hunting/
  8. 藤原大「COLOR-HUNTING — Design starting from color」(カワイイファクトリー)。https://www.cawaiifactory.jp/en/dai-fujiwara-color-hunting-design-starting-from-color/
  9. 日本経済新聞「推し色みっけ『カラーハント』 街を歩き、看板や標識を撮影・投稿」。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC187BK0Y6A210C2000000/
  10. Yahoo!ニュース「『カラーハンティング』が若者に流行」関連記事。https://news.yahoo.co.jp/articles/0ba3bb720c26fafa55c37c4d9c92189176ccccf5
  11. Hamer & Chida, 2007. Walking and primary prevention: a meta-analysis of prospective cohort studies. British Journal of Sports Medicine.
  12. Nguyen & Walters, 2024. Benefits of Nature Exposure on Cognitive Functioning in Children and Adolescents: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Environmental Psychology. / Dankiw et al., 2020. The impacts of unstructured nature play on health in early childhood development: A systematic review. PLoS ONE.