ボルダリングジムの壁の前で手にチョークをつけ課題を見上げる登山者の水彩画 ボルダリングは登山に役立つか、効果と限界とけが予防を理学療法士が解説 ヤマカルテ

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岩場や鎖場のある山に行きたいけれど、三点支持やバランスに自信がない。ボルダリングジムに通えば登山の練習になるのか、迷っていませんか。

結論を先に書きます。ボルダリングは、岩場で使う能力の一部(指・前腕の力、体幹、足を置く感覚)と重なるので、岩場に向けた補助の練習として役立つ可能性があります。ただし、長い登りの持久力や荷物を背負って歩く力は、別に鍛える必要があります。また、ボルダリングで岩稜を安全に越えられるようになると直接確かめた研究は、まだありません。

ボルダリングは、ロープを使わずに、厚いマットを敷いた低い壁を登るスポーツです。私は理学療法士(PT)として10年以上、リハビリの現場で運動とけがに向き合ってきました。登山を始めたのとほぼ同じ時期にボルダリングジムに通い始め、多い時期は週5回ほど登っていました。山は140座以上を歩き、100座目はジャンダルムでした。この記事では、クライミングの研究と私の経験をもとに、ボルダリングが登山のどこに役立ち、どこには役立たないのかを整理します。読み終えるころには、自分の登りたい山に向けて、ボルダリングをどう使うかを決められるようになります。

ボルダリングは登山に役立つ?|岩場で使う能力の一部が重なる

ボルダリングは、登山のうち岩場や鎖場で使う能力の一部と重なるので、岩場に向けた補助の練習になります。ただし、登山全体の代わりにはなりません。

重なる能力と、重ならない能力

岩場では、岩をつかんで体を支える指・前腕の力、姿勢を保つ体幹、小さな足場に足を正確に置く感覚を使います。これらは、ボルダリングでよく使う能力です。ヴィアフェラータでそれらをどう使い、どうケアするかは、ヴィアフェラータで使う筋肉にまとめています。

一方、何時間も登り下りする脚の持久力、心臓と肺の持久力、荷物を背負って歩く力は、ボルダリングで使う能力とあまり重なりません。

ボルダリングと登山で重なる能力と重ならない能力の図解 重なるのは指・前腕の力、体幹、足を正確に置く感覚、重ならないのは長い登りの持久力、脚の持久力、荷物を背負って歩く力、岩場の補助の練習として使う ヤマカルテ

岩稜への効果は、直接確かめられていない

ボルダリングをすると、登山者が鎖場や岩稜を越える力が上がる、あるいは事故が減る、と直接確かめた研究は見当たりません。クライミングの研究の多くは、クライミングそのものの成績を調べたものです。

人工の壁で練習した効果が、別の課題にどこまで生きるかを調べた研究でも、効果が別の場面に広がる程度は限られていました[1]。ボルダリングで登れることと、屋外の岩場を安全に歩けることは別の技能だと考えておきます。

期待できる効果と研究の限界

ボルダリングなどのクライミングを続けると、指の力や体幹の力、握力が上がることが研究で示されています。ただし研究の対象は、クライマーや運動習慣の少ない若い大人で、登山者ではありません。

体幹の力と握力が上がった

運動習慣の少ない若い大人28人が、週2回・8週間、室内のクライミングを続けた研究があります[2]。その結果、体幹の筋力が約19〜22%、体幹の動く範囲が約14〜19%、握力が約5%上がりました。

指の力の改善は、主に「指の筋トレ」の効果

クライマーの指の力を調べた研究のまとめでは、指や前腕の筋力トレーニングを足すと、指の力や、ぶら下がっていられる時間が伸びました[3]。ただし、これは指を鍛える専用のトレーニングの効果で、ふつうにボルダリングを楽しむだけの効果ではありません。

