11月に入ると、高い山から順に雪が積もりはじめます。登山口は秋なのに、樹林帯の途中から道が白く凍っている。チェーンスパイクで足りるのか、軽アイゼンが要るのか。初冬の山は、滑り止めの選び方でいちばん迷う季節です。

先に結論です。凍った林道や緩い斜面はチェーンスパイク、雪の積もった斜面は6本爪の軽アイゼン、硬く凍った急斜面は12本爪アイゼンが目安です。土と雪が交互に出る緩い道は、チェーンスパイクと6本爪のどちらも候補になります。最後は、凍り方(雪か氷か)・傾斜・滑った先の地形で決めてください。

理学療法士(PT)として10年以上、人が滑って転ぶしくみと歩き方を見てきました。登頂140座以上のなかには、冬の八ヶ岳も入っています。私が持っている滑り止めは、チェーンスパイク(モンベル)と12本爪アイゼン(グリベル)の2つだけです。凍った林道や樹林帯の緩い斜面はチェーンスパイク、急斜面は12本爪と使い分けています。

この記事では、チェーンスパイクと軽アイゼンの違い、どちらを選ぶか、爪をつけたときの歩き方を順に説明します。読み終えたら、今シーズン最初の雪山に持っていく1つを決めてください。

チェーンスパイクと軽アイゼンどっち? 初冬のカラマツ林の雪の岩に並べたチェーンスパイクと6本爪の軽アイゼン 理学療法士が使い分けを解説 ヤマカルテ

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先に、いま選ぶならこれ、というチェーンスパイクと6本爪を1つずつ紹介します。どちらも私は使っていません。私が使っているモンベルのチェーンスパイクは旧モデルで、後継品(モンベル チェーンスパイク #1129740)はモンベルの店舗と公式オンラインストアでの販売が中心です。ここでは、楽天やAmazonでも手に入りやすく、同じ使い方ができる2つを選びました。理由はこのあと説明します。

初冬の山で滑るのは、凍った道と「まだら」の道

初冬の山で滑りやすいのは、凍った林道・木道・岩と、土と雪がまだらに混ざった道です。積雪が少ないぶん地面の上に薄い氷が張り、見た目では乾いた土と区別がつきにくいからです。

とくに注意したい足場は、次の4つです。

  • 日の当たらない樹林帯の林道:昼になっても凍ったまま残る
  • 木道・橋・岩の上:薄い氷が張ると、靴底のゴムがほとんど効かない
  • 雪の下に隠れた氷:踏んだ瞬間に足が流れる
  • 霜柱がとけた土:午後になると泥になり、凍った場所との境で滑る

滑り止めをつけるかどうかで、冬に転ぶ回数は変わります。転びやすい65歳以上の109人を対象に、冬のあいだ屋外で靴用の滑り止めをつけるかどうかで分けた比較試験では、雪や氷の上を歩いた日あたりの屋外での転倒がおよそ4割に減りました[1]。この試験では、滑り止めをつけた側で起きた屋外の転倒19件のうち12件が、滑り止めを外していたときの転倒でした[1]。

北スウェーデンの健康な大人を対象にした冬の調査でも、滑り止めを使った人は、転倒を増やさずに1日に歩く距離が長くなりました。この調査は、いつ・どこで使うかを知っていることが転倒を防ぐとまとめています[2]。

どちらの研究も、対象は街なかを歩く人で、山の登山道ではありません。それでも「持っていても、つけていなければ意味がない」という点は、山でもそのまま当てはまります。

初冬の山で滑りやすい足場4つ 日陰の林道・木道や橋や岩・雪の下の氷・霜柱がとけた土 滑り止めは持っていてもつけていなければ意味がない ヤマカルテ

チェーンスパイクと軽アイゼンの違い|爪の長さと向いている場所

チェーンスパイクと軽アイゼンのいちばんの違いは、爪の長さと、靴底のどこに爪があるかです。チェーンスパイクはゴムのバンドで靴全体を包み、短い爪を靴底全体に散らします。軽アイゼンは金属の枠を土踏まずのあたりに留め、チェーンスパイクより長い爪を4〜6本立てます。この記事で比べる軽アイゼンは、主に6本爪です。

チェーンスパイク軽アイゼン(6本爪)12本爪アイゼン
爪短い爪が靴底全体に散らばる土踏まずのあたりに長めの爪が6本長い爪が12本。つま先に前爪
向いている場所凍った林道、樹林帯の緩い斜面、土と雪が交互に出る緩い道雪の積もった緩〜中くらいの斜面、土と雪が交互に出る道硬く凍った急斜面、雪の稜線
向かない場所傾斜の強い硬い雪面・氷硬く凍った急斜面土や岩が多く出ている道(爪を傷める)
靴底のやわらかい靴にも合う[5]ある程度底の硬い登山靴冬用の硬い登山靴
重さの例360g(スノーライン チェーンセン ウルトラ Mサイズ・ペア)[8]500〜520g(エバニュー 6本爪アイゼン EBY014・ペア)[6]—

チェーンスパイクは、靴の曲がりに合わせてチェーンがしなるので、足裏を地面に平らに置きやすい道で力を発揮します。逆に、爪が短いぶん、硬く凍った斜面では爪が刺さりきりません。八ヶ岳で山岳ガイドをしている八ヶ岳ネイチャークルーズも、チェーンスパイクは比較的なだらかでソールをフラットに置ける道向きで、急な斜面ではグリップが落ちると説明しています[7]。

軽アイゼンは、爪が長いぶん、雪の積もった斜面でも足が止まりやすくなります。モンベルは、積雪のある低山には6本爪のモデルやチェーンスパイクを勧め、どちらも土や雪が交互に現れるようなコースに適しているとしています[5]。

チェーンスパイク・6本爪の軽アイゼン・12本爪アイゼンの違い 爪の数と配置・向いている場所・向かない場所 チェーンスパイクと軽アイゼンには前爪がない ヤマカルテ

チェーンスパイクと軽アイゼンの使い分け|凍り方と傾斜で決める

チェーンスパイクと軽アイゼンのどちらを選ぶかは、行く山のいちばん厳しい凍結区間の、凍り方・傾斜・滑った先の地形で決めます。足裏を平らに置ける緩い凍結路ならチェーンスパイク、雪の積もった斜面を登り下りするなら軽アイゼン、硬く凍った急斜面や、滑ると止まれない斜面があるなら12本爪です。

凍り方と傾斜で滑り止めを使い分ける 緩い凍結路はチェーンスパイク・雪の積もった斜面は6本爪・硬く凍った急斜面は12本爪とピッケル 決める手がかりは凍り方・傾斜・滑った先の地形 ヤマカルテ

12本爪は、冬用の硬い登山靴と、使い方の練習が前提の道具です。装備がそろっていても、天気や雪の状態が悪ければ引き返します。

  • チェーンスパイク:樹林帯の凍った林道、雪が薄い低山の北斜面、凍った木道、山小屋までの緩い道
  • 軽アイゼン(6本爪):雪の積もった樹林帯の斜面、土と雪がまだらに出る尾根道
  • 12本爪アイゼン:森林限界より上の凍った斜面、雪の稜線、急な雪の登り下り

八ヶ岳ネイチャークルーズは、6本爪の軽アイゼンが合う山として北横岳・縞枯山・車山・入笠山を、12本爪が必要な山として蓼科山・編笠山・天狗岳・硫黄岳を挙げています(同社のガイドプランでの基準)[7]。雪の量は年と日で大きく変わるので、行く前に山小屋や登山口の最新情報を確かめてください。

私は、チェーンスパイクと12本爪アイゼンの2つで冬の山を歩いています。八ヶ岳の樹林帯では、凍った林道から緩い斜面までをチェーンスパイクで歩き、傾斜が強くなる手前で12本爪に履き替えます。この2つの使い分けで、私の歩く冬の山はほぼ足りているので、軽アイゼンは持っていません。

それでも、12本爪を持っていない人や、12本爪が要らない山だけを歩く人には、軽アイゼンが役に立ちます。チェーンスパイクでは心もとない雪の斜面を、12本爪ほどの重さと準備なしで歩けるからです。

