「標高3,000mだと、酸素は平地の何%くらいなんだろう」。初めて北アルプスや富士山に向かう前、息がどれくらい苦しくなるのか、数字で知りたくなりませんか。「酸素が薄い」とはよく聞きますが、どの高さでどれだけ薄いのかは、意外とどこにも書かれていません。
結論を先に書きます。吸える酸素の量は、標高2,000mで平地の約8割、3,000mで約7割、富士山頂で約6割です。空気に占める酸素の割合(約21%)は、山の上でも変わりません。減っているのは空気そのものです。そして血液中の酸素は、標高と同じペースでは減りません。低い山では保たれやすく、高くなるほど下がり方が大きくなります。
私は理学療法士(PT)として10年以上、呼吸と運動の関係を見てきました。山は140座以上を歩き、富士山や3,000m級の稜線にも泊まっています。この記事では、気象庁の気圧の実測値と、富士山などで行われた研究の数字をもとに、標高と酸素・息切れの関係を整理します。読み終えるころには、次の山で「どの高さからペースを落とすか」と「どんな息切れなら下るか」を、自分で決められるようになります。

標高別の酸素の量|2,000mで約8割、富士山頂で約6割
標高が上がっても、空気に占める酸素の割合は約21%のまま変わりません。変わるのは気圧です。高いところほど上に乗っている空気が少ないので、空気全体が薄くなります。そのため、空気中の酸素の圧力(酸素分圧)が気圧の比率と同じだけ下がります。この酸素分圧が、肺が酸素を取り込むときの「押す力」になります。

標高別の早見表
国際的に使われている「標準大気」の計算式で、標高ごとの気圧を出しました[1]。海面の標準気圧を100%としたときの比率が、酸素分圧の比率=吸える酸素の目安です。
| 標高 | 山の例 | 吸える酸素の目安(海面=100%) |
|---|---|---|
| 599m | 高尾山 | 約93% |
| 1,000m | 低山の山頂 | 約89% |
| 1,500m | 上高地 | 約83% |
| 2,000m | — | 約78% |
| 2,500m | — | 約74% |
| 2,763m | 燕岳 | 約71% |
| 3,000m | — | 約69% |
| 3,190m | 奥穂高岳 | 約68% |
| 3,776m | 富士山 | 約63% |
ざっくり覚えるなら、1,000m上がるごとに約1割ずつ減ると考えて大きく外れません。高尾山では平地とほとんど変わらず、3,000mでは平地の7割を切ります。

「酸素濃度が下がる」は正確ではない
山の上を「酸素濃度が低い」と表現することがありますが、濃度(割合)は約21%のままです。正確には、空気全体が薄くなるので、吸える酸素の量が減る、と言います。
もう1つ、混同しやすい「割合」があります。パルスオキシメーターで測るSpO₂(酸素飽和度)です。これは血液中のヘモグロビン(酸素を運ぶたんぱく質)のうち、酸素と結びついているものの割合を示します。空気中の酸素の割合(約21%)とも、吸える酸素の目安(気圧の比率)とも別の数字です。
実測でも同じ|気象庁の平年値で富士山頂は約6割
計算式の数字は、実際の観測値でも確かめられます。気象庁は富士山頂(標高3,775m)でも気圧を観測しており、その平年値を平地の気圧(1,013hPa)で割ると、早見表とほぼ同じ数字になります[2]。
| 観測所(標高) | 気圧の平年値 | 平地との比 |
|---|---|---|
| 甲府(273m) | 980.6hPa | 約97% |
| 河口湖(860m) | 915.2hPa | 約90% |
| 富士山頂(3,775m) | 638.2hPa | 約63% |
富士山頂の気圧は季節でも変わります。登山シーズンの8月は648.7hPa(約64%)で、1月は626.7hPa(約62%)です。夏は空気が暖かく膨らむため、同じ高さでもわずかに気圧が高くなります。差は2ポイントほどで、夏でも冬でも「平地の約6割」です。

山の気温も、同じ気象庁の平年値で確かめられます。標高と気温の関係は標高が100m上がると気温は何℃下がる?で、気温の計算は山頂の気温計算機でできます。
血液中の酸素はどう変わるか|高くなるほど下がり方が大きくなる
血液中の酸素(SpO₂)は、吸える酸素と同じペースでは減りません。低い山では大きく下がらず、標高が上がるほど下がり方が大きくなります。変わり方は少しずつで、個人差もあります。
富士山での実測|2,305mで約94%、3,000mの朝に約88%
健康な大人19人が富士山の約3,000mの山小屋に泊まった国内の研究では、指先で測ったSpO₂の平均が次のように下がりました[3]。
| 測った場所・時間 | SpO₂(平均) |
|---|---|
| 2,305m(登る前) | 93.8% |
| 約3,000mの山小屋(寝る前) | 90.2% |
| 同じ山小屋(起きた後) | 87.5% |
平地の健康な大人なら、SpO₂はおおむね96〜99%です。2,305mではまだ90%台半ばを保っていますが、3,000mでは90%前後まで下がりました。さらに、同じ山小屋でも、一晩寝た翌朝のほうが低い結果でした。この研究では夜の間に気圧も少しずつ下がっており、理由は1つに決められません。それでも「着いた直後に測った数字が、その夜いちばん低い数字とは限らない」ことは分かります。この研究でも、19人中4人が起きた後に高山病の症状を訴えていました。

なぜ高くなるほど下がり方が大きくなるのか
ヘモグロビンは、酸素が多い環境では余裕を持って酸素をつかんでいます。吸える酸素が平地の8割程度に減っても、つかんでいる量はあまり変わりません。ところが、吸える酸素がさらに減ると、少し酸素が減っただけで、つかめる量が大きく減る性質があります。
高所医学の総説も、高い場所ではわずかな酸素の変化でSpO₂が大きく動くと指摘しています[4]。ただし「何mから急に変わる」という決まった線はなく、どの高さで変化を感じるかは人によって違います。
私自身、息の上がり方が変わったと感じ始めるのは2,500mくらいからです。2,000mまでの登りでは平地の山と同じ感覚で歩けますが、2,500mを超えると、同じペースでも呼吸が追いつかなくなります。これはあくまで私の体感で、もっと低い高さで感じる人もいます。自分がどのあたりから変わるかを知っておくと、ペースを落とす目安になります。
息切れと持久力|同じペースでも、2,000mを超えるときつくなる
高いところで息が切れやすいのは、体が出せる力そのものが下がるためです。同じペースで歩いても、標高が上がるほど体にとっての負担は大きくなります。
持久力の上限は、1,000mあたり約6%下がる
持久力の指標である最大酸素摂取量(体が1分間に使える酸素の上限)は、標高とともに下がります。鍛えた男性選手を対象にした21研究のまとめでは、気圧を下げた環境(実際の高地や低圧室)で、標高が1,000m上がるごとに約6%下がっていました[5]。筋力が下がるという意味ではなく、長く動き続けるための上限が下がるという意味です。
下がり始める高さは、思ったより低めです。高所トレーニングの研究では、運動習慣のない人でも鍛えた人でも、1,200mで最大酸素摂取量が下がっていました[6]。高山病を心配する高さより、ずっと手前から体は影響を受けています。
標高に合わせてペースを落とすと、負担を抑えやすい
標高約1,100mに住む持久力の高い大人11人に、0m・1,111m・2,222m相当の薄い空気の中で30分間自転車をこいでもらった研究があります[7]。
- 長く続けられる上限の強さは、0mで230W、2,222mで209Wと、約1割下がった(1,111mでは0mとの差がはっきりしなかった)
- 同じ強さ(同じワット数)でこぐと、2,222mでは心拍・呼吸・きつさの感じ方がすべて悪化した
- 一方、それぞれの標高で出せる力に合わせて強さを下げると、心拍や呼吸、乳酸(疲労の目安)に、はっきりした差は見られなかった
対象は少人数の鍛えた大人で、条件も実験室の中の30分間です。登山でも同じになるとまでは言えません。それでも、方向ははっきりしています。高い山では、平地と同じペースは「きつい側」になります。ペースを1段落とすことが、体にかかる負担を抑える助けになります。

ふつうの息切れと危ない息切れ|休んで治まるかで見分ける
高いところで歩くと息が切れるのは、体が酸素を取り込もうとする正常な反応です。危ないのは、休んでも息苦しさが治まらない息切れです。

歩いて息が切れ、休むと戻るなら、多くはふつうの反応
登りで息が上がり、立ち止まって数分休むと呼吸が落ち着く。高地では多くの人に起きる反応です。ペースを落とし、休憩を増やして対応します。
ただし、肺の高山病は動いたときの息切れから始まります。休むと戻る息切れでも、次のようなときは、それ以上登らないでください。
- いつもの山より、明らかに息切れが強い
- 昨日より、さっきより、急に悪くなっている
- 同じペースの仲間に、ついていけなくなった
休んでも苦しい、咳が続くなら、肺の高山病を疑う
肺に水がたまる高地肺水腫は、命に関わる高山病です。ガイドラインによると、なりやすい人では2,000mでも起こりえます[8]。
富士山でも高地肺水腫は起きています。2025年に報告された例では、51歳の男性が富士山を登る途中で、急速に悪化する息苦しさを訴えて救急搬送されました[9]。この男性は、過去に2回、同じ富士山に問題なく登っていました。「前は大丈夫だった」は、今回の安全を保証しません。
私自身は、富士山を含めて、これまで高山病の症状が出たことはありません。それでも、症状が出ない人がいる一方で、毎回同じ高さで出る人もいます。なりやすさや、下る判断の詳しい目安は高山病は何mから起きる?日本の山の標高別リスクで解説しています。
パルスオキシメーターの数字は「範囲」で読む
パルスオキシメーター(指先でSpO₂を測る機器)は、高所での体の状態を知る手がかりになります。ただし、数字1つで高山病かどうかは判断できません。仕事では日常的に使う機器ですが、だからこそ山では数字の扱いに注意が要ると考えています。
SpO₂だけでは、高山病を見分けられない
3,080mまで歩いて登った169人を調べた研究では、SpO₂の低さと高山病の間に関係は見られませんでした[10]。関係があったのは脈拍のほうです。研究者は、高山病の診断にSpO₂を使う意味は限られると結論しています。
4,000m以上の高さまで含めた7研究のまとめでは、登る途中でSpO₂が低い人ほど、その後に高山病になりやすい傾向が見られました[11]。ただし、研究ごとに登り方や測り方がばらばらで、「何%を下回ったら危ない」という共通の線は示されていません。
測るときに気をつけたいこと
高所医学の総説は、パルスオキシメーターを使うときの注意点を挙げています[4]。
- 標高ごとの正常値は、1つの数字ではなく幅で考える
- 数%の差で判断しない(同じ人でも、少し動いただけで数字が変わる)
- 指が冷えている、直射日光が当たる、指に合っていないと、正しく測れない
- SpO₂が80%を下回ると、機器そのものの精度が落ちる
山で測るなら、休憩中に座って、指を温めてから測ります。数字よりも、休んでも息苦しいか、咳が続くかのほうを優先してください。数字が良くても症状があれば下ります。反対に、元気でも測り直して明らかに低い数字が続くときや、前に測ったときより大きく下がっているときは、様子見せずに登るのをやめ、山小屋や救護所に相談します。

まとめ:2,000mで約8割、高くなるほどペースを落とす
- 空気に占める酸素の割合は、山でも約21%のまま。減るのは空気そのもの
- 吸える酸素は、2,000mで平地の約8割、3,000mで約7割、富士山頂で約6割(気象庁の実測でも約63%)
- 血液中の酸素(SpO₂)は低い山では保たれやすく、高くなるほど下がり方が大きくなる。翌朝のほうが低いこともある
- 持久力の上限は標高1,000mあたり約6%下がる(鍛えた選手の研究)。高い山ではペースを1段落とすと、負担を抑えやすい
- 歩いて息が切れ、休むと戻るのは多くはふつうの反応。いつもより強い・急に悪化したら登らない。休んでも息苦しい・咳が続くなら、すぐに下る
- パルスオキシメーターの数字は幅で読む。数字より症状を優先する
次に2,000mを超える山へ行くときは、休憩のたびに「休んで呼吸が戻るか」「さっきより悪くなっていないか」を確かめてみてください。高くなるほどペースは早めに落とします。この2つの確認が、息切れに振り回されずに歩き、危ないサインに早く気づく手がかりになります。
参考文献
- International Organization for Standardization, 1975. ISO 2533:1975 Standard Atmosphere.
- 気象庁. 過去の気象データ検索 平年値(1991〜2020年)甲府・河口湖・富士山.
- Horiuchi M, et al., 2018. Barometric pressure change and heart rate response during sleeping at ~3000 m altitude. International Journal of Biometeorology.
- Luks AM, Swenson ER, 2011. Pulse oximetry at high altitude. High Altitude Medicine & Biology.
- Treml B, et al., 2020. A Focused Review on the Maximal Exercise Responses in Hypo- and Normobaric Hypoxia: Divergent Oxygen Uptake and Ventilation Responses. International Journal of Environmental Research and Public Health.
- Terrados N, 1992. Altitude training and muscular metabolism. International Journal of Sports Medicine.
- Beever AT, et al., 2024. Effects of acute simulated altitude on the maximal lactate steady state in humans. American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology.
- Luks AM, et al., 2024. Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Treatment of Acute Altitude Illness: 2024 Update. Wilderness & Environmental Medicine.
- Fukuda Y, et al., 2025. High Altitude Pulmonary Edema Associated with Climbing Mount Fuji. Internal Medicine.
- O’Connor T, et al., 2004. Pulse oximetry in the diagnosis of acute mountain sickness. High Altitude Medicine & Biology.
- Goves JSL, et al., 2024. Pulse oximetry for the prediction of acute mountain sickness: A systematic review. Experimental Physiology.