クライマーはバランスが良い、でも因果は分からない

クライミングを2年以上続けている男性22人と、していない男性20人を比べた研究では、クライマーのほうが握力が強く、バランスの検査の成績も良好でした[4]。ただしこれは、ある時点で2つのグループを比べた研究です。「クライミングでバランスが良くなった」のか、「もともとバランスの良い人が続けている」のかは分かりません。

また、クライミングの成績を決める要素を整理した2025年のレビューでは、主な要素は持久力・筋力・筋持久力・筋パワーで、バランスの重要性は相対的に小さいとされています[5]。

ボルダリングで期待できる効果と研究の限界の図解 運動習慣の少ない若い大人が週2回8週間で体幹の筋力が約19〜22%・握力が約5%上がった、指の力の改善は主に指の筋トレの効果、クライマーはバランスが良いが因果は分からない ヤマカルテ

登山の持久力は、別に鍛える

長い登りの持久力や、荷物を背負って歩く力は、ボルダリングとは別に鍛える必要があります。ボルダリングは短い時間に強い力を出す運動で、何時間も歩き続ける運動とは使い方が違うからです。

筋トレと持久運動を組み合わせると、荷物を背負う歩行が伸びた

健康な中高年の男性40人を、筋トレだけ、自転車の持久運動だけ、両方を組み合わせる、何もしない、のグループに分けて21週間調べた研究があります[7]。その結果、荷物を背負ってトレッドミルを歩ける時間がはっきり伸びたのは、筋トレと持久運動を組み合わせたグループだけでした。

兵士を対象にした10本の研究のまとめでも、筋トレと持久運動の組み合わせ、さらに荷物を背負って歩く練習を少しずつ増やす方法で、荷物を背負う歩行の成績が大きく伸びていました[8]。

ボルダリングは、組み合わせの1つとして

登山に向けた体づくりは、坂道や階段の登り下り、荷物を背負った歩行、有酸素運動が土台です。ボルダリングは、その土台に岩場向けの補助として足すくらいがちょうどよい位置づけです。

体づくりの進め方は登山復帰のためのトレーニングプログラム、本番に向けた積み上げ方は富士山のための1か月トレーニングプランにまとめています。

登山の持久力は別に鍛える図解 筋トレと持久運動を組み合わせたグループだけが荷物を背負う歩行の時間が伸びた、坂道の登り下り・荷物を背負った歩行・有酸素運動が土台、ボルダリングは岩場向けの補助として足す ヤマカルテ

私の場合|最初の岩場から、三点支持の動きに慣れていた

私は登山を始めたのとほぼ同じ時期にボルダリングを始めていたので、最初の岩場から、三点支持の動きに慣れていました。ただし、これは私個人の経験で、研究で確かめられたことではありません。

西穂高岳で感じたこと

登山を始めて間もないころ、先輩に連れられて西穂高岳の岩場を歩きました。両手両足のうち3点で体を支え、1点ずつ動かす三点支持は、ボルダリングで繰り返してきた動きとよく似ていました。岩をつかむこと自体への怖さも、それほどありませんでした。

それでも、段階を踏んでから

ボルダリングに慣れていても、屋外の岩場はジムとは違います。浮いた石、濡れた岩、下り、ルートの判断、そして落ちたときにマットがないこと。こうした要素は、ジムでは練習できません。

岩場の経験を積むときは、次の順番を目安にしてください。

  1. 経験者や講習会で、低い岩場の登り下りを教わる
  2. 短く、鎖や足場が整った岩場で経験を積む
  3. 西穂高岳の独標、北穂高岳など、段階を踏んで難しい岩稜へ

岩場ではヘルメットをかぶります。長野県は、穂高連峰の岩稜帯や中央アルプスの宝剣岳などを、ヘルメットの着用を勧める山域に指定しています[9]。ヘルメットの選び方は登山ヘルメットとハーネスの選び方にまとめています。ジャンダルムに向けた準備は、ジャンダルムに登った体験記にまとめています。

岩場の経験の積み方の図解 ボルダリングに慣れていても屋外の岩場はジムと違う、浮いた石・濡れた岩・下り・ルートの判断・落ちたときにマットがない、経験者や講習会で低い岩場を教わる・短く整った岩場で経験を積む・段階を踏んで難しい岩稜へ、岩場ではヘルメット ヤマカルテ

落下・着地のけがに注意|マットがあっても足首・膝を痛める

ボルダリングでは、マットがあっても、落下や着地で足首や膝を痛めることがあります。とくに下半身のけがは、上半身のけがより重くなりやすいことが分かっています。

下半身のけがは、落下や飛び降りで起きやすい

室内でボルダリングをする507人を12か月追った研究では、222人(44%)が合計305件のけがをしました[10]。けがの6割強は手や腕などの上半身でしたが、下半身のけがは上半身よりも重いけがになりやすく、落下や壁から飛び降りたときに起きやすいことが分かりました。

着地のしかたを身につける

  • 低い位置から始める:最初は、落ちても大丈夫な高さの課題から
  • できるだけ登って下りる:課題を終えたら、飛び降りずに、ホールドを使って下りる
  • 着地はスタッフに習う:両足で着地し、膝を曲げて衝撃を吸収し、そのまま後ろに転がる
  • 着地する場所を空けておく:マットの上に人や荷物がないか確かめてから登る

足首をひねったことのある人は、ボルダリングを復帰の練習にいきなり選ばないでください。足首のけがからの戻り方は登山で足首を捻挫したときの対処と予防にまとめています。

ボルダリングの落下と着地のけがの図解 室内ボルダリングの507人を12か月追った研究で44%がけが、下半身のけがは重くなりやすく落下や飛び降りで起きやすい、低い位置から始める・できるだけ登って下りる・着地はスタッフに習う・着地する場所を空けておく ヤマカルテ

指・手首・肩の痛みに注意|痛みが出たら、その日は終わり

ボルダリングでは、指・手首・肘・肩を痛めやすく、痛みが出たらその日はやめるのが基本です。小さなホールドに体重をかけるため、指や腕に強い力がかかるからです。

クライミングで多いけが

クライミングの専門外来を受診した人を調べた報告では、指と肩のけがが最も多く、指では、腱を骨に押さえつけている組織(プーリー)の損傷や腱鞘炎が代表的でした[11]。プーリーの損傷は、使いすぎだけでなく、足が滑った瞬間など、急に強い力がかかったときにも起こります。

私自身も、ボルダリングで左手首を痛めたことがあります。そのときは完治しましたが、手首の痛みが続くと、岩場で体を支えることもできません。

けがを減らすためにできること

大人のクライマーの使いすぎによるけがを調べた34本の研究のまとめでは、強度の高いクライミング、ボルダリング、指の力の弱さ、指を立てて小さなホールドを握る持ち方、過去のけがが、けがのリスクと関係していました[12]。一方、ウォームアップやストレッチは、けがのリスクとはっきり関係していませんでした。筋力トレーニングは、肩と肘のけがを減らしていました。

  • 痛みが出たら、その日は終わり:「あと1回」をやらない
  • 強度を急に上げない:難しい課題ばかり続けない
  • 体を温めてから、やさしい課題で始める:けがを防げる保証はありませんが、体を慣らすために
  • 肩や前腕の筋トレも取り入れる
  • 痛みが続くときは、早めに整形外科へ

指・手首・肩の痛みへの備えの図解 クライミングで多いのは指と肩のけが、指ではプーリー損傷や腱鞘炎、痛みが出たらその日は終わり・強度を急に上げない・やさしい課題で始める・肩や前腕の筋トレ・痛みが続くときは整形外科へ ヤマカルテ

初心者の始め方とシューズ選び|まずはレンタルで

これからボルダリングを始めるなら、まずはジムでシューズをレンタルし、スタッフの説明を受けてから登るのがおすすめです。続けると決めてから、自分のシューズを買えば十分です。

始め方|登山者向けの使い方

  • 最初はジムの講習を受ける:落ち方、マットの使い方、ジムのルールを教わる
  • やさしい課題を、足の置き方を意識して登る:限界の課題に挑むより、足をどこに、どう置くかを確かめやすい(研究で確かめた方法ではなく、私の提案です)
  • 頻度は体の回復に合わせる:指や手首に疲れが残っている日は休む。持久力のトレーニングを削らない範囲で

シューズ|1足目は、平らで痛くなりにくい形を

クライミングシューズには、つま先が平らな形と、つま先が下に曲がった形(ダウントゥ)があります。ダウントゥは小さなホールドに立ちやすい一方、足が痛くなりやすく、長く履いていられません。1足目は、平らで足なじみのよい形がおすすめです。

初心者向けの定番が、ラ・スポルティバのタランチュラです。平らな形で、初めての1足として広く選ばれています。私は使っていませんが、これから始める人には、まずこうした形をすすめています。

私が実際に使っているのは、ラ・スポルティバのスクワマ(Skwama)です。つま先が下に曲がったダウントゥで、小さなホールドや傾斜の強い壁で足を使いやすい一方、慣れないうちは足が痛くなりやすい靴です。ある程度ボルダリングに慣れた人向けの1足です。

まとめ:ボルダリングは、岩場に向けた補助の練習

  • ボルダリングは、指・前腕の力、体幹、足を置く感覚など、岩場で使う能力の一部と重なる
  • ただし、岩稜を安全に越えられるようになるかは、直接確かめられていない。屋外の岩場はジムとは別の技能
  • 長い登りの持久力や荷物を背負う力は、別に鍛える。筋トレと持久運動の組み合わせが土台
  • 岩場は講習・やさしい岩場から段階を踏み、ヘルメットをかぶる
  • 落下・着地で足首や膝を痛めることがある。低い位置から、できるだけ登って下りる
  • 指・手首・肩に痛みが出たら、その日は終わり。強度を急に上げない
  • 1足目のシューズは平らで痛くなりにくい形。まずはレンタルから

ボルダリングを始めるなら、まずは近くのジムで講習を受け、やさしい課題を、足の置き方を意識して登ってみてください。坂道や荷物を背負った歩行と組み合わせれば、岩場のある山に向けた準備の1つになります。

参考文献

  1. Seifert L, et al., 2018. Affordance Realization in Climbing: Learning and Transfer. Frontiers in Psychology.
  2. Muehlbauer T, et al., 2012. Effects of Climbing on Core Strength and Mobility in Adults. International Journal of Sports Medicine.
  3. Stien N, et al., 2023. Effects of climbing- and resistance-training on climbing-specific performance: a systematic review and meta-analysis. Biology of Sport.
  4. Bobowik P, et al., 2023. Evaluation of Balance and Muscle Strength of Upper and Lower Limbs in Rock Climbers. Polish Journal of Sport and Tourism.
  5. Faggian S, et al., 2025. Sport climbing performance determinants and functional testing methods: A systematic review. Journal of Sport and Health Science.
  6. Larsson R, et al., 2025. Effectiveness of indoor rock climbing and bouldering as treatment for depression – a systematic review. BMC Psychiatry.
  7. Holviala J, et al., 2010. Effects of combined strength and endurance training on treadmill load carrying walking performance in aging men. Journal of Strength and Conditioning Research.
  8. Knapik JJ, et al., 2012. A systematic review of the effects of physical training on load carriage performance. Journal of Strength and Conditioning Research.
  9. 長野県. ヘルメット着用奨励山域.
  10. Auer J, et al., 2021. Indoor Bouldering—A Prospective Injury Evaluation. Wilderness & Environmental Medicine.
  11. Schöffl V, et al., 2019. Finger and shoulder injuries in rock climbing. Der Orthopäde.
  12. Quarmby A, et al., 2023. Risk factors and injury prevention strategies for overuse injuries in adult climbers: a systematic review. Frontiers in Sports and Active Living.