チェーンスパイク・軽アイゼンの選び方|サイズ・靴・バンド

チェーンスパイクや軽アイゼンを選ぶときは、靴のサイズに合うこと、靴の形に合うこと、寒さでバンドが硬くならないことの3つを確かめます。どれか1つでも合わないと、歩いているうちにずれたり外れたりします。

靴のサイズと形に合うか

チェーンスパイクも軽アイゼンも、靴のサイズ範囲でサイズが分かれています。たとえばスノーライン チェーンセン ウルトラはM(23.0〜26.0cm)・L(26.0〜28.5cm)など[8]、エバニュー 6本爪アイゼン EBY014はS(22〜24.5cm)とL(25〜28cm)です[6]。範囲が重なるサイズは、実際に使う冬の登山靴に装着して確かめます。

ただし、サイズ範囲に入っていても、靴の形によってはつけられないことがあります。モンベルも、自社のチェーンスパイクについて、靴の形によっては対応サイズ内でも装着できない場合があると注意しています[4]。買う前に、冬に履く靴を持って店で合わせるのが確実です。

バンドとつけやすさ

チェーンスパイクは、ゴムのようなバンドを靴にかぶせてつけます。モンベルのチェーンスパイクは、低温でも硬くなりにくいやわらかい素材を使い、靴下を履くような感覚でつけられると説明しています[5]。寒い場所で手袋のままつけ外しすることを考えると、ここは大事な差になります。

スノーライン チェーンセン ウルトラには、斜面を横切るときの横ずれを防ぐベルクロストラップが付いています[8]。長く歩くうちにずれてくるのは、私もチェーンスパイクで困っている点なので、選ぶときに見てほしいところです。

軽アイゼンは、ベルトやバックルで靴に留めます。エバニュー 6本爪アイゼン EBY014は、ラチェット式のバックルで緩みにくく、雪が団子状につくのを防ぐスノープレートも付いています[6]。エバニューは、冬の低山や傾斜の緩やかな残雪の山、夏の雪渓歩きに勧めています[6]。

チェーンスパイク・軽アイゼンを選ぶときに確かめる3つ 靴のサイズ・靴の形・寒さで硬くならないバンドと横ずれ対策 爪は地面の側に向ける ヤマカルテ

爪をつけたときの歩き方|足裏全体で置き、引きずらない

チェーンスパイクや軽アイゼンをつけたら、足裏全体を地面に平らに置き、足を引きずらずに上げて運ぶのが基本です。足裏全体で置くほうが、靴底に並んだ爪がそろって地面に当たり、滑り止めが働く面が広くなると私は考えています。

チェーンスパイクをつけたら足裏全体で置く よい例と、かかとから着く・すり足のこわい例 足を上げて運ぶ・足幅を広げる・歩幅を小さく・下りは膝を曲げる ヤマカルテ

人は滑りそうな場所に来ると、自然と歩き方を変えます。滑るかもしれない床を歩くと分かっているとき、16人の歩き方を調べた実験では、歩幅が短くなり、着地で足に体重をかける速さが落ちて、滑りにくい歩き方に変わっていました[3]。この実験は滑りやすい床の上の歩行で、爪をつけた歩行を調べたものではありません。それでも、爪をつけた日も、この「慎重な歩き方」を意識して続けるのが安全です。

  • 足裏を平らに置く:かかとから強く着かない。つま先だけで蹴らない
  • すり足をしない:爪が地面や木の根に引っかかり、つまずく
  • 足幅をこぶし1つぶん広げる:爪が反対の足首やズボンの裾に引っかかるのを防ぐ
  • 歩幅を小さくする:一歩ごとに体重を乗せきってから次の足を出す
  • 下りは膝を軽く曲げる:かかとから突っ込まず、足裏全体で受ける

装着のタイミングと雪団子対策|ずれたら安全な場所で直す

チェーンスパイクや軽アイゼンは、凍った場所が出てきたら、その手前の平らで安全な場所で早めにつけます。凍った斜面の途中で、片足立ちでつけようとするのがいちばん危ないからです。

チェーンスパイクをつけるタイミングと雪団子対策 凍る手前で早めにつける・ずれたら安全な場所で直す・雪団子は気づいたら落とす・使ったあとは乾かす ヤマカルテ

ずれに気づいたら、安全な場所で直す

チェーンスパイクは、長い時間歩いているうちに、少しずつずれてきます。私も、歩いている途中でずれに気づき、そのつど直しています。爪が靴底の真ん中から外れると、滑り止めが働く面積が減ります。ずれに気づいたら、足場の安定した場所で止まって直してください。休憩のときにも、爪が靴底の中央にあるか、バンドがかかとから浮いていないかを確かめます。

湿った雪は「雪団子」になる

湿った雪の日は、爪のあいだに雪がどんどんくっつき、靴の下に雪の団子ができます。私の経験でも、湿った雪だと団子がみるみる大きくなり、足が重くなります。団子ができると爪が地面に届かず、滑り止めをつけていないのと同じ状態になります。

  • 気づいたら落とす:雪がくっついたと感じたら、その場でポールで靴の横を軽く叩いて雪を落とす
  • 気温が上がる昼前後に注意:朝は乾いた雪でも、日が当たると湿って団子ができやすくなる
  • 雪団子を防ぐ板(アンチスノープレート):軽アイゼンや12本爪アイゼンには、雪がつきにくい板がついた製品や、別売りで足せる製品があります。買う前に確かめてください

使ったあとは乾かす

使い終わったら、雪と泥を落とし、袋から出して乾かします。チェーンスパイクのチェーンはステンレスですが[4]、軽アイゼンには炭素鋼でできた製品もあり(エバニュー EBY014など)[6]、濡れたまましまうとさびの原因になります。

強い風の日の稜線は、滑り止めをつけていても危険が増します。風速の目安と引き返す判断は登山の強風のリスクにまとめています。

まとめ:初冬の山は、足場で滑り止めを選ぶ

  • 初冬に滑りやすいのは、凍った林道・木道・岩と、土と雪がまだらに混ざった道
  • 転びやすい高齢者が冬の街歩きでコイル式の滑り止めをつけた試験では、雪や氷の上での屋外の転倒が約4割に減った。ただし、外していたときの転倒が多かった[1]
  • 凍った林道や緩い斜面はチェーンスパイク、雪の積もった斜面は6本爪の軽アイゼン、硬く凍った急斜面は12本爪。最後は凍り方・傾斜・滑った先の地形で決める
  • チェーンスパイクと軽アイゼンで、硬く凍った急斜面や雪の稜線に入らない
  • 選ぶときは、靴のサイズと形、寒さで硬くならないバンドを確かめる
  • 爪をつけたら、足裏全体で置き、すり足をせず、足幅を少し広げる
  • ずれに気づいたら安全な場所で直し、湿った雪の日は雪団子がついたらすぐ落とす

初冬の山は、登山口の景色だけでは足元が読めません。行く山のいちばん凍りそうな区間を思い浮かべて、そこで足裏を平らに置けるか、滑った先がどうなっているかを考えてみてください。ザックに入れる1つが見えてきます。

参考文献

  1. McKiernan FE. 2005. A simple gait-stabilizing device reduces outdoor falls and nonserious injurious falls in fall-prone older people during the winter. Journal of the American Geriatrics Society 53(6): 943-947.
  2. Berggård G, Johansson C. 2010. Pedestrians in wintertime—effects of using anti-slip devices. Accident Analysis & Prevention 42(4): 1199-1204.
  3. Cham R, Redfern MS. 2002. Changes in gait when anticipating slippery floors. Gait & Posture 15(2): 159-171.
  4. モンベル. チェーンスパイク #1129490 商品ページ(2026年10月8日確認). https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1129490
  5. モンベル. 冬のハイキングに最適!スノースパイクの選び方(2026年10月8日確認). https://www.montbell.jp/generalpage/disp.php?id=583
  6. エバニュー. 6本爪アイゼン EBY014 商品ページ(2026年10月8日確認). https://evernew-product.net/products/detail.php?product_id=1191
  7. 八ヶ岳ネイチャークルーズ. Q.〈装備編〉滑り止めについて(2026年10月8日確認). https://www.yatsugatake-nc.com/
  8. WEST(新潟のアウトドアライフストア). snowline チェーンセンウルトラ 商品ページ(2026年10月8日確認). https://www.west-shop.co.jp/item.asp?id=685069