「明日登る山、山頂は何℃くらいだろう」。普通の天気予報に出るのは麓の街の気温だけで、山の上の数字はどこにも書いていません。何を着ていくか、何枚持っていくかを決めるには、まずこの数字が要ります。
答えは標高が100m上がるごとに約0.6℃下がるです。麓が25℃なら、標高差1,500mの山頂は約16℃。これだけ覚えておけば、どの山でも山頂の気温の最初の見積もりをその場で出せます。
ただし、この0.6℃は「平均するとそうなる」という値で、実際の山では外れる場面があります。代表的なのは、晴れた日中、雨の日、朝のテント場、そして風の4つ。この記事では気象庁の平年値で0.6℃を実際に確かめたうえで、外れる場面とその理由、そして理学療法士(PT)として体が反応するのは気温の数字ではなく「奪われる熱」だという話まで書きます。140座以上の登山で、同じ気温でもまったく寒さが違う場面を何度も経験してきました。
読み終わるころには、予報の気温から山頂の気温を出し、風と雨と時間帯で補正して、ザックに何を入れるかを自分で決められるようになります。

標高が100m上がると気温は約0.6℃下がる
標高が100m上がるごとに、気温はおよそ0.6℃下がります。計算式は次のひとつだけです。
- 目的地の気温 = 麓の気温 − 0.6 ×(標高差 ÷ 100)

麓が25℃で標高差1,500mなら、25 − 0.6 × 15 = 16℃。標高差ごとの下がり幅を表にしておくと、暗算がさらに楽になります。
| 麓との標高差 | 下がる気温の目安 | 麓25℃のときの気温 |
|---|---|---|
| 500m | −3℃ | 22℃ |
| 1,000m | −6℃ | 19℃ |
| 1,500m | −9℃ | 16℃ |
| 2,000m | −12℃ | 13℃ |
| 2,500m | −15℃ | 10℃ |
| 3,000m | −18℃ | 7℃ |
| 3,500m | −21℃ | 4℃ |
気象庁の用語集では、気温減率(高度が上がるにつれて気温が下がる割合)は「対流圏では普通100mにつき0.5〜1度下がる」と説明されています[1]。この幅のなかで、山の気温を見積もる実用上の値としてよく使われるのが0.6です。なぜ0.6なのかは、あとの節で実測と理屈の両方から確かめます。
麓の気温と標高を入れるだけで計算したい方は、山頂の気温・服装計算機を使ってください。風を加えた体感温度と服装の目安まで出ます。
実測でも0.6℃|甲府と富士山頂の平年値で割り算する
気象庁の平年値で甲府(標高273m)と富士山頂(3,775m)の気温差を標高差3,502mで割ると、8月は100mあたり0.59℃、1月は0.61℃、年平均で0.60℃になります[2]。教科書の目安ではなく、実際の観測値が0.6℃を示しています。
| 甲府(273m) | 富士山頂(3,775m) | 気温差 | 100mあたり | |
|---|---|---|---|---|
| 8月の平均気温 | 27.1℃ | 6.4℃ | 20.7℃ | 0.59℃ |
| 1月の平均気温 | 3.1℃ | −18.2℃ | 21.3℃ | 0.61℃ |
| 年平均気温 | 15.1℃ | −5.9℃ | 21.0℃ | 0.60℃ |
※気象庁「過去の気象データ検索」の平年値(1991〜2020年)から計算[2]。
真夏でも富士山頂の平均気温は6.4℃です。8月の日最高気温の平年値は、甲府が33.0℃、山頂が9.5℃。差は23.5℃あります。麓で半袖の日に、山頂ではフリースとレインウェアが要る理由がこの数字です。

標高別の気温早見表|標高800m・1,000m・1,300mの実測値
標高800mの気温は、8月の平均で22〜23℃、1月の平均で0℃前後です。河口湖(860m)と大泉(867m)という標高の近い2地点の平年値がそろってこの範囲に入ります。標高ごとに観測点の平年値を並べると、山の気温の感覚がつかめます[2]。
| 標高 | 観測点 | 8月の平均気温 | 8月の日最高/日最低 | 1月の平均気温 |
|---|---|---|---|---|
| 273m | 甲府 | 27.1℃ | 33.0℃/23.3℃ | 3.1℃ |
| 610m | 松本 | 25.1℃ | 31.4℃/20.5℃ | −0.3℃ |
| 860m | 河口湖 | 22.5℃ | 28.1℃/18.5℃ | −0.4℃ |
| 867m | 大泉 | 23.1℃ | 28.7℃/19.1℃ | −0.2℃ |
| 999m | 軽井沢 | 20.8℃ | 26.3℃/17.1℃ | −3.3℃ |
| 1,292m | 奥日光 | 18.8℃ | — | −3.9℃ |
| 1,350m | 野辺山 | 19.5℃ | 24.7℃/15.5℃ | −5.3℃ |
| 3,775m | 富士山頂 | 6.4℃ | 9.5℃/3.8℃ | −18.2℃ |
この表を見るときの注意がひとつあります。標高1,000m前後の高原は、8月の平均気温が20℃前後と快適でも、日最低気温は15〜17℃まで下がるということ。日中の暖かさで服を決めると、朝夕のテント場や小屋の外で冷えます。

0.6℃の理由|空気は上がると膨らんで冷える
気温が標高とともに下がる理由は、空気が上昇すると気圧の低下で膨らみ、膨らむときに自分の熱を使って冷えるからです。この冷え方は空気の乾き具合で変わります。乾いた空気は100mあたり約1℃冷え、湿った空気は水蒸気が雲になるときに熱を出すので約0.5℃しか冷えません[3]。

ただし、これは「上昇する空気のかたまり」が冷える速さの話です。登山者が知りたい「麓と山頂の実際の気温差」は、前線や雲、地形や時刻にも左右されるので、この2つの値がそのまま当てはまるわけではありません。登山で使う0.6℃は、この2つのあいだにある実用上の値です。航空の世界で使う国際標準大気でも、対流圏の気温減率は100mあたり0.65℃と決められています[4]。
日本の山で実測すると、値は季節で動きます。富士山・岩手山・大山など12の山頂と周囲の麓の観測値を比べた研究では、100mあたりの減り方は春0.59℃、夏0.56℃、秋0.58℃、冬0.72℃、年平均0.61℃でした[5]。夏に小さく冬に大きいのは、夏の空気が湿っているからです。
つまり「0.6℃」は、晴れの日と雨の日、夏と冬をならした平均です。ならしている以上、個々の日には外れます。外れ方には型があるので、次の節で代表的な4つを見ていきます。
0.6℃が外れる4つの場面
0.6℃の目安が外れる代表的な場面は、晴れた日中・雨やガスの日・朝のテント場・風が強いときの4つです。前線や寒気の流れ込みなど他の要因もありますが、この4つは外れる向きが決まっているので、向きを知っておけば補正できます。

① 晴れた日中は、山頂との差が0.6℃より大きくなる
晴れた日の日中は、麓の気温が日差しで上がるぶん、山頂との差が開きやすくなります。甲府と富士山頂を8月の日最高気温の平年値で比べると、差23.5℃を3,502mで割って100mあたり0.67℃。日最低気温の平年値で計算した0.56℃より1割以上大きい値です[2]。月の平年値どうしの比較なので個々の晴れた日そのものの値ではありませんが、日中に差が開く傾向は読み取れます。
長谷川の報告が引用している1930年代の岩手山の観測でも、快晴の日のほうが曇天の日より気温の減り方が大きく、その差は夏に最大になるとされています[5]。
登山で問題になるのは、この差を下山で逆にたどることです。山頂で10℃だった空気が、午後の登山口では30℃を超えている。稜線で着込んだまま下ると、樹林帯に入ったところで汗だくになります。晴れた日は「山頂の寒さ」と同じくらい「下山後半の暑さ」を計画に入れてください。暑さの側の対策は登山中の熱中症の記事にまとめています。
② 雨やガスの日は、差が0.6℃より小さくなる
雨やガスで空気が湿っている日は、気温の減り方が0.6℃より小さくなりやすい。湿った空気は上昇しても冷えにくく、日本の山の実測でも湿った夏がいちばん減り方が小さいからです[3][5]。
数字だけ見れば、雨の日の山頂は計算より少し暖かいことになります。ところが実際に寒い思いをするのは雨の日のほうです。理由は気温ではなく、濡れた衣服が体から熱を奪う速さにあります。濡れた衣類は乾いた状態より体温を大きく奪い、風が加わるとさらに加速します[6]。雨の日に「気温はそれほど低くないはず」と油断するのがいちばん危ない。この話は後半のPT視点の節と、夏山の低体温症の記事で続けます。
③ 朝のテント場や高原は、計算よりずっと冷える
晴れて風の弱い朝、盆地や高原のテント場では、0.6℃の計算より数℃低い気温になることがあります。原因は放射冷却(地表面の熱が夜のあいだに空へ逃げて気温が下がる現象)です[1]。冷えた空気は密度が大きいので窪地にたまり、周囲の山の斜面より底のほうが寒くなります。
平年値がそれを示しています。野辺山(標高1,350m)の1月の日最低気温は−12.2℃。甲府(273m)の−2.1℃との差は10.1℃で、標高差1,077mで割ると100mあたり0.94℃。0.6℃の計算値より4℃近く低い[2]。野辺山のような高原の底は、冷気がたまる地形だからです。
気温の減り方は明け方に最も小さく、日中の14時ごろに最も大きいと、長谷川の報告が引く1930年代の観測でも指摘されています[5]。逆に言えば、明け方の谷底は「上より寒い」ことさえある。上高地や涸沢、折立のような谷底のテント場で、夏でも朝に息が白くなるのはこのためです。

④ 風と濡れは、気温の数字に出てこない
風があると、気温の数字はそのままでも体から熱が奪われる速さが変わります。米国とカナダの気象局が採用しているウインドチルの式(露出した肌が前提の指標)で計算すると、気温6℃でも風速15m/sなら体感は0℃前後、風速20m/sで−1℃です[7]。
2009年に夏山で8人が亡くなったトムラウシ山の事故では、当日の稜線は風速15〜20m/s・気温約6℃だったと事故調査報告書が推定しています。風と雨で動けなくなる人が続出した条件が、ちょうどこの数字です。
ただし、体感温度はむき出しの肌を基準にした値で、服を着た登山者の体全体の温度ではありません。服を着ていれば風の影響は和らぎますし、逆に汗や雨で濡れていれば数字以上に奪われます。体感温度は「風が加わるとこれくらい厳しくなる」という目安として使い、服装で最優先にするのは濡らさないことです。
PT視点|体が反応するのは気温ではなく「奪われる熱」
同じ気温6℃でも、歩いている人と休んでいる人、乾いている人と濡れている人では、体が失う熱の量が何倍も違います。理学療法士(PT)として体温や疲労が動きに与える影響を見てきた立場から言うと、寒さの正体は気温の数字ではなく、体から奪われる熱と体が作る熱の差です。

体は歩いているあいだ、筋肉で大量の熱を作っています。だから行動中は6℃でも汗ばむ。ところが休憩で止まった瞬間に熱の生産が落ち、濡れた服と風が熱を奪い続けるので、震えが始まりやすくなります。登山者の低体温症を扱った総説では、長時間の運動で疲れた体は寒さに対する体温維持の反応まで鈍くなると指摘されています[8]。疲れた状態で止まると、同じ気温でも冷え方が変わるということです。
私自身、9月の稜線で気温10℃前後のガスのなか、行動中はまったく寒くなかったのに、写真を撮るために5分止まっただけで手がかじかんだ経験があります。計算上の気温は変わっていません。変わったのは「作る熱」のほうでした。
服装は「山頂の気温」ではなく「いちばん寒い場面」で決める
登山の服装は、山頂の推定気温ではなく、その日いちばん寒い場面の気温で決めます。手順は3ステップです。

- 予報の街の気温から、山頂の気温を出す:0.6 ×(標高差 ÷ 100)を引く。麓25℃・標高差1,500mなら16℃
- 風と時間帯で補正する:稜線で休む・朝のテント場や谷底にいる場面は、目安として数℃低く見積もる(私は5℃)。雨なら数字を信じずに濡れ対策を優先
- いちばん寒い場面に合わせて1枚を決める:日帰りなら山頂での休憩、テント泊なら明け方。その場面で着る「保温の1枚」をザックに入れる
ステップ1と2は山頂の気温・服装計算機で一度に出せます。ステップ3で選ぶ1枚は、季節と山によって薄手のフリースからダウンまで変わります。3層それぞれの役割と素材の選び方は富士山の服装・レイヤリングに、汗冷えを左右するベースレイヤーの選び方は化繊かメリノかの記事にまとめています。
雨予報の日は、気温の計算より先に「行くか、何を動かすか」の判断があります。雨予報の登山、行くかやめるかで判断の手順を書きました。
まとめ:0.6℃で見積もり、4つの場面で補正する
- 標高が100m上がると気温は約0.6℃下がる。目的地の気温=麓の気温 − 0.6 ×(標高差 ÷ 100)
- 気象庁の平年値で甲府と富士山頂を割り算しても0.59〜0.61℃。実測でも0.6℃は成り立つ
- 0.6℃は乾いた空気(約1℃)と湿った空気(約0.5℃)のあいだの平均値。夏は小さく、冬は大きい
- 外れる代表的な場面は4つ:晴れた日中は差が開く/雨の日は差が縮むが濡れで寒い/朝のテント場は数℃低い/風と濡れは数字に出ない
- 体が反応するのは気温ではなく奪われる熱。止まる・濡れる・疲れるの3つが重なる山頂の休憩がいちばん危ない
- 服装はいちばん寒い場面の気温で決める。日帰りなら山頂の休憩、テント泊なら明け方
予報の気温を見て、標高差を引き算して、風と時間帯を足す。この3つができれば、「山頂は何℃だろう」と迷う時間が、ザックに入れる1枚を決める時間に変わります。
参考文献
- 気象庁. 予報用語「気温、湿度」(気温減率・放射冷却・逆転). https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kion.html
- 気象庁. 過去の気象データ検索 平年値(1991〜2020年)甲府・河口湖・富士山・松本・軽井沢・奥日光・野辺山・大泉. https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/
- 小倉義光. 2016. 一般気象学 第2版補訂版. 東京大学出版会.
- ICAO. 1993. Manual of the ICAO Standard Atmosphere: extended to 80 kilometres (Doc 7488). 3rd ed. International Civil Aviation Organization.
- 長谷川力. 1970. 本邦の山岳における気温の特性. 地球科学 24(1): 35-39.
- Henriksson O, Lundgren P, Kuklane K, et al. 2012. Protection against cold in prehospital care: evaporative heat loss reduction by wet clothing removal or the addition of a vapor barrier—a thermal manikin study. Prehospital and Disaster Medicine.
- Osczevski R, Bluestein M. 2005. The New Wind Chill Equivalent Temperature Chart. Bulletin of the American Meteorological Society 86(10): 1453-1458.
- Young AJ, Castellani JW. 2007. Exertional fatigue and cold exposure: mechanisms of hiker’s hypothermia. Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